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350痴話げんか 
【決定事】

――カラン・コロン。下駄を鳴らしながら向日葵やら菖蒲などの染めを抜いた浴衣を着流し
手に手に団扇を持った乙女達が歩いていく。ほつれたうなじも清々しく満面の笑みで
彼氏らしい男性と、はしゃぐ様に幸せそうな顔で歩いている。
 僕はと言えば、しがないサラリーマン。花火大会というのに相手も無く疲れた体を夜風に当て
マンションの屋上から通りの様子を羨ましく眺めていた。
 空は、街中の期待に燃えるかの様に焼けている。
 突然、ドーン。ヒュルル――と、号砲一発。漆黒の天空に大輪の花が咲く。見る間にじりじりと
音を立てながらしぼんでゆく。
 観客めいめいの歓声と、ため息。
 小さい頃は、家族皆で見た事を思い出す。遠い夏の思い出。
 永遠に僕は、一人でこの花火を見るんだなって思うと切なくなった。
えっ?何で永遠に一人でって決め付けるかって?
だって性が無いでしょう。
ほら、マンションの下には、僕の為の献花が添えてあるもの……。