今日も娘と言葉を交わす事無く、食事が終わった。
無言で席を立つ娘の背中と、自分の手の中を見ながらため息をついた。
誕生日。娘の特別な日は、すでに彼女にとってそうではないらしい。
手の中には父親の片思いの欠片が、出番の無いまま残っていた。
二日前、家政婦に言われて物置のダンボールを開けた。
中には、ぬいぐるみやオルゴール、子供用の時計など今まで娘の誕生日に
贈った物がすべて入っていた。どうやら全てが片思いに終わっていたようだ。
遠い親子関係。しかし、遠ざけたのは私なのだからしかたが無い。
今からでも歩み寄れたのだろうか。
私はすでに、未来の仮定も後悔の起因となる状況に身を置いていた。
医者の診断で余命3ヶ月。5年前に先立たれた妻と同じ病名だった。
伝染する物では無いので偶然の結果だと言われたが、妻の意思を感じた。
娘には伝えない事にした。私は明日、仕事と偽っていつもの様に長く家をあける。
私の死後の事は問題ないように手配もすんでいる。最後に、私は娘がPCで
書いた自分の絵を私の部屋のプリンタで印刷している事を知っている。
仕事用の大容量の給紙トレイの一番底に、最後の片思いの場所を書いたメモを残した。
「甘栗」「うに」「皿」
私の恋人は、子供のような人だった。
初めてのデートは回転寿司屋だった。
次々に回ってくる皿を目の前に、目を輝かせながら「何でも好きなもの食べてよ。」と嬉しそうに言った。
もういい年なんだから、普通のすし屋のカウンターでしっぽりしたいな・・・・・・と思ったけれど、
あまりに嬉しそうな彼の顔に何も言えなくなった。
「シメはメロンだよなぁ」とか言いながら、幸せそうにプラスチックのスプーンを破り開ける彼を見て、
私も子供に戻ったような気分になって、プリンなんか取ってみたりした。
彼はお約束のように、私のプリンに醤油をかけて、「うにの味になるから!」と喜んでいた。
もう大人になってしまっているのを分かっているのに、子供の自分を演じているような、そんな彼が大好きだった。
だから祭りの日に、彼から別れを告げられた時も、そんなに驚かなかった。
「おまえは一人でも生きていけるから」なんて、そんなくさい台詞を真顔で話す彼に少し笑ったりもした。
彼は、正義を信じ、悪を下し、弱きを助け、お姫様と幸せになる。私が子供の頃に憧れた、正義のヒーローを演じる自分が何より好きな人。
子供のような好奇心で、次々にお姫様を求め、それを強引に守ろうとする人。
硬い殻を破って、甘栗ゴリゴリ食べてるような逞しいお姫様は、きっと彼の眼中に入らない。
次のお題は「洗濯機」「肉」「糸」でお願いします。
534 :
「甘栗」「うに」「皿」 :04/02/25 01:01
どう見ても甘栗だった。
ひからびたうにの軍艦巻きに混じって、甘栗の乗せられた軍艦巻きが百円の皿にのっていた。
「……へー。おもしろいじゃないの」
自称まずいもの評論家の富田は不敵に口の端をゆるめるとレールからその皿を取った。
「な、嘘じゃなかったろ?」
回るレールの真ん中で黙ったままやけに気むずかしい顔をしてハマチの寿司を量産している男に聞こえないように、
俺は小声でささやいた。
まあ、どうせ聞こえているに違いない。
昼時だってのにこの店には俺と富田以外に客はいなかった。
富田は小皿に醤油を注ぎ、やけにまじめくさった顔で甘栗寿司の端に醤油を浸した。
そして一気にほおばる。
「んー」
ボリ、ゴリと堅い何かが崩れるような音が俺の耳にも聞こえてきた。
「甘栗だな。期待していたほどまずくない」
富田はつまらなそうな顔でアガリを飲んだ。
それから1週間後、俺はその寿司屋の前を通った。
店には”新登場! 甘栗のせちゃいました”とへたくそな字で書かれた張り紙がしてあった。
そして相変わらず流行っていなかった。
次は「新製品」「会館」「メール」で
すいません、次は「洗濯機」「肉」「糸」で
「洗濯機」「肉」「糸」
ひまなので洗濯機に釣り糸を垂らす。すぐにくつ下が釣れた。穴のあいたしょぼいヤツだ。
すぐにリリースしてやる。次にかかったのは、ブリーフだ。きっとウンコつきだ。お前は沈んでろ。
Fish! 入れ食いだ。今度はデカイ。大物だ。ぐにゃりとコンパクト・ロッドがしなる。
だいだい色の魚影が泡の下にチラリと見える。ヤツだ。トレーナーだ。
いい引きだ。まるで疲れ知らずの雄牛のごとき暴れっぷりじゃないか。
糸と同様にビンビンと腕の筋肉が緊張する。そうこなくっちゃ。
いつ果てることもなく続くと思われたバトルだったが、終わりは不意に来た。
ビーというブザー音とともに、我が強敵は抵抗をやめてしまったのだ。……時間切れか。
部屋には必要以上の静寂が訪れている。
「いいファイトだったぜ」
俺は手向けの言葉を贈り、トレーナーを静かに脱水層へ移した。
この戦いを終えての感想は「いいかげん全自動洗濯機を買わないとな」です。
次は534さんの「新製品」「会館」「メール」で。
「新製品」「会館」「メール」
ロビンソン将軍は満足げに胸像を眺めた。軍服にヒゲ、右手を高く掲げたその胸像は
ロビンソン会館の玄関前に設置される。
「将軍閣下!マクダネルが来ておりますが」
めずらしくニコニコしていた将軍の顔がにわかに険しくなる。
「マクダネル?戦闘機の企画でも売り込みに来たか。今日はいそがしい。追い返せ」
「は、しかしおそれながら閣下、追い返した場合、後でまた例のメール攻撃が……」
将軍は頭をかかえた。以前マクダネルは新型ミサイルのコンペに破れたはらいせに、
5千通をこえる迷惑メールを送ってきたことがあった。
「あのときは苦労したな……」
「は、事務処理が大幅に遅れました」
「仕方ない、通せ」
マクダネルはにやにやしながら、ジュラルミンケースを開けた。
「コイツが今度の新製品ってやつさ、兄貴」
将軍はじろりとマクダネルを見て
「ここでは将軍とよべ」
マクダネルは肩をおおげさにすくめ「はいはい、閣下。ではこれをご覧いただけますか?」
と書類を差し出した。
「こ、これは……ロボット?こんなもの採用できるわけが」
将軍の顔色が変わる。
「おいマクダネル。この図面にひかれた顔……」
「そうさ兄貴」
ロビンソン会館のほうから大騒ぎが聞こえる。
「一号機は納入済みだ」
「油ネンド」 「スペクタクルロマン」 「おでん」
店中に食欲をそそる鰹出汁の匂いと、安いアルコールの匂いが充満している。ここは、
おでん屋、赤ちょうちん。
「聞ーとんのかい!」
おっさんは、俺の耳を引っ張った。
「いってえなあ〜。やめろやおっさん。聞いとるって。ほれ、大声出すから一見さんがび
っくりしとるがな」
「ええか! 油ネンドは芸術なんや!」
ええ感じに酔っ払っとるこのおっさんは、自称、芸術家。おっさん風に発音するとゲエ
ジツカ。日頃何しとるかさっぱりわからんおっさんには、まさに、芸術家よりゲエジツカ
のほうがふさわしい。
「わかっとんのか? 芸術やねんど! 油ネンドは! 芸術やねんど!」
「ねんどねんどうるさいっちゅうねん。もうおんなじ話、何回も聞いとるがな」
俺は、コップになみなみと注がれた安酒をあおった。んもーおっさんには困ったもんや
な、ほんまに。わるいひとではないんやが。
「宇宙や! 油ネンドには宇宙がある。スペクタルロマンなんや!」
「あー唾飛ばすなって」
俺はコップを手のひらで覆った。スペク『タ』クルロマンやっちゅうねん。
「ほら、おっさん、おでんきたで」
「おっ。わしすじ肉だい好きやねん。ちょっと待っとれ。これ食うたらスペクタルロマン、
みせたるさかい」
いらんがな、そんなん。ゆうたらまたうるさいんで、俺はまたコップ酒をぐびりとやる。
「いくで! みとれ!」
おっさんは、口の端に蛸足をを引っ掛けたまますっくと立ち上がると、どこからか油ネ
ンドを取り出して、こねまわした。おっさんの手は手元が見えなくなる程どんどん早くな
り、油ネンドは高速で回転して、まばゆい光を放つと、ぱーんと弾けるように拡散した。
「どや! 宇宙やあああああ!」
一見さんは、度肝を抜かれて大口を開けている。おっさんは、ぶったおれた。
「あー、いつものことやから、ほっといてええよ。女将、もいっぱい」
「あいよ。新しい突き出しでけたんやけど、試してみてくれる?」
「を! そりゃ楽しみやな! 女将の突き出し、うまいからな〜」
「油ネンド」「スペクタクルロマン」「おでん」
でした。
次は「ときめき」「ラブレター」「千枚漬け」でお願いします。
×スペク『タ』クルロマン
○スペクタ『ク』ルロマン
です。すいません。orz
大好き。大好き大好き。もう他に何にもいらない。このときめきは永遠なの!
そんな事を思っていた頃もあった。
出会ったころは本気でそう思っていた覚えもあるけれど、……今ではカラカラに乾いた心があるばかり。
「おい、飯」
だらしなくパジャマがわりのスエットを着崩した夫が、目やにのついた目をショボショボさせて居間へとやってきた。
「もう。子供達は皆さっさと食べて出かけてしまったわよ。片付かないんだから、早く食べちゃってくださいな」
食卓のおかずのラップをはずし、ご飯を盛り、味噌汁をよそう。
さめてしまった味噌漬の鮭、ミズナのおひたし、里芋の煮物、そして千枚漬け。
新聞を広げてお茶をすすり、無造作に箸で鮭を崩し、里芋に箸を突き刺して、私の顔も見ないであなたは食事してる。
「おいしい?」
「……ん? あぁ」
「もう、ちゃんと味わってもいないくせに」
「……」
もう何度同じ会話をしたことか。美味しいともまずいともいってもらえない食事を、私は毎日毎日作りつづけている。
ねぇ、あなた気が付いてる? 私、必ずあなたの好きなものおかずに入れてるの。
目を見つめあって恋を囁いたのはもう随分昔だけれど、私は今でもあなたに囁いているのよ。
あなたが気が付かなくても、これは私からのラブレター。毎日、送りつづける、長く続く恋文なのよ。
ついお題を入れ忘れる。イカン。
次は 「ちょうちょ」「お茶」「プロフェッショナル」にて。
543 :
「ちょうちょ」「お茶」「プロフェッショナル」:04/02/26 01:01
春、強い風の吹いた翌朝のことだった。
「お母さん、ちょうちょ」
リビングのカーテンを開けると窓の桟にモンロチョウが止まっていた。
あたしの後ろをちょこちょこついてきた虫好きの樹利亜がめざとく見つけて指さす。
「本当だね。ちょうちょさん風に吹き飛ばされてきたのかな」
あたしの住むマンションは9階にあるから、虫がくるのは結構珍しい。
「全然動かないねー」
「そうねえ。あんまり高いからびっくりしてるのかもね」
とたんに樹利亜の顔がくもっていった。
「お母さん、ちょうちょさん帰しに行こう」
「んー」あたしは時計を見た。樹利亜を幼稚園に連れて行くまでにはまだ時間がある。
あたしはいつものように一息入れることにした。「お茶飲んだらね」
お茶を飲み終えた後、モンシロチョウはどこかに消えていた。
「お母さんが、ううっひくっ、うーっちょうちょさん死んじゃった」
あたしは泣いてぐずる樹利亜にごめんってあやまったり
ちょうちょさんは空を飛ぶプロフェッショナルだから死んだりしてないよって言い訳したりしたけど、
全然許してもらえなかった。
次は「一番」「玉」「だんだん」
この中にVSさんいるのかな?
出てきてよ!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
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VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
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VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
照れてないで、出ておいでよ!
VSさ〜〜〜〜ん!
どれなの? VSさんの作品はどれなの?
ねぇ、教えてよ!
俺だって20年近く生きてきたんだ。だんだん分かってきたこともある。
生まれたばかりのときは、ほとんどの赤ん坊が可愛がられるものだ。例外もないことはないだろうが、それは極稀なことだろう。
俺もご多分に漏れず、周囲の人間の愛に包まれながら生まれてきた。
生まれたての赤ん坊は、玉のような子供といわれるけれど、俺は玉どころか岩石だった。
5400g――まあ、よく出てこれたモンだ。母を尊敬するよ。
病院歴代屈指のビッグベイビーはそのまますくすくと育つ。景気もよく、家がそこそこに裕福だったこともあってすくすくと――。
何故、あの頃、追い込まれる前に気付くことが出来なかったんだろう。
何故、あんなに甘ったれだったのだろう。
何故、何もしてこなかったんだろう。
いつの頃からか――恐らく、バブルが弾けた頃――親父の仕事は行き詰まり、それにつれて夫婦仲は悪化し、母は家を飛び出した。
それからしばらくして親父の会社は潰れた。親父は俺を養うことは出来ないと言い、家から追い出した。親父は家と自分を焼いた。
道は見えない。どうしたらいいのか、どうしたらいいんだろう。俺にはさっぱり分からなかった。満ち足りていたから――。
何故、気付くことが出来なかったんだろう。人の人生はあくまで自分の意思で形作るものであり、人に依存するものではないということに。
一番大事なものは、自分の意思だと、俺は気付いた。
そう、気付いたんだ。頚動脈からとめどなく血を流しながら。遅かっただろうか。でも――それだけでも分かって、よかったと思ってるよ。
「現世利益」「おまる」「重厚」
「痛っ」 あぁ痛てて…… おいおい、五円玉だって頭に当たれば痛いんじゃがのぉ。
なになに、事業がうまくいきますように…ムニャムニャ 何言ってるか分からん。
入れ歯が浮いてるのか? ハッキリ言えハッキリと、お前も歳取ったのぉ、
毎年、毎年、わしの頭に五円玉をぶつけよる。「よっしゃ、お前の願いを叶えてやろう」
「しかし、お前の寿命はあと半年なんだがのぉ」
お前はもういい歳じゃ、お前が死んでも富だけは子供、孫に残るから、ええじゃろう。
わしは後頭部をさすりながら、賽銭箱の中で槌を振った。
「どうか、お店が繁盛しますように」
チャリン! 五百円玉が投げられた。「おぉっ、久しく見てない高額硬貨、こんなのが
頭直撃したら気ぃ失うがね」 わしゃぶるっと体が震えたね。どんな人間が来たんかのぉ
わしゃ賽銭箱の重厚な枠木に両手を掛け顔をちょいと出してみた。「うわっべっぴんさんや」
歳の頃、二十二〜三、色香が彼女の身体を包み込むように漂い周囲の景色がかすんで
見えるほどじゃのぉ。わしは一見さんである彼女の願いを叶える事にした。
若くして富を背負うと逆に不幸になるんじゃがのぉ…… わしゃ槌を振った。
「それが人間どもの言う 現世利益なんだろ?」
人間どもは揺り篭を経て、おまるを使う年頃までが一番欲が無いのぉ〜
「痛いっ、誰じゃーーーーーーーパチスロのメダル投げたのは」
次は「登山靴」「五つ星レストラン」「夢」
「登山靴」「五つ星レストラン」「夢」
母さん、今ここにカラシニコフ銃があれば、僕はこの男を撃ち殺すでしょう。
僕を無理矢理こんな所まで連れてきた、このウザイ男を。
僕は腹が減っているのです。あまりに腹が減っていて、空腹であるという認識以外できないでいます。
履きなれない登山靴で一日歩かされたせいで、ひどい靴づれをしていますが、その痛みすら感じません。
ああ、ようやく男が食事を運んできました。
「五つ星レストランへようこそ。当店自慢のボンカレー山小屋風でございます」
キレそうです。トカレフはどこですか、母さん。
母さん、僕は今、星空の下で二つ目のカップヌードルをすすっています。ものすごい星の数です。
「空腹が何よりの調味料ってのは、本当だな」
調子に乗った男がなれなれしく同意を求めてきます。夢なら醒めて欲しいです。
「この満点の星空を眺めていると、下界の嫌なことも忘れるだろ?」
「ただの現実逃避ですね。ここに一生いるわけにはいかないし、下界の問題は何一つとして解決しない」
「ん、そうかも。でも、この星空は下界に持って帰れるんだぜ。そして、案外役に立つんだ。俺の場合な。
だから、君も、持って帰るといい。心の片隅にでもしまってさ」
母さん、やっぱり僕はこのクサイ男を父さんと呼ぶべきなんでしょうか?
次は「ごぼう」「積み木」「渡り鳥」で。
「ごぼう」「積み木」「渡り鳥」
積み木は大きく震えると、そのまま綺麗に崩れた。
床に散らばった四角や三角の塊を、細い腕で寄せ集める。
また始めから。一番大きくて長いやつを土台にして、もう一度積み上げていく。
小さな悲鳴が体から漏れる。お腹が空いた。背中とお腹がくっつくだけではすまない。手足が縮んでごぼうになりそうだ。
積み木はどんどん高くなる。十分気をつけて、そろそろと円い柱を載せる。
父さんはまだ帰ってこない。いつもならお土産を一杯抱えて、笑顔で戻ってきてくれるのに。
太陽の落ちた冬の部屋はとても暗くて寒かった。
叔母さんは父さんのことを渡り鳥なんて呼んでいたっけ。いつもあっちこっちに飛び回っている。
僕も一緒に連れられて何度も小学校も替わったけれど、ちっとも寂しくなんてなかった。
父さんはいつも出かけていたけれど、週末にはきちんと帰ってきて二人で色々なことをして遊んだ。
だから今日もきっと遅くなっているだけで、今にも玄関のチャイムがなるはずだ。
小さく手が震える。最後に積もうとした三角の積み木がこぼれて、またバラバラに崩れてしまう。
でも、一つだけいつも心配だったことがある。
渡り鳥は帰り道を忘れないのだろうか。もし迷ってしまったらどうするのだろう。
広い海の向こうで、迷子になった渡り鳥は一体どうなってしまうのだろう。
「父さん」
僕は知らずに呟いて、暗い玄関のドアを見つめた。硬い鉄の扉はじっと黙ったままだった。
冬が終わり春が過ぎる。結局父さんは帰ってこなかった。
叔母さんに行ってきますを言って、玄関を出ると軒下にいつもの奴が待っていた。
去年までは居なかった燕の家族だった。
巣の中で大騒ぎをする雛たちに、親が一生懸命に餌を与えている。
春が過ぎ、海の向こうから渡ってきた渡り鳥。
その姿を見ていると、何故か泣きたいような、笑いたいような気分になった。
次は「井戸」「雀」「夕焼け」でお願いします。
買い物から帰ってきたら、家の前に向かい三軒両隣の奥さん連中が集っていた。
恒例の井戸端会議だ。いつも決まって、家の前でやっている。
「あら、ちょっと久保さん、アレ聞いたー?」
お向かいさんが聞いてきた。何にでも首を突っ込む、自称事情通である。
「田中さんとこのお隣さん、白井さんの家の旦那さんがリストラされたんですって」
田中さん宅は家の斜向かいで、その隣というと、要するに私の家からは遠い。
「そうなんですか。大変ですねぇ」
「そうなのよ、でね、その原因が上司を麻雀で……」
と、井出さんは声を潜めながら話を続ける。田中さんを始め取り巻きも身を乗り出して、
興味津々のようだ。私は一歩引いて、冷凍品がありますから、と玄関へ向かった。
「そういえば久保さんのお家って良く見るとね……」
ドアを閉める直前、そんな言葉が耳に入る。だが、反応する間もなくドアは閉まった。
冷蔵庫の前で買ったものを取り出し、野菜室に白菜と大根を放り込む。引き出しを
足蹴にして閉めると、ドンと大きな音がした。
灯のついていない部屋を夕焼けが紅く照らす中、冷蔵庫の唸る音だけが耳に障った。
次「箱」「ツボ」「皮」
「箱」「ツボ」「皮」
僕はいつも通り7時――正確な時間を言えば7時4分である―――に起きると
朝刊とたまっているダイレクト・メール6通を取り、台所のテーブルにそれを置くと、
コーヒーをいれ、TVをつけると、コーヒーを飲みながら新聞を読んだ。
しかし、社会面まで読んだところで、ぴーんぽーん、とほととぎす(僕はこのチャイムをそう呼んでいる)
がなり、僕はドアまで歩いていった。
しかし、ドアを開けてみると、そこには大きい箱があった。冷蔵庫でも入りそうだ。
なんとなく不思議な気分になりながらも、その箱をリビングに運んだ。
そしてガムテープをひきはがし、その巨大なダンボール箱を開けた。
するとなかには大きいツボが入っていた。取っ手やら何やら、装飾がやたらに施されている。
いったい誰がこんなものを送ってきたんだ?いや、そもそも、これは僕に送られたものなのだろうか。
僕は今ごろになって開けたことを少し後悔した。しかし思考は途中で中断された。
なにかもうひとつ、下のほうに入っているのだ。なんだか薄いものだ。
僕は手を伸ばし、その薄いものをつかんだ。なにかずるりとして気持ちが悪い。
引っ張って見てみると、それは何かの皮だった。
とても綺麗に剥がれた皮だったので、僕は何なのか一瞬分からなかった。
しかし、乳首がついているその皮は人間の皮、だったのだ。
僕はすぐに吐き気を覚えた。吐く場所がないので、さっきのツボに吐いた。
―なるほど、こういうことなのか。
僕は吐きながら、不思議なことなのだが、そう思った。
次「ピンボール」「ショットガン」「涙」
小さなグラスにテキーラを半分。ソーダをもう半分。
手のひらでグラスに蓋をして、思い切りテーブルに叩きつけ、一気にあおる。
これを「ショットガン」とはまさに言いえて妙。
炭酸が口の中で弾け、テキーラのアルコールが体中に染み渡っていくようだ。
散弾銃を咥えてぶっ放したらこんな感じだろうか。
貴方は針のように、私の心を小さな穴だらけにしてしまった。
致命傷には至らないけれど、そこから涙が染み出して、傷はじくじくと癒える事が無い。
いっそ貴方自身の手で、私の心を完璧に消して欲しかった。
なまじ心が残っているせいで、傷が痛んで貴方を忘れきれないでいる。
私の心のピンホールを覗いたら、貴方の背中が潤んで見えた。
その背中に向かって一発かましてやりたいけれど、今は酔っ払っているからきっと中てられない。
次は「ベタな展開」「カレンダー」「阿波踊り」でお願いします。
さて、今日僕は彼女とともにこの都内有数の高級レストランにやって来た訳だが。
今日は彼女の23回目のバースデイだ。この店でプレゼントの『ロベルト・カルロスカレンダー』を渡す。
昨日の夜考えた。その後、どういった展開に持っていくか。
A:彼女と普通に食事をこなし、夜の街へ。
B:茶目っ気を見せるために店内で特技の阿波踊りを披露する。
C:振られる前に振る。
Aは非常にベタな展開になりそうだ。漫画やドラマで腐るほど見た、あんな感じの展開に。今のところこれで行こうと思っている。
Bも、まあ悪くない。僕の新たな一面を覗いた彼女は今まで以上に僕に夢中になるに違いない。
Cは……スクランブルだな。まあ、カレンダーを渡した時点で彼女の心は僕のものなのは明々白々だし、問題はなさそうだ。
いずれにせよ、これほどまでに綿密な展開を考えているのだ。これでオチない女がいるほうが不思議である。
そんなとき、彼女が僕の服を引っ張って言った。
「あたし、和食が好みなの。ここフランス料理でしょ? そんなことも分からないのね」
彼女は去って行った。現実は非常である。
「サッカー」「豆腐」「こんにゃく」
「サッカー」「豆腐」「こんにゃく」
僕が天井を見ながらぼんやりしていると、カーテンを開けて誰かが入ってきた。
先輩だった。
「よう、大変だな。全くお前ってやつはさ。」
僕が首を少し傾けると、先輩はにっこり笑って、手にさげたスーパーの袋を見せた。
「お前、俺らがチュ−ガクのサッカー部引退したばっかなのによぉ、さっそくケガかよお」
僕はまた天井に視線を戻した。
「いやー、オメ−が練習試合中にケガして入院って聞いたときビビったわ」 そして思い出したように
スーパーの袋の中身をベッドの隣の棚にばらばらと出した。
「こんにゃくとか豆腐とかゼリーとか、なるべく柔らかいもん買ってきたんだけど・・」
先輩が歯のない僕の顔を見た。
「廃墟」「終焉」「絶滅」
絶滅を迎える種はそれぞれ、様々な表現で彼を楽しませてくれた
ものだが、今回の終焉は、さほど彼の興をそそってくれるものでは
なかった。
廃墟が塵に埋もれていくのを、彼は無感動に眺めた。
――次は、楽しませてくれるだろうか――
彼の頭の中は、それだけでいっぱいだった。どうしてもここから
動けないので、手元にあるものだけで退屈を紛らわせなければなら
なかった。
彼には確か、何か重大な使命があった筈なのだが、思い出せなか
った。いつからここにいたのか、わからなかった。いつまでここに
いなければならないのか、わからなかった。この退屈がいつまで続
くのか、わからなかった。そのうち、それらについて考えることを
やめた。
彼は楽しいことだけ考えるようになった。
荒地に次の種を植えつけ、繁殖しやすい環境を整えた。次の種は
人間と名付けた。彼は、期待した。
――人間は、きっと楽しませてくれるに違いない――
しかし、人間の終焉も、彼の無聊を慰めてくれるものではなかっ
た。
彼は、恐ろしい考えに至った。
――もはや、楽しいことなど何もなくなったのではないか――
恐ろしさの余り、彼は考えることをやめてしまった。
ひとつの終焉と、絶滅が訪れた。
あとには廃墟が、あるばかり。
「廃墟」「終焉」「絶滅」でした。
次、「正攻法」「ニラレバ」「羞恥プレイ」でお願いします。
仕事帰りに花を買う。奮発して、とにかくインパクトのあるやつを。
小夜子に浮気がばれた。
ばれた分だけで3回目の浮気になるから、今ごろはものすごい剣幕で怒っているに違いない。
今回の相手は取引先の受付の女の子。営業で鍛えた話術と、自前の笑顔には自信がある。
しかし、そうもいってはいられない。家庭を持たない男の社会的信頼度はなぜか低いものだ。
ここで、妻を失うのは得策ではない。
頭の中で何回か謝る練習をし、深呼吸をして家のドアを叩く。
「ごめんなさい。もうしませんから、許してください」
台所にいる小夜子に頭を下げ、花を差し出しながら練習したセリフを口にした。
「前回と全然変わってないじゃないのよ!」
ちっ、正攻法じゃダメか。
エプロンを投げつけて部屋を出た小夜子と同じ部屋に寝る勇気はなく、俺は今のコタツで夜を明かした。
「はい、あなたお弁当。残さないでちゃんと食べてね」
翌日の小夜子の笑顔を見て、私は内心ほっと胸をなでおろした。
からりと明るいその笑顔に、小夜子が私を許してくれたのだと、安心していた。
しかしそれは私の勝手な思い込みだった。
昼時、開けた弁当箱には、レバニラ、キムチ、奈良漬、くさやの干物、にんにくたっぷりのチャーハンがぎゅうぎゅうに詰まっていた。
臭いの羞恥プレイのような昼食。私のデスク周りには誰も寄り付かず、私は一人、ただ黙々とその弁当を食べつづけた。
昨日の今日だからな、嫌がらせも仕方ないか。そう心に言い聞かせながら……。
毎朝彼女は私に弁当を渡す。
彼女はにっこり笑ってはいたけれど、その怒りはこれまでよりずっと大きいものだったのだ。
毎日品物は変わっていたが、必ず臭いのきついものばかりが入っていた。
滋養強壮になるものが多いとはいえ、臭いぷんぷんでは浮気もままならない。
小夜子の怒りは、いまだ収まらない。
*****
次は 「キャンディ」「パソコン」「風呂」にて。
ひのさんの後が続いちゃった。たまたまなので、勘弁してくださいね。
人とはわからないものだ。
何でもうまくこなし神童と呼ばれていた彼が、今ではとても儲かりそうにない路上キャンディ屋さんだ。
最近では、少しでも子供の目を惹きつけようとでも考えたのか、素人丸出しの人形劇とか始めてた。ズレてるよな。
人の能力というのは、必ずしも伸びていくわけじゃない。むしろ衰えていく場合も多い。老け込む年でもないのに、だ。
才能だとか、センスだとか言うやつは、とても脆くて崩れやすいものなんだ。
ちょっとしたきっかけで全く使い物にならなくなったりすることがしょっちゅうある。
俺は人様に誇れるようなズバ抜けた才覚とか持っているわけじゃない。それでも、衰えを自覚することもある。
今は仕事をしていなくて、毎日パソコンと睨めっこ。鈍ってゆく。それなりに鋭敏だと自負していた俺が……。
「俺」という存在そのものが、虚ろになってゆく――。
これはきっと気のせいだろう。そうとしか思えん。風呂の鏡に、俺が映らない。
一度目を擦ってもう一度見る。当然、今度はちゃんと見えた。
張り詰めた生活が終わりを迎え、俺は外界に解き放たれた。存在意義を見出せない。
鏡に映らなかったのも、強ち偶然ではなかったのかも知れぬ。
「自然」「マニア」「究極」
いえ、お気になさらず。最近書く人が少ないから。
自粛ムードなのかな^^;
一人ぐらい居ても良さそうなのにまだ出てこない……。
ゴメソ誤爆
「自然」「マニア」「究極」
僕はその一部始終を驚きながら見ていた。
彼はベッドの下にあるスイッチを押し、テレビの裏にあるコードをクローゼットの裏のコードとつなぎ、
ラジコンの隣にあるリモコンを操作し、壁から突如現れたコンピューター・パネルにパスワードを打ち込み、
机の2番目の引出しのなかにあるスイッチを押した。
その行動はとても手際よく、てきぱきと行なわれた。僕は呆然としつつ彼の行動を見ていた。
―なんで普通の中学生の部屋に、こんな装置があるんだ?一体彼は何をしてるんだ?
そんなことを考えているあいだに、部屋の壁の一部がぐるりと回転し、何かが現れた―
「おい、この装置スゲ―だろ。自然に、かつばれずエロ本を隠す究極の装置」
エロ本。まさにマニアックだな、と僕は唸った。
「アルマジロ」「スーパーカー」「崖」
後ろから奴らが追ってくる。
この先は……、解っている。もうすぐだ。ほら。崖がもう目の前だ。
だがここに来ればそうなる事はわかっていた。
俺は、慌てずに助手席の相棒に目配せをした。彼女は、心得ていて
すぐにダッシュボードを開きその中のボタンを押した。
その瞬間、俺らの愛車は唸りを上げ、前転しつつ自動車すべてが硬い皮に覆われた。
そして、崖の端で向こう岸に向かい、飛んだ。いや、正しくは跳ねた。
新しく付けられた変形機能の一つ、C-アルマジロだ。
蛇足だが他にはA-ドルフィン、B-グリフォンがある
そうして俺と彼女は、唖然とする奴らを嘲笑いながら悠々と逃げ去った。
「子守唄」「紅茶」「送迎」
すみません、一部消してしまいました。
下から3行目の前に『俺たちの誇るこのスーパーカーに、』が入ります。
VSさん出てきてよ!
VSさん、逃げないでよ!
バキスレはこの板はレベル高いって言ってたけど、
少なくともこのスレはそうでもなさそうだ
だって、VSさんがいるんだもん!
VSさんいないのかな?
出ておいでよ!
歓迎するよ!
VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS! VS!
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お題が面白そうなのあったら何か書いてみよっと
「子守唄」「紅茶」「送迎」
7月6日 水曜日
僕はいま、テーブルに大学ノートを広げ、この日記を書いている。
この行動は意味のあるものだろうか、とふと思う。あるのかもしれないし、ないのかもしれない。
あれから1年が経つ。僕の近くで妻が洗いものをしているが、彼女の手は止まっている。
ぴたり、と静止し全く動かない。水は皿にあたったところで止まっている。水しぶきも空中で止まっている。
二階の子ども部屋では息子が勉強している。紅茶のカップをつかんだ手は止まっている。
右手のシャープ・ペンシルは漢字を半分ほど書いて止まっている。まばたきひとつしない。
外に出ても、誰も動かないし、まばたきしない。状況は1年前と変わっていない。
いや、1年前ではない。時間は止まったままだ。状況は現在と変わっていない、とでも言うべきであろうか。
ある日突然、何もかもが止まった。僕を残して。僕が新聞を読んでいるとき、ふと目をやると皆止まっていた。
テレビをつけても、映像は流れるくせに、どこの局も止まっている。
あるニュースは「ベン・アフニ―来日!豪華送迎」とテロップを表示して止まっている。
ある番組は「これで子守唄いらず?簡単子どもあやしワザ」とテロップを表示して止まっている。
その日から何もかもが止まったのだった。
僕は未だ腹も減っていないし、喉の渇きも感じないし、尿意すらない。あれから全ては止まってしまったのだ。
「海」「牛」「自然発火」
575 :
「海」「牛」「自然発火」:04/02/28 22:01
気づいたら誰かを燃やすようになった。最初は僕の仕業だとは到底思えなかったが「燃えろ」と
念じると誰だって燃えた。僕に燃やされた人達は皆、無言でのた打ち回り死んでいった。
超常現象、自然発火、プラズマ。非現実的な語句で僕の行為は片付けられた。
家族と友達を失った。誰かを憎いと思うと、その対象は僕の意志とは無関係に燃えてしまった。
全身火達磨で。
恐ろしかった。自分の能力が恐ろしかった。
でも、どうやら僕はこの能力を使わないと死んでしまうらしい。誰にも会わず、誰とも接点を持たない
ようにしていたらどんどん衰弱してしまう。生きた屍のようになってしまう。
僕は生きる為に誰かを燃やし続けた。死なない為に誰かを燃し続けた。
その罪悪感に苛まれて、僕は今、浜辺に一人佇んでいる。
自らの命を絶つ為に。
一ヶ月間、誰も燃やさなかった。辛かった。でも、その辛さからもうすぐ解放される。
牛歩のごとくゆったりと海の中に向かって歩き出す。
海中なら僕の能力が誰にも届かないだろうことを祈って。
次のお題は
「自己犠牲」「ハンカチ」「体育館」
でお願いします。
「自己犠牲」「ハンカチ」「体育館」
自己犠牲。二十歳を過ぎた大人からしてみれば、様々な状況を思い描かせてくれる言葉である。
戦争から、裁判まで。様々な連想が出来る。
だが、小学三年生がこの言葉から連想する事柄は一つしかない。
日本一有名なRPGゲーム。ドラゴンクエスト。その中の数ある呪文の一つ。
そう、「メガンテ」である。
とある晴れた日のこと。私は友人の宅に呼ばれ、その友人と共にドラゴンクエスト5をプレイしていた。
プレイ開始から数時間後、友人はトイレに行くといい席を後にする。
そこから数分間、ゲームの中の主人公達の運命は、私の手にゆだねられた。
突然、ピンチが訪れる。仲間は壊滅状態。馬車から、爆弾岩のロッキーが飛び出す。
あの呪文を使うしかない。そう思った私は、ロッキー出現のターンで即メガンテを唱えさせる。
ピロピロピロ。モンスター軍団はくだけ散った。ロッキーは力尽き、息絶えた。
あれ・・・?そう、私は忘れていたのだ。メガンテを唱えたキャラは死ぬということを。
ドラクエのルールでは、全滅後主人公だけが生き返り全滅時の所持金額が半額になった状態でプレイ再開となる。
しばしあぜんとする私。急ぎ友人に連絡しようと、私は今のゲームの状態をセーブして友人を探しに行った。
そのことが、私の運命の分かれ道だった。友人がその後私と絶交したのは言うまでもない。
所持金半分の状態でセーブをしてしまった私。そのことを数日間悔やんだ。
数日後、私はその友人と他数人に体育館の裏に呼び出される。いじめのはじまりだった。
小学生は、知能が未発達な分、いじめの理由も単純なのだ。
この時の理由は当然、私が勝手にセーブをしたから。
その後一年間、私はクラスの影となった。給食の後の昼休み。
教室の片隅で一人で泣いた。母親に買ってもらったハンカチを噛みながら。
次のお題
「うんこ」「マラソン」「川原」
>>573 おぉ、うんこ氏!
先日はお世話になりました。
大したスレではありませんが、御くつろぎ下さいませ。
うんこです。
道路でそれとなく佇んでいると、向こうから有名マラソンランナーの藤多選手が。
踏まれた。足の裏には、粘り気のある僕がベットリと(しかも、気付いてないみたい)。こんにちは、新しい僕。さようなら、昔の僕。
藤多選手の足が前に進む度、最初の僕とどんどん離れていく。それと同時に、新しい僕が地面にどんどん増殖していく。
やがて、粘り気が落ち、地面に接着して増殖することはなくなった。
僕は、川原に来た(ちなみにここからの僕は、「藤多選手のシューズの裏にこびり付いた」僕だ)。
他の「僕」たちの想いが入ってくる。(いいな。二号はいいな)(いいな。二号は移動出来るんだもんな)(いいな。僕らは暇だもんな)
どうやら、僕は二号らしい。ちなみに、今は14号くらいまでいるみたい。
他の「僕」は僕を羨むけど、僕の旅もとうとう終わりを告げるときがやってきたみたいだ。
偶然、マッチ箱くらいの大きさの石に擦りつけられて、藤多選手のシューズからうんこが一片もなくなってしまった。
あーあ、ついに僕も他の「僕」の仲間入りか。15号目くらいかなあ。そう思っていた。
しかし、その時奇跡が起きたのである。藤多選手が蹴り上げた石は、なんと川の中に落ち、ぷかぷかと漂い始めたのだ。
しかも、僕のくっついている面は川に接していない。ということは、まだ旅が続くってことだ。
ごめんよ他の「僕」。一杯、色んなモノを見てくるよ。そして、僕が消えゆくまでそれを伝え続けるから――。
「セーバー」「オーバー」「闘志」
580 :
名無し物書き@推敲中?:04/02/29 07:45
オーバーなセーバで闘志をむきだしにしてたたかったよ。
次は
「憂い」「冷徹」「同情」
581 :
名無し物書き@推敲中?:
彼の表情には憂いさえ刻まれていない。
度重なる虐待と極度の飢えが、彼の顔から表情を削り取った。
峠を越したと言えど冬夜は未だ冷え冷えと、
工事現場にあるようなブルーシート一枚で寒さをしのげる筈もない。
今、横たわる彼は、身を切るような寒さとともに、激しい背中の痛みを感じていた。
風呂に入るために少年の横を通りすがった父親が、
気まぐれに彼を殴りつけたとき、体勢を崩した少年は背中を強く床に打ち付けたのだ。
殺さぬよう障害を残さぬよう、冷徹な配慮を伴った暴力の加減がその時たまたま狂ったのか。
もし、少年が明日目覚めることがないのなら、それは少年に同情した神様の慈悲なのか。
暗闇の中、少年は目を閉じる。
凍えるような寒さに包まれながら。
「表情」「痛み」「包」