不意に騒々しくなる廊下。
「17の、クランケ、急変よ。昇圧剤とカウンタ準備して。それとカニューレ。羽鳥先生は、何処?」
「ついさっき、エッセン出ました」
「すぐに呼び返して。オーベンも大至急呼んで」
「なんかプシコに詰め寄られてムンテラしてました」
「私が相手するから。内2でいいの?」
「は、はい」
「どいて!それからプシコなんて言わないの。わかった?」
「はいっ」
「楠美さん!アレストです」
「・・・・・・カウンタして!」
ターミナル医療と呼ばれる郊外の診療所。常に死の匂いがしている。
新米の子が入って来ても半分は、思い悩んで2ヶ月もすると転院してしまう。「ここは、死を待つんじゃなく、いかに生きるかって場所」と言い聞かせても心の痛みに耐え切れ無くなってしまうのだ。
「楠美さん……では、ないですか」不意に、呼び止められた。そこには、小学校の時の先生が立っていた。
「三ノ輪先生……」
膵臓癌だった。進行は、早く高齢で進行が遅い事を差し引いても長くても3ヶ月程度しか持たない。身近だった人が、ステルのは正直辛い。
「そうですか。告知受けられましたか」
「えぇ。あと三ヶ月だそうです」
先生は、それでも昔のように、背筋を伸ばし凛としている。そう、私は、彼女のこの姿に憧れていたのだ。
「ナチュラル・コースというんですか。抗がん剤とか治療は不要と言いました」
彼女らしい選択だと思った。
「鎮痛剤だけは、してもらってます」
彼女の生き方であれば、きっと思い残す事も無いのだろうなと思った。使用量が増えて彼女が朦朧とする姿は、想像出来なかった。
「楠美さんも、想像通り立派になられましたね」
もちろんです。あなたに憧れてたんですから。言えなかった。
3ヶ月後、彼女は亡くなった。彼女の最後の言葉は、一生忘れられない。
「や、薬をくれ!」
>>>俺って最低だな。