糧
「貴様は息を吸う・吐くという行為を君たち人間はいちいち意識しながらしているのか?」
灰色スーツの男はにやりと笑いながらこう言った。目の前で怯える大統領がその問いに対して
明確に答えることができないことを、前もって知っていたというように。
「つまりだね、わたしたちのやっていることは君たちのいう呼吸程度のものということだよ。
本能や無意識とも違う、もっともっと深く根差したモノさ。地球上の生物ってやつは呼吸を
知らずに生を受けたりはしないだろ。魔界の生き物もそれと同じように、殺戮の喜びを
知らずには生まれてはこないんだよ」
「だ、だからといって……そのままお前ら悪魔を無視しておくなんて、できるわけがないだろう」
必死で喉の奥から出した大統領の声は、恐怖で震えていた。
ただ、動けずにいた。視線さえも反らせなかった。
唯一動くのは驚きと恐怖によってだらしなく開かれ続ける口だけだった。大統領の背中からは
チリチリと鈍い痛みが走り続けている。死がわたしの身体を灼いているのだなと、大統領は微かに思う。
働くことを忘れてしまった大脳皮質は恐怖を存分に受け入れていた。それでも逃げることはできずに、
ただまっすぐ目の前の男を見つめるしかできなかった。
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名無し物書き@推敲中?:04/06/22 18:35