俺は親が経営する会社を辞めた。そしてニューヨークに当てもなき旅に出た。だが婆ちゃんが血溜まりの中で頭蓋骨陥没しているのを知らされて慌てて日本に戻った。
婆ちゃんは全身不随の意識不明になった。俺は婆ちゃんに喋り掛けた。還暦間近な叔父さん叔母さん達は、病室にいても婆ちゃんそっちのけで喋っていた。
あいつらは馬鹿な子供だ。俺は婆ちゃんの目を見て話しかけていた。そしたら婆ちゃんの目が動いた。俺は毎日懸命に間接を曲げ伸ばしし続けた。
婆ちゃんは日に日によくなって、上半身なら僅かに動かせるようになった。俺と母ちゃんは強引に婆ちゃんを病院から自宅に連れ戻した。
母ちゃんが下の世話をした。ある日、下の世話をしに行った母ちゃんが腰痛のためうずくまって倒れていた。
介護ベッドを導入して、自分の腰より高い位置で婆ちゃんを持ち上げればとても軽かった。
昼間は介護ヘルパーの人が来る。つまらないワイドショーを見ながら、婆ちゃんをもののように扱って世話をする。
夜中は食事と下の世話を俺がする。俺は婆ちゃんに話しかけておしめを変えて温かいタオルで婆ちゃんの尻を拭く。
叔父さん叔母さんには殺したいほど腹が立つ。懇親の介護を続ける俺をごく潰し呼ばわりする。
そして婆ちゃんが泣いているのを発見したと吹聴する。お見舞いと介護は全く別のことだ。
婆ちゃんが俺と母ちゃんにしか見せない笑顔のことを俺は奴らに話して復讐する。
夜中は寝ることができずに、大麻をふかしながら婆ちゃんの世話をする。ヨー、ニガー、俺は婆ちゃんの世話をしてないときは死んでいる。
俺が手を抜いて世話をすると、婆ちゃんの復讐が妄想となって襲い掛かり俺は号泣してうずくまる。
よー、朋輩、俺の爺ちゃんや父ちゃんが死んだとき骨折させて無理矢理棺桶に入れようとした葬儀屋に
俺は怒鳴った。俺は音楽を作ることもできない。仕事も辞めた。介護があるだけだ。(了)