ツンデレ小説読みてぇぇぇぇ!!

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140名無し物書き@推敲中?
 二時限の授業中、単調なリズムでレジュメを読み上げる教授の声に負けて俺は舟を漕いでいた。
「ちょっとアキラ。起きなさいよ」
 横合いからキリカが身体を揺さぶってくる。俺は夢の世界からゆっくりと身を起こした。
「ふぁ……キリ、カ?」
「ふぁ、じゃないわよ。試験が間近なんだから緊張感もちなさい」
 相変わらず真面目なキリカは俺が起きたのを確認すると教壇に視線を戻した。
「ああ、まだ授業おわってないのか」
「もうちょっとシャキッとしないと単位おとすわよ。まったく」
「何とかなるって」
 御座なりな言葉で濁しておく。事実、一夜漬けすれば何とかなるだろう。大学の定期試験なんてそんなものだ。
 俺は冗長な教授の解説に耳を傾けた。眠りに落ちる前と変わらず、プリントの内容を読み上げるだけのつまらない授業だった。
「はい」
 唐突にキリカがプリントを突き出してきた。紙面の上には幾本の赤線が引かれている。つまり要点を写せということらしい。
「あ、サンキュ」
「……まったく」
 俺はキリカに感謝しながらさっさと授業が終わることを祈った。
141名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 00:43:46
「あんたね、いくら中だるみの年とはいえ不真面目がすぎると思わないの? いいかげん身を引き締めないと私の後輩になるわよ」
「キリカ先輩、ってか」
「笑えないわ、まったく」
 俺はフライドポテトをつまみながら苦笑した。
 授業が終わり、学食にやってきた俺とキリカ。かろうじて混雑する前に席を確保し、美味くもまずくもない食事をついばんでいるところだ。
 ちなみに俺は和風ハンバーグとフライドポテト、ポテトサラダにキンピラゴボウという取り合わせ。キリカは新メニューという触込みのプルコギと野菜セットを選んでいた。
「なあキリカ」
 キリカが顔を上げる。
 俺は正直に思ったことを訊いてみた。
「なんでそんなに真面目なんだ?」
 すかさず顔を歪めるキリカ。明らかに怒らせてしまったようだ
「バカなこと言ってないで早く食べなさい」
「へいへい」
 キリカは箸を握りなおすと食事を再開させた。その所作は粛々という形容が似合うほど沈着で、慎ましく、ひっそりとしていた。
 俺はハンバーグを不器用に刻み、大口を開けて呑み込んだ。
142名無し物書き@推敲中?:2006/08/25(金) 02:19:55
コピペ

ある有名な心霊スポットへ、深夜に車で行ってみたんです。
トンネルを抜けると、そこが有名な心霊スポット。と、そこに目の前にふっと女の人の白い影が。
あ! と思って、慌ててブレーキを踏んで降りてみたところ、そこに人影はなく、目の前は崖。
ガードレールが壊れていて、ブレーキを踏んでなかったら落ちてしまっていたかもしれない。
「あの幽霊は助けてくれたんだ」
そう思って、そこで手を合わせ、お祈りして帰路についた。
トンネルを引き返す途中、ふとミラーを見ると、後部座席に先ほど目の前を横切った女の人の姿が……。
その女の人は、こう呟いた。
「…死ねばよかったのに」

「いや、でもホント助かったよ。ありがと」
「ば…ばかっ、あんたなんか死んじゃえばよかったのよ!」
「お礼しないとな。また来週きてもいいかな」
「ダ、ダメっ! また落ちそうになったら危ないわっ!!!」
翌週、なんか弁当用意して待っててくれました。
作りすぎただけで、決して僕のために用意したんじゃないそうです。
143名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 13:02:00
 キリカはもっと明るくて笑みの絶えない女の子だった。勉強も今ほど熱心ではなかったし、何より快活で元気だった。
 家が隣ということで物心ついたときからいつでもどこでも、何の疑問も抱くことなく俺とキリカは二人でいるのが当たり前だった。
 俺が砂遊びをすればキリカも団子を作ったし、キリカが花摘みを始めれば俺は虫を追っかけ回した。どこに行くにも俺のうしろをちょこまかとついてきて、転んで膝小僧を擦りむけば泣きじゃくり、飴玉ひとつで満面に笑みを浮かべたものだった。
 そんな俺たちでも互いに同性の友だちがいたわけで、いつしか一緒にいる時間が減っていた。いや、減っていた事実に気づいたのは大学生になってからだ。それまではキリカとの距離や一緒にいる時間なんて少しも気に留めたことがなかった。
 中学校も後半になると、俺は級友とサッカーやドッジボールをして汗を流して泥まみれになっていた。一方でキリカはあやとりや裁縫に精を出していた。
 そのころには登校時はまだしも、昼食時、放課後に行動を共にすることも少なくなっていた。休日はキリカのおばさんがお茶を飲みに来るので顔くらいは合わせたものの、もはや会話の話題すら噛み合わず、沈黙のなかで別々に遊んでいたのを覚えている。
 それから後は簡単で、何の因果か同じ高校に入学、無事に卒業したと思ったら今度は大学まで一緒という状態で現在に至る。ここまでくれば運命の女神のいたずらを疑いたくなるほどの腐れ縁だ。
 そして今もなお、目の前にはキリカが座っている。会話量なんて二言、三言かわす程度。逆にそれだけで相手に意図が伝わるとも言える。ツーカーの仲ということだ。
 相も変わらず、俺とキリカは幼馴染みをやっている。
144名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 13:06:03
「今日も仲がいいな〜、おしどり夫婦よ」
 俺が物思いに耽っているとやや軽薄な声が飛んできた。声の主はずかずかと近づき、無遠慮にイスを引いて断りもなしに腰を下ろした。
「よお、シュウジ」
「誰が夫婦よ、まったく」
 大学に入学したてのころ、語学の授業で知り合った友人だった。授業で俺と知り合い、所属するサークルでキリカと知り合うという不思議な縁を持つ。それ以来、代返やレポートなどで連絡を取り合うことも多かった。
「おっすアキラ。怒んないでよ〜、キリカちゃん。女の子は笑ったほうが可愛いよ」
 その口調と等しく中身も軽くて調子のいい反面、意外なことに義理堅く、人情に篤い憎めない男だったりする。
「てか二人って小さい頃からの幼馴染みだったよね。それなのに付き合ってもいないとか、逆に変じゃないかな。お兄さん心配だな〜」
「お前が心配することじゃない。というより何を心配するっていうんだ?」
「シュウジくんには関係ないわ」
 すげなく切り捨てる俺とキリカに、シュウジは臆面もなく食い下がる。
「じゃあさ、お互いにどう思ってんのよ。普通そんなに長く一緒にいたら好きになるもんでしょ、それなりにさ。嫌いなら一緒にいるわけないし」
「向かう方向が同じだから一緒にいるだけよ」
「そうだな。それに赤ん坊のころから一緒にいるんだ。家族みたいなものだし、今さら恋愛感情とか持てないだろ」
 ふと、キリカがうつむいた。
145名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 13:10:12
 瞬間、俺を見るシュウジの目が細まった。それはまるで俺を糾弾するかのような、非難を湛えた目に見えた。
 なぜだろう。俺にはそんな目を向けられる理由が判然としなかった。
「……なるほど。お子様のアキラくんにはキリカちゃんの魅力が判らないのか〜。同じ男として嘆かわしい! 大丈夫だよ、キリカちゃん。君の魅力はこの僕が保証する」
「…………」
 キリカはゆっくりと面を上げた。その顔にどこか歪な、ぎこちなさを感じた。なんだろう。あまりに綺麗すぎる――貼り付けただけの無表情な笑顔。
146名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 13:11:20
 俺は違和感を紛らわそうと半分義務的に無理やり言葉を吐き出した。
「お、おい。それ以上、刺激すると命がなくなるぞ、シュウジ」
「おっと命だけは取らないで欲しいな、キリカちゃん。まだ現世に未練たらたらなんだよね」
「……アキラも一緒に三途の川を拝みたいのかしら。今なら片道キップをプレゼントするけど」
「御免こうむる。そんなことより何しに来たんだ、シュウジ? 飯は彼女と食うとか言ってなかったか?」
 俺は話の舵を取ってシュウジに水を向けた。与太話を続けても切りがないし、空気も変えたかった。
「飯はドタキャンされて一人で食ってきた。で、通りかかったついでにキリカちゃんに伝言を伝えようと思ってね。
 サークルの幹事長から、年度末に会誌を作るけどキリカちゃんも作品を提出するかどうか聞いてこいって。参加は任意だけど可能な限り参加して欲しいとも言ってたね」
「会誌、ね……」
 不自然なほど早口にシュウジは言葉を紡いだ。
 キリカが所属するのは児童文学研究会というサークルだ。「研究」というほど堅苦しいものではなく、児童向けの本を読んだり書いたりするのがメインらしい。
 キリカは絵本のようなものを描いているらしいのだが一度も見せてもらったことはない。下手だから、と言い訳をしているがたぶん恥ずかしいのだろう。大人びた外面とは裏腹にファンシーな一面も持つ幼馴染みだったりする。
「そうね、やってみようかしら」
「オーケー。それじゃ参加ってことで伝えておくね」
「いえ、今から部室に行くから私が直接つたえるわ」
 言うが早いか、そそくさと立ち上がったキリカは「それじゃ」と一言だけ呟いて去っていった。
 呆気に取られたように残された男二人。何とも言えない一拍の静寂。
 俺が口を開きかけると、
「お前、ほんとバカだろ!」
 あの軽薄なシュウジに似合わない真剣な声で怒鳴られた。正直に言えば面食らった。それから延々とシュウジに説教されたことは言うまでもない。
147名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 17:44:33
 サークル棟に向かう足が速い。なぜか心が乱れている自分に余計、腹が立つ。
なんなのだろう、この気持ち。アキラが私を好きだと言ってくれなかったからか。それとも恋愛感情など持てないと言われたからか。同じことのようで意味合いはずいぶん異なる。
 好きだと言わないだけなら、まだ好きである可能性もある。でも恋愛感情を持てないというのは私を女性として見ていない、とはっきり言われたようなものだ。アキラが女たらしだとは思わないが、自分を恋愛対象外としているならいずれ他の女性と付き合うことになるのだろう。
 アキラが私以外の女性と一緒に――。
 そんな光景は想像すらできない。昔からアキラの隣には私がいて、私の隣にはアキラがいたのだから。あいつは私がいないと何もできないのだから。私以外の女性と親しげに話すアキラなんて、まるでアキラではないように思える。
「はぁ……」
 私は胸の内のわだかまりを吐き出すようにため息を吐いた。もやもやとした呼気が白く空気に溶けていく。消え入り方が儚くて、私は思わず足を止めた。
 悶々とした気持ち、すっきりしない頭、これではまるで――。
「馬鹿馬鹿しい……」
 頭を振るとサークル棟へ急いだ。
148名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 17:45:12
 部室には幹事長が一人でお茶を楽しんでいた。電気を点けていないせいで室内は薄暗かったが、濡れ羽色の長髪を纏う幹事長の場合、憂いを帯びて怖いくらい絵になる。
「やあ」
「こんにちは」
 軽く挨拶を交わし空いている椅子に腰掛ける。宝塚もかくや、という凛々しき女性は窓の外を見て呟いた。
「外は寒そうだね」
「ええ、寒風が肌に染みます」
 狭苦しい部室の窓から外を見やると枯れ葉が舞っていた。空気が澄んで遠くまで見通せるのは気温の低さの裏返しだ。見ているだけで寒くなりそうなので視線を外す。
 部室内は空調で適度な室温を保っている。壁にはサークル員が製作したポストカードやカレンダーが所狭しと飾られている。本棚には世界の童話、童謡集がずらり。いつもと変わらない部室。なのになぜか、落ち着かない。ちょっと、空気が乾燥しているかもしれない。
 唐突に、幹事長が切り出した。
「ねえ、キリカくん」
「はい?」
「悩み事でもあるのかい?」
「あ、えっと、別に何も」
「顔に書いてあるよ。君は嘘が下手だからね」
 幹事長が苦笑した。そんなに心中を読み取られやすい顔をしているのだろうか。少し情けない。
「本当に何もないですよ」
「君がそんな顔をするのは珍しい。話すだけでも楽になるものだよ。もちろん、どうしてもいやなら無理にとは言わないけど」
 いつもなら幹事長といえど突っぱねてしまう私だが、何となく話してみたくなった。こんな気持ちになること自体、弱っている証拠なのが忌々しい。
私は仕方なく話し出した。先ほどの学食でのことを踏まえ、小さい頃からの私の気持ち、アキラとの関係――。
149名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 17:47:50
 誰もやってこない二人きりの部室。響くのは私の声。黙して聞き入る幹事長。お茶二杯分の時間を費やして大まかな昔話を話し終えた。
 話を聞き終えると幹事長は思案顔で足を組み、考え始めた。だが黙考もすぐ終わり、ぽつりと一言、こう言った。

「なぜ好きだと告白しないの?」

「え……?」
 私はおそらく豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしていたに違いない。何気ないただの一言に私は意表を突かれていた。
 なぜ告白しない……?
「だって私は、アキラの幼馴染みですし――」
「幼馴染みは関係ないよ。好きなんでしょ?」
「き、嫌いではないですけど、好きかどうかは……」
「それはたぶん好きなんだよ」
「そんなことないです」
「じゃあ仮に彼がいない生活を想像してごらん。寂しく感じたりしないかい?」
「あ……」
 流れるような問答の中で出た言葉。
 アキラのいない生活。
 アキラのいない私は今まで通りに生活できるだろうか。答えは簡単すぎる。考えるまでもない。
NO。
 私の毎日には常にアキラがいたのだから、アキラがいなくなって同じ生活を続けられるわけがない。アキラは私の生活の一部なのだ。それは物心ついたときから形作られたサイクルの一環。どんなに我慢したところで物足りなさは感じないはずがない。
150名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 17:49:07
 私は何かに抗うように言い募った。
「でも、赤ちゃんの頃からずっと一緒ですし……」
「そんなことに一体どうして引け目を感じるのかな。相手の良いところも悪いところも心得ているなら、なおのこと仲を深めやすいと思うけど」
「引け目とかではないです。でも何ていうか、近すぎて相手が見えないと言うか。適度な距離が必要だと思うんです」
「それがない、と?」
「今さら恋愛感情など持てない、と言っていました」
「ふむ……」
 幹事長は口を閉ざして腕を組んだ。また何か考えているようだが打開策など浮かぶはずがない。これは幼馴染みだからこそ至った当然の結果だ。
 ふと、私は気づいたのだが、いつの間にかアキラを好きだという前提で話が進んでいた。昔話はしたが別に特別アキラを好きだなんて言っていない。それをさも当然のように幹事長は話を進め、私は無意識のうちに従った。
 これは私がアキラを好き、ということなのか。潜在的に好きであるから敢えて訂正しなかったのだろうか。少し恥ずかしい気もするが、ここまで話が進みながら「別に好きではありません」と言うのは大人気ないにも程がある。
 どうやら私は、本当にアキラのことが好きなようだ。
 そう頭の中で意識すると自然、頬が熱くなるのを感じた。
151名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 17:50:14
「それならさ、作ればいいんじゃない?」
「え?」
 出し抜けに幹事長が言い出した。
「距離がないなら作ればいいんじゃないかな。そして相手もそれを意識できたら告白する」
「え、告白って……」
 たしかに幹事長の言葉は的を射ていた。告白をする、ということそのものが頭になかった私だが、距離が開けばお互いに寂しさと相手の存在感の大きさを感じられるかもしれない。
「それで駄目なら諦めるしかない」
「諦めるって……元の幼馴染みでもいられなくなるじゃないですか」
「そんなことはないでしょう。今までずっと一緒にいたわけだし。それくらい何とかならない相手なら初めから脈がなかったということだよ」
 幹事長の言葉は深く私の胸を抉った。それはいちいち悔しいくらいに正論だったし、誰もが通る道なのだ。
 当たり前すぎる営みに単に私が気づいていなかっただけ。いや、もしかしたら気づいていながら故意に避けていたのかもしれない。
 今の関係が心地よくて仕様がないから、わざわざリスクを伴う行為に身を投じる必要はない、とそう考えていたのかもしれない。
 私は柄にもなく、弱々しい声を出してしまった。
「今のままいることは……」
 幹事長はありのままの事実を口にした。
「キリカくんが構わないならいいんだろうけど、その様子だといつか、その彼は離れていくだろうね」
 アキラが、私の元から離れていく――。
 考えたことなどない、考えたくもない事態だった。
 目頭が熱くなっていくのが判る。手持ちぶさたの落ち着かなさを満たすために手は髪の毛を梳いていた。焦りが全身を強張らせていく。
「すべては君次第だよ。偉そうなこと言ってごめんね。でもなんだか見てられなくて」
 黙っていればアキラはいなくなる。今日明日に起こるとは限らないが免れ得ないことに変わりはないだろう。
 そう考えれば是非もない。
 私は艶然と、しかし温もりのこもった笑みを浮かべる幹事長に決意を表明した。
152sえ ◆Ozb.lx8Erw :2006/08/28(月) 17:56:47
突然だが、昨日僕には彼女ができた。
 その彼女は、いわゆるキツネ目のロングヘアーのストレート。そして、僕のストライクゾーンへも、ストレートにど真ん中に来ていた。
 思いを告げたのは、僕からだ。君を、人気の無い所で呼び出して大声で……という古典的なことはせず(否できず)僕の情報ネットワークを使い、さながらダイヤルアップで動画を観ようとするほど、時間を掛けて手に入れたメールアドレス。
 全ての思い(計1500文字程度)を、書き込み送った昨日。その後、君からすぐに返事が返ってきて驚いた。辺りに、家族がいないのを確認しつつ恐る恐る震える指先で、キーを押しメールを開くと、
《本文 かまわん》(計4文字)
 顔文字も絵文字も無い文字がそこにはあった。
 とてつもなく嬉しいんだけど、どこか悲しい。例えるなら、好きなTV番組の最終回後の気持ちだろうか、何故悲しいが分からないが、産まれて初めての興奮で頭がおかしくなってるのだろう。そうだ、そうにちがいない。
 そして今日、初めて彼女になった君と初めて会う。期待と、不安で、顔はでれでれしたり、暗くなったりと忙しく百面相しており、自分でも緊張してるのが分かる……
 できるだけ、いつも通りに校門をくぐり、靴を脱ぎ、上履きを履き、教室へ入ると、そこにはやっぱりいつもの君が居た。 
 一瞬だが、目が合うと君はいつもの君らしくなく僕にぎこちなく微笑んだ。
 前言撤回、いつもの君じゃない、だって今日から君は僕のもの。 


これツンデレか? という詳しい追撃は禁止!
とりあえずすいません。
153名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 19:40:46
あげ
154名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 21:08:58
 キリカがよそよそしくなってから数週間。定期試験もぎりぎりで切り抜け、あとは春休みを待つのみとなった。
 学食でシュウジにしこたま怒られたあの日を境に、キリカとの会話が今まで以上に少なくなった。俺は普段と変わらず接しているがキリカの口数が圧倒的に減っている。
 俺が何かを問えば小言と一緒に返事が返ってきたものだが、今では小言すら言わなくなってしまった。基本的に「うん」「ううん」「そう」の三言で返されるから俺も話の膨らましようがないというものだ。
 それに加えて食事は部室で取ると言い始めるし、授業がないときや終わった後は部室に入り浸りだ。本人曰く、会誌に載せる絵本を描いているらしいのだが作業の欠片も見せてくれないので何とも言えない。
 俺がとやかく言うことでないのは承知しているつもりだが、張り合いのなさというか、物足りなさがある。
 授業中だというのに横でノートに落書きしているシュウジに話しかけた。
「なあ、シュウジ」
「ん?」
 ノートから顔も上げずに答える。
「なんかさ、最近キリカ変わった気がしないか?」
「んー、そうかねぇ。僕にはそうは見えないけどなぁ」
「部室ではどうよ」
「今まで通りに活動してるけど。心配なのかい?」
「心配というか……、少し気になるわな」
 気にならないわけがない。一緒に食事していた相手がいなくなり、共に寄り道していた相手が自分のいない場所で何かしている。
 それは普通に考えれば大したことではなくて、むしろ当たり前のことなのだが、俺とキリカの間においては特別だ。
 昼も夜も一緒に動いて、相手の性格も行動も熟知してきたからこそ、今のこの状態に違和感を覚える。
 こういう言い方は良くないと思うが、自分のペットを放し飼いで飼っているような落ち着かなさを感じるのだ。
 何をするにも目の届くところにいたころと違う。目の届かないところへ行ってしまったキリカが遠く感じる。
155名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 21:14:56
 シュウジがにやっと嫌な笑みを浮かべた。
「奥さんにだってプライベートはありますぜ、旦那さま?」
「……馬鹿」
 俺は呆れる振りをする。
 シュウジの言葉を認めるのは悔しいが、そういう考えがすっぽりと抜けていたことに気づかされた。
 幼馴染みでいつも一緒で、二人で一つのセットのような生活をしてきたからお互いのプライベートとか秘匿するほどの秘密とか、そんなものは存在しないかのように過ごしてきてしまった。
 俺は別段、息苦しさは感じなかったし、キリカにしても一度も文句を聞いたことはない。
 そんな「新鮮さ」に触れた俺は、気の迷いからか、ふとシュウジの前だというのにぽろっと漏らしていた。
156名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 21:17:22
「俺とキリカは幼馴染みだけど、どんな関係なんだろうな」
 若干の矛盾を孕んだ言葉だったがシュウジはまるで待っていたかのように食いついた。
「そりゃあ幼馴染みであることに変わりはないでしょ。血縁関係を除けばこれ以上ないくらい親密な間柄だね。
 でもどんなに近くて自分の分身みたいに理解し合えても、やっぱり他人なんだよね。同じ道を同じ速度で歩いていても、歩幅はみんな違うものさ」
 そんなことは自明の理。言われなくても判ることだった。ただ、近くて近くて近づきすぎて、キリカの「個」というものが見えなくなっていた俺以外にとっては。
 あいつの考えることは手に取るように判ったし、やることなすことに関わっていたのに、当たり前すぎる前提を見失っていたとなっては世話がない。こういうのを間抜けというのかもしれない。
「もしかして、今までキリカ、我慢してくれてたのか?」
「さあ、僕のあずかり知らないことだね。でも一つ言えるのはキリカちゃんもそれなりに満足していたということ」
「満足していた?」
「嫌ならくっついていないでしょう? とっくの昔にさよならバイバイ。自分の行きたいところへランナウェイ。それくらい「幼馴染み」のアキラくんには手に取るように判るんじゃないのかい?」
 語末に皮肉を込められたが言われた通りである。嫌になるくらい人のことを見透かしてくる。本当に食えない、憎めない男だ。
 キリカにだってプライベートな生活がある。いま感じている座りの悪さは甘んじて受け入れ、消化するしかない。それがキリカのためになる。
 俺は自分に言い聞かせるように考えを改めた。俺とキリカの距離がいかに近くても二人は同一人物ではない。どうしようもなく他人だ。
 二人の間には隔たりがあって、片方がいないところではそこでの付き合いがある。いくら幼馴染みといえど、そこまで首を突っ込むのはいささかデリカシーに欠けるというものか。
 キリカにもプライバシーがあって、彼女には彼女の生活があり、一人の他人であるのだ。
157名無し物書き@推敲中?:2006/08/28(月) 21:18:56
 そう考えると不思議なもので、頭の中にぼんやりとキリカの顔が浮かんだ。
 嫌というほど見慣れた幼馴染みの顔。よくよく見れば整った顔立ちだった。
 鼻梁の通った細面に大きな瞳。小さな眼鏡が中央に配置され、理知的な雰囲気を醸している。セミロングの髪の毛も艶と清潔感が共存しているし、胸は……まあ愛嬌と思えなくもない。
 こう考えてみるとキリカは頭に「美」のつく少女といっても過言ではない。さして気にしたこともなかったがキリカも立派に女の子だったのだ。
「なあシュウジ。空調くるってないよな?」
「狂ってないねぇ。どしたの?」
「ぽっかぽかなんだが」
 頬が熱い。額が熱い。なんだろうな、これは。新手のインフルエンザだろうか。
「なあシュウジ」
「なんだい、さっきから」
「キリカってさ……実は美少女?」
 シュウジの顔がもの凄いニヤけ顔に変形した。まるで罠にかかった獲物を捌こうとする猟師のようだ。
「やっとアキラくんも気づいたかぁ。いやぁ遅い遅い。めでたいめでたい」
「おい、何がめでたいんだ。俺は別に――」
 そのときシュウジの携帯が震えた。メールのようだ。片手で確認すると、シュウジはこの上なく嫌なニヤけ顔を作った。
158名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 00:55:41
 俺は児童文学研究会の部室前にいる。シュウジに問答無用の勢いで部室に行け、と言われた結果だ。理由までは話してくれなかったがシュウジのことだから意味はあるのだろう。
 何が待っているか判らないが、一枚の薄い戸が二つの異なる世界を隔てているように感じられた。
 俺はゆっくりと手を伸ばす。引き戸の向こう側に足を踏み入れた。
159名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 01:00:33
 やや暗めの蛍光灯が照らす室内にたった一人。そこにいたのはキリカだった。
「いらっしゃい」
「キリカ……」
 長机の端に座って俺を見つめるキリカ。別段、変わりがあるようには見えない。少し、やつれたかもしれないが身体に差し支えはないだろう。
 室内は何の変哲もないようで一種、異様な雰囲気が漂っていた。それはキリカが醸しだしているのか。それとも単なる俺の思い込みか。今さっきキリカについて考えを改めたばかりの俺にとっては後者の可能性が高かった。
「座って」
 キリカに勧められるまま、俺は適当な椅子に腰掛けた。たまにキリカに付き添って顔を出したことはあるが堂々と中に入って座り込むのは初めてだ。
「何か、俺に用があるのか?」
 気の利いた台詞など一文字も浮かばないのだから仕方ない。今までもざっくばらんに話してきた仲だ。そう簡単に変えられるものではない。
「私ね、会誌に載せる絵本を描いたの」
「ああ、知ってる。最近ずっと頑張っていたみたいだな」
「それがやっと完成してね」
「すごいじゃないか」
「うん。それで、アキラに読んで欲しくて、ここに呼んだの」
「ふむ……」
 キリカの前には絵本になる前の原稿、クリップでまとめられた紙の束が置かれていた。それを手に取り、俺に差し出してきた。
「読んでみて。話はそれから」
「あ、ああ……」
 活力の稀薄なキリカに尻込みしつつも、俺はキリカ謹製の絵本をめくり始めた。
160名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 01:03:32
 あるところに女の子がいました。女の子は小さくて体もよわく、いつも困っていました。
 そんな女の子には男の子の友だちがいました。おとなりに住んでいる元気でやさしい男の子です。
 二人はいっしょになって朝から晩まで、毎日毎日いっしょに遊びました。男の子が笑えば女の子も笑い、女の子が悲しむと男の子も悲しみました。二人はいつも、二人で一人だったのです。
 そんな女の子と男の子が少し大きくなったとき、男の子がある学校に行きたいと言いました。でもその学校はとてもむずかしく、女の子はいっしょに行けません。
 男の子は要領がよく、すこし勉強するだけでいろんなことがわかる子でした。女の子はなやみました。
 このままでは離ればなれになってしまう。できればいっしょにいたい。でも男の子が行きたい学校なのだから、わがままを言ったらきっと迷惑をかけてしまう。
 女の子はなやんだすえに一生懸命べんきょうしました。毎日毎日、まじめに勉強してとうとう男の子とおなじ学校に行けました。
 女の子は大喜びしました。大好きな男の子とおなじ学校に行けるのです。大好きで仕方のない男の子とこれからもいっしょにいられるのです。
 男の子ももちろん喜びましたが、女の子ほどではありませんでした。男の子は女の子を「おとなりの子」としてしか見えていなかったのです。
 女の子にとって男の子は「おとなりの男の子」で、たよれるかっこういい「男の子」でした。でも男の子はちがったのです。
 女の子もたくさん勉強してかしこくなったので男の子のきもちがわかりました。
 そして、それからは「女の子」として見られようとするのではなく、「たよれる友だち」になろうともっともっと勉強するようになりました。
 そうして女の子はいっぱい勉強して、またおなじ学校に行きました。
 そのころにはもう女の子は大人になり、りっぱな女性になっていました。男の子も大人になっていたのですが、女の子にたいしては小さいころとおなじ「おとなりの子」のままでした。
161名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 01:04:28
 いつまでたってもかわらない男の子のきもちに、女の子はこう思うのでした。
「わたしを好きになってくれなくても、いつまでもいっしょにいられればいいの。でも男の子はいつかべつの女の子を好きになってしまうかもしれない。そうしたらわたしといっしょにいられなくなってしまうわ。どうしましょう」
 女の子は考えました。でもいくら考えても、いい思いつきがうかびません。
 そんなとき、女の子のところに魔女がやってきました。
「おやおや、なにかこまっているようだね」
「はい。いい考えがうかばなくて」
 女の子はそれまでの話をきかせました。
 すると魔女はこう言いました。
「それはしかたがないよ。そばにいたくてもいられなくなる。どうしてもいっしょにいたいなら、男の子があんたを好きになればいいのさ」
「でもどうすれば好きになってくれるのかしら」
 魔女は手にもったステッキをかかげて言いました。
「あたしなら魔法でなんとかしてやれるよ」
「ほんとうですか?」
「もちろん。ただし魔法には「しっぺがえし」がつきものでね。ちょっと不幸なことがあるかもしれないけど、がまんできるかい?」
「はい。わたし、がまんします」
 女の子は魔女にたのんで魔法をかけてもらいました。すると女の子の体がきらきらと光りだしました。
 そして、いくらかして光がきえると、そこに女の子のすがたはありませんでした。
162名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 01:06:12
 そのころ、男の子はごはんを食べていました。牛乳をごくごくと飲んでいると、ふと、頭のすみっこがひらめきました。
「ん、いまのは……」
 男の子はふしぎに思いましたが、気のせいだと思うことにしてごはんを食べました。
 そこへ魔女がやってきました。
「あんたがあの子の言っていた男の子かい」
「あなたはだれですか?」
「そんなことはいいのさ。それより女の子のことを知らないかい?」
「女の子?」
「小さいころから女の子といっしょにあそんでいなかったかい?」
「いえ、ぼくはずっと一人ぼっちで遊んできました。そんな子は知りません。でも、昔からぼんやりと、だれかのきおくがあるんです。それがだれだかわからないけど、たぶんとってもかわいい女の子なんです」
「そうかいそうかい。それじゃあ、その女の子ことは好きかね?」
「はい、大好きです」
「なるほど。これで魔法はせいこうだね。それじゃあ、その女の子のきおくを大切にするんだよ」
「はい」
 魔女はそういうと去っていきました。
 男の子は女の子のきおくを思いだしてほほえむと、一人でごはんをたべました。

 めでたしめでたし
163名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 01:10:45
「これは……」
 俺は絶句した。これは作り話じゃない。女の子はキリカ、男の子はこの俺だ。ただ「男の子が行きたがった学校についていくために勉強する」とか「頼れる友だちでいるために真面目になる」なんて話は初耳だ。だが心当たりはある。
 大学まで一緒なのは偶然というには無理があるし、高校以降のキリカの真面目さは不自然だった。まるで別人になったような熱心さで勉強し、宿題や予習でいつも俺の面倒を見ようとしていた。
 あれはもしかしたら、いや、もしかしなくても俺との接点を作るためだったのか。少しでも俺の役に立って必要とされようと、一緒にいる時間を増やそうと、そういうことだったのか。
「どうだった?」
 キリカの顔を見れない。俺は何て答えればいい? 面白かったと言えばいいのか。謝ればいいのか、今まで気づいてやれなくてごめん、と。
 そんな無神経なことも傲慢なこともできない。キリカだってそんなことを望んではいないだろう。
 それにあのエンディング。
 決して「めでた」くはなかった。誰も傷つかない、痛みのない解決法ではあったけど、あれでいいはずがない。
 救いがなさすぎる。
 キリカは俺の胸中が読めるのか、ぽつりと言葉をこぼした。
「最後ね、どうやって終わらせようか迷ったの。でもやっぱりどれだけ考えても思いつかないのよ。男の子が女の子に好意を持たない限り、男の子はいつしか離れていってしまう。一番妥当で仕方のない結末だったの」
 無表情に、淡々と起こった事実を述べるように言う。その絵本が他人の手によって作られてどうしようもなかった、とでも言うように。自分の非力さを自覚した上で、達観した態度だった。
164名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 01:15:05
 俺は何て声をかけたらいい?
 早鐘のように脈打つ心臓がうるさかった。握り締めた拳が震える。額に汗が滲んできた。
「俺はっ、絵本とかあんま詳しくないけど、でもそんな終わり方ってないんじゃないかっ」
 気づけば怒鳴るように言葉を叩きつけていた。頭で判っていても口は止まらなかった。
「たとえ、女の子と男の子が俺たちをモチーフにしていたとしても、いや、だからこそ、こんな終わり方はあんまりだ。俺ならもっと、みんなが笑顔になるような終わり方にするぞ」
 勢い任せでそう口走っていた。何の考えもなく口を衝いて出てしまった。
するとキリカの顔が歪んだ。無表情な氷の仮面から、一転して怒りの色が溢れていた。
「それなら教えてっ。どんな終わり方にするの? 女の子はどうやって幸せになるの?  どうすればいいのよ! 女の子は男の子のことが好きなの! でも男の子は、この女の子のことが好きじゃないの! 女の子がいくら一生懸命になっても振り向いてくれないの!」
 烈火のごとく叫ぶキリカ。それからゆっくりと、両手で覆いながら顔を伏せ、さめざめと泣き出した。
 部室に一時の静寂が満ちた。キリカの泣き声をBGMに、立ち尽くす俺はまるで大根役者だ。何も声をかけてやれない。
 嗚咽を漏らして肩を震わすキリカから、小さな声が聞こえた。
「ごめん、ね。本当は絵本を読んで、それから……告白したかったの。こんなこと言うつもり、なかった。ごめんね」
 さっきの勢いがしぼんだように鳴りを潜め、キリカは謝りだした。嗚咽の間に「私、最低ね。ごめん」と自分を責めていた。
165名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 01:17:45
 まるでキリカらしくない。
 目の前のキリカはキリカであってキリカではない。キリカはもっと冷静で大人びていて気丈で簡単に弱音を吐いたりしない。
 いや違う。それはいつの間にか「キリカ」になっていた表面上の顔でしかない。
 絵本に出てきた女の子はどうだった。男の子を追いかけるように隠れたところで努力していた健気な少女。どれだけ努力をしても報われないと知りながら、それでもそばにいたいと願う儚い少女。
 そして肩を震わせながら顔を覆って泣き続ける、眼前の少女。
 何も変わってなどいない。俺のあとを追いかけてきて一緒に遊んだか弱い少女は、いま大人となってもなお、健気でか弱くて、何でもないことで涙している。
 好きな人がいて、告白したくて、でも上手くいかなくて泣いてしまって。そんな普通の女の子であるキリカが昔とどう違うというのか。何が変わったというのか。
 今まで俺は何を見ていた。目に映るキリカという女の子の虚像のみに終始し、彼女の本質が見えていなかったのではないか。
 だとしたら責任はむしろ俺にあるのではないか。他人の好意と苦悩に気が付くこともなく、安穏と日々を送り、あまつさえ泣かしてしまった。俺はどれだけ重罪人なんだ。泣いて許しを請うのは俺のほうじゃないか。
166名無し物書き@推敲中?:2006/08/29(火) 01:23:14
 俺は訥々と、しかし言わなければいけない言葉を紡ぐことにした。
「別にキリカは悪くないだろう。絵本の男の子と女の子が俺たちなのは判ったけど、これはフィクションで、ちゃんと描きあげたんだから会誌にも載せられる。立派だし褒められるべきことだし、えっと、あーもうそんなことが言いたいんじゃなくてっ」
 空回りする頭を抑えて一呼吸。たぶん一世一代になるであろう言葉だけを吐き出した。
「キリカ、俺、お前のことが好きだ」
「…………え?」
 時が止まった。ぐすぐすと鼻をすすっていたキリカは目と口を丸く開いて呆然となった。
「シュウジのやつにめちゃくちゃ叱られた。女心が判らないのは罪悪だ、から始まって女性の偉大さまで延々と説教くらった。それと……俺とお前の関係についても啓蒙させられた。
 キリカは「幼馴染み」ではあるけどそれだけに尽きる人間じゃなくて、「幼馴染み」でありながら「可愛い女の子」でもあって、「児文研サークル員」として絵本も描いてて、隣に住まうほど近しい「家族」みたいなものだけど、プライベートな部分も持った「他人」でもある。
 どれが正しくてどれが間違っているとか、そういう次元の話じゃなくて、全部ひっくるめてキリカだということで。
 そうして振り返ってみるとキリカがやけに可愛く見えてきて、いつの間にか綺麗になっていて驚いたし、俺はなんで今まで気づかなかったんだろうと猛烈に後悔しているし。
 何が言いたいかというと、話をまとめて一言で言えば――」
 パンクしそうな思考回路の中を一つの言葉が滑り落ちていく。俺がようやく気づくことのできた真実。いま言わなければいけない、慰めではない、俺の本当の気持ち。
「今までごめん。大好きだ」
 キリカは俺の言葉を理解するのに時間をかけたものの、返事として返ってきたのは紛れもなく俺の記憶の片隅に残る、満面の笑顔だった。