じめじめとした霧と薄暗い階段の中、田中は足下を確かめながら上へ上へと上がってい
く。6階…7階…8階…9階…10階の非常階段まで上がりきったところで、さすがに疲
れて踊り場で立ち止まる。
「…ふぅ。ったく…昔は何でもなかったのになぁ…ん?」
非常扉のなくなった10階の億で何かが横切った気がした。
田中は懐からスタンガンを取り出す。
呼吸が音を立てないように静かに吸い込む。
背を低くしながら、霧が立ちこめる部屋にじっくりと足を進める。
近くで
音が、した。
何か水を流すような、そんなかすかな音。
(こちらに…気づいていないのか…)
そんなことを思い、スタンガンを握りなおした瞬間、何か柔らかい大きなモノと冷たい
水がぶつかる。
「ひゃぁっ…ふぁっ」
大きなモノは嬌声をあげて田中の体ごと地面に倒れる。
田中が次に認識できたのは冷たい水が部屋中に飛び散っているのと、その水にかかりな
がら嬌声をあげ続ける10代ぐらいの裸体の少女だった。
「ん…はぁ…水いやぁ…んぁっ…」
長ったらしい黒髪が青白い体を覆いながらよがり狂う。水が体に触れるたびに嬌声をあ
げる。片手には白いホースを握り細かく震えを刻む。
「お…おいっ!」
「ぁん…」
少女の手からホースを取り上げ、それが火災非常用のホースであることに気がつくと、
それを取り上げる。
少女の目がこちらを恨めしげにのぞき込んでいることに…田中が気がつくのはそのすぐ
後だった。
こちらをにらむ裸体の少女とそれにあっけを取られる中年男性。
新聞記者がみれば「レイプ事件に出会ってしまった中年男性!」いや、戦場報道マンが
みれば「戦場の悲劇」とでもテロップを出すだろうか。
「…後ろ向いててよ。変態」
裸体の少女から吐かれる台詞は恥じらいといよりは相手をなじる台詞だった。田中は何
も言うことができずに相手が言われるままに後ろを振り向く。
「向いていいよ。オッサン」
田中が振り向くと近くの高校の制服を着た少し鼻が大きな、きれいというよりは元気い
っぱいという言葉が合いそうな少女が相変わらずこちらをにらむ。
「…で、オッサン。こんなとこでなにしてんの?」
「…それは俺がもっとも聞きたいことなんだけどな。君はこそこんな廃ビルで何をやっ
ているんだか。オナニーでもしたいのならもっとまともな方法があるんじゃないのか
と」
「う、うるさいっ。どうだっていいでしょ。っていうより、そっちの方が変じゃない」
「俺は人捜しだからね。別にいいのさ。」
「人捜しぃ? へーそう。あんた探偵でしょ、人のケツ追い回して最低なヤツ! そう
やっていろいろ探し回るけちくさい犬みたいなやつね」
「どうも、あながち間違っていない、いいご感想で。別に君みたいな弱っちい女の子に
何言われてもなんだかかわいい言葉にしか聞こえないね。いいか、くそガキ。ここで君
が趣味で何しようが勝手だが、この霧の冷たい空気の中で水を浴びているなんて誰が考
えたって普通の事じゃない。それを助けてやったというのに何一言感謝なしでそんなこ
と言われる。君みたいな子が廃ビルで死んでいるってのはいっぱいあるんだ。それがど
ういう事か分かるだろ? さっさと帰れ」
「……別に霧なんか怖くないし、オッサン…」
田中の目の前の少女の瞳孔が深紅に染まる。不意に目の前に小さな炎が揺らぐ。燃える
ものが何もないはずなのに。
期待上げ
「…こんな事もできるんだよ。炎で人を焼くことだってできるんだ…」
「…パ…パイロキネシス…君は…」
「だから、いっぺん死んでおく? この世の中、オッサンみたいなヤツなんて焼き払え
るんだから」
田中は手に握ったスタンガンをちらりと見つめた。焼ける前に一発食らわせれば大丈夫
なような気がするが…もし、溶岩と変わらない熱量を自分が食らわされてしまえば…それ
に、この後、先にもこんな人間に追われてしまったら…。少女は悠然と構えている。それ
が不気味だ。なんとか…しなくては。
「私の名前は…田中 志朗。君の言うように探偵だ。ここにある子を捜しに来ただけだ。
焼き払われてしまうと困るんだけどね」
「へー…どうせろくな事じゃないんでしょ? その子の名前は!?」
「小宮薫」
少女がこちらをにらむ。
「その名前は、私の名前だよっ!」
田中の眼前に赤が爆発する。猛烈な熱を感じた後…視界がブラックダウンした。
ワンボックスカーの後部座席で痴呆のようによだれを垂らしながらうつろな目で座る末
永 今日子がいた。運転席と助手席には黒服の男達が座り、無言で走行を続ける。
運転席の男が沈黙に耐えかねたのか話を始める。
「大丈夫なのか…あの女。薬で頭まで逝っちまったんじゃないのか?」
「しらねえよ…俺たちは指定された薬を打っただけだぜ。別に殺すなとも言われてない
しいいんじゃねえのか?」
「この女なんなんだ。どう見ても普通の女だぜ」
「…探偵総合情報エージェンスの依頼だからな。きっと金持ちのご令嬢なんじゃないの
か? 家出しているとかな」
「そんなもんかな…」
末永 今日子は全ての状況が見え、聞こえていた。だが、考えが全然まとまらない、体
に力が入らない。
車は高速道路に乗りどこかへ行こうとしている。どこか遠くで、パトカーのサイレンの
音が聞こえる。黒服の男達は少し身をすくませた。
「さっきの場所の方へ行くぞ…だれか通報したか」
「あぁ…そりゃ普通するだろうな…」
「しかし…今日は霧が濃いな」
「そうか? いつものことだと思うんだが」
ワンボックスカーは走り続ける。
いくつかのサービスエリアを抜ける。
運転席の男が、携帯を取り出す。
「あぁ…俺だ。女は捕まえたぞ。…あ? あの薬大丈夫なのか? 後部座席でよだれ垂
らして転がってるぞ。あぁ、次のサービスエリアで受け渡すよ」
「…なあ、霧が濃くなってきていないか?」
「またかよ。山に近づいているんだから当たり前だろ」
「そうか…」
霧が車の窓を真っ白に埋め尽くす。濃すぎて前方が見えない。
「う、うわぁっ!」
「なっ」
「な、なんだよこれっ! おいっ。ハンドルが…ハンドルがきかねえぞ」
車が…横転する。
男達が、天井に飛ぶ…いや天井に落ちる…そして、左右の窓のぶちあたる…。血が社内
を飛び回る。血が…ぐるぐると車内を回り…左の窓に落ちる。男達の首も左に傾ぐ…そ
して動かなくなる…。そして…霧が…車内を…汚染し始める…。男達は…霧にまかれ…
まるで補食されるかのように血しぶきを巻き上げ…顔の皮が破れ…筋肉がそぎ落とされ
…骨が露出し…消えていく…。
「ぃ ゃ ぁ ぁ ぁ っ !」
末永 今日子には目の前の景色が何かを思い起こさずにに入られず、それでありながら
思考がバラバラに吹っ飛んでいく。思い出されることは…両親の死体と………。
白衣の…。
…。
――――それは人が懺悔したかったことに違いない――――
"おはよう。今日の気分はどうかな"
目を開くとそこは白い部屋。白一色だけで埋め尽くされている。
声をかけてくれた人の姿は見えない。
眠っていたことに気がついて立ち上がろうとする。さらさら…と自分の髪の毛が顔にか
かって、手で払いのける…その手は幼い女の子の手。
"うん。だいじょうぶ"
"それはよかった。じゃあ今日もやってもらってよいかな"
"はい。だいじょうぶです"
ガスの抜けるような音がして、白い壁にぽっかりと黒い穴が開く。
女の子は黙って、その黒い穴に歩んでいく。
黒い穴の中には七色に光る光が明滅しながら、仄明るく周りを照らす。突然、明かりが
赤暗い色に切り替わり、無機質な声が聞こえた。
"Alert Code Red. Alert Code Red.北西部実験区域H-53より出火あり。区域の閉鎖を行
います。閉鎖を行います…閉鎖を…閉鎖…閉…へ…"
女の子の目の前に誰かが現れる…同じぐらいの背の…。
――――だからこそ、人は嘆くのだ…
空に向かい、己の所行を恨み、神を乞い、救世主を望む。
それが後の世に悪行と呼ばれようとも…そのときは、己の思う善き事だったのだ。
いい感じに地下すれ…いや…オナニーすれになってきていて良い感じです…。ようやく調子を取り戻せそうなので年明けから少しペースアップできそうです。
…ちなみに私は1さんじゃありませんよ(藁
原田重之が目を覚ますと、ベットに眠っていた。
「…気がつきましたか。原田重之さん」
「誰…だ」
原田の眼前には公僕という印象がよくあいそうな痩せ気味の中年男性が座っている。
「公安…といっておけばよいかな。三上利明という。表向きには公開されていない課で
過去の隠蔽工作が必要な事業について対処を行っている」
「末永さん…は…」
「気にすることはない。…それより君に聞きたいことがある。今現在の末永今日子さん
について情報がほしい。君は彼女について何を知っている」
「な、にって…それより。いてっ」
「無理に動くな。肋骨にヒビ、内蔵に軽度の損傷がある」
三上がベットの脇にある水入れからコップに水を注ぎ原田に渡す。
「飲め。少しは気が晴れるだろ。私は君に質問しているのだ。彼女について何か知って
いるかね。」
「…いい人だよ」
「そんな曖昧な事じゃない…こう普段の言動でおかしなところはなかったかな」
「そんなこと言われても困るな。一体何が聞きたいんだよ。一体何がしたいんだよ。そ
もそも何を隠蔽しに…」
「隠蔽の言葉の範囲を知っているのなら。君はただ黙って答えるだけでいい…それとも
この隠蔽工作に君は参加するのかね。君には十分な参加資格がある…やっかいごとに参
加したくないのならば…黙って質問に答える方がいいと思うところだけれどね」
「ふざけるなよ。何の問いかけをしているつもりなんだ。知らない方がいいって遠回し
に言いたいのなら、俺を知らないだけだ!」
「…参加すると。参加したいと? 君は若いからいろいろなものを見れば助かると思っ
ているんじゃないのかな。そう言う若者がいるから何もわかってはいないんだと私は思
うんだがね。君は正直に私の質問に答えてーーー」
「うるさいっ。俺の質問に答えろ。一体何のことなんだっ。あんたのうっとうしい言葉
はもういいっ。何がおこっているんだよ。俺は傷だらけになって、殺人犯とかいって
い た末永さんはあの黒い…」
原田は救いを求めるように三上を見上げた。助かったのなら何か言ってくれるに違いな
いと思っていた。だが、その張り付いたような三上の薄笑いは微動だにしなかった。
「君は彼女を救いたいと思うのかね。彼女は大学図書館の司書で…君とは何の関係もな
いと思っているんじゃないのかね? …そうは思わないのかね?」
「…」
「そんな君がなぜ助けたいと思うのかな? バカなことをせずに私の質問に答えてくれ
れば…」
原田は体が痛むのを無視して三上につかみかかろうとする。だが、三上は体をほんの少
しずらすだけで原田の行動を避けた。原田はベットから転げ落ちる。原田を見下げるよう
にしながら三上は話す。
「…そんな無力な君は無駄だと思うがね」
「ば…ばかにすんなっ。ばかにするんっじゃねえっ。教えろ…おしえやがれ…おしえる
んだっ!」
原田の苦しげなうめきと叫びが部屋に響いた。三上はそれを見ながらいすに座り直す。
原田を助けるそぶりすらない。
「そうだね…おもしろい話をしようか。これをよくあるB級映画話ととるかどうかは君
次第として…霧を巡るそんな話だ。ある場所にある研究所があった。そしてその研究所
ではこの町…いや世界の気候をコントロールしようと研究を続けていた。
その第一段として町の霧を除去する事を目的とし、その計画の名前を双子の魔女団とい
った。…水を操りそれを何らかの形で消滅させる」
「…そんな事したらよけいに気候が悪くなるんじゃないのか」
「…さあね…ともかくその計画は失敗におわる。計画中のモノが暴走という最悪の形で
ね」
「…計画中のモノ?」
「詳細は明らかになっていない。推測はできるが私はあまり推測を好まないのでね。そ
してその計画の一担当者のひとりに君の祖父ー原田 伸行ーが参加している。」
「なんでだ。何でそんなモノに参加しているんだ」
「私は推測を好まないと言っただろう。この計画の全てを知っているわけではないしね。
ただ、この計画の技術部長だったそうだ。数少ない証言者の話ではただ椅子に座ってい
るだけの技術部長ではなくて、本物の技術力を持ち管理能力のある人物だったそうだ」
「…あんたは一体何をするんだ」
「最近、この双子の魔女団の参加者リストが漏れた。私は誰が一体何のためにこのリス
トを利用しているのかを探している。必要があれば対処をする」
「で、末永さんは何の関係があるんだよ」
「末永今日子は双子の魔女団の参加者だ。若干13歳のね」
118 :
名無し物書き@推敲中?:2005/03/28(月) 13:58:10
age
保守
120 :
名無し物書き@推敲中?:2005/08/07(日) 20:39:37
1ではない連続書き込み者です。
まだこのスレあったのですね…。ちょっと書いてみようかと思います。
「まったく…あんな炎で気を失ぅ? 本当に田中ちゃんって探偵やってるの?」
そんな声で田中 志郎は目を覚ます。どうやら十六ビルの中で気を失っていたらしい。
にやにやと笑っている小宮 薫が目の前にいる。
「…殺したのじゃなかったのか」
「そんなことはもうやってないよ。…あーったく、あの研究所の人かと思ったのにな
ぁ」
「…研究所ってなんのはなしだ?」
「ほら。田中ちゃんの身分書」
小宮 薫が身分書を投げる。
「で? 誰に頼まれたの? それをいってくれなきゃさぁ…」
「おいおい。そもそも、そっちが攻撃的だったからだろう? まったく。すこしはこっ
ちの…」
「はいはい。わかったから」
「…まったく。だから最近の若い…」
小宮薫が頬をふくらませて、田中志朗をにらみつける。
「漫才やりに来たのじゃないの! いいから!」
「仙田 宏隆教授。知ってるだろ? 君のお相手らしいからな」
「あ。なんだ。仙ちゃんからなんだ〜。ん? ふ〜ん」
小宮薫が上目づかいにこちらを見上げながら、モジモジと恥ずかしそうにつぶやく。
「…仙ちゃん。観客増や…すって…そういうことなんだ…」
「すまんが、何を思っているのかしらんが、仙田教授の趣味にはつきあえないとだけ言
っておくよ。1日はやいが…まぁいい。仙田教授のところへ行くかい?」
「うん…」
相変わらず恥ずかしそうにしている。
(…仙田教授…お願いだから、法に触れることはしないで欲しいんだが…片棒次がされ
るこっちの身にもなってくれ…)
田中志朗が盛大にため息をつくと十三ビルを出ようと降りていく。その後ろを恥ずかし
げについていく、小宮薫にさらを見て、ため息をついた。
バラエティ番組を見ながら、日本茶をすすっている女性が居る。末永今日子が目を覚ま
した時、目に飛び込んできたのはまずそれだった。次に気がついたのは、どうもベットの
上で寝ているらしく、7畳ぐらいある部屋にいることだった。
「あの…」
女性がこちらを振り向いた。若さを失いつつある30代ぐらいの顔。末永今日子にはどこ
か見覚えがあるような気がする、懐かしい顔。
「あ、目さました? 無理に起きあがらなくても良いよ。寝ていたら? あれ? それ
ともおトイレ? おなかでもすいた?」
「そうじゃ…」
「あ、もしかして、生理? ごめんごめん。それだったら…あ、買ってくるの忘れた。
薫ちゃんに言っておかなきゃ」
「……その…どれも違うんですけど…」
「じゃあ…お風呂?」
「……」
末永今日子は無言でその女性をにらんだ。女性は驚いた顔をして納得したようにしゃべ
り出す。
「あ。あぁ…今日子ちゃん。そうだったね…。私は明峰 悠。今年で三十路の寂しい女。
これでいい? いじめて楽しい? 」
「いじめるも何も…さっぱり知らないんですけど。なんで、私、ここに?」
「……覚えてないの?」
「…」
霧が濃厚にまとわりついてきたこと、ガラスを割って侵入してきたこと…顔が…顔が…。
突然目の前がブラックアウトして、誰かが叫び声を上げているに気がつく。
(私…叫んでるんだ)
末永今日子は自分が顔を覆って叫んでいることに気がつく。そして、誰かに抱かれてい
ることに気がつく。
「大丈夫…大丈夫だから。ほら今日子ちゃん。しっかりして」
嗚咽ばかりが垂れ流しになっていた。お父さんとお母さんが、霧に殺されちゃって、誘
拐されそうになって、原田君が助けてくれようとして、血を吐いて倒れちゃって、私、な
んにもできなくて、注射打たれて、知らない男の人たちに連れられていって、顔が、顔が、
「ごめんね」という両親の声が。赤い赤い血。
誰かの長い、長い悲鳴が聞こえる。
でも、優しく包むその人は…今度は消えそうには…なかった。
どれほどの時間が流れたのだろうか。
泣き疲れて、頭がぼぉうっとしてきた。
「はいこっち!」
「え?」
顔を上げたと同時に、頬にすごい衝撃が加わった。痛い。見事な平手打ち。
「どう? 目が覚めた? ほら、笑った。笑った。真っ赤なリンゴみたいなホッペだぞ
〜ぅ」
「あは…はは…あははは!」
もう。なんでもよかった。よく分からないけど、笑ってしまう。おなかが痛い。
「さあ、ベットから降りて。日本茶でもどう?」
そう言って、峰岸悠は末永今日子にお茶を渡す。末永今日子は日本茶に口を付けてみる。
「あつい! 猫舌なんです。氷を5つぐらいれてくださいね」
「…贅沢ねー。取ってくるから待って」
ショートの頭をぼりぼりかきながら、隣の部屋に行く姿を見てまた笑いがこみ上げてき
た。バラエティ番組は夕方のニュースになっていた。
"本日の天気予報です。昨日から霧濃度が、非常に高まり停滞しています…"
”インテリジェント・ゴリラスーツ”を常に身に着けることが、この未来社会での第一のルールだった。
それを着用しない外出は、まさしく死を意味した。ゴリラスーツに装備された高価な機械が発見次第
すぐ反応し、パワーアームで、即撲殺。辺り一面が肉片や汚物で汚れても、パワーアームできれいに
掃除するから手は汚れずに済む。未来社会では水は人の命よりも高価だから、それは環境にも
やさしい。指先すべてに仕込まれた、肉食の昆虫が全ての肉片や汚物を食べてしまうのだ。その後、
今度は虫が排泄した糞がゴリラスーツの動力となるのである。何と合理的であろうか。
このゴリラスーツを開発した、J・チャリティ博士はその為に大いに苦労した。
こっそり読ませてもらってます。
面白いね。続き期待。
>>129 ぬぬぅっ! 久しぶりに来てみたらうれしいレスが…。
えーと、まだこの先のぞむひといるのかぁ。明日まで休みだから少し書いてみようかなぁ。
―――― それは、語られることのない過去の物語
時は過ぎ、人は変わり、見知らぬモノへと墜ちていく。
すべからくしてその時が最善であったことを見せつけるかのように――
――
16歳の女の子が研究所に閉じこめられて、不機嫌でない子なんているんだろうか。
「はーぁ。ばっかみたい」
一応個室は与えられているけれど、外出禁止と毎日の実験にうんざりする。あんな能力
みて何が楽しいのだろう。…弟がここにいるって聞いて来たけど、来たら来たでなんだか
んだといわれてはぐらかされるばかり。いーかげん。みんな燃やしちゃおうかなー。…は
ぁ。
内線の呼び出し音がする。実験かな…また実験かぁ。そう思いながら、テレビ電話の受
話ボタンを押す。
白衣を着た中年のおばさんがディスプレイに映し出される。背後には何人かスタッフが
作業に従事しているのが見えた。
「不機嫌でーす」
"だろうな…って思ったから電話したんだけど。そんなに不機嫌なら、外 出 許 可
降りたって話はなかったことに…"
「わ。岸辺さんっ! それはまった! 」
"あーら、この岸辺様にやれないことはないのよ〜ほーっほほほほ"
「きしべさーん。スタッフのみんなが"くだらね〜"ってため息ついているのが見えちゃ
うんですけどー」
本当にため息ついているのが見えた。岸部のおばちゃん−岸辺 洋子−がスタッフに振
り返る。
"こらっ! 今の顔おぼえてなさいよっ〜!"
"岸辺博士! それは投げちゃだめ! 絶対だめですよっ! 超高濃度なエスタルミン
保存液ですっ! せめて、硫酸とか王水とかまだ生きてる可能性がありそうなやつで−−
"
"じゃあ! くだらねーといわないっ!"
"それとこれとは、う、うわわっ!"
"エスタルミン保存液は吸ったぐらいで死なないわよっ!"
スタッフの悲鳴が聞こえる。岸部さんはスタッフの頭めがけてエスタルミン保存液の入
った瓶を投げつけた。
「岸辺のおばちゃーん。スタッフの人しんじゃうよー…」
私の口元に笑みがこぼれる。ほんの少しだけ楽しい気分だった。
金属質のエナメルちっくな壁に包まれたドーム型の日当たりなんて全然考えてない実験
室。そこかしこに並べられたパソコンによく分からない実験器具。私はさっきの岸辺のお
ばちゃんの前に座っている。
「そう言うわけで! 今日は外出許可が下りたの。いい? 悠ちゃん? 町に降りてい
っても良いけど、この研究所のこと、能力のこと話しちゃだめよ?」
「はーい」
「滞在できる宿は…」
後ろでスタッフの人が額にガーゼを当てながら"瓶が割れなくて良かった…"つぶやいて
いるのが見えた。
「…スタッフさん。大丈夫だったー!?」
スタッフの人がこちらを振り向いて弱々しそうにほほえんでくれる。岸辺のおばちゃん
がわざとらしそうに咳払いをしてこちらに注意を向ける。
「いいの。悠ちゃん。ここのスタッフは煮ても焼いても死にそうにないんだから」
「で、どこに泊まれるの? 岸辺のおばちゃん」
「ふふーん。ここ、ここ」
そうやってどこからか取り出したパンフレットには、この町の最高級ホテル−リアモン
ト−の案内が乗っていた。私はそれを渡されて見ていると、得意げに岸辺のおばちゃんが
話し始める。
「ここのスイートルームに一泊二日。超豪華なお食事付き。屋上には温水プール。その
一つ下にはバー−フィアモンテ−知ってる? あそこの50年物のワイン? 一杯6万円だ
って。マッサージの人も居てねーそれがまた評判がいいの んーいいでしょー?」
「これって…おばさんの趣味じゃない?」
「そ、そんなつもりはないんだけどなー。んー一回行って見たかったところではあるわねー」
「経費のだしにつかったでしょー」
苦笑いをしている岸辺のおばちゃんがいる。突然、背後から男性の声が聞こえた。振り
向くと仙田せんせー−仙田 宏隆−が突っ立っていた。
「まったく。岸辺。そういうことを行うと良心の呵責というのに苛まされないのかな?
君の心理構造なんていうのはわがままで傲慢ちきとしか言えない気がしてならない毎日だよ」
「何言うの。経費なんて私のためにある物でしょ?」
「君には経費の定義を一度辞書で引いてもらいたいよ。そもそもね。君はスイートルー
ムだけお願いしたんじゃないんだろう? 最高級の食事にマッサージ付き。ついでに、
外へ出かけるための車まで最高級だ。少しはみんなに遠慮というものを持って欲しいな」
「ついてこれないヤツのひがみ?」
「ひがみというのは物事を歪曲してとらえることかな? それとも素直じゃないってい
う意味かね?」
「あーうるさいっ。もーなに? 私の文句でも言いに来るためにここにきたわけ? そ
れともほかに用事がないなら、おじゃまさせてもらうわよ」
「ああ、そうそう。二人だけで話をさせてもらえるかな? アクアウィッカについての話だ」
「…また? ちょっと悠ちゃん。先に自分の荷物まとめててくれる? あとで研究所ロビーに行くから」
「はーい。岸辺のおばちゃん。早くしてね」
私は二人から離れながら、岸辺のおばちゃんが厳しい顔をしているのをちらりと見た。
私の部屋にはあまり荷物なんてない。外に出ることもないし、大抵研究用の服を着させ
られているから持ち出すものと言ったら…いつもの病気用の薬とここに来るときに持って
いた服が数着、時計に財布。あとは…
「写真忘れてた」
ベット脇に置いてある、写真立てから写真を取り出し、折れないように財布に入れ込む。
「…鷹…今どこにいるのかな…」
私は写真に写っている、弟のことが心をよぎった。
研究所のロビーでボンヤリと岸辺のおばちゃんを待っていると仙田せんせーが通りかかった。
「やあ。悠君。岸辺を待っているのかな?」
「そーでーす。岸辺のおばちゃん遅いよ。30分も待ってるんだけど」
「電話してやれば良いんじゃないのか?」
「無理ですって。どうせ、今頃部屋でバックに詰め込めないほどの服でも詰め込んでい
るんじゃないかと」
「催促っていうのは必要だと思うけどな」
「無理なことは仙田さんが一番よーく知っているんじゃないんですか?」
「持続的に催促してやればいつかは変わるさ」
仙田せんせーが話の区切りがついたかのように黙り込む。私も話す事なんて特にないか
らまたボンヤリと岸辺のおばさんを待つ。ロビーに飾ってある3Dディスプレイのニュー
スがもうすぐ夕方になることを伝えていた。霧はいっこうに晴れないらしい。霧が全然晴
れないから、いろいろなものが腐りやすくなって、いろいろなことに支障をきたしている
という話はよく聞く。なんで? といわれると、自然破壊のせいだ、世界の変化だ、なん
だかんだといっているらしいけど…。
「…悠君。君は、なんでここに来たのかな?」
「せんせーは私のデータがあるんだからよく知っているんじゃないんですかー?」
「弟を捜してここに来たっていうことはね。だけれども、そういうデータというのは別
段、君の心を詳細に報告していてくれる訳じゃないんだ。データ上では"弟を捜してここ
に来た"それだけだ。そんなことに興味があるんじゃない。なぜか…なんだ」
「せんせー。そんなことロビーで聞くことじゃないんじゃない? いつもの診療所では
なすようなことなんじゃない?」
「興味本心の質問を報告に上げる気はあまりなくてね」
「…」
「…答えたくないならかまわない」
「さみしかったから、かな」
「不在の人間に対しての理解の欲求かね?」
「ちがうよ。ね、せんせー。タンスの後ろでも、ベットの中でも、押入の中でもいいか
ら、知らない血のつながった家族がどこかにいる証拠の写真が出てきたら、探したくな
い?それもね、私覚えていないけど、弟が赤ん坊の時抱き上げて写真取っているんだ
よ?見たくて、知りたくなっても…いいじゃない?」
「…なるほど。君の弟とこの研究所で会えると良いな」
「せんせーは、鷹にあったことあるの?」
仙田せんせーは珍しく石のような表情がゆがんでいるように見えた。
「何度か…あったことはある」
「え? ほんとっ!?」
「…この研究所が許してくれたらいずれ君もあえるだろう。さて、話し込みすぎたよう
だ。私は診療所に帰るよ」
仙田せんせーは立ち上がり診療所へと向かおうと歩み出した。入れ違うように、岸辺の
おばちゃんがロビーに駆け込んでくるのが見える。…一泊二日なのに、なぜか大きな旅行
鞄を引きづりながら。
いくら霧が晴れない町とはいえ、リアモントホテルの中で窓を見れば外は蒼穹の空が見
えた。外の鬱蒼とした、ミルクの霧よりは蒼穹の空を3Dディスプレイで映し出している
方がまだましだと経営者は思っているのだろう。
岸辺のおばちゃんと私はスイートルームの馬鹿がつくほど広々とした部屋に目を奪われ
ながら荷物を置き、部屋の鑑賞としゃれ込んでいた。
「うわー。すっげーきれー」
「悠ちゃん。せめて、"わーすっごくきれいー"とか女の子らしく」
「どーせ色気なんてこれっぽっちもないですよ。研究所なんていつも裸同然でいろいろ
チェックされているようなもんじゃないですかー。乙女の心がすり減った今になって何
を今更ー」
「おっほん。それは言わないお約束。乙女の心は年を取っても持つものなのよ」
「へーへー。仙田せんせーとの会話は乙女の会話とは言えそーにないけど」
「あいつは屁理屈の変態屋だからよ。悠ちゃんもあの人に触られたら私に言うのよ」
「その前に焼いちゃいますって。あ、岸辺のおばちゃんが妬いちゃうかなー」
「この、ませガキ」
こつん、と岸辺のおばちゃんの拳が私の頭を軽くたたく。
「岸辺のおばちゃん。いたいよぅ」
私はうるうるとした目で岸辺のおばちゃんを上目遣いにみる。
「あーかわいいかわいい。そんなことは、彼氏の前でやってご覧なさい。効果絶大。ち
なみに性欲絶倫かもね」
「岸辺のおばちゃん…乙女の会話じゃーないよぅ」
138 :
名無し物書き@推敲中?:2006/01/06(金) 18:16:15
悪夢聡史 ◆5edT8.HnQQ という荒らしが暴れています
長々と続いております。霧に煙る町ですが、このあたりで中間地点となりつつあります。
張り続けた複線消化のため、現在プロットを見直しの最中です…。
しばしおまちください。
頑張ってね
141 :
名無し物書き@推敲中?:2006/03/04(土) 08:26:03
霧に煙って前が見えないよー。
142 :
霧に煙る町@作者:2006/03/08(水) 23:07:18
…。
痛烈なお知らせがあります。
久しぶりに書こうと思って探していた文書データが… デ ー タ が 消 え ま し た 。
え…SDカードのばっかやろおぉぉお orz。
う、うわぁぁぁ…ん。
ちくしょー。うがー。ふげー。
143 :
名無し物書き@推敲中?:2006/03/09(木) 01:49:41
144 :
霧に煙る町2@作者:2006/03/09(木) 20:31:32
ぼくが書きます。
145 :
霧に煙る町@作者:2006/03/17(金) 22:52:51
今日がんばって書こうとしたけれど、やっぱりなんだか前のような流れをもって
物語を書けないです。
後の引き継ぎよろしくお願いします。
「さて、と」
岸辺のおばちゃんが携帯電話を取り出して、何かしら操作をしている。
「どしたの? 岸辺のおばちゃん」
「これから遊びに行くところを、ちょっと探そうと思ってねー」
「え? この前行っていた、映画見に行くんじゃないの? 影の獄にてとていうやつ」
「ふふーん。ちょっと寄り道したっていいでしょう」
「ふーん。誰かに会うんだー?」
「まぁ、良いじゃない。ほら、いくよ。車も待ってるし」
岸辺のおばちゃんが腰に手を当てて悠然と構える。
「遊びに行きますか!」
「イェイ!」
二人の乙女達は奇声を上げてロビーで待っているであろうタクシーを目指して歩いてい
った。
タクシーが最初についたところは、風の宮公園というところだった。もっとも、霧に包
まれてかろうじて見える看板に"風の宮公園"とかかれているのが見えるだけだったから、
一体どんな公園なのかは分かったものではないのだけれども。
「運転手さん。悪いんだけど、この子を24R映画館に連れて行ってあげて。ほら、後お
金。使いすぎないでね。遅くても20時には帰ってくること。分かった?」
「わ、分かったって…岸辺のおばちゃん見に行かないの?」
「ふふん。まぁ、秘密のお友達とね。滅多におしゃべりする機会がないからね。ごめん
ね」
「えー。こんなか弱い女の子を一人で映画館なんてきっと襲われちゃうよ」
「はいはい。大丈夫大丈夫。無料報酬で見てくれている人がいるから」
「えー。もしかして研究所の人ー? ま さ か 仙田せんせー?」
「勝手に言ってろ。なんにもなければ、見かけもしないから大丈夫。気にせずにあそん
でらっしゃい」
「えー」
渋っている私をよそに岸辺のおばちゃんはさっさと降りてどこかへ行ってしまう。タク
シーも何も言わず道を先へ進めていく。岸辺のおばちゃんが見えなくなるまでタクシーの
窓に張り付き、その小さくなる姿を見ていた。一人で、映画館にいくなんて。二人で見に
行った方がおもしろいのに…なんだか、よくわかんないお預けを食らっているような気が
するのは気のせいなのかな…。
24R映画館は控えめに言って、ぼろい。ぼろいというよりつぶれてんじゃないのかって
…。
「岸辺のおばちゃん怒るよ…こんなの…」
なんだかよく分からない脱力感を感じながら、映画館のチケット売り場に行く。入場料
金をみると、中学生までは1000円かぁ、高校生以上だと大人料金の2000円。
「大人一枚」
受付の人が困ったような顔をしながら聞き返す。
「…中学生さん? 学生割引の値段なら1000円ですよ」
「これでも、高校生です」
「あ、もうしわけありません…。えーと次の上映は10分後です。A3番入り口を入ってく
ださい」
私は何となく憮然としながら、入場口をくぐる。
入場口をくぐると外見のぼろさに反して、やわらかい明赤色の光が場内を照らし、床に
は赤い絨毯、壁は朱漆が塗り固めてあった。何枚かの映画ポスターが壁に貼られ、今は全
然上映していないことを示すため「未上映」と隅っこに書いてある。そんな風に、通路が
左右に伸びていて、等間隔に扉があった。扉の上の方に「A3」とかかれたところがある。
「あそこ…だね」
私はそっと、その朱漆の扉を開ける。
スクリーンから発される乳白色が薄暗い劇場を照らしている。
スクリーンからは最近上映されているであろう、映画の予告編が流れている。私は、半
分ぐらいしか埋まっていない客席で、中央の後ろ側に空いている席を見て取ると、底に座
った。
だって、中央の後ろ側って、スクリーン独り占めって感じで良いじゃない?
どこかの映画の予告編が終わりを見せる。
映画が、はじまる。
150 :
名無し物書き@推敲中?:2006/04/19(水) 02:28:18
始まったのはドラえもんだった。
オレにぴったりだ。難しい映画は
わからんからな。とそのとき、
俺は何かが違うことに気付いた。
あれのび太声変わりしてない??
しかも声変わりというには、声が高くなっているように思えた。
ついでに言えばジャイアンも変だった。
ああ、のび太がドラえもんに助けを求めに行く。お決まりと言う奴だ。
あれれ〜、ドラえもん?ドラえもんかお前?
私は何かの幻を見せられているのだろうか、そう、霧のような幻を。