「タイコさん、一緒になろう」
「えっ、でも私、ヒバオさんのことよく知らないし……」
「僕もタイコさんのことよく知らないよ」
「えっ、私のことが好きで言ったんじゃないの?」
「好き嫌いの問題じゃないよ。それに、僕は頑張るよ。君の重量に耐えようと思ってるよ」
「何よそれ。失礼ね! 女の子に体重の話をしちゃいけないのよ。それに、わたしそんなに
重くないわ」
「じゃあ乗ってみなよ」
「その手には乗らないわよ。ヒバオになんか乗ってやるもんですか」
「その手って何だよ。俺は早くことを済ませようとしてだなあ……」
「なによ。ヒバオなんて腐葉土になればいいんだわ」
「なんだと? ぐちゃぐちゃ言ってんじゃねえよ」
「ほんとーに、ぐちゃぐちゃ言ってんじゃないよっ!」
突然、会話をしている二人の後ろから大声がした。二人はぎょっとして声の方を振り返っ
た。白衣に衛生帽、マスク、手袋をつけたおばさんが、目を三角にしているのを二人は見た。
「年末に間に合わせなきゃいけないのに、そんな調子じゃ、松の内にすら間に合わないよ」
ステンレスの作業台を背景に、おばさんは言った。かなり怒っているようだった。年末の締
め切りを目前に控え、今、この工場は昼食もゆっくり取れないほどの忙しさだった。
二人は、視線を交わした。共に、もう少し遊びたい気分だった。しかし、おばさんの怒り
が怖いのも共通だった。だから、しぶしぶ同時に、おばさんに了承の返事を返した。そして、
祝いものである焼鯛の箱詰め作業に戻った。
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次は「ハイビスカス」「黒煙」「青空」で。