「誤算」「ゆらぎ」「スキャン」
ウイルススキャンをしたらBlasterの感染が報告された。
この誤算で、ウイルス対策の考えがゆらいだ。
Web閲覧だけで感染するウイルスがあるとは思ってなかった。
Blasterの場合、感染しているPCが、ネットワーク上の他のPCに対しても、
特定ポートに感染プログラムのデータを送って、感染させる。
今回の感染により、感染対策だけでなくバックアップにも力を入れることにした。
↓「認知」「脳」「クオリア」
「誤算」「ゆらぎ」「スキャン」
ウイルススキャンをしたらBlasterの感染が報告された。
この誤算で、ウイルス対策の考えがゆらぎ、悩んだ。
Web閲覧だけで感染するウイルスがあるとは思ってなかった。
Blasterの場合、感染しているPCが、ネットワーク上の他のPCに対しても、
特定ポートに感染プログラムのデータを送って、感染させる。
今回の感染により、感染対策だけでなくバックアップにも力を入れることにした。
↓「認知」「脳」「クオリア」
「認知」「脳」「クオリア」
「じゃあ、私がこのパスタを美味しそうって思った事もクオリア?」
彼女はメニュー表でカルボナーラを指差して言った。
「そう、それは志向的クオリア。でも、君が脳の中でカルボナーラってパスタ
を具体的に思い浮かべただろう?それは感覚的クオリアだよ」
彼女は分かったような困惑しているような複雑な表情をした。
「……私自身が脳の中でカルボナーラをイメージして、
美味しそうって思った事がココロの正体って事でいいの?」
「まぁ、クオリアだけが心の正体って訳じゃないけど、自我を科学的に語る上では必要だね」
そんな、めずらしく知的な会話をしているうちにパスタが目の前に運ばれてきた。
もちろん彼女はカルボナーラを注文していた。
濃厚な白いパスタは次々に彼女の口に入っていく。
僕はその彼女の口元が『エロチックだ』と認知した。
「映画」「最低」「食通」
472 :
ふしはら ◆SF36Mndinc :05/02/03 06:47:32
「映画」「最低」「食通」
映画は諸悪の根源だ。この世にあるビデオテープやDVDを全部かき集めて燃やしたいぐらいだ。
昔の焚書坑儒のようにだ。映画監督を穴に落として土をかぶせて窒息死させてやりたい。
そうされて当然の奴らなんだよ。よく映画好きとかがテレビに出ている。この映画も見ました、あの映画も見ました。馬鹿か。
だからなんだよ。お前らは小説を読めないから映画なんて見てんだろう。あの映画のここがすばらしいですね、とか語るなよ。
映像が素晴らしいとだけ言っておけばよろしい。ストーリーがどうのこうのと知ったような口をきくんじゃねえよ。そんなもんは小説のパクりだったりするんだよ。
ほんとくだらねえ奴らだ。最低のくずやろうどもなんだよそういう奴らは。そういう奴らの読む小説ってさ、最近書かれたものばっかじゃんか。今ベストセラーになってるのをとりあえず買っとくみたいなな。
ミーハーなんだな。あさはかなんだね。食通が多いしね。うまいもんに目がないからな。そういう奴らは。あそこの店はうまいとかそればっかなんだね。会話のないようがだ。
本当に屑なんだよ。見かけだけを装うって奴らなんだよ。たとえばセックスするにしても、恋愛ごっこしてからやるしな。全部雰囲気とか社会通念上良いとされている概念を自分に帯びさせようとしているだけだ。
そして本物をそのくだらない社会通念で攻撃するからな。馬鹿は数が多いからな。その馬鹿たちが作り上げた考えで、少数の本物を攻撃する。多数決で攻撃する。馬鹿多数、本物少数だからね。
ほんと死ねば良いのにと思うよ。自分の卑しい欲望が強すぎるから、それを隠そうと、良い服を着たりして、人に変わってるねって言われまいとする奴らだ。平平凡凡の癖に自分を普通以上と思い違いしてやがるから、
話にならないよ。思いっきり腹を蹴りつけて子供を産めない体にしてやろうか。
俺の部屋には読む気もしない本がたくさん転がっている。
次、「肩甲骨」「ビーム」「濃厚」
「肩甲骨」「ビーム」「濃厚」
早朝の通勤電車は、やはりいつものごとく満員御礼だった。
老若男女の区別なく、人が飯粒のようにぎっしりと詰まった
鉄の箱は、一条のビームの如く、都心を目指して走り続けていた。
俺は乗降扉に張り付くように立ち、曇ったガラスに映る、俺に
瓜二つで、実に精彩を欠いた男の顔を、睨みつけていた。
苛立ちや嘆きの想いはとうに過ぎ、今は諦めだけがあった。
唯一、そんな諦めの中に希望を見出すとすれば、この立ち位置が
俺の毎朝の定位置であったことだろう。
目的地まであと三駅となった所で、線路はカーブに差し掛かった。
それは俺の立つ扉側に膨らんだ、大きなカーブで、ここを過ぎる時に
車両内での乗客の位置関係が変化することもある。
俺は背中に来るであろう重圧に備え、二の腕を扉に押し当てた。
刹那、車両全体が振動し、背中に暑苦しい重圧が――。
重圧は訪れなかった。
代わりに、両方の肩甲骨を優しく包み込むように、小さな手が添えられた。
そして、誰かが背中に身を預けてきた。軽い。とんでもなく軽い。
鼻腔をくすぐる心地よい香りは、息継ぎすら困難な車両の中にあって
はっきりと判り、俺は鼓動が早まるのを意識した。
しかもその誰かは、俺の背中にやはり小さな頭を寄せ、濃厚の愛撫の如く
擦り寄って来たのだ。
俺は動けなかった。動いて、振り向けば、何かが終わってしまうと思ったから。
ふと我に帰ると、電車は目的地をとうに過ぎていた。
人は少なくなり、車両内の重圧はすっかり無くなっていたが、背中に
残った柔らかなぬくもりは、俺の中でいつまでも燻り続けていた。
次「狂気」「転生」「対」
474 :
ふしはら ◆SF36Mndinc :05/02/03 16:22:12
475 :
名無し物書き@推敲中?:05/02/03 16:46:12
>474
ごめんね。スルーしてごめんね。
「狂気」「転生」「対」
風薫る五月。
鬨の咆哮は大地を揺るがし、芽吹く草原は程なくして人馬と血煙渦巻く戦場になった。
……見飽きた夢だった。いつの頃からだろう。高校にあがる頃だったかもしれない。
当時の俺は、鬱屈した環境がこんな夢を見せるのだろうと思うようにしていた。
佩いた得物は人肌を渇望するかのように、するりと抜けて肉にその切先を沈めていく。
迸る血潮にまみれながら、寄せる剣戟をいなしては敵兵を捌いていった。
俺は無敵だった。いかなる剛勇の士も俺の前には無力だった。軍神でさえ、俺の武威に
平伏すかもしれない。いや、軍神が転生した御形こそ俺なのだ。
脆い世界で繰り広げられる狂気の宴に、いつしか酔いしれるようになっていた。
しかし今の俺の姿は、残念なことに軍神には見えないだろう。
鎧は寝間着に、刀はサバイバルナイフと、何と貧相なものか、こん畜生。
広大な戦場も、夜の帳に包まれた六畳間だ。
俺は禿げかかった親父の頭髪を掴み、脂でくすんだ寝室の天井へ掲げてみた。
あの中の俺は決まって、片手に高く首級を掲げて血染めの大地に対す、蒼天を見上げるのだ。
いまだ鮮血を垂れ流す親父の頭部を見上げて、俺は大きく勝鬨の声をあげた。
次は「リベート」「御者」「三つ巴」で〜。
「リベート」「御者」「三つ巴」
2年前、
取材旅行でオレはイギリスへ行ったんだ。
ヒースローからレンタカーでランカスターへ向かった。
途中、ある寂れた村に立ち寄った時のことだ。タバコを買おうとして
「キャメル2箱ください」といったオレに、店番の爺さんは
「ここいらじゃ、よそ者に売るタバコは無い!」と言う。
普通、タバコは税収につながるのでよそ者ほどありがたい筈なのだが・・
話が見えなかたオレは、予定外ではあるがこの村を取材することにした。
封建的なイギリスの田舎町、悪くないかもしれない。
取材を進めてみると、わかってきた。
この過疎の村には、観光客誘致に対して賛成派/反対派がくっきり分かれているのだ。
あいあらさまに無視する者もあれば、こっそりホテルにやって来てリベートを置いていく者もいる。
いいこと書いてくださいね、ということか。
中でも印象的だったのは「御者の組合」と「馬車馬の組合」との争いだ。
観光収入に依存する御者組合と、馬の労働環境を守ろうとする馬車馬組合との争いは、
村にただ一台存在するタクシーのオヤジも巻き込んで三つ巴のリベート合戦に発展した。
それぞれから現金や酒・女の接待を受けたオレは、またレンタカーで本来の目的地へ走った。
原稿はまだ書いていない。
「水彩画」「ビデオテープ」「不燃ゴミ」
とある夫婦の団欒。
「ビデオテープは何ゴミか?」
「不燃ゴミでしょ」
「じゃあ問題です。ビデオテープを描いた水彩画は何ゴミでしょう?」
「可燃ゴミ? ちょっと、つまんないから話題変えてよ」
「いやいやいや、じゃあ、ビデオテープを描いた水彩画を
描いている所を録画したビデオテープはなーにごーみだ?」
「……粗大ゴミ」
「あっはっは、違うなあ。じゃあね、ビデオテープを描いた
水彩画を描いている所を録画したビデオテープに――」
「粗大ゴミ!」
「違う違う。いい? そのビデオテープに描かれた水彩画は何ゴミだ?」
「粗大ゴミってば!」
「あっはっは、駄目だなぁ。正解は不燃ゴミさ」
「ちょっと粗大ゴミ! あなたのこと呼んでるんだけど!」
次は「なんと」「正体不明」「怠(読み方なんでもok)」でお願いします。
「主任、2番窓口になんか正体不明な人が来てるんですけど……」
昼の休憩後フロアに戻ってきた俺のもとに、困惑の表情を浮かべた女子社員がやってきた。
入社3年にもなって客の応対も満足にできないのかと、視線だけを厳しく返す。
とりあえず問題の窓口まで向かう。女子社員に背を向けた瞬間から営業スマイルを作った。
2番窓口には、部屋の中なのにカンカン帽を目深にかぶった男が座っていた。
「大変お待たせ致しました、えっと、本日はどういったご用件でお越しでしょうか?」
穏やかな声音を作り、ゆっくりと話しながら相手を注意深く観察する。
30歳代後半、中肉中背、肌は浅黒く少しくたびれた印象を受ける。だが、俯いているので、
帽子が邪魔していまいち表情は読み取れなかった。
「……ちょっとおたくの商品の説明を聞きたくて……あ、これ名刺です」
男はボソボソと喋りながら名刺を差し出してきた。慌ててこちらも名刺を出しながら、失
礼の無いように名刺交換をする。ちょっと怪しい印象だが、意外とまともな……。
「……あの、大変失礼ながらこちらなんとお呼びすれば……」
名刺には(株式会社ヒマジン 営業課 怠 泰三)と書かれていた。
なまけ?たいぞう? いや、たいたいぞう か?というかこの社名も……。
「あ、スミマセン。それ昔のでした。皆さん読めないし間違ってるので新しく作ったんだ
った」そう言って新しく名刺を差し出してきた。
当然読み仮名を期待して受け取った俺は、名前を読もうと口をあけたまま固まった。
(有限会社ヒマジン 営業課 怠(読み方なんでもok)棒三)
帽子の影で男の口尻が少し引きつった。笑ったように見える。
カーン。俺の頭の中に戦いのゴングが響く。ふっ、確かに正体不明だ。まぁいいだろう。
そもそも人間の正体なんて名刺ごときでわかる訳が無い。俺の目で見極めてやる!
俺はフレンドリーにファーストネームで呼ぶことにした。
「たいぞうさん、今日はどの商品について説明しましょう?」
「ぼうぞうです」
次は「朝」「魚」「体操」
「朝」「魚」「体操」
卒業記念に乱交パーティーを開くことになった。
前日は良く寝て体力を温存し、朝から体操などして本番に備えた。
変態プレイ用の魚も買った。
マ○コから半身はみだした尻尾がピチピチ跳ねる様子を想像して勃起した。
下ネタすまん。
次、「ベビーオイル」「結婚詐欺」「株式公開」
「ベビーオイル」「結婚詐欺」「株式公開」
私は結婚詐欺師。目的の為には手段を選ばない女。昼は淑女のように、夜は娼婦のごとく、
狙った獲物の理想像を演じ続けるアクトレス。これまで数多の男どもを騙し、欺き、裏切って
生きてきた。そんな私の次なるターゲットは、近年、株式公開も果たしたベンチャー企業の若社長。
いくらやり手のビジネスマンといえども、私にかかれば赤子も同然。二人が出会い、恋愛関係に
至るまでたいした時間はかからなかった。彼をものにするまで、あと少し。
そうして、迎えた幾度めかの夜。ついに最後のセキュリティを解く機会が訪れた。ベッドの背に
もたれながら、彼は改まった口調で語り始めた。「君に話しておきたいことがある。解ってもらえるか
不安だけど」私は内心とは裏腹に神妙な面持ちで身構えた。これで、堕ちる。「……実は僕には、
こういう性癖があるんだ」と言って彼はおずおずと、黒いバッグから小さなボトルを取り出した。
それはベビーオイルだった。さらに他にも涎掛け、おしゃぶり、哺乳瓶。……なるほど、いわゆる
幼児プレイというやつである。なんだ、と拍子抜けした。その程度の変態趣味ならなんの問題ない。
どんなニーズにも完璧に対応する、それがプロフェッショナル。私は一瞬だけとまどいの表情を
浮かべた後、ぎこちない笑顔で頷いた。心配そうだった彼の顔がぱっと明るくなった。「ありがとう。
それじゃ早速」と、彼は嬉々として白い布切れを手渡した。「これに着替えてくれないか」
「……よーしよしよし、可愛いお嬢ちゃんでちゅねー」
私は結婚詐欺師。目的の為にはオムツさえも穿きこなす女。
お次は「海岸」「ドーナッツ」「影」
482 :
菊龍:05/02/08 20:21:51
砂浜を、少年と少女が手をつないで歩いている。
俺は海岸沿いのベンチに座りながら、それをぼんやりと眺めていた。
突然、目の前に影がさす。
「自分、何してるん?」
後ろを見上げると、同い年ぐらいの快闊そうな女の子が笑顔を浮かべていた。
「……ナンパか?」
俺がそう言うと、その子は苦笑しながらベンチの隣へと座る。
「そんなとこや。な、兄ちゃん暇やろ?どっか遊びにいかへん?駅前のマクドとか」
「興味ない」
一言そう言って立ち去ろうとする。
「あ、待ってぇな!じゃあミスド行こ、ミスド!最近この近くにできたんや!」
「……初対面なのに、なれなれしい。何で俺がそんなことを。」
心底ウザそうな声を浴びせ、そのまま歩き出す。
「………うち、あと1年しか生きられへんねん………」
その子の言葉に、足を止める。その表情は、とても嘘をついているようには見えなかった。
「………なんてな!はったりやハッタリ!いやぁこうしたら男も同情してくれるかと……」
「……ドーナッツ、おごれよ」
振り返って一言、そう言ってやった。
「………へ?」
「行かないのか?」
女の子は一瞬固まった後、極上の笑顔で駆け寄ってきた。
「じゃあなじゃあな、ミスドの後はカラオケかゲーセン!あ、そうそう、うちの名前は………」
俺達は繁華街へ向かって歩き出した。
すまん、関西弁初挑戦。
次回お題「夕日」「爆弾」「スパッツ」
483 :
ロイトリゲン:05/02/08 22:24:04
俺は見慣れたキャンパスを図書館に向かいながら歩を進めていた。寒い寒い冬でもう夕
日が出ている。向こうにいるカップルは一本のマフラーを二人で使っている。ずいぶん
嫌なものを見てしまったものだ。おい!おまえら見苦しいぞ、と言いたいがもとよりそ
んな勇気は無い。ペッと花壇につばを吐く。俺だって本当はあんな姿を求めてこの大学
に入ったのだ。こんな心の底まで荒んだ人間になるとは、入学当初の期待に胸を膨らま
すあの頃の自分には到底想像しなかったことだろう。また俺はうつむいて歩いた。
図書館の手前10メートルほどの所にきたので少し顔をあげるとスパッツをはいた男の
姿が目に入った。太った男だ。男の目は狂気の赤い眼で鈍く光っていた。尋常じゃない
。そしてそいつはジャケットのポケットから爆弾を取り出し、カップルに奇声をあげなが
ら突進していく。「キャー」カップルの女は叫び、男の方はわけも分からず呆然としてい
る。「や、やめろ」俺はそいつを追いかけた。すばらしい加速で俺はその太った男にすぐ
に追いつく。足をかけて倒し爆弾を取り上げた。まだ安全キーは外されていない。訳が分
からないがとりあえず安心を得た。とその時だ。いきなり俺の目の前が赤くにごり、俺は
安全キーをぬいて爆弾を右手に振りかぶり先ほどのカップルに向かって腕を振り下ろした
のである。
次「シルクロード」「猫」「サーフィン」で
「シルクロード」「猫」「サーフィン」
戦後の混乱期に生まれ、貧しい家庭に育った。
生きることで精一杯の時代だった。
人一倍の努力はしてきたさ。
苦しい時もあったが、おかげで人並み以上の幸福を手に入れることが出来た。
振り返ってみれば充実した楽しい日々だったな。
もう一度生まれ変わっても、また同じ人生を歩みたいと思う。
最近、娘のボーイフレンドに教わってサーフィンを始めた。
定年退職をしたら、妻と二人シルクロードの旅に出たいとも思っている。
陶芸もやりたいね。
人生、まだまだこれから一花咲かせるつもりだ。
私のご主人様は、私に向かってそんな妄想をぶつぶつ呟いている。
6畳一間のアパート。安酒と交通整理のバイトの毎日。唯一の希望はロト6のクセに。
私は猫。いいから早く猫缶あけてくれ。
次「坂道」「バス停」「相談」
485 :
名無し物書き@推敲中?:05/02/09 20:15:53
「坂道」「バス停」「相談」
放課後、帰り道で級友に声を掛けられた。以前から密かに憧れていた女の子だった。彼女
とはこれまで親しく話しをする機会などほとんどなかったのに、いったい何だろう。ギアチェンジ
する心臓の音が、身体の内側で響いた。いっしょに、校門から続く長い坂道をゆっくりと下って
いく。隣で自転車を押す彼女は、なにやら躊躇しているようだった。さっきから先の続かない
「あのね」ばかりを何度も繰り返している。夕日に照らされたその頬は仄かに朱に染まっていた。
相談事でもあるのだろうか。それとも──膨らむ薔薇色の期待は、なかなか収まってはくれなかった。
やがて、話が進まないままバス停に着いてしまった。次のバスまではまだ時間がある。
仕方なくベンチに腰を下ろした。彼女も隣に座る。「それで、何?」「うん……あのねー」彼女は
意を決したようにこちらを見つめた。視線が交錯する。いやがおうにも緊張が高まった。
「実はね、わたし、山本君のことが好きなんだ」「それでね、出来れば貴方にも協力して欲しいなー
って思ったんだけど」……ピンクな妄想の彩度が急激に失われていった。代わりに、綿菓子の
ような白い靄に意識を占領された。山本とは、私の幼馴染の名前である。なんて、馬鹿だったんだろう。
いつまでも返事のない私に、彼女は「……駄目、かな」と細い眉をよせて訊いてきた。私は
精一杯の強がりで微笑み、なんとか、答えた。「わかった、応援する。うまくいくといいね」「よかったー」
彼女は喜色満面といった表情を浮かべた。「ありがとうねー、ヒロミ。それでさぁ、山本君って─」
彼女が問いかけてくる、うまく理解できない、適当に相槌を打つ。北風が目尻を拭った。バスは、まだ来ない。
次「リップ」「チャンス」「黒猫」
486 :
名無し物書き@推敲中?:05/02/09 21:00:41
「リップ」「チャンス」「黒猫」
何度告白しようか迷った。だが、出来なかった。
黒猫が俺のアパートに迷い込んで住み着き、それを探していた彼女に一目惚れした。
チャンスが無かった、と言うのは言い訳だ。自分が小心で口下手だからだ。
それを友人に相談すると、一本のリップクリームをくれた。
何でも、どこぞの国のマジナイが掛かった品で、これをつければ唇の滑りが良くなり、スラスラと言葉が出てくるらしい。
ただし、一つ条件が有ると言っていた。それは、本当にしゃべりたい最初の一言を言うまで口を開いてはいけない。
なんとも胡散臭い品だった。外観も、普通にそこら辺の薬局に売っているモノと変わりない。
だが、俺はそれに賭けてみることにした。無いよりはマシ。何かのきっかけになれば良い。
そして、俺は彼女を呼び出して告白することにした。喫茶店に呼び出すのは前日成功した。
一張羅に着替えて俺はリップクリームを唇に塗り、口を閉じた。クリームはポケットに入れる。
部屋を出てすぐ、大家さんが挨拶してきた。いつもは挨拶を返すが、会釈ですませる。
喫茶店までの途中、何度も口を開きそうになったが、その度に注意を思い出す。
そして、無事喫茶店に辿り着き、彼女の前に腰を下ろした。
口を開こうとして愕然とした。そして、ポケットの中を確認して、泣きたくなった。
ポケットの中に入っていたのは……俺のリップに塗られたのは「超強力スティック!!」と書かれた、スティックのりだった。
次の方「夜」「日本刀」「延髄チョップ」
487 :
菊龍:05/02/10 00:07:24
「夜」「日本刀」「延髄チョップ」
暗い廊下を感覚を研ぎ澄ませて彼は歩いていた。
この学校のどこかには今、得体の知れない何かがいるはずだ。
彼のガールフレンドを、どこかに消したしまった何かが。
息を殺し、足音を消し、風のように、相手に気付かれないように。
牛歩のように闇の中を歩く。
瞬間、彼の頬に液体が触れた。
「うわあああぁぁぁぁ!!」
叫び、錯乱しながら護身用に家の蔵から持ち出した日本刀を我武者羅に振り回す。
その時、素早く廊下の影から駆け寄る者がいた。
「うぐっ……!」
鈍器で殴るような音ともに彼は崩れ落ちる。
「……ふぃ〜。とりあえず俺様の延髄チョップで眠ってもらったぜ」
深夜なのにサングラスをかけた長身の男が闇の中に話しかける。
「乱暴なのは、よくないと思います。」
暗闇の中から現れたのは、小柄な女性だった。
「ま、厄介事はプロに任せておけってことだ」
男は廊下の奥に目をやると、その中にうっすらと蠢く物を見つけた。
「………来ます。援護します」
「いや、お前は下がってろ。そこの彼女を食われた少年とな」
小柄な女性は、こくりと無言で頷いた。
次!「マラカス」「触手」「二丁拳銃」
「マラカス」「触手」「二丁拳銃」
[告訴状]
被告人 「二丁拳銃のヤス」こと毒島ヤス男 39歳 住所不定
右の者、平成17年2月9日午前0時30分頃、東京都新宿区二丁目の路上で飲食店店員の男性に対し
「マラカス練習の音がうるさい」などと因縁をつけ殴打したうえ現金2万円を奪い、さらに股間に触手を伸ばし
散々弄んだあげくに「店で見るよりブスじゃねーか」などど暴言を吐いたものである。
次「趣味」「すごい!」「人間なんて」
「趣味」「すごい!」「人間なんて」
幾度、紙が投げ捨てられただろうか。
貴重な森林を削り、作られたこの紙は捨てられるためにあるのだろうか。
もしそうだとしたら、運命とは酷なものだ・・・
そんなどうでもいいような考えすら生まれてくる。
僕はものを書くのが好きだ。
しかし、今まで趣味の域を出ることはなかった。
ただ、物語を考え、書くことが好きだった。
今はただ、文芸部の奴らを見返すために文字を書いている。
それまであまり人に見せたことのなかった文章は、そいつらによって辱められた。
自分たちは何も作り出すこともできないのにも関わらず。
一通り、部員の作品は目を通させてもらった。
あまりにも酷く、お世辞でも面白いとはいえないようなシロモノだった。
そんな奴らに、確かに自分の作品も大したものではないかもしれないが、侮辱されたのだ。
なにが悪いとか、どうしたほうがいい等といったアドバイスなど与えるわけでもなく。
ただ駄目だ、と。
文章を書く。見返すために。
何か賞のひとつでも取ったならあいつらは「すごい!」と掌を返したようにバカみたく賞賛するだろう。
人間なんて、そんなものだ。
金に弱い。名誉に弱い。権力に弱い。そんな生き物だ。
文字を書く。ただひたすらに。
幾枚もの紙を犠牲にして。
アイデアを捻り出す。出来うる限り。
差し迫る締め切りと戦う。
動機は不純かもしれない。ただ、やる気を出させてくれたことだけは彼らに感謝しなければならないかもしれない。
今はただ、物語を綴るのみ。
負けるわけにはいかないから。
次は「ブレイクダンス」、「駅」、「自転車」でどうぞ〜。
彼の趣味は他人とは少し毛色の違ったものだった。
いわゆる魔術というものを研究する事。それが彼の唯一の趣味なのだ。
その原因は少年時代のある体験にまで遡る。
一緒に遊んでいた友達とも別れて、一人帰り道を歩いているとき、彼は殺人を目撃する。
逆光で影絵のように見えたそのシルエットは、モズの早贄を連想させる。
その犠牲者は巨大な爪で串刺しにされていたのだ。
大の大人を串刺しにして、なお余るほどの爪を持ったもの。
影は面倒そうに腕を振るってに、既に息の無い男を地面に叩きつける。
泣いて逃げるのが普通なのだろうが、そのときの彼はそれをしなかった。
「すごい……!」
替わりに出てきたのは感嘆の言葉。
「ほう、人間なんて皆同じ反応をするもだと思っていたがな」
影はそれだけ呟き、興味を失ったように彼から視線をはずした。
そして、黒い霧のようなものになって霧散していったのだ。
そのときから、彼は普通の生活を止めた。ただ、あの影が何者であるのか。
それに関連のありそうなことを調べる毎日が続くようになった。
そして今も、彼の研究は続いている。
# 次は489さんのお題でどうぞ
駅前の違法駐輪にはほんとうに辟易させられる。
その日も僕は駅から出ることができなくて困っていた。
車椅子のスロープを自転車が塞いでいて、通れないのだ。
夕陽をバックに立ちはだかる自転車はモンスターのように見えた。
でも、そこに勇者が現れた。
彼はにっこり笑って僕の肩をたたくと、踊り始めた。いわゆるブレイクダンスってやつだ。
彼はアクロバティックに手足を振り回しながら、モンスターに向かっていった。
モンスターは勇者には敵わない。
手足がヤツらに当たるとまるで紙のように吹き飛んでいく。
そのまま彼はモンスター退治を続けて、ついには一匹残らず倒してしまった。
彼はもう一度僕に向かって微笑むと、回転しながら薄墨色の空へ消えていった。
次は「いわし雲」「演劇」「トラック」
492 :
菊龍:05/02/11 01:55:38
「いわし雲」「演劇」「トラック」
今日は文化祭。
空にはいわし雲が広がり、その奥にある青空と太陽は僕達に声援を送ってくれているかのようにすがすがしかった。
午前中はあっと言う間に終わり、僕はこれからこの学園祭の名物のリレーに出る。
その名も「文化部対抗リレー」。
文化祭ゆえに、文化部という訳がわからない理由で僕達演劇部は走らされるのだ。
しかも、この文化部対抗リレーは各部独自のパフォーマンスによって観客を笑わせる事を競うのだが、その結果によって次の年の部費も決まってしまうというはちゃめちゃな物だった。
「よーい、どん!」
無闇に元気なチアガール声によっていっせいにスタートする文化部達。
僕達演劇部は演劇をしながらトラックを一周する。
「ロミオーーー!」
「ジュリエーーーーーット!」
ちなみに僕がロミオ役。ジュリエット役の女の子の前をひたすら走り続けるだけだ。
ここで発声することにより観客の笑いを誘う戦法だ。
ふと横を見るとパソコン部がすさまじいスピードで走っている。
光、ADSL、ISDNと背中に貼って、それぞれが別々のスピードで走っているのだ。
しかしその光の上をいくスピードがあった。
その背中には「無線」と書かれている。
一瞬目を疑ったが、よく見るとそれはアマチュア無線部だった。
「一般相対性理論」「釈尊」「ジル・ド・レ」
「先生!テーマが大きすぎて書けません!」
「喝!良く知らない事柄でも断片的な知識の寄せ集めで書くのがプロというものじゃ!」
「でも先生。お題に固有名詞は避けるというお約束は・・・」
「えーい、うるさい!ここまで確信犯的に出してくる以上492には何か狙いがあるのじゃ」ビシッ!バシッ!
「あ、痛い。何するんですか!やめてください」
「まだまだ〜次は三角定規の角攻撃はどうじゃ、おりゃ」
「イ、イタタ、先生、よだれ出てます。今の先生は釈尊よりジル・ド・レに近い気が…」
「やかましい!それを言うならきちんと一般相対性理論でワシの位置を説明してみろ!」
「あの、どうせ書けないならこんなレスしないほうが…」
「うむ…」
「そういうことで、お題は継続でお願いします」
「一般相対性理論」「釈尊」「ジル・ド・レ」
私には最早一刻の猶予もなかった。
いささかの余裕はあるものの、確実に限界は忍び寄ってくる。
普段ならばこんなことになるはずもなかった。
何故、今日に限ってどこも空いていないのか?
会社でも、駅でも、挙句の果てはコンビニでも無理だったのである。
これは誰かの陰謀なのか?
そう思わざるを得ないほどであった。
どこかで粘り強く待ち続ければこうはならなかっただろうか。
もう神も仏もなかった。釈尊なんて糞食らえだ。
少しでも時間の流れを止めたかった。
一般相対性理論によると、そうするには高速で移動しなければならない。
今の私は、光の速さすら越えたい気分だったが。
家まであと少し。
駅の近くに家を買わなかった自分を、この時ばかりは呪った。
家は、最後の望みであった。この時間であれば、恐らく大丈夫であろう。
ドアを開き、鍵をかける間もなく一目散に駆け込む。
そして、辿り着く寸前に愕然とした。
パジャマ姿の我が息子がまさに入ろうとするところを見てしまったからであった。
そう、トイレに。
それを止めることもできなかった。
無常にも「ガチャリ」と施錠の音が聞こえる。
ドアの前で立ちすくむ。
ただ断罪を待つ、ジル・ド・レのように―
次「引力」」「ウエハース」「エンジン」
「引力」「ウエハース」「エンジン」
「人生はウエハースの間に挟まれたクリームみたいなものね」
そう言って彼女は物憂げにアイスティーをかき回した。
都心のホテルのプールサイドには僕達の他に人影もなく、人工的な椰子の木が静かに揺れていた。
水面で反射した太陽の光が、彼女の横顔をキラキラと輝かせていて、それを僕は美しいと思った。
「子供の頃にはあんなに魅力的に思えたのに。慈しむように舐めている時間は、本当に幸せだったのに……」
彼女はその先何を言おうとしていたのだろう。あのとき上空を飛行機が横切らなければ、
ボーイング747のジェット・エンジンの音が彼女の口を塞がなければ、僕にも何か出来たのだろうか?
デッキチェアから立ちあがった彼女はそのままホテルの屋上へと向かい引力に身をゆだねた。
次「バレンタイン」「汚い」「計画」
ほんとはわかってる。
わかってるんだってば!!
準備はできてる、計画も順調。
まだまだつたない子供だけど、このくらい汚いことはできるの!!
野望は大きく、予算は小さく。
学校の帰りにコンビニに寄るのは禁止だけど、スーパーは誰もとがめないのよね。
あえて家とは反対方向の、でも友達の家の近くの行ったことのあるスーパーに寄る。
ぐるりとまわって、普通のようにバレンタインコーナーでチョコレートを購入!!
ジャージの入った鞄にビニール袋ごと詰め込んで、さぁ、決戦はおうち。
かぎを開けましょ、かぎを閉めましょ。
靴はいつもと同じ、放りだして。
そーっと、おとうさんの目覚まし時計の裏にかばんから出した一番かわいかったラッピングの箱をひとつ。
そして足音ひそめてまた出て行く。
お母さんは五時を過ぎなきゃ帰ってこない、お父さんはみんなが寝てから帰ってくる。
これできっと、来年には私には兄弟ができるはず!!
ちょっとお子様な感じで。
次「踊ろう」「都」「さぁ」
もうすぐ、この世界は終わる。
この一年で地球は突如姿を現した「蟲」によって脆くも瓦解した。
かつて世界の先端を走ってきたアメリカも、ヨーロッパももはや見る影はなくなっている。
恐らく、生存者はごくわずかだろう。
人間が蟲達に対抗する術は全くなかった。
核兵器ですら、何の役にも立たなかったのである。ただ被弾点の周辺に破滅をもたらしただけだ。
もし、蟲を駆除できたとしても汚染が酷くてどうしようもないだろう。
中国の状況から見て、数日もしない内に蟲達はこの島国に辿り着くだろう。
逃げ道は、無い。
そういえば先進国のお偉いさん方の中には宇宙に逃げた人もいるようだが、どうするのだろうか?
地球には戻れないし、火星も今だ人の住める環境ではない。
ただ、食料か酸素が切れるそのときまで彷徨い続けるのだろうか。
まぁ、どうでもいい話だが。
街では人それぞれ、最後の時を迎える準備をしている。
「さぁさぁ皆さんご一緒に」
僕は英雄でもないし、マンガの主人公みたいな凄い能力を持っているわけでもない。
「さぁさぁ皆さんご一緒に」
最後くらいは明るく死にたい。
「歌おう 踊ろう」
同じような考えを持つ人は少なくない。だから今日も街の一角でお祭騒ぎが行われる。
「歌え!踊れ!」
君と一緒に。皆と一緒に。
「遅かれ早かれ人は死ぬのだから」
リズムに合わせて人々が踊り、歌い、あるいは叫ぶ。
「楽しまなければ人生損だ!」
僕も踊る。君も歌う。皆が笑う。
僕たちの最後の都で。
「祭りも今日でお開きだ!」
遠くから破滅の鳴き声が聴こえる。
「さぁさぁ皆さんご一緒に さぁさぁ皆さんご一緒に……」
次「祈り」「暇つぶし」「生真面目」
俺の同級生に飛び抜けて生真面目な男がいるんだ。今日は彼のことについて話してみようか。
えーとそうだなあ、とりあえず彼のことはKと呼ぼうか。Kは自動車販売会社に勤めている。
だけど嘘をつけない性格のために成績は良くない。自分の扱っている自動車の欠点を洗いざらい客に喋ってしまうんだよ。ははは。
そりゃあ完璧に仕上がってる車はないさ。長所に客の目を向けていかないと売れないのにさ、このご時世。
でも彼は車が好きだからそんなことしてるんだろう。それはそれで満足してるんだろうさ。
そんな性格だから当然恋人なんかいなくて、休日は暇つぶしのため一人でドライブをして過ごしている。
外で遊ぶっていったってKは生真面目な男、遊ぶって事を知らない。ガイドブックを片手に神社に参りに出かけているんだ。
初めはKもKなりに仕事の事を悩んで祈願に出掛けているのかなと思ったけど違うんだよ。そんな願をかけに行っちゃあいない。
Kは恋人がほしい、彼女を助手席に乗せて車を走らせたい、そう境内の前で祈りを捧げていると俺の繰り返す詰問に辟易してとうとう明かしてくれた。
ははは、俺もしつこい男だ。やつにとって仕事は趣味だからどうでもよかったんだよ。
当然俺は美容院へいけ、ブティックで金を使え、合コンに顔を出してみろと誘ってやったけど全然だめ。Kはそれは私には向いてない、緊張して疲れてしまうと断るんだよ。ははは。
で、相変わらず神社に祈りに出かけてる。やれやれ一生恋人なんてできないだろうと俺はあきれていた。と、そしたら昨日のこと。Kが今付き合っている人がいると人を紹介してきた。
驚いて会ってみると綺麗な黒髪で肌が白く美人だった。祈りは通じるものなのか、とさらに驚愕していろいろ聞いてみたら納得したよ。彼女の職業は巫女だってさ。
つぎは「音楽」「豊か」「席替え」でよろしくね☆
放課後、僕は音楽部の部室へ行く。
もう冬が近い、授業は終わり、既に西の空は茜色に染まリ始めていた。
渡り廊下を歩くと、練習室からバイオリンの音が聞こえてきた。
防音設備が中途半端なため、少しばかり音が漏れるのだ。
だれかな、と思いながら歩みを進める。
音は次第にはっきり聞こえるようになり、僕はその音色に惹きこまれていった。
豊かな表現だな…。ふと、そう思う。
美しい、澄み切った音色、これは…。
一抹の寂しさを感じ、目の下におかしな感覚を覚える。拭ってみると、何時の間にか涙を流していた。
涙を拭って、練習室の小さな覗き窓を見る。
そこでバイオリンを弾いていたのは、自分のクラスの女子だった。
いつも教室の隅でぼーっとしている子だ。別段気になっていた子でもなかった。
世の中、解らんものだな。気にも留めていなかった女の子が、僕に涙を流させる。
「なぁ、俺ピアノやってるんだ。今度一緒に演らないか?」
久しぶりに音楽に涙を流した次の日、奇跡的に席変えで隣同士になった彼女に、思い切って言ってみた。
その奇跡が、何か意味のあるように思えたからだ。
「メンデルスゾーンは知ってるかしら、ヴァイオリンとピアノのための協奏曲」
「知らないな、でも、練習するよ」
「じゃあ、明日楽譜を持ってくるわ」
と、彼女は微笑みながら言った。
↓「アルカイダ」「H&K」「アメリカ」
俺は軍ヲタが嫌いだ。ファミレスの奥のボックスシートでメガネをかけた
デブの3人組が大声で騒いでいる。聞きたくもないが甲高い大声で叫んで
いるので嫌でも耳に入ってくる。その中の一人がアメリカ陸軍払い下げと
思しき緑色の大きなバッグから、アルカイダの工作員か武器商人のごとく
テーブルの上にピストルを並べ始めた。その異様さに店内の雰囲気が妙な
感じになってきた。「S&W」、「H&K」荷造り用のタグを括り付けら
れた武器の山に恐怖を感じた俺は店を出た。
次「電話」「通報」「逮捕」
電話 通報 逮捕
年代物の調度品が並べられたホテルの一室。
そこに茫然と立ち尽くす男が一人。
足元には豚のように太った男が二人、血だまりの中、
静かに横たわっている。
男にとっては幾度となく見てきた光景だったが、慣れるということはなかった。
ふと窓際に置かれた電話のベルが鳴る。
男は歩み寄り、黒革の手袋で包まれた手で受話器を取った。
「ご苦労。これで例の法案は廃案に持ち込めるだろう。
同志よ、革命の日は近い。さあ、通報される前にその場を去りたまえ」
フィルターのかかったような、くぐもった声が告げる。
だが男は何も答えない。
「どうした、同志よ。何をしている。君が逮捕されるようなことがあれば、
我々は多大な労力を払って、君を始末せねばならなくなる。それは避けたい」
聞こえる声は、明らかに焦りを含んでいる。
男はさらに間を置いてから、静かに語りだした。
「……違う。こんなことで俺の望む国は創れはしない。
屍の上に築く世界は、その代償に見合ったものでなければならないはずだ。
お前達に俺を導くことはできない。俺の命は己の信念のみに捧げる」
「我々に牙を向けるということか? 君も理解しているはずだ。
どれほど力を持った個人とて、権力の前では無力に等しいと……」
そこまで聞いて、耳障りだと言わんばかりに男は荒く受話器を置いた。
部屋を去る男。その顔は強固な意志と覚悟を湛えていた。
しかし数時間後、その顔は血の気の失せた青白い死人のものになっていた。
巨大な力に抗い、理想を求める者の末路とは、いつの時代も同じなのだろう。
「唇」「微かな震え」「忘れない」でどうぞ
電話口から聞こえる声は、年の染みた男の声だった。
男は冷静に質問を投げかける。
名前は何か。
住所はどこか。
それから……あの人の事について少々。
僕は、自身が恐ろしくなる程単調に答えていた。
手が不思議と震える。頭から、それこそ比喩抜きで血の気が引いた様な感覚でいた。
やがて電話は切れる。男は最後まで冷静だった。
受話器を置いて一息つく。しかし、安堵許されない。
これから家にはお客が来るのだから、その支度をしなければならない。
「さて…」
ゆっくりと踵を返す。部屋には鉄分を含んだ匂いが立ち込める。
「ねぇ、もうすぐここにお客さんが来るんだ。最初になんて言えば良いと思う?」
彼女の頬に触れる。愛しい人。とても奇麗な人。
「本当に奇麗だ。僕の贈った真っ赤なドレスが、良く似合う」
彼女の髪を撫でる。やわらかな、茶色。
でも、いつの間にメッシュを入れたの?
いいよ。似合うよ。今度教えてね、鮮やかに赤を出す方法を。
「僕も、お揃いの赤い服を着たいな」
そう言って、自らの腹部に、喉に、刃物の後を付けた。
これはほんの少しの賭け。
あの人達が持ってくる逮捕状を受け取れば、僕の勝ち。
いらっしゃい。
通報したのはこの僕です。
次「ハサミ」「カバン」「ハバネロ」よろしくお願いします。
ごめん。推敲してたら被った。
私のは忘れて下さい。
505 :
菊龍:05/02/14 19:08:53
「唇」「微かな震え」「忘れない」
彼女が振り返る。
「じゃあ、ここでお別れ」
彼女はいつあふれ出してもおかしくないほどの涙を溜めて言った。
「ほら、止まってないではやく行ってよ」
彼女からは今にも崩れ落ちてしまいそうな危うさを感じる。
その危うさは、彼女に残された時間が長くはないということを嫌でも感じさせた。
「はやく行ってってばぁっ!」
彼女は眼を合わそうとしない。
彼女の肩へ手を回し、そのまま抱きしめる。
「………………。」
無言で強く抱きしめ、彼女の唇にそっと口付をした。
口を離すと、微かな震えを抱きながらも彼女はやっとこちらを見てくれた。
「………忘れない」
例え彼女とはもう二度と会えなくても。
例え死を暗示する残酷な言い方でも。
「お前がいなくなっても、絶対に忘れない」
そう言って、強く、強く。
彼女が潰れてしまうんじゃないかと思う程強く。
その華奢な体を抱きしめた。
次は「ハサミ」「カバン」「ハバネロ」〜
「妻梨……それ、君の名前?」
「変な名前だといいたいんだろ?」
香華は頷いた。
「召人て名前も変だよね」
召人は自信のなさそうな声で、香華に訊いた。
「うん。変な名前だよ」
美しい名前を持った香華が笑った。
「オマンコ」「あ、ずっぽり」「ぐっちょりたっぷりと」
506?
「ハサミ」「カバン」「ハバネロ」
世界一辛い唐辛子はハバネロ種だそうだが、
辛いといえば僕の彼女も相当辛い。
今日はバレンタインデー。
仕事は定時で切り上げて、彼女は僕のところへ来た。
「はい」と言って、カバンの中から取り出したのは発砲スチロールの大きな箱。
保冷剤と一緒に入っていたのはチョコレート、ではなくて蟹だった。
「男がぐちゃぐちゃ甘いものを食べてると、性格まで甘くなる!」
そう言う彼女が用意してくれたのは蟹チゲだった。
地獄のように赤いスープの中でぐつぐつと煮えている蟹。
日頃から色々と手厳しい彼女は、今日も「甘い甘い。それじゃ世間は認めない」
と僕にたくさんのダメ出しをする。
辛い料理と辛いご意見。
それでも「ほら、蟹のハサミってハートみたい!」なんてはしゃぐ彼女を見ると
(これはこれで幸せかもしれないな)と思う。
本当は甘いもの大好きなんだがな…
「催眠術」「再生紙」「サイボーグ」
催眠術 再生紙 サイボーグ
目やにも残る目で食べられそうなものを台所から発掘し、反対側の座布団をどけてこたつにもぐりこみ、邪魔なものをどけてシーチキンの缶を開ける。
いつ買ったか覚えていない食パンにシーチキンをはさめ、マヨネーズを波状にししょうゆを少々垂らす。
二つにたたむと、シーチキンが少しあふれたがこたつ布団で手をふきつつも食べる。
「買い物でも、行こうか」
「いいよ、どこいこっか」
「んー……あれ、ユニクロあるとこ」
コンビニ以外の名前が相方から出たことに驚いたが、それは食パンに隠した。
「ん、あそこに雑貨屋あったじゃん。アロマオイルでも買おうかと」
驚いた顔で相方の顔を見返す。
「眠れなくてさぁ。肌もぼろぼろ、こんなんじゃ、バイトの面接にも行けないよ」
お互い交互にシャワーを浴び身支度をし、放置していたゴミたちをそれぞれまとめ
途中のゴミ捨て場に行く。
「さすがにあのババァも昼間はいないか。ゴミ場取締りサイボーグめ」
両手に下げたゴミ袋をどすっと放り投げる。
「ロボコップとババアボーグ、どっちがいい?」
「シュワちゃん」
笑いながら、煙草に火をつけるもののフィルター側に火をつけてしまい、舌打ちをしながら新しいものに火をつける。
「つか、分別してるなら、こんなにゴミ溜めないっつの」
「でも、あのババァとかにはさ、再生紙にできるだけゴミのほうがうちらよかいいんだろうね」
「いや、ゴミは家賃払わないぞ」
「ん、だねぇ」
きっと、お互いを必要とする人はいないんだろう。
再生されることは叶わない。けれど、催眠術を使うサイボーグが雑貨屋で買えるなら一緒に行くくらい、その程度には
互いを必要としてるんだ。
家賃を払ったり、一緒に買い物したり、誰かに少しでも関わっている限り僕らは生きていく。
必ずいてほしい、なんて望まないから。それでも、生きていく。
「手を伸ばして」「差し込んだ夜」「探してよ」
ねぇ、探してよ。私はいつも、君のそばにいるから。
急速に、意識が夢を飲み込んでいく。
瞼の上に手を当て、現実に戻った事を確認する。
なんだ、あの夢は。もう十年も前の事なのに、顔まではっきりしてた。
十年前、病気で死んだ美咲だ。
そばにいるって、なんだよ。お前から居なくなったんだろ?
何処を探せばいい。
探せば蘇るのか、お前は…。
気づけば、手には濡れた感触があった。
何分か、何十分か。どれだけの間、目の上に手を当てて、間から暗闇を見ていたか解らない。
だけど、脳が妙に覚醒してしまって、まったく眠れそうにない事は解った。
ふと、彼女のことを思う。
―そういえば、あいつは妙に夜空が好きだった。
寝袋を持ってバスに乗り、山奥まで行って、望遠鏡で一緒に空を見た。
そして、あいつは決まって、宇宙の広大さと星空の美しさについて語るのだった。
ああ、そうか。
俺は手を伸ばして、ベッドの横のカーテンを捲った。
隙間から、新月の夜の黒が差し込む。
何故か窓は開いていて、空は満天の星空だった。
↓「赤玉」「繁華街」「夜」
冬の金曜日の会社帰りに繁華街をふらふらと歩いていた。
家に帰っても誰も待つわけでもないし一杯飲んで帰ろうと思った。
赤い提灯のない横丁にあるいつもの居酒屋に入る。
「いらっしゃい」とおやじさんがいつもと変わらぬ快活な調子で叫ぶ。
「焼酎のお湯割りちょうだい」と言ってカウンターに座った。
おやじさんはお湯割りを出しながら、
「今日は珍しい赤玉が手に入ったんだ」と言ってくしゃっと笑った。
赤玉とは卵のことだろうかと思ったけれども、
別に珍しいということもないので、
「何だい。赤玉って?」と聞いた。
親父さんは「赤玉は赤玉だよ」と言って、鋭い目を光らせて私の顔を覗き込んだ。
「知ってるんだろう?」
「いや、知らないよ」と言って焼酎を飲む。
「またまた、今更照れなくても」とまたわからないことを言うので、
「照れているわけじゃないんだよ。本当に知らないんだ」と言った。
「あんた、どうしちまったんだい?」とおやじさんは目を見開いている。
「あんた、あんたじゃないだろ」
おやじさんは恐ろしいといった様子で後ずさった。
「何言ってるんだよ。おれはおれじゃないか」と言ったとき、
自分の声が違っていて驚いた。
そうして自分の着ている服も趣味と合わないのに気がついた。
「どうしたんだおれは」とトイレの鏡を覗いてみると、
まったく知らない男が映っていた。
お代忘れ
「犬」「金縛り」「チョコレート」
「犬」「金縛り」「チョコレート」
嫌なものを見てしまった。
二階のベランダで布団を干していると、隣家の犬が庭で震えているのに気がついた。
犬、名前は幸太郎というのだが、それは普段から悲惨な生活を強いられていた。
飼い主は近所でも不気味がられている変人で、
発作的に棒で殴ったり、餌を与えなかったりの虐待行為を繰返していたが
ついには、鳴き声がうるさい、と先日から「電気ショック首輪」を取り付けていた。
以来幸太郎は、吼えるたびにビリビリと流れる電流ですっかり萎縮して、生気なく横になっていることが多かった。
今日目にしたのは、その幸太郎に向かって隣人が小石を投げている所だったのだ。
哀れな犬は鎖につながれているため逃げるに逃げられず、反射的に吼えようとするとビリビリ電気がくるので
尻尾を丸めて小さくうずくまる他ないようだった。
私はおもわず目をそむけた。そして何かできることはないだろうかと考えた。
少し落ち着いてからそっと様子を見に行くと、幸太郎は金縛りにでもあっているかのように小刻みに震えていた。
近づいた私を見上げる目はとても哀しい色をしていた。
私は決心し、家に戻ると一日遅れのバレンタインチョケレートを作りはじめた。
農薬をたっぷり入れたチョコレートを。
次「遺言」「キヤッチボール」「記憶」
学校から帰る途中、挙動不審な男を見た。
男は背中を丸めるようにしながら、一軒の家の門の中をちらちらと覗いている。
この辺り一帯は閑静な住宅街で、人通りもあまりない。ひょっとしたら空き巣かもしれない。
危険かもしれないと思いつつも、勇気を出して地域の防犯に協力することにした。
「おじさん、なにやってるんですか?」
弾かれたように男が振り向く。おじさんなんて呼んでしまったが、思ったより若い。20代半ばくらいだろうか。
「な、な、な、なんだい、君は。何か、よ、用?」
かなり狼狽しているらしい。まともな言葉になっていない。
ゆっくりと、何をやっていたのかともう一度たずねる。
「ちょ、チョコが犬に取られてしまったんだ。でも僕は犬が苦手で…」
少しは落ち着いてきたようだ。要するに犬からチョコを取り戻せなくて困っていたらしい。
付近住民がパトカーを呼ぶ前に、俺はチョコを取ってやることにした。
幸いにも犬はおとなしい性格で、俺が近づくと裏庭のほうへ去っていってしまった。
ところが、男の言っていたチョコなどどこにもない。困っていると、男が素っ頓狂な声を上げて走ってきた。
「チョコだ、チョコだ! 俺のチョコだ!」
そういいながら、男はさっきの犬がした糞に顔を突っ込んでニコニコ笑っている。
ああ、なるほど。こいつはきっとバレンタインデーの犠牲者なんだ。きっと辛い思いをたくさんしてきたんだ。
そして挙句の果てには精神を病んでしまったのか。なんてかわいそうなヤツなんだ……
そう思いながらも、家の主人が帰ってきてパトカーを呼ぶまで、僕は金縛りにかかったように立ちすくむことしかできなかった。
次のお題はテンプレ通り
>>512さんで
あなたはあの日と同じ服を着て、同じ顔で私を待っていた。
人気のない公園の、秋晴れた空を行過ぎる風は涼しくて、それでもあなたの少し厚手のジャンパーは少し季節外れだ。
白い額を打つ深い茶の髪が、首筋に一筋張り付いている。大きな鏡のように美しい目が小さく笑う。
それは永遠に忘れることさえないと思った私たちの、最期の記憶そのままだった。
「今日はいい日だねぇ」
小さく言葉を投げられる。女性にしてはいつも低めだな、なんて考えていた柔らかな声だ。
言葉のキャッチボールを上手く投げ返せずにただ目を伏せた。俯きそうになるのをぐっと堪えた。
多分、泣くのを堪えるようなひどい顔をしているだろう。
それでも、あなたはにこにこと笑っている。あのやさしい表情、世界で一番好きだった姉の姿。
できることならこの美しい時間のまま暮らしたかった。生きたかった。
それでも私は涙でぼやけ始める視界を遮るための赤いボタンを力いっぱい押した。
世界が翻る。六畳一間。見守る老いさらばえた夫。私。
遺言はもうなかった。それを叶えてくれた姉ではない人物に、ありがとうを言う力さえも、もう。
私は記憶再現機の赤いボタンに触れながら、目を閉じたまま笑う。
さよならさえも言わずに笑う。
次のお題は「操」「300円」「工事中」でお願いします。
朝、学校に行こうとしたらいつも使っている道が工事中のため通行禁止に
なっていた。仕様がないので、迂回路となるガードレール下を通ることにした。
薄暗いし人通りも余りないので正直そこは通りたくないのだが仕方ない。
やはり、人は少ない件のガードレール下。
私は自然と足早に歩いていた。
「そこのあなた!そうボブカットの眼鏡かけたそこの君!」
すると、何やら妖しげな辻占いに声をかけられた。ておうか名指しされた。
「すいません、急いでますので」
無視すればいのに、私は丁寧に詫びを入れて歩き去ろうとした。
すると、その辻占いの人――怪しさ極まりない紫色のフードを目深に被って
はいるがまだ若い女性のようだ。は大声で
「貴女!300円で操失うことになるわよ!分かった!?」
などと大声を張り上げた。うわー周りの人こっち見てるよ恥ずかしい!
私は恥ずかしさの余り駆け足で学校へと向かうことになった。
余計、恥ずかしい行為だというのは分かっているが、こればかりは自分で
もどうしようもない性質なのだ。
昼休みになって、私は財布を忘れてたことに気が付いた。
その事を仲の良い友達に話したら、彼女は満面の笑みで
「いいよ。いいよ。内藤ちゃんは良い子だからねぇ。今日は
あたしがおごっちゃる!」
と気前の良いことを言ってくれた。それで、私が喜んでいると
「た・だ・し・昼食は私と二人っきりで屋上で摂ること〜♪」
と、条件を付けてきたが私は気にしないことにした。
300円でサンドイッチと飲み物を買ってもらった私は・・・・・・
誰もいない屋上で友達の突然の愛の告白と共に・・・・・・
操奪われました・・・・・・私も彼女もことが好きだったから
別にいんだけど、私の操は300円かと思うと・・・悲しくなりました。
書き忘れ。
次のお題「猫」、「百合」、「十字架」
「猫」「百合」「十字架」
喉の奥から絞り出したような声は紛れもなく野良の寅吉のものだった。
満天の夜空に響く猫のだみ声ほど哀れなものはない。軒連なる風景が、廃墟とまでは
いかなくとも家人のいない廃屋といったような、うら寂しさを見せるのは気のせいだろうか。
先の一声で、そんな他愛ないことを考えたせいか気持ち緊張が和らいだようだ。
君に出会ったのはいつだったか。何となく草木萌える春を思わせるのは君の影響かもしれない。
容姿は言わずもがな、その声に俺は幾度となく骨を抜かれたことか。色町のメス猫連中の嬌声に
なびきもしなかった昔の俺を思うと可笑しくてたまらなかった。
愛の告白と洒落込もうか。道すがら切り取った一輪の百合の花をみやげに、君の屋敷に行くところだ。
一歩踏み出すごとに、また不安が頭をもたげるのは仕方がないことなのだろう。
あのチョーカーに光る銀の十字架を見るたびに、言い知れぬ劣等感を感じてしまう。
自分で言うのは気が滅入るが、ごくありふれた風体の俺が惚れるのは筋違いじゃないか。
振られた惨めな俺が、来た道を引き返す姿が薄ぼんやりと浮かんでは消えた。
いつもと変わらぬ魅惑の君は庭の片隅で涼んでいた。その流れる腰のラインを放っておく男はいない
ことは分かっていたつもりだった。背後の小山がのそっと動くと、寅吉が不細工な声をひとつあげた。
美女と野獣。惚けた頭でつまらないことをポッと思い浮かべて、野獣以下なのか俺は、と欝になった。
次は「じり貧」「天然色」「立役者」で〜。
「じり貧」「天然色」「立役者」
彼女の燃えかすが風に吹かれて舞っている。
朝から降り始めた大粒の雪が、私にはそう感じられた。
ハルミちゃんの墓石の前には、昨日の命日に小学校のお友達が供えてくれた花。
彼女が好きだったオレンジ色のガーベラ。
彼女との思い出が脳裏によみがえる。
母親のような優しさで私を守ろうとするハルミちゃん。まだ小さな子供なのに…
天然色の脳味噌で、白い歯を見せてニカッっと笑うハルミちゃん。
どこへ行くのにもついて行きたがる、ちょっとわからずやのハルミちゃん。
あの日、私を追いかけて道路へ飛び出してしまったハルミちゃん。
大人の私がもっと気を付けていてあげればよかったね。
急ブレーキの音が聞こえたとき、思わず立ちすくんでしまって助けに行けなかったんだ。
ようやく気を奮い立たせて君の近くに行ったとき、君はいつもの無邪気な笑顔で何か言おうとしていた。
ポンコツで、気が優しくて、オツムが少し足りないハルミちゃん。
正直、君の将来を考えるとき、私の心は路頭に迷っていた。
やっと生命保険が下りて、じり貧だったウチの経済状況は一転したよ。
パチンコばっかりやっている、このロクでもない父親を、君は救済する立役者になった。
その事を心に刻み付けて、君の分まで生きてゆくよ。
「雑木林」「秘密基地」「全力疾走」