幼少の頃住んでいた、今でも鮮明に思い出せるあの町に行ってみた。しかし、十数年ぶりに
訪れた懐かしき町は、思い出のそれとは似ても似つかなかった。僕は、前住んでいた家の近く
にあった定食屋に行った。しかし、時の流れは、味はそこそこだけれど人当たりのいいおじさん
おばさんが2人で切り盛りしていた定食屋を、牛丼チェーン店に変えていた。
牛丼並盛を胃に押し入れた僕は、子供の頃幾度と無く通った通学路を辿る。しかし、案の定
景観を留めていない今の町では、正確無比に道を辿ることは限りなく不可能に思われ、今日は
諦めて帰ろうか、と思ったりもした。だが、今日諦めたら、次まとまった休みが取れるのはいつだ
? そして、休みが取れたとして何も用がないことなどそうあるのか? 僕には家庭もあるし、会
社のポスト上、休日も泣く泣く仕事に捧げねばならないことだってあるのだ。僕はしばらく、通学路
の看板の前で立ち止まって葛藤していた。
何の気なしに上を眺めてみた。煮詰まると人は空を見たくなる。しかし、空は見えなかった。なぜ
なら、僕の前方には大規模な遊園地があり、頭上遥か高くを、ジェットコースターのレーンが覆っ
てしまっていたからだ。よくよく見ると、壁に頭上注意!≠ニ書かれた紙が貼り付けられてあった。
僕は内心毒づいたが、その時唐突に思った。諸行無常――人も、社会も、町も、定食屋も、皆平等
に変わりゆく。その変化には、皆色々な理由をつけて対応しているのだ。僕が今日ここに来た訳が
分かったのだ。もう、ここに来ることは無いだろう。
久々書いたが、オチがきまんねぇ……前はオチだけは決めてたもんだが。
「神楽」「笹」「菓子」