この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段

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「人魚」「薔薇」「船上」

昔々ある所に、人魚たちの住む平和な入り江がありました。
人魚は金色の鱗を輝かせながら泳いでは、浅瀬で巻き貝を育てたり
深海の海草で薬を作ったりしていました。しかしどこの世の中でも
平和は長くは続かないものです。ある嵐の夜、恐ろしい風と波にまぎれて
人間の海賊を乗せた船が、人魚たちの入り江に迷い込んできたのです。
海賊達は長い航海ですっかり荒んだ心に磨きがかかり、人魚たちを見ると
「生け捕りにしろ!」「逃がすな!網をかけろ!」と躍起になりました。
船上から望遠鏡で指示をだしている、海賊の船長は「伝説の人魚を見つけるとは
運がいい。さて、小娘の人魚の味はどうかのお」と好色な笑いを浮かべています。
「船長!人魚の娘どもは、全員生け捕りにしました!」「こいつは上玉ですぜ」
片目の手下が、にやにやしながらひとりの人魚の娘を引きずってきました。
船長は人魚の薔薇色の体を思う存分、嬲りはじめました。人魚の娘は「いやあ!!」と
悲鳴をあげました。そして髪の毛の中にかくしていた、人魚の秘薬を呷りました。
すると、人魚の体はみるみる破れ、中から青い鱗で覆われた醜い魚があらわれました。
「ぎゃあ!」海賊達の叫びも空しく、全員、人魚達に貪り喰われてしまいました。
青い鱗で覆われた魚になった人魚たちは、遠くの海に旅立っていきました。いまでも
今でも人魚たちは、青い魚の形で暮らしています。この魚を「鮫」と言います。
鮫は人と魚が交わってできた悲しく恐ろしい魚なのです。

つぎは「夕」「怨念」「断崖」でお願い致します。
  最近やたら肩が重い。
 最近、仕事がキツい事もあるかもしれないが、休みを挟んでも変わらない。
 別に原因があるのだ。そう、仕事とは別に――

  今思い返すと、この部屋に越してきた頃からおかしくなってきた気がする。やたら家賃安かったし。
 もしや、よくテレビとかで聞く『この部屋に怨念が〜〜』みたいな!!? 勘弁してくれ……宜保さんは亡くなったし。
 ちくしょう…今日はたまの休みだってのに……こんな事を悶々と考えていたらもう外は夕焼けかよ……そりゃ烏も鳴くよ。
 
  そして、夕日も落ち、闇が絶対的な質量で迫る。
 だが、おれは電気を付ける気にはなれなかった。
 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い―――――!!!!
 憑かれているのか? おれは憑かれているのか!!? 取り殺されてしまうのか!!?
 嫌だ…そんなのは……嫌だッ!!
 おれは意を決して扉へと向かう。こんなとこ、おさらばよ!!
 一心不乱に眼に見える扉へと走る。よし、早く――刹那。
 扉は、底の見えぬ断崖に姿を変えていた。
 ガラスを勢い良く突き破る音がし、そして、地面に大きめの物が落ちる音が続く。
 何かがおれに、ガラス窓を扉と断崖に見せていたのだ。
 その何かが例の怨念なのか、それとも、おれの……
 

次は「砂丘」「ランバダ」「サイバー」
229名無し物書き@推敲中?:03/10/06 22:09
ここいくつか良作が続いてるね。
ここが一番まともなスレだな。
お邪魔してごめんよー
「ねえ、砂嵐って見たことある?」
さゆりは、ザーザーとノイズを吐き出すテレビの画面に向かって、ボソリとつぶやいた。僕は返事をしない。
――要するに何もする事が無いのだ。
僕らは二人してひざを抱えて座っていた。
目の前のテレビは何も映し出さないし、僕らはテレビにそれを求めているわけでもない。
彼は十分に役割は果たしている。画面にはちゃんと砂嵐が写っているではないか。吐き出す雑音も、どうせ耳に入らないのだから変わりは無い。
今は、何をしていようとも無為な時間には変わりない。
たとえブラジルでランバダを踊っていても。砂丘で本物の砂嵐の中にいても。
突然電話が鳴った。
「回線の修理が完了しました」
その事を伝えると、彼女は少し微笑んだ。
「行こうか」
「――うん」
僕らはそれぞれのPCのスイッチを入れた。
そうして漸く、僕らは心地よいサイバースペースに戻る事ができた。

次は「犬・自転車・公園」で。
231名無し物書き@推敲中?:03/10/06 23:31
鳩とたわむれる老人。
ベンチで読書をする青年。
犬を連れて散歩をしている女性。
紅葉を眺めながら、ゆっくりと自転車をこぐ家族連れ。
噴水の周りでおしゃべりに興じる少女たち。
まどろむような、柔らかな時間の流れ。めくるめく鮮やかな四季の移ろい。そこはまるで夢のような暖かな場所だった。
すべては過去の話だ。
その公園はすでにない。
いまでは見上げるばかりの高層マンションが聳えている。
白く鮮やかな外観をしていたが、彼にはそれが墓石のように見えた。
なにもかもが失われ、変わっていく。残るのは思い出だけだ。だが、それさえも時がたてばあやふやなものにならざるを得ない。
そう、確かなものなどなにもなくなっていくのだ。
この現実の、そして自分の中の、確固たるなにかが、砂が零れるように失われていく喪失感・・・・・・。
「なあ、俺は老いた。本当に老いてしまったよ・・・・・・」
彼はひっそりと呟いた。誰かに語りかけるように。おぼろげな思い出の中の誰かに。
青白い街灯が、彼の寂しげな姿をいつまでも照らしていた。
いつまでも。

次は「名門」「養成」「除籍」