この三語で書け! 即興文ものスレ 第十六期

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599** ◆6owQRz8NsM
**「ほうせんか」「かみしばい」「通知」

 川沿いの石畳みを歩いていると、真ん丸のピンクのライトをビニールの軒下に灯した
毒々しい小店が連なっている路地が目に入る。チョンの間で客をとる、「ちゃぶ屋」と
いうヤツだろう。店先には梅雨の雨に細い肩を濡らしながら、異国の女が佇んでいる。
「レモンティー」と書いた黒いドアーの前に、ちょっとヒロスエ何とかに似た
小柄な女が立っていた。俺は「ヒマ?」と言って彼女の前で立ち止まった。
 女を買う気はさらさら無かったが、彼女の素朴な風情に少し魅力を感じていた。
「オニイサン、飲みます?」と八重歯を見せて笑って、片言の日本語で答える。
「ビールある?」「アリマス。入って」彼女の細っこい背中が黒いドア−の中に
消える。俺は少し躊躇したが、店に踏み込んだ。彼女はビール瓶を片手に2階へと
続く木の階段を登っていく。「キテ、キテ」彼女は手招きする。俺は店の土間に立って
まだ迷っていた。階段の脇には椅子があり、彼女より年増の中国人らしい女が座っていた。
 年増女は下半身が素っ裸だった。白い太ももに、ほうせんかの花弁のようなアザが散らばり
 女は左手で、そのアザをピシャリと叩いた。
 俺は、突然、我に還った。川は緩くながれ、俺は欄干にもたれている。そして思い出した。
 この路地の女にハマって全財産を失ったこと。レモンティーという店が突然消えたこと。
 彼女は亭主と国に帰ったこと。俺の頭の中で一枚一枚、記憶の画像がかみしばいの様に
めくられていく。「エイズ検査 要精査」という病院からの通知を、俺は破って川に捨てた。
どこかで異国人の女が、のんびりと仲間と笑っている声が聞こえた。

**次は、「血飛沫」「眼球」「裏切」でお願いします。