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名無し物書き@推敲中?:
学歴 大学院
私が屋敷に巣喰う得体のしれないあかやしに導かれるように部屋の中に足を踏み入れると、女は部屋の扉を閉めた。
「さあ鞭を持ってちょうだい、そして、わたしを打ってちょうだい。
女に本当の快楽を与えるときは鞭で打たなければだめなのよ、さあ、早くして、お願い、」
キリスト教では人は原罪をもち生まれてくるという、仏教でも人は前世や先祖の罪である宿罪をもつという。
それならば、生まれただけで謂われのない罪をもつ人は、罪を認めて贖罪に服すことで幸福を得るのであろうか。
私は、細く長い革紐が何本か合わさり先端で玉のように結びつけられた鞭を女から受け取った。
そして、静かに床に四つんばいになっている夫人に近づくと、夫人に向かって力一杯に鞭を振り下ろした。
びしっ、という透き通るような鈍い音がして、目の前の女が突きだしている尻に鞭が当たった。
痛みに顔を歪めた夫人の真珠を思わせるような白い尻に赤い傷がついた。それなのに、夫人は嬉しそうに微笑んで快感を表情に示す。
そして私も快感を感じた。
いったい、夫人は、どのような罪を犯して、このような戒めを受けなければならないのだろうか。
それとも、これは戒めなどではなく、美しいものへの唯一の到達点である悪なのだろうか。
ボードレールの詞のごとく、愛の到達点は悪を為す確信の中にあり、
生まれながらに男も女もすべての快楽が悪の中にあることを知っているにちがいないのだから。
それならば、この部屋は現実の世界とは別の世界なのだろう。猥褻と欲望が満ちた菜穂子夫人の世界なのだろう。
すべての快楽は猥褻と欲望により、最高の位へと高められるにちがいない。
私の身体にもこの部屋に満ちている猥褻と欲望が侵入し、私の心を侵食するように巣喰いはじめた。
そして、私は、目の前で真珠のような白い尻を突きだし、深く暗い森に囲まれて呪いに掛かって
死んだような屋敷にすむ魔女に向かって鞭を振り下ろし続けて快感を感じ続ける。