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「ただいま…」
返事を期待しない帰宅合図。
しかし同時に、祐樹の自室はその主人に明かりを宿され、生々しい実情を露呈する。
(…ま、仕事中毒男の部屋なんてもんは、こんなもんだろ…)
久しぶりの我が家での惨状からは目を背け、荷物を投げ出し、愛しの彼女──スチール缶を満載した、冷蔵庫の元へと直行した。
「今日も1日、お疲れ様っと」
プルタブを引き開ける小気味よい音が、広い寝室に響いた。
一人ぼっちの乾杯。
気休めで飲み始めたビールも、いつしか習慣になりきっていた。
───今日の天気予報は大ハズレ。
降水確率0%などと言い切ったのは、一体どこのどいつだろう。
これだから、綺麗なお姉さんは信用できない。
───今日の課長は不機嫌で。
いつも被害を被るのは、孤独で可哀想な青年なんだし、勘弁してほしい。
外気に晒される頭皮面積が多いと、やっぱりその分、中身は沸騰してしまうんだろうか。
───あぁ、今日の弁当はひどくまずかった。
ノリ弁についているノリは、湿気にやられていて、舌触りが悪すぎる。
例えば、コンビニのオニギリみたいな工夫をするとか…食べる直前まで、ノリだけ別にすべきだと切に思う。
「21歳独身、料理のできる癒し系妻、容姿不問で募集中です」
…くだらない独り言。
どこかで、ぐぅ、と間抜けな音がした。
ビールのみで満たされることを拒否したお腹が、悲鳴を上げたらしい。