あなたの文章真面目に酷評しますPart12

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942べらの ◆Im4lkGa4xk

 実況の、浮遊感のある気持ち悪い声がずっと聞こえていた。
 ちっともうるさくないのに、その声は頭の隙間にから入り込
んでくる。頭蓋の中にがらがらと響いて、ひどく、わずらわし
かった。
 随分長いこと飲んでいなかったせいだろうか。いつの間にか
弱くなっていたらしい。
「お兄ちゃん……」
 妹の声に、つと眼を向けた。
 やはり俺と同じような状態なのか、その双眸は少しだけ理性
を欠いたようで、顔は真っ赤に染まっていた。弱いくせに無理
をするからだと言ってやりたかったが、あいにく自分も似たよ
うなものだ。
「もう寝ろよ、顔赤いぞ」
 頬を指差す。けれど、彼女は聞いているのかいないのか、
よろよろとソファから身を起こし、そのままこちらに向かってくる。
「おい……」
 危ないぞ、と忠告するよりも早く、彼女はゴミ箱につまづいた。
ふわりと浮かび上がる光景だけが目に残り、次の瞬間には、彼女は
俺の上に倒れ込んでいた。
943べらの ◆Im4lkGa4xk :03/10/19 20:03
「……」
 顔が、目の前にあった。
 生ぬるい吐息がした、さっきまでつまんでいたポテトチップスの
匂いが、俺の鼻腔をかすめていった。
 目を閉じて、開く、やはり彼女はそこにいる。何度見ても、変わ
らない。
 どうしてだろう、と思った。
 心臓の音がした。
「あ……」
 それは大分遅れた悲鳴だったのかもしれない。彼女の口が小さく
動くのが見え、吐息とも、動揺ともつかない母音を吐き出した。
 俺はただ彼女が動き出すのを待った。引っ叩くか、突き飛ばすか、
大声で罵るか。そのどれかのあとで、彼女はどいてくれるだろう。
そうすればこんなに心臓が高鳴らないで済むからだ。
 けれど、いつまで経っても、彼女は俺の上から離れてはくれなか
った。
「お、にい、ちゃん……」
 たどたどしい言葉がした。震えているのか、上手く聞き取れなか
った。
「……なんだ」
「ね……してみようか」
 何を、とは、聞けなかった。