”3面の鏡台”
洋間であったのに、何故か窓に南部鉄の風鈴が揺れていた母の寝室に
磨きこんだ鏡台が置いてあった。
紅い漆塗り仕立てに螺鈿の小菊が片隅に寄せられた扉がついていて、
そっと開けると互い違いになった2枚鏡が内側に現れ、大きな3面を作り出す。
かすかな香水と白粉の香りが漂う引き出しを恐る恐るあけ、
母の口紅を唇に差してみる。
見よう見まねで紅筆を使い、輪郭を辿った。生ぬるい味。
ふと顔を上げると、3枚の鏡の中に無数の女が立っていた。
見てはいけないモノを見てしまったような、後ろめたい思いのまま、
食い入るように女になったその姿を見ていると、一人少女のままの
姿がいて、にこっと笑って手を振り、横へ歩いて消えてしまった。