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背の高い鎮守の森の木々の中、灯りの入った石灯籠の列の間を
通りぬけたその先に、わっと騒がしい夜店が軒を並べていた。
祭り提灯、音の割れた太鼓の音。テキヤの呼び込みもかびすましく、
綿あめ、たい焼き、大阪たこ焼き。チュロス、シャーピン、韓国チヂミ。
金平糖、水中花。ビー玉、ヨーヨー、おもちゃくじ。
射的、鉄砲、弓、輪投げ。いかがわしくも、怖くない安普請の化け屋敷。
浴衣姿の若い乙女と髪の黄色い男が嬉しそうに歩き、孫につれられた爺が
孫よりおぼつかないような足取りで、追いかける。
中ほどにあったお面の屋台の影に、狐のお面をつけたどうも年配らしい男が
しゃがみこんでいた。妙に古びた面で、材質もプラスチックではない。
いぶかしく思って、足を止めてみていると、男が立ち上がり、声をかけてきた。
”面が欲しいか。いい買いもんだよ、お代はあんたの記憶の1時間分だ”
どの一時間?
”あんたの初めての夜の記憶がいいなあ”
それだけの価値があるの?その面に。
”買ってみてのお楽しみかな、俺が見えたあんたになら、きっと価値があるぜ。”
あんな記憶でいいならいいよ。
”よっしゃ、商談成立。”
狐の面をつけると、なるほど世界が様変わりしていた。