下校時刻を知らせるチャイムが鳴る。
――放課後の理科室。
なんていうと怪談や恋愛話の舞台にされる事が多いが、実際にはそんな事は無い。部屋中に充満する消毒液の匂いで、青臭い学校独特の匂いも消えてしまう。
「うーん、もうヤメヤメ!」
「わかりやすい脱離反応なんて知らないわよ。」
「まったく、先生が自分でやれよな。」
部員達からは口々に不平がふき出す。
僕達は今、学習も兼ね、脱離反応を見る授業で使うための教材を作らされている。
副部長の野田さんが薬品にフタをしながら言った。
「素材が間違っているんじゃないの。明日、また新しい素材でやってみましょう。」
いいかげん飽きていた部員達は、その言葉を聞くやいなや、さっさと帰宅し始めた。
残ったのは僕と片付けをしていた野田さんだけとなった。
――流れる沈黙。
この部屋は、沈黙をも脱離させ無機なものにしてしまう。
現実なんてこんなものだ、人は化学式のように簡単にくっ付いたり離れたりできないのだ。
「はいはい、言い訳しない。もてないのはただ単に、あんたがオタクだからでしょ。」
片付けが終わった彼女は、そう言い残すとスタスタと教室を出て行ってしまった。
――思ったことを口に出してしまうのは僕の癖なのだ。
せっかくだから、次のお題は「城下町」「相対速度」「帽子」で。
今日は、江戸城跡に来た。現在は皇居となっている。
日差しが容赦なくおれを照り付ける。持ってきた帽子を深くかぶった。
しかし…パトカーが多いなあ。嫌な感じだ。
城下町は、随所に江戸時代の香りを残していた。
俺はこの時、「相対速度」という単語を思い出していた。
一方から見た他方の速度――
現代は、時間が急速に進んでいる。時間の丈が短い。
江戸時代の人々は目を回すんじゃないだろうか……?
心の中に情景を詰め込んで、俺は江戸を後にした――
次は「ボクシング」「競馬」「新聞」
「あーあ、またすっちまったか、何で普段は勝てないかね、ったく」
有り金の底が尽きかけた俺は、今度こそバイトを探そうと思った。
どんよりと曇った冬の寒空の下、公園の片隅にあるゴミ箱から取り出したスポーツ新聞。
トップ記事はボクシングで日本フライ級王者が変わったとかだが、俺には関係ない。
所詮才能に恵まれた物の世界、俺には眩し過ぎる。
そして目的のページを開くと、土方やパチンコ屋といった定番の仕事が並ぶ。
中にはコンピューター関係もあるが、機械音痴の俺には無縁の業種。
どれを選んでもこれじゃ変わらねえや……そう思うとやるせなくなった。
色々考えているうちに嫌気が差し、結局俺が出した結論は、
残る金を競馬につぎ込む事、当たればまた数日は持つ。
なぜかこういう時に限って当たってしまうのが俺の経験則。
これでは駄目だ……内心そう思っていても、1年前恋人を失って以来
生きる理由をなくした俺には、嫌な事をしてまで立ち上がる動機はなかった。
やるせない葛藤を抱えたまま、俺はまた競馬場に足を向けた。
自分が変わるきっかけは、一体どこにあるのだろうか。
今の俺の人生は、それを探す旅なのかもしれない。
次は「ちんまい」「魔法」「携帯」で。
お題、形容詞が混じってるとダメですか?
良かったらそのままでお願いしたいですが、
ダメでしたら「ちんまい」→「仮想」でお願いします。
携帯電話ってのは、前世紀の未来予測で唯一実用化されたもの、だそうな。
ほんの十数年前までは車に無線電話積んだだけでぎゃあぎゃあ騒いでたの
に、技術の進歩ってのはすごいぜ、ホント。
アーサー・C・クラークだったか、『十分に進歩した科学は、魔法と見分けがつ
かない』つったのは。まさに魔法だな、あの野戦通信機を遥かに越える機能が、
あんなちんまいボディにパッケージングされてるんだ。
なんか『科学の限界』とか、色々言われてるけど、そんなのは十九世紀にも言
われてたことだし、人間はその限界の壁を打ち破ってきた。
俺は携帯電話を見て思うわけよ。人類はいつか、ほんとうにドラえもんみたい
な世界を作り出せるんじゃないか、ってね。
次のお題は「ハイライト」「布団」「幼稚園」で。