どうせモテないし、小説でも書こうぜ

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雪村和夫は浦和のとんかつ屋の長男として生まれた神童だった。高校時代は野球部のエースとして活躍し、京都大学に合格した。
だが大学在学中に脳腫瘍ができ、緊急手術をしてから生活が一変してしまう。
リハビリを経ても大学復帰ができず、かわりに、京都のお寺の庭にある大きな石に魅せられ、毎日様々な寺の石をデッサンするようになった。
石のスケッチブックは増えていき、精神は悪化し、結果として精神科に二年半入院した。
大学を辞めて浦和の実家に戻ると、腕白で出来損ない扱いされていた弟が、とんかつ職人として立派に店を切り回していた。
和夫は脳腫瘍の再発の心配はなかったが、後遺症として毎日ひどい頭痛に悩まされていた。
大宮ソニックシティで開かれる頭痛友の会に行き、そこで6歳年上の美恵子と出会い、肉体関係を持つまでになった。
頭痛持ちの多くは、頭痛が始まるのと同時に視界が白く光り、視野が狭くなっていく症状があり、それは銀色の翼と呼ばれていた。
美恵子は看護婦をしているのだが、実家からは絶縁されていて、よほど幼少時代にひどいことがあったらしいのだが、決して打ち明けない。
和夫は両親に美恵子との結婚を打ち明け、反対されるも、美恵子の貯金で二人は茅ケ崎の中古マンションに新居を定めた。
結婚を期に自信がついた和夫は、体調が回復し、念願だった鍼灸師の専門学校に入る。
資格をとった和夫は鍼灸師として働き始めるも、忙しくて美恵子とすれ違いの生活が始まる。美恵子は和夫に忙しく働いてほしくなかった。
だが和夫も仕事をがんばって生きがいにしたい。美恵子の調子が崩れていく。
美恵子の体調が崩れたので診断を受けたところ、早期の子宮癌が発見された。子供を生みたくなかった美恵子は手術を喜んだ。
手術後、美恵子は更年期障害に陥り、復職もできなかった。和夫に喧嘩をうってばかりだ。
ある日、美恵子は行方不明になり、京都で補導された。和夫の石のスケッチを見て、実物を見たくなったのだ。
和夫も京都へ駆けつける。美恵子は頭がおかしくなり、まともな発言も行動もできなかった。
翌日二人は京都市内の石を観光に出かける。和夫は銀色の翼を見て倒れこみ、陽気な美恵子と手をつなぎ、やっと夫婦になれたと実感した。(了)