1 :
名無し物書き@推敲中?:2005/07/07(木) 23:31:47
だから読んでくれると嬉しい。
2 :
名無し物書き@推敲中?:2005/07/07(木) 23:34:04
読んでやるから晒せ
3 :
1:2005/07/07(木) 23:34:12
歴史史上最強の大国と謳われるアメリカ合衆国は、圧倒的な軍事力をバックボーンに各国への影響力を増していた。
ヨーロッパは抵抗勢力として発言力を保持するために結束を強め、かつての悪友ロシアは技術・経済ともに、日本や中国などのアジア諸国に引き離されていた。
理想である国際連合は湿気たマッチのように機能せず、世は事実上アメリカ主導の下で成長していた。
最強国家アメリカ合衆国――その中枢に関われれば、どれだけの優越を得ることができるだろう。
他の先進国に比べ相応の立場を得ている科学者たちが集う《米国科学アカデミー》、世界経済の中心地ウォール街を動かす《マネートレーダー》、
スイッチ一つで国を灰にできる最高権力の象徴《ホワイトハウス》――誰もが憧れる、それぞれの道の最高到達点。
辿り着くには、MLBやNBAでトップスターになる人間と等しい努力――そして才能が必要となるだろう。
探究心の最高名誉、莫大な資産、支配者の権、対価はまちまちだが、何になるにせよ、目指す者は避けて通れない道がある。
米国では大学を出なければ人間扱いされない、極度の"学歴社会"である。多種多様な人々が混在する合衆国は自由を掲げている。
黒人だろうと、他民族だろうと、マフィアの息子だろうと、大学さえ出ることができれば平等の扱いを――少なくとも高等部卒よりは――受けることが望める。
主観的差別は今も残るが、客観的評価は得ることはできる。
一流大学に関して言えば、それは確固たるものとなる。争いは熾烈だが、生き残っていく価値はある。
ここをクリアできればトップ層への切符を得られるのだから。それだけに、ライバルを蹴落とそうと各校の抗争は、内外問わず激化の一途だった。
行きは緩やか、帰りは闇道と言われる合衆国の大学だが、実情はもう少し違っているようだ。
4 :
1:2005/07/07(木) 23:35:49
「お前ハーバードの坊ちゃんだろ? いい服着てんじゃん」黒人の男はイヴ・サンローランのジャケットを着ながら、腹を抱え倒れ込む学生に言った。
裏ポケットを探ると予想通り、 "ハーバード大学"と書かれた学生証が出てきた。
鼻につけたピアスを撫でながら、男は馴染まないジャケットを放り捨て、しゃがみ込む。
「マック奢ってよ。金あるんでしょ」男は学生の顎を掴み上げながら、優しく言った。「テイクアウトでいいから」
「断ります」黒人の男はさらに一発、拒否した学生の腹部に蹴りを入れた。重厚なブーツ底を喰らい、彼は血を吐きながら咳き込む。「呼びますよ」
「誰をだよ」今度は顔面に二発、流血を伴う傷を負わせる。
「弁護士や医者が来る前に死んじゃうよ? 将来は官僚になるんだろ? 今死んだら、俺みたいな低所得層をいびれないよ」
「違います。官僚は人々を平等に想い、政治を――」遮り口を蹴った。唇が切れ、さらに
アスファルトが血に染まる。
「適当言ってんじゃねえぞ、くそ野朗! ホワイトハウスなんて当てつけの名前つけやがって! 官僚なんて白人どもの専属高位じゃねえか!
俺らなんてどうでもいいと思ってやがる!」興奮した口調で言いながら黒人の男はナイフを取り出し、力ない学生の喉元に突きつけた。
「黒人を舐めんなよ。てめえらみてえに臆病じゃねえんだ」
5 :
1:2005/07/07(木) 23:37:00
学生はズボンの中から"救われるものの為に"と刻印されたスイッチを引きずり出し、真っ赤な手で押した。「もう遅いですよ。呼びましたから」
「じゃあその前に埋葬してやる」ナイフを持つ手に力を入れながら、黒人の男はいつの間にか大学裏に集まってきた他の学生に気付き、睨みつけた。
「お友達がやられてるんだぜ? 助けもしねえのか、このびびり野朗どもめ!」
「あいつ死ぬな」
「もう助からねえ」
「馬鹿な奴だ。よりによってうちに手出すなんて」
「大学行ってないのに"あいつら"に関わるなんて」
「しかもあれって同じ法学部の学生だぜ。これは"奴"が黙っちゃないぜ」
周りは助ける素振りは見せず、ただ何かを囁いていた。頻繁に"死"という単語が聞き取れる。
黒人の男はさらに煽るが、皆びびって手を出せないというよりは、何かを待つようにして手を出さないといった感じあった。誰も警察を呼んだ気配はない。
「あなたは勘違いしている。
少なくとも、今ここで学んでいる学生たちは――官僚を志している者は、黒人を軽蔑したりはしない。僕は、あなたを憎いとは思わない」
「だったらそれをお父様に言ってくれると嬉しいぜ」黒人の男はナイフを回し、突き立てるように構えた。狙いは首――
「あらゆる者に祝福を」学生は静かに呟き、意識を失った。
6 :
1:2005/07/07(木) 23:37:50
「死ね、偽善野朗」
振り下ろされたナイフは、半ば距離で虚空に弾かれた。黒人の男はぎょっとしながら立ち上がった。
体全体にかかる強烈な風圧の正体を、正面後方に見つけ表情を凍らせる。一人の金髪の男が立つその後ろに、光を弾きながら佇むもの――
「アパッチ!?」黒人の男はかすれ声で言った。両翼のバルカン砲をこちらに向けながら、戦闘用に造られたそのヘリは、有り得ない位の低空でホバリングしている。
「官僚が国民を想うのは当然です。君には理解しようとする気持ちが足りない」金髪をオールバックにしたその男は、黒人の男に歩み寄りながら言った。
「寄るな」わめく黒人の男をバルカン砲が掃射した。彼の足元は粉々に砕け散り、頬をかすめた弾丸に血の気を引かせた。「実弾――」
「彼は僕と同じ法学部の学生で、僕と同じ夢を持っている。その気持ちを踏みにじる奴は――粛清しなければいけない」言いながら金髪の男は懐から聖書を取り出した。
ページをめくり、彼は静かに復唱し始める。「憎むべくは人でなく、罪である。人は善意の存在である」それだけ言うと、聖書を片手で閉じ、正面から黒人の男を見据えた。
「何なんだ、てめえは」
「君はまだ若い。だから更生できる。神の祝福を――」
鋭く放たれた聖書の角が頭部を殴打し、黒人の男を地面に伏した。
彼に対し十字を切ると、金髪の男は横たわる血まみれの学生を抱え、ヘリに乗せた。
救急車なら三十分はかかるだろうこの時間帯でも、数分で最寄の病院へいけるだろう。
上昇するヘリを見上げる学生たちに、金髪の男は政治家のように手をかざした。彼らもまた、同じ夢を持つ学友である。
「任務完了。撤収!」
7 :
名無し物書き@推敲中?:2005/07/07(木) 23:39:05
励まされないんだけど
8 :
名無し物書き@推敲中?:2005/07/07(木) 23:39:28
勇気づけられもしない
9 :
1:2005/07/07(木) 23:40:03
プロローグ終了。
書けたら随時上げていく。
10 :
1:2005/07/07(木) 23:42:36
素人でも長く書き続けることができるのだと思って欲しい。
そんな考えで立てた。頑張って1000を目指すから、付き合って欲しい。
見守ることにしよう……
12 :
1:2005/07/08(金) 16:42:33
「ミラ・クレメンス。今年入学の新一年生ではトップクラスの成績、併せてルックスも持っているわ。
既に数々の有望株から付き合いを求められたけど、14回全て断っている。
うち5回は節度を知らない――うちの学校にもいたのね――弱頭くんで、強引にホテルに連れ込もうとしたり、
クロロフォルムまで持ち出したらしいけど、彼女にはビッグ・ショーと呼ばれる女友達がいて、その場でそいつら全員を病院送りにしてる
。一人は一生残る後遺症を負ったそうよ。自業自得とはいえ、ちょっとかわいそうね。
今でも狙っている男はたくさんいるけど、彼女の徹底的な素っ気無さと、ヨシツネを守るベンケイがいるから、攻略は困難を極める様相を呈しているわ。
まずは体を鍛えて、ジャッキー・チェンの映画を見るところから始めないと駄目ね」ミーナはそう切り、メモ帳を閉じた。
「仮にジャッキーになれたとしても、陽気な性格は受け悪そうね。彼女はきっとクールな男がいいのよ。自分からは絶対に告白しなさそうな」
「それじゃ両方とも進展なしじゃない。自分からいかない奴なんて、男女共に論外よ」ミーナはそう答えた。
ミーナに恋人はいないが、他の誰よりも甘い生活を望んでいた。ただ彼女には、そういった事に関しての運がなかった。
「それによくよく考えたら、ジャッキーじゃビッグ・ショーには勝てないわ。セガールならもしかして――」
「ちょっといいかな」
言いかけた口を止め、ミーナはサンドイッチセットを持った女性を見上げた。自分と同じブロンド、かつ自分よりかなり伸ばしたパーマのかかった髪。
ミーナは持ちかけていたパンをしっかり握りながら、小刻みに頷いた。その女性は微笑むと、ナターシャの正面に腰を掛けた。
13 :
1:2005/07/08(金) 16:43:59
「わたしはミラ」
「知ってるわ」パンに少量のマーガリンを塗りながら、ミーナは言った。彼女はダイエット中だった。
「さすがハーバードのCNN"情報のミーナ"ね。教授たちもあなたの影に怯えてるよ」
「別にマスコミみたいに代価を追求してやってるわけじゃないわ。今後のキャンパスライフに生かそうかなと思ってるだけ」ミーナは本意を言った。
彼女はマスコミが好きではなかった。よくマスコミに形容されるが、ミーナ自身あまりよくは思っていない。
情報も、隠しカメラや盗聴器のような、非人道的手段を使って得たものではない。自身の交友の広さを生かして、校内を歩き回って手に入れたものである。
噂レベルの情報は確証を得るまで絶対に口にしない。彼女が嫌うのは捏造と個人の権利迫害だった。
「あなたの好みの香水はジバンシー、ここまでは知ってる。で、何? あたしは情報屋じゃないから、知っていることなら極力教えて上げるけど」
「法学部のある人について教えて欲しいの。ここ音楽学部では会う機会すらないし」そう言いミラはアイスコーヒーを口にした。
「なんだ、ホワイトハウス高官が良かったんだ。そりゃ応用数学や人類学みたいな理屈っぽい奴なんて嫌よね。今年の法学は優秀よ。
フェルズ司法省長官の長男ウィッド・フェルズ、バート上院議員の長男ハロルド・バート、
ウォール街の悪魔ノーラン・ゲラゴス弁護士の長男デレク・ゲラゴス、ペンシルバニア州知事メゲスの長男ロジャー・メゲスなどなど。
ハーバード法学部の秀才トライアングルの一角――ロギンス・シュートハーも最高裁判事を親に持ち、将来は入省確実視されている。
先のハロルド・バートもその三人の一人ね。あ、次男のほうがいい? 長男だと結婚後が大変そうだしね」
メモ帳をめくりながら、ミーナは次男男子データページと称された部位に指をかけ、ミラを見直した。
14 :
1:2005/07/08(金) 16:44:56
「ウィリアム・テネットって人なんだけど」ミラが言うと、ミーナはメモ帳にかけた手を止めた。ナターシャもミーナと同じような視線を送る。
二人にとってこれは意外な人物――クールな男とか、ジャッキーだとか、そういった話ではない事を知った。
ミラは少し戸惑いながら、その雰囲気を感じていた。「あの、何か」
「ウィリアム・テネット――今年入学した全学部生でもトップ5に入る頭脳の持ち主で、秀才トライアングルの最後の一人。
といっても法学部の中での話で、実際は他の二人とは比較にならない。頭がいいとかじゃなくて、そもそも出来が違うの。
そして彼の父親スタンフィールド・テネットは、合衆国第44代目大統領その人よ。
彼が現ハーバードで最強なのは間違いないわ」メモ帳を開くことなく、ミーナは淡々と告げた。
隣で食事をしていた学生も、それを聞きながらかぶりを振っていた。
「もしあなたが彼を恋愛対象として見ているとか、そうでなくとも友人になろうとか、知人として交流を持っておきたいとか、
法律書を借りようとか、蹴りを入れてやろうとか、とにかく彼に関わろうと考えているのなら、親が他国大統領とかでもない限り、やめておきなさい。
これは脅しじゃないわ、客観的観点から見た警告よ」ミーナは言った。
「なぜ? 彼はどんな人なの」ミーナは聞く。
「いい、大統領夫人っていうのは普通の人間ではなれない。半端でない精神力が要るわ。それに体力もね」ミーナは通りかかった教授を引き止めた。
白衣を着ており、理系の学部のようだった。
15 :
1:2005/07/08(金) 16:45:33
「何かね」
「教授は総合評定委員会に関わっていらっしゃるでしょうから、他学部の学生さんもご存知ですよね」ミーナは聞いた。
「いかにも」
「法学部のウィリアム・テネットなんですけど」
教授は考える仕草をしながら、思い出したという行為を手で表現しながら、ミーナに視線を戻す。
「今年の前半期では上から三番目の成績だったね。工学以外はパーフェクトに近い評価だったよ。
政論では彼の考えがしっかり述べられていて、法学部教授も絶賛していた。これは次期大統領候補の最有力だね」
「彼の連絡先が知りたいんですが」ミーナの問いに、教授は表情を苦笑いに変えた。
「それはよしたほうがいい。必ずしも――トップ層の人間が、心や良識を伴っているとは言えない。
その考えは人の勝手な先入観であり、これから見直していかなければならないものでもある」教授は一際落ち着いた物腰で聞いているミラに視線を落とした。
「君はミラ・クレメンスだね。ルーシア助教授から聞いているよ。何でもウィーン大学を視野に入れているそうだね。
向こうの音楽文化はレベルが高い。こちらも見習うところが多々あるからね」教授はそう言った。ミラは愛想そこそこに相槌を打つ。
16 :
1:2005/07/08(金) 16:46:31
「政界は政界同士、財界は財界同士、文化人は文化人同士、それが幸せだよ。
弁護士や公務員はともかく、政治家や高官はやめておきなさい。特に彼はね」言うと教授は去っていった。
あの教授は確か医者の奥さんを持っているはずだと、ミーナは思い出した。
「工学とかはどう? 科学者は純粋だし、この国で一生を考えてるなら生活も困ることはないわよ。
語学系なら世界を飛び回るスチュワーデスみたいな生活もありよ」ミーナは本心からミラを思い、できる限りリスクの少ない辺りをチョイスする。
その中でも中東言語文化にはペケがしてあった。中東圏は女性にとって、夫を安心して送り出せる場所ではない。
「ねえ、協力して。どうしても彼と接触したいの」ミラはそれだけ言った。
理由はあえて聞かなかったが、もしかすると彼の命を狙うKGBやテロリストの暗殺員なのかもしれないと、ミーナは思った。
どうであれ、危険に変わりはない。
「法学部に乗り込むってこと? まあ確かに全寮制のうちでは、自宅に押しかけるわけにもいかないし、接触できる機会は校内しかないけど」
法学部自体は、神話学部や宗教比較学部などのように決して危険な場所ではない。
理系学部のように女性が踏み入れやすいのも特徴であり、総じて出来た人間が多いと言えよう。
だが目的によってそれは、中東に派遣される兵士のような危険を帯びることになるのだった。
「いくらビッグ――頼りになるお友達がいるって言ったって、彼は別格よ。その代償が命になる可能性もある」ミーナはミラを正面から見据えながら諭した。
代償が命――これは決して過度な表現ではない。
「そう、心配してくれてありがとう。わたし一人で行ってみる。巻き込むのは悪いし」ミラは言うと、食器を持ち立ち上がった。「今度どっかいこうね」
昼時の混み合う中へ消えていく彼女を見送りながら、ミーナは息をついた。
誰も戦場に行く人間を死人として送り出しはしない。生きて帰ってきて欲しい――人は願う。
「ナターシャ。各学部から人を集めるのよ。攻略は容易じゃないわよ」
17 :
名無し物書き@推敲中?:2005/07/08(金) 16:51:32
何とも言えないがもう少し見てみるか………………
18 :
1:2005/07/08(金) 16:52:22
ファーストコンタクトT 終了。Uに続くと。
続きは?
20 :
1:2005/07/09(土) 23:27:33
数学が論理的な考え方を鍛えるように、法学も一般的な思考を磨いてくれる。
法とは人の概念の中で展開されるものであり、数式の公式のようにこれを知っておかねば理解できない、ということはない。
因数分解を理解していなければ関数は解けないが、憲法を知らなくても租税法は理解できる。
ただこれは比較での話で他の文学同様、併せて学ぶことで理解度は上がる。
憲法で国法の理念を学んでおけば、なぜこの具体法ではこう定められているのか、といった根底に対する細かな疑念も払うことができる。
数学に比べれば遥かに分野同士の連動性は低いが、法も一つ一つ個々で覚えるより全体像を見ようとすれば、より知識に厚みがでることだろう。
法学は実学でもある。文学や哲学などの同じ文型学問より、実生活への貢献度は高い。
実益を求めて学問を学ぶものではないが、法学は実益も兼ねたハイブリッドな分野である。
特に合衆国は、法を知らない者が損をする割合が他国に比べ非常に高い。
法はこの国において、もはや専門家の分野でなく一般市民の知恵となる、身近なものとなりつつある。
これは一般市民が弁護士と競うとかいった意味ではなく、なぜ弁護士はこういった助言をするのか、今法廷では何に焦点を当てて進行しているのか、
といった、流れを知る上で欠かせない知識となる。犯罪の成立要件を知っていれば、すぐにでも訴えて慰謝料をふんだくれるかもしれない。
21 :
1:2005/07/09(土) 23:28:27
そういった意味で、法学は幅広い応用力を持つ学問である。法は一般的に、常識という概念に近い性質を持つ。
人の物を盗めば犯罪なのは当然であるし、人を殺せば前者より重い罪に問われるのは誰の目にも明らかである。
法は一種、一般教養として人格を――高度な――形成する上で欠かせない分野であるかもしれない。
政治家や裁判官などの高度な判断を問われる職業人にも法を学んでいる者は多い――判事は法に深く関わる上で当然だが、
更生へ導くといった人間的な視点から見た場合でも、教養として働く部分は多い。裁判官は出来た人間でなくてはいけない。
では政治家はどうなのかと問われれば周知の通り、彼らが出来た人間であるとも言い切れない。
一定の水準を満たした上で、政治家として能力がないのかと言われれば、それもまた答えかねる問いである。要は人それぞれである。
判断力がなくて政治家として大成できない者、人として重要なものが欠落していて政治の本意とは違った方向に走ってしまう者、
政治の主役である自分自身が不毛な論議に傍観を決め込んでしまう者など、政界の負の部分は様々である。
とも言え、法学部に政治家志望者が多いのは事実である。
少なくとも理系分野からの政治家輩出はほぼないと言っていいほど、偏った文民社会であることには違いない。
それでもここ法学部で学ぶ者は、政界を志し日々猛勉している。
ハーバード大学は過去最も歴代大統領を輩出していることからも、政界へのつながりは強い。
ハーバード法学部は広いキャンパスの中でも、特別優秀な人間が集まる学部でもあった。
22 :
1:2005/07/09(土) 23:29:06
五人は、全講義が終わり人もちらほらな法学部キャンパスに来ていた。
憲法の初項が書かれた正面玄関をくぐると、歴代大統領を敬する壁写真が掛けられた廊下を経て、各講義の場をつなぐ中央庭園へと抜ける。
厳かな雰囲気の建物内は、平等であれという法の理念を表しているようでもあった。
ただ学長は、伝統という歴史的なイメージをこのキャンパスに抱いているようだった。
来客を迎える正面玄関には憲法でなく国旗を掲げるべきではないか、と提案するところからも、現学長の法に対する意識の持ち方が伺える。
「マリアよ」大きな手を差し出しながら、彼女は言った。太っているわけでもなく、鍛えられた筋肉が体を大きく見せていた。
背も相応にあり、1.5倍のカメラレンズを通したような、普通の人間をそのまま拡大したふうに見えた。
「ミーナ。ローサに、ユウィン」示され、二人はミラとマリアに微笑む。ローサは心理学部で、ユウィンは言語学部の留学生である。
「ローサは心理学を専攻してるからわかるけど」ミラはユウィンを見ながら言った。凶悪犯との交渉に心理学者は欠かせない。
「異星人とコミニュケーションをとるには、共通の基盤が必要よ。ウィリアム・テネットが何かわからない以上、英語だけでは不安。
彼女は六カ国語を話すことができるわ」ミーナは庭園に設置されたベンチに腰掛けたまま答えた。メモ帳をめくりながら、既に思考はフル回転している。
「彼が人間だといいわね」ローサは小さく笑いながらミラに慰めの言葉をかけた。ローサもユウィンも、ミーナからは恋愛作戦だと聞いていた。
23 :
1:2005/07/09(土) 23:29:54
ミラは表情変えず、ミーナの横に座った。「どうやって探すの?」
「彼はあるサークルのサークル長をやっているの。だからそこに――」
「あれ、君たち法学部の学生じゃないよね」
メモ帳を閉じながら顔を上げると、清潔感のある格好をした、見覚えのある男の顔があった。
ブラウンの髪をナチュラルにウェーブさせたイケメン度80パーセントの男性――
「知事の一人息子、ロジャー・メゲスでよかったかしら」ミーナの言葉に、彼は驚きながらうなずいた。手にしたペットボトルの中身を口にしながら、ベンチに座る。
「よく知って――あ、君確かよくここに来てるよね。俺らの中では有名だよ」ロジャーはミーナを見ながら言った。「誰かお目当ての人がいるのかい」
「テネットくんに会いに来たんだけど」ミーナは答えた。
「ああ、彼ね」返しは意外にも普通だった。テネットという名は、法学部には一人しかいないはずだ。
「もしかして、"悪魔の手先"だとか"謁見の代償は命だ"とか聞いて来た?」ロジャーは後ろに佇むマリアを見ながら面白そうに言った。
彼もビッグ・ショーの二つ名は知っていた。「その顔は図星だね」
「実際どうなの?」ミーナは問い返す。
「彼はいい人だよ。他学部だと色々な噂が飛び交ってるようだけど、ずいぶんと脚色されているようだね。
この間も、彼のサークルに公費を届けに来た新入学生が防弾チョッキを着てて、テネットも驚いていたよ」ロジャーは笑いながら言った。
「そうなの? まあ、あたしも実際会ったわけじゃないけど。でも、他学部の教授たちは口を揃えて言ってるわよ、近づくなと」
「確かに彼はちょっと変わっている。この学校は由緒ある伝統校だからね。はみ出し者を良く思っていないのは事実だ」ロジャーはそう答えた。
「研究に熱を注いでる理系学科の教授とか、終身在職権を持っている人なんかは、良くも悪くも話題になりがちの彼を疎ましく思ってるようだけど、
本当に教育者として就いている教授は彼を評価しているさ、大統領の息子ということを除いてもね」
24 :
1:2005/07/09(土) 23:30:53
「あんた、なかなか見る目あるじゃない」ミラの頭を軽く叩きながらマリアは言った。
親友であるミラに寄ってくる男たちは、ぶん殴りたくなる位ろくでもないのが揃っていた。
彼女は心から喜んでいた。恋愛に興味のなさそうなミラも、やっと女性らしくなってきた。
「成績もそうだけど人間的にも最高だと思うよ、テネットは。ずっと一緒にいたくもないけどね」ロジャーは意味ありげに呟く。
「自身が立ち上げたサークルにも、彼の信念が表れている。行ってみたら? この先のメモリアルホールのすぐそばに本部があるよ」
「本部?」ミーナの疑念に答えることなく、彼は立ち上がり時計を見た。
「ゆっくりしてってね。ここは治安だけは大学一だから」彼は言った。
しかしそれを否定するように、火炎瓶がロジャーを直撃した。彼は声を漏らしながら燃え上がる体を土に擦り付ける。
ローサとミラも上着を脱ぎ、燃えている部分をはたく。
「エミネムの追っかけには見えないわね」マリアは前衛に構えながら、玄関のほうに姿を現した十数人の黒人たちを示した。
ナイフやナックル、チェーンクロスを得物として手にしている。どう見ても学生には見えない。
「金髪オールバックの白人野朗はどこだ。聖書のお礼に来たぜ」キャップの下に包帯を巻いた黒人が言った。
後続を引き連れ、ナイフを回しながらこちらへ寄ってくる。「お、かわいい女揃ってんじゃん。さすが名門私立」
「そう言われると照れるじゃない」マリアは彼の進路を塞いだ。黒人は彼女を見上げながら、口を歪めた。
「おいおい、キングコングでも入れるのか? ここは」笑いながら黒人はナイフを放った。突かれた刃を紙一重で交わし、そのまま腕を掴む。
ナイフを弾きながら足払いを放とうとするが、後方からの不意の攻撃にマリアは大きな体を地面に沈めた。
さらに背の高い黒人の持つ鉄パイプには血が滴っている。
25 :
名無し物書き@推敲中?:2005/07/09(土) 23:32:49
救援
26 :
1:2005/07/09(土) 23:33:05
「マリア!」ミラは倒れるマリアに駆け寄るが、意識はない。巨体をゆする手が強引に引っ張られた。「離して」掴む黒人を睨みながら言う。
「よくブリトニーに似てるって言われねえ? 白人の女性は嫌いじゃないぜ」
抵抗する彼女を押さえつけながら、懐から取り出したバタフライナイフをその首に突きつける。「少し黙ってな。あとで俺の車に乗せてやるよ」
ロジャーはローサとユウィンを後ろにやりながら、転がるナイフを手にしたミーナを見つけ、冷静に叫ぶ。
「やめなさい。君では勝てない。早くこっちへ」しかしミーナは駆け出し、ミラを拘束する黒人めがけナイフを投げた。
気付いていない黒人の目尻をかすめ、ナイフは音を立て落ちた。
黒人は顔を上げ「このくそ野朗め」と叫びながら、鉄パイプの大男を顎でしゃくり、ミーナにたたみ掛ける。
「何てことだ」ロジャーは状況を嘆きながら、鉄パイプの前に立ちはだかった。
政治家を志す者として後ろの二人を守るべきだと考えたが、体は勝手に行動を起こしていた。「早く」彼は言いながら目をつむった。
次の瞬間、側頭部に放たれたとび蹴りが、大男を噴水のほうへ吹っ飛ばした。ロジャーは目を開けた。彼の姿を確認し、ほっと心を静めた。
「なんだ」黒人たちの注目は一斉にそちらへ集まる。「誰だあいつは」
「あれは」ミーナはロジャーの横から視線を出した。
ロジャーと同じく中肉中背だが、法学部のイメージ通りの彼とは異なり、非常にしなやかな身のこなしで、飛んでくる火炎瓶やつぶてをかわす。
三人の黒人が得物を構えながら彼に襲い掛かるが、放たれる掌突は全て急所を捕え、黒い脅威を駆逐した。ミーナはメモ帳をめくる手を止め、呟いた。
「工学部一年――参謀グレン・ロドリゲス」
27 :
1:2005/07/09(土) 23:34:23
ファーストコンタクトU終わり。Vに続く。
sageのほうがいいか?
28 :
1:2005/07/09(土) 23:44:06
ちなみに助言などあればよろしく頼む。煽りも歓迎だ。精神力も鍛えなければいけないんだ。
ワードに書いているから、改行は勘弁してくれ。
下読みならもうボツ。
そもそも何でエリート学生が集まる海外のキャンパスを登場人物・舞台に選んだの?
もう少しありがちな舞台設定なら何とかごまかせるところでも、
粗が目立ってしまう。
何か手本としてイメージしている作品とかあるの?
30 :
1:2005/07/10(日) 02:07:53
一種の憧れかな。アメリカって広いし、行ったことないけど好きなんだ。
イメージはアメリカ版明稜帝かな。
良ければ、どういった要素からボツなのか教えて欲しい。
>>30 ボツというより、素材の選び方がよくない。
あるいは、普通海外を舞台にするなら、
日本人の主人公が海外のエリート校に入って……という設定で書くよね?
登場人物が外人ばかりの話を日本人作家が書くのはあまりないような……。
あと、冒頭で作者が長々と語るのは、それに関して専門知識が無いなら止めた方がよい。
たとえば戦争の小説を書くとして、武器にかなり詳しい人が、
武器について長々と書くなら味にもなるけど。
つまり誰に感情移入して読めばいいのかわからない。
日本人の主人公がエリート集団の中に入っていって事件に巻き込まれて……
という話なら、まだ何とか読めるんだけど。
33 :
1:
それもそうだな。別に日本人でも良かった気もするが、王道を通したほうがいいのか。
主人公が定まってない、ってことか? 冒頭部は誰にライトを当てて読んだほうがいいのかわからないな。すまない。