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282名無し物書き@推敲中?
緑に萌える森のその奥。清らかな水の流れは途切れる事を知らず、水面に映る新緑は貴い。
森は、深く薄暗くなるにつれ、現世は、過去に溶け合う。
鬱蒼と木々は絡み合い、僕の行く手は、やがて阻まれた。
歩みを止め思慮を巡らす。結界を破るために印を組む。
僕の目の前は、嘘のように明確になる。人返しの結界も容易く破られた。
遠くから響く声は、鳥のものとも獣のものともつかず、いや冥界の亡者のものかもしれない。
時折、木々の間からこぼれ来る光のその先に、よりいっそう隠鬱な巨木が有る。
呼んでいるのだ。独鈷を硬く握り締め、呪言を唱える。
巨木から垂れる枝の先に彼は、やはりいた。
強烈な念が残る彼の遺骸。健常な者なら恐らく途端に具合が悪くなるであろう程の霊場。
世界を呪う彼の念は、史上でもそうそういない程の強さである。
おもむろに、頭骸骨に手を当て気を逆流させる。
走馬灯のように彼の記憶が通りすぎていった。浄化するには場所が悪すぎる。
気配は、彼に同調し何時しか一体になっている。
激しい憎悪に吐き気がする。腹膜が振動し咽喉から胃酸が噴き出す。
瞬間、僕の盲いた右目の涙腺から血が流れ落ちた。
次第に頭を締め付けるように襲う頭痛。双脚の筋肉は、小刻みに痙攣を始め瞳孔は収縮し始める。
極端に狭まる視界の中、点のように嘲笑う意識が蠢いた。
彼だ。鬼のような形相。逃げ水のように定かではない実態。
取り殺される。意識が混濁し真っ白になったその時、私の守護天使は覚醒した。