せくしーソウル

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1ぺくすこんだる
http://bbs.teacup.com/?parent=hobby&cat=1814&topics=208
遊びにきてね。

「シーメール1」

「欲しいわ」
 と涼子がいった。私が上になり涼子が枕を腰に当てた。
潤滑油は必要なかった。私のグランスは透明な粘液でヌラ
ヌラしている。いつになく青筋を立てた鉄柱のような私の
ものは、きつい抵抗を感じながらもメリメリと少しづつ涼
子の中に呑み込まれていった。
 内部は私自身を包み込んで柔らかく蠕動した。根元が意
識的に強く締め付けられる。ヴァギナとは比べものになら
ない力だ。私はゆっくり抽挿する。体位をバックにしよう
と上体を起こしても、グランスをぎゅっと掴まれて離れな
い。私たちは繋がったままバックスタイルになった。

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2名無し物書き@推敲中?:03/08/17 07:04
R束・倒壊・酉のリバイバル運転を中心に
日本の鉄ヲタ会をリードしてきた半ズボン氏

「マツタケ疑惑」から「盗撮玉井襲撃事件」まで
あの忘れられない名写真の数々

2ちゃんねらーに感動とネタを提供してきた
伝統の半ズボン氏スレッド いま創作文芸板へ
3名無し物書き@推敲中?:03/08/17 07:05
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1060109950/418
ここで宣伝されてるよ。よかったな、徐。
4ぺくすこんだる:03/08/17 07:05
http://bbs.teacup.com/?parent=hobby&cat=1814&topics=208

「シーメール2」

 私はまた回復してきた。ひと夜に最低二度しなければ、セック
スの良さは分からない。まず十分に喜ばせてもらい、次には相手
を悦ばせることを十二分に楽しませてもらう。場合によっては、
順序が入れ代わっても良い。
 涼子の舌は私の菊の花に似た部分を捉えた。管楽器を奏でる時
のように、激しくタンギングする。痺れるような快楽の波に押し
流されそうになるが、今度は涼子を楽しませ忘我の世界へと導い
てやらなければならない。そうすることで私は心身ともにより深
いエクスタシーを味わうことが出来る。
 涼子のアヌスは野菊よりも小さく、薄桃色をしていて仄かな柑
橘系の香りがした。ニナリッチのコロンでも付けているのだろう
か。ふと、都忘れという可憐な花を思い出した。涼子のアヌスは
女忘れかも知れない。私はタンギングのお返しにその可憐な花を
吸引し、舌を差し入れた。
5名無し物書き@推敲中?:03/08/17 07:20
kkkさん、ご心配には及びません。私を超える作品をお寄せ
ください。具体的にどこがおかしいかなどとまともな指摘、
批評をしてくれるとありがたいんですが。kkkさんに期待
しても無理なようですね。

61:03/08/22 17:04
どいつもこいつも、よってたかって馬鹿にしやがって。
だいたい何で「お前のスレは糞スレ」とか言ってんだ?
ここは俺のためのスレじゃなくて、いろんなやつが
話し合えるように立てられたスレなんだよ!
最初に俺が自分のスレ立てただけで、そんなに悪いのか? あ?
お前等、みんな白痴なんじゃねぇのか?
それから俺のことを馬鹿扱いしてる阿呆ども!
俺は偏差値60の大学出身って言ってんだろ?
俺が馬鹿なわけねぇだろ。全部ネタだよ。
厨房釣って楽しんでただけなんだよ!
あと俺の一生懸命立てたスレをけなしたやつら!
自分じゃ創作のひとつもできないくせに偉そうなことぬかすな!
つか、本当はこんな凄いスレを立てた俺のこと羨ましいんだろ?
ま、ここで俺を馬鹿にした全員が謝罪すればもっとすごい名スレを立てて
やってもいいけどな!
ほら、はやく謝罪しろよ!
7ぺくすこんだる:03/08/22 18:33
なんだか暑さにやられて興奮したすっとこどっこいが乱入しましたが、
これも一興。どんなコメントでも歓迎します。
8ぺくすこんだる:03/08/23 03:18
http://bbs.teacup.com/?parent=hobby&cat=1814
「ふたりだけの話し」


  酔いも手伝って互いに冗舌になった。
「寮には結構レズのカップルも多いのよ」
「ふうん、僕はレスビアンのビデオを見るのが好きなんだ。女性の体がこの
世で一番美しいと思っている」
「変態よ、鳥肌が立つわ」
「変態かなあ。芸術的だと思うんだけど」
「じゃあ、ホモは?」
「あれはいけません。想像しただけで鳥肌が立ちます。ただ、ボディビルダー
は男でも女でも素晴らしいと思うな」
「私は駄目。筋肉ばかりに気を取られて内面が充実していないって感じ」
「バストの大き過ぎる女性は脳味噌が足りないっていう説と同じようなものか
なあ。君の胸は僕の手のひらにぴったり納まるから、理想的な大きさだね」
「やだあ」
 話題を変えなければならない。
9ぺくすこんだる:03/08/23 07:46
http://bbs.teacup.com/?parent=hobby&cat=1814&topics=208

「今日は外泊届けを出して来たの。どこか静かな所へ行きたいわ」
「ホテル代は持っていないよ」
「近くのビジネスホテルが安くてきれいだって友達がいってたわ」
「ああ、ホテルミラボーか」
「行ったことあるの?」
「傍を通った時、アル中で乱暴、いやアルチュールランボーを思い出しただ
けさ」
 彼が電話でホテル代を聞くと、ふたりの所持金でなんとかなりそうだった。
ライブも終わり私達は店を出て、新村駅とは反対の方角に歩き始めた。

 ホテルの部屋はちょっと窮屈だったが、清潔感がある。私はヨンテの前で
服を脱ぎ出した。透けて見えるブラとパンティーだ。彼が目を丸くした。
ヨンテは服を脱ぐのももどかし気に、シャワーもしないでキスをしてきた。
そしてナイロンのブラとパンティーの感触を楽しむように胸とヒップをまさぐ
った。私の性感帯も心得ているようだ。耳の後ろ、首筋、背中と脇腹にキスの
雨を降らせる。私を全裸にして胸とクリトリスを刺激した。バックからアヌス
に口付けをされた時には、全身がひくついて、下半身がびしょびしょになっ
た。
「仰向けになって脚を閉じて」
 彼は私の股間にペニスを入れ、腰を前後に動かした。
「入れて」
「それは出来ない」
「コンドームがないから?」
「そんなんじゃない。君の悦ぶ顔を見ていれば十分だよ」
 またクリトリスを刺激され何度か行った後、私は彼のペニスをくわえて
ザーメンを飲み込んだ。
10ぺくすこんだる:03/08/24 23:57
 部屋には十時頃戻った。横になったが、なかなか眠れない。するとヨンテの
部屋からコツコツ壁を叩く音がした。私も壁を叩いて、ドアのロックを外して
おいた。ヨンテが少し恥ずかしそうな顔をして部屋に入って来た。
「眠れなくてね」
「荒れた波の音がして恐いの」
「僕が一緒にいてやるよ」
 キスをし、ベッドの上で抱き合った。
「私、メンスになっちゃった」
「構わないさ。朝までずっと傍にいるよ」
 彼は私の髪をやさしく撫でてくれた。

(ヨンテが急に純情になった訳ではなく、友人の会社のゲストハウスに
 頼み込んで泊めてもらったという状況下での遠慮した様子なのです)
11ぺくすこんだる:03/08/31 00:47
「娼婦(抜粋)」

 二枚の舌と四本の手で全身を刺激されるのは堪らない。ちろちろとさわさわ
と、舌と手は金弁護士の性感帯を的確に捉える。捉えるどころか、こんなとこ
ろにも性感帯があったのかと思わぬ喜びさえ与えてくれる。髪の長いソナがフ
ェラチオをする。下半身に触れる髪の感触が心地良い。
 ヨンヒが舌で彼の乳首を転がしながら腰をまさぐる。臀部に痺れるような快
感が走る。王侯貴族とはいえ、同時にするのはふたりの美女で十分だと思う。
かわるがわる交合を繰り返すうちに、彼は姉妹を犯しているような錯覚を覚え
た。それがまた背徳的な欲情をかきたて、行為はいつ果てるともなく続けられ
た。
12ぺくすこんだる:03/08/31 02:19
「ふたりだけの話し」(表現上至らぬ点はどうぞ御指摘ください)


   カルナバル バイ ザ シー

   かもめ飛び 人は舞う

   カルナバル バイ ザ シー

   波は踊り 人は酔う

   しなやかな黒豹が 通り過ぎて行った



 秋の日曜日は退屈で少し寂しい。テニスコートで壁打ちでもしようか
な。私はL女子大の三年生。校内にある女子寮に住んでいる。寮の友人
はボーイフレンドとデートしたり、ソウルにある親戚の家に行ってしま
った。テニスウェアで外に出た時は寒かったが、スカッシュのように壁
にボールを打ち付けているうちに薄っすら汗ばんできた。
13ぺくすこんだる:03/08/31 02:22
「あのう、よかったらお相手してくれませんか?下手なんですが」
 突然、やや老けた学生風の男が声をかけた。ぎこちない韓国語で日
本人特有のアクセントだった。私は日本語で聞いた。
「あなた、もしかして日本人?」
「あなたも留学生ですか?」
「そう、在日だけど。親が国の言葉くらいはおぼえて来いって」
「僕、小田倉龍太といって真館(国際館)にいます。どうぞよろしく」
「私は朴京子。日本語で話しするのは久し振りだわ。私、お腹空いち
ゃった。そろそろお昼だし、うどんでもどうですか?近くにいいお店
があるの」
「そういえばそうですね」
「じゃ、着替えて来るから十五分後に校門で」
 寮までの坂道を上りながら何を着ていこうか考えた。着飾るのも変
だし、結局普段着のジーンズにターコイズブルーの薄いセーターを着
て白いウインドブレーカーを羽織った。
14ぺくすこんだる:03/08/31 02:28
 校門では垢抜けない茶色のジャンパーを着た彼が待っていた。うど
ん屋は校門を出てすぐ右にある。ビルの五階で見晴らしがいい。色付
き始めた樹々に覆われた大学のキャンパスが見える。私はこの眺めが
好きだ。
「何にしますか?僕が払いますから」
 聞けば、彼はS大の大学院に通いながら日本語を教えるバイトをして
いるらしい。
「天ぷらうどん定食にするわ」
「僕もそれにしよう。それからビール一本」
「昼間から?」
「日曜だし一杯くらいいいじゃないですか」
 彼につられて私も一杯だけ飲んでしまった。とてもリラックスした
気分だ。
「もう一本飲みたいきぶんだけど、レディの前だから我慢します」
「年上の人に敬語で話されると距離感をかんじるわ。お友達になって
欲しいから普通に喋って」
「僕もそのほうが楽だよ。ビール、もう一本飲んじゃおうか?」
「どうぞ」
 私も二杯目を飲んで、顔が火照って来たのが分かる。
「僕の田舎は栃木だけど、君は?」
「長野の北の方よ。そろそろ初雪が降るわ」
「御両親は健在?」
「ええ、卒業したら韓国人か在日の人と結婚しろってうるさいの。
特に父親が徹底した民族主義者だから.......」
15ぺくすこんだる:03/08/31 02:30
「ところで学部は?」
「国文よ。そうだ、来週のゼミで発表があったんだ」
「何のゼミ?」
「哲学。禅とはどういうことなのか説明しなくちゃいけないのに資料
が見つからないの」
「鈴木大拙の本なら韓訳書があるんじゃないかな」
 私達は食事の後、校門前にたった一軒しかない書店に入った。幸い
鈴木大拙の本が一冊だけあった。
「有難う。今から勉強しなくっちゃ」
 私は寮まで彼に送ってもらった。すぐに本を読まなければならない
ところだったが、彼のことを色々と考えてしまう。風采はあがらない
が、ひょうきんなところがある。年上だし良い相談相手になって欲し
いと思った。
16ぺくすこんだる:03/08/31 02:34
 七十九年十月二十六日、朴大統領が腹心の部下に暗殺された。先の知
れない不安が韓国を覆い尽くした。しかし、大学では何もなかったかの
ように淡々と講義が続けられた。変わったことといえば、龍太がポニー
の中古車を買ったこととS大に泊り込むことが多くなったくらいだ。た
まに会ってっも政治向きの話しが多い。
「全権は保安司令官が握っている。彼はこの国を統治せよとの神の啓示
があったといっている」
 私には関係の無い話しだ。私にとって切実なのは、何を卒論のテーマ
にするかということだ。一日中、図書館に居るとストレスが溜まる。散
歩をしていて蜂に刺された。
「今日、顔を蜂に刺されてボンボンに腫れちゃった。会いたいの。明日
なら腫れも引くから寮に来てくれるかな?京子」
 彼は留守だったのでドアにメモをピンで止めて置いた。
 \ │ /                              稚内
  / ̄\   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄             札幌旭川
─( ゚ ∀ ゚ )< にっぽんにっぽん〜!            函館十勝根室
  \_/   \_________
 / │ \                             青森
                                  秋田岩手
                                  山形宮城
                                  新潟福島
                                富山群馬栃木
               島根鳥取兵京都福井石川長山( ゚ ∀ ゚ )茨城
      長佐福岡 山口広島岡山庫大奈滋賀岐阜野梨東京千葉
      崎賀熊大分          阪良三重愛知静岡神奈川
         本宮崎  愛媛香川  和歌山
         鹿児島  高知徳島

沖縄                       ∩ ∧ ∧ ∩/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\∩ ∧ ∧ ∩     \( ゚∀゚)< みんなみんなみんな!
 だいすき〜〜〜!   >( ゚∀゚ )/     |    / \__________
 ________/ |    〈      |   |
               / /\_」      / /\」
                ̄         / /
18ぺくすこんだる:03/08/31 03:32
 翌日の夕方、彼は寮の舎監に事情を話し、私を呼び出した。顔の腫れはおさ
まって、それほど痛くもなくなっていた。
「会いたかったわ」
「僕だって。それにしても痛かっただろう」
「昨日はね。でももう大丈夫よ」
「バイトのお金が入ったんだ。何か美味しいものでも食べに行こう」
(この朴念仁、精一杯おめかしして出て来たのに気付いてもくれない。いい
わ、贅沢してやるから)
「今日はフレンチが食べたいの」
「知ってるレストラン、ある?」
「ハイアットホテルのヒューゴーね」
「十万ウォンで足りるかなあ」
「なんとかね」

 私はレストランの雰囲気にはすぐに馴染んだが、ジャンパー姿の彼は落ち
着かない様子だった。まず、ワインのロゼを頼む。
「私は子羊のステーキをレアで。龍太さんは?」
「魚の方が良いなあ」
「今日のお勧めは?」
「鱸の良いものがあります」
 真面目そうなウェイターが答える。
「じゃあ、それで」
「かしこまりました」
 ウェイターが音もなく厨房に向かった。
「君、今日は特に綺麗だよ」
 やっと気付いた。もう遅いっていうの。案外照れ屋なのかも知れない。彼
は全く違う話題を持ち出した。
「来月、女子寮の希望者を募って龍平のスキー場に行くことになったんだけ
ど、一緒に行かないかい?」
「何であなたが行けるの?」
19ぺくすこんだる:03/08/31 03:35
「僕の部屋の向かいに教育学の李貴胤先生と哲学の許赫先生がいるんだけど、
助手扱いで誘ってくれたんだ」
「あら、許赫先生は私のゼミの先生よ。おひとりだから真館にいらっしゃる
のね」
 ソウルの冬は寒いが、雪はあまり積もらない。久し振りに雪景色が見たく
なった。旅行も密陽にある親戚の家を訪れたこと以外、ほとんどしていない。
「道具は現地で貸してくれるから、揃えるのはウェアだけだ」
「申し込んでみるわ。スキーなんて何年振りかしら」

 一ヶ月は瞬く間に過ぎた。十二月十二日、全斗煥保安司令官がクーデター
を起こし、名実共に全権を掌握した。にもかかわらず、年末のスキー旅行は
予定通りに行なわれた。滑ることには自信があったが、アイスバーンで転倒
し足首を痛めてしまった。痛くて立ち上がれない。龍太が心配そうにやって
きた。
「大丈夫?」
「立ち上がれないの」
「救助する人を呼んでくるから、少し待っていて」
 間もなくスノーモービルを運転する人と龍太がスノーボートを引いてきた。
20ぺくすこんだる:03/08/31 03:38
「さあ、スノーボートに横になって」
 救助の人がいった。大袈裟で少し恥ずかしかった。そしてロッジの
傍のクリニックに運ばれた。診察を受けている間、龍太が深刻な顔付
きで傍らに立っていた。幸い骨は折れていないということだった。ク
リニックからロッジまで龍太におぶってもらった。部屋はツインだっ
た。龍太は私をベッドに寝かせ、入り口のストッパーを下ろした。
「意外と紳士的なのね」
 といったら彼は恥ずかしそうな顔をした。
「まだ痛む?」
 痛みは大分薄らいできたが、私は
「痛いわ」
 と龍太に甘えてみた。
「キスして」
 彼は少しとまどって私の額にキスをした。
「ううん、そこじゃなくて」
 私は顎を上げ、唇を半ば開いた。彼は私の肩を抱きキスをした。いつ
か彼と寝ることになるような気がした。帰ってきた同室の女の子と入れ
替わりに彼は部屋を出て行った。
21ぺくすこんだる:03/08/31 04:38
 日本ではソウルの緊迫した状態が誇張して伝えられているようで、両親から
早く戻ってくるように再三連絡があった。ソウルは安全だといっても理解して
くれない。私はいろんな理由をつけて帰国を先延ばしした。国際電話で父親と
口論してむしゃくしゃしたので、龍太に連絡してディスコに連れて行ってもら
うことにした。
 行き先はカジノで有名なウォーカーヒルのシェラトンホテル。龍太をアッシ
ー代わりにするのは気が引けたが、寮にいる限り父からのヒステリックな電話
がかかってくる。大学近くの市場で龍太の好きな海鮮鍋をつつき、焼酎を一、
二本飲んだ。
「今日は寮に戻りたくないの」
 私達は新村駅前のコロンビアという喫茶店で酔いを醒ましてから、龍太のポ
ニーでウォーカーヒルに向かった。明るいブルーの古ぼけた小型車だ。
「よく見ると随分古そうな車ね」
「でもエンジンの調子は悪くない」
 車は三一高架道路を東に向かった。三十分程して小高い丘を上ると。広い
駐車場の向こうに大きなホテルが見えた。

22ぺくすこんだる:03/08/31 04:41

「ここのディスコ、結構イケテルのよ。ハイアットのJJみたいにうるさくな
いし」
「ディスコは初めてなんだ」
「平気よ。リズムに合わせて体を動かせば良いんだから」
 ディスコティックはミラーボール以外、照明は落としてある。そして壁面に
は沢山のテレビが取り付けられていて、色々な映像が流れている。なかなかの
盛況だ。
「さ、踊りましょ」
「一杯飲んでからにしようよ」
 彼はジャックダニエルのロックをダブルで、私はドライマティーニを注文し
た。彼は酒を飲むばかりで、一向に立ち上がろうとしない。その間、何人もの
男に踊らないかと誘われた。
「私、浮気しちゃうから」
 私は次に現れたスーツ姿の男と踊ることにした。ひとしきり踊って席に戻る
と龍太が小声でいった。
「ラストダンスは私にっていう歌があるだろう」
 曲はスローなブルースに変わっていた。暗い室内でミラーボールがゆっくり
回転し、ゆらゆらとした人影を見ていると、深い海の底にいるような気がし
た。私は龍太とぴったり体をあわせ、そっと囁いた。
「部屋をとってくれる?お金は持って来たから」
 龍太は私を抱き締めてから、レジに向かった。フロントに電話をしているよ
うだ。
「ダブルしかなかったけど良かったかな?」
「ええ、チェックインしましょう」
23ぺくすこんだる:03/08/31 04:45
 ボーイに案内された部屋は、広々として漢江が良く見える。先に私が
シャワーを浴びた。白いバスローブ一枚だけで下着はつけなかった。入
れ代わりに彼がバスルームに入ると、私はベッドに潜り込んだ。胸がド
キドキする。彼がベッドサイドに来た時には、毛布の端を肩まで引き寄
せ、目をつむってしまった。全身が震えているのが自分でもわかる。
「君、初めて?」
 私はコクリと頷いた。
「僕は韓国にいる間、処女とはセックスしないことにしてるんだ。大学
院生では責任持てないからね。君と抱き合えるだけで幸せだ」
 といいながら彼は全裸でベッドに入ってきた。長い長いキス。彼の舌
は耳朶からうなじ、そして乳頭に移った。右の乳首を舌先で弄ばれなが
ら、左の乳房を揉みしだかれる。喘ぎ声が止まらなくなった。下半身が
ジュンと潤んできた。
「入れて」
 といったら、彼は体の上下を入れ替えた。舌は脇腹から太腿、ラビア
を刺激する。目の前に怒張したペニスがある。私は自然にそれを口に含
んだ。龍太の舌はクリトリスを転がす。オナニーより何倍も素敵だ。全
身に熱いものが走り、体がビクビクした。同時にネバネバしたものが口
の中一杯に広がった。吐き出しては悪いような気がして、全部呑み込ん
だ。彼はそのまま私を抱き寄せて髪を撫でていてくれた。
24ぺくすこんだる:03/08/31 05:13
http://bbs.teacup.com/?parent=hobby&cat=1814&topics=208

安心感と幸福な気持ちで私はいつの間にか寝入ってしまった。気が付けば、
龍太は窓際の椅子に座ってビールを飲んでいた。
「一杯、どう?」
 喉の渇きを覚えて私もビールを飲むことにした。

 彼と差し向かいで椅子にかけると、漢江沿いの道路の街路灯が美しかった。
「テールランプはなぜか悲しいわ」
「そう、去って行くものだからね」
 私達は言葉に詰まって、しばらく沈黙した。

「ねえ、お腹空かない?」
「でもルームサービスは高いからなあ」
「クッパかビビンバならそれ程でもないわ。私、ちょっと多めにお金持ってき
たの」
 注文して間もなく食事が届いた。バスローブ姿を他人に見られたくなくて、
バスルームに隠れた。ついでに軽くメイクし直した。
「もういいよ」
 龍太が節を付けていった。
「お化粧、したんだ。そのままでも十分綺麗なのに」
「お世辞が上手ね」
「いや本当だよ。テニスコートで初めて会った時から、君と友達になれたら良
いなと思っていたんだ」
「今は友達以上よ」
「うっかり浮気も出来ないってことか」
「もちろん」
 食事を肴にして、冷蔵庫のビールをふたりで全部飲んでしまった。
25ぺくすこんだる:03/08/31 05:55
  酔いも手伝って互いに冗舌になった。
「寮には結構レズのカップルも多いのよ」
「ふうん、僕はレスビアンのビデオを見るのが好きなんだ。女性の体がこの
世で一番美しいと思っている」
「変態よ、鳥肌が立つわ」
「変態かなあ。芸術的だと思うんだけど」
「じゃあ、ホモは?」
「あれはいけません。想像しただけで鳥肌が立ちます。ただ、ボディビルダー
は男でも女でも素晴らしいと思うな」
「私は駄目。筋肉ばかりに気を取られて内面が充実していないって感じ」
「バストの大き過ぎる女性は脳味噌が足りないっていう説と同じようなものか
なあ。君の胸は僕の手のひらにぴったり納まるから、理想的な大きさだね」
「やだあ」
 話題を変えなければならない。ウィスキーを飲み始めても一向に眠くはなら
なかった。
「ねえ龍太さん、これからはハングル読みでヨンテって呼んでも良い?」
「じゃ、キョンジャっていっても?」
「そう呼ぶのが自然な気がするの」
「キョンジャか。良い響きだ」
「ヨンテも素敵よ」
「ところでキョンジャ氏、前から聞きたかったんだけど卒論の方はうまく行っ
てるの?」
「まだ一年あるから準備中よ。韓日現代文学の比較研究ってところかな。ヨン
テは?」
「専攻が政治思想史だから、いま金玉均について調べている。甲申政変の政治
的意義について纏めたいと思うんだ」
 ムードのない話になった。今日は憂さ晴らしに来たのに.............。
「ねえ、カジノに行ってみない?」
「僕は博才がないんだ。見てるだけならね」
26ぺくすこんだる:03/08/31 06:00
 地下のカジノは予想以上に賑わっていた。私はルーレット専門だ。予算は
十万ウォン。チップは順調に増えて行く。ヨンテは物珍しそうに場内を眺め
ては、只のお酒を飲んでいる。十万ウォンが三倍くらいになったところで引
き揚げる。
「たった一時間程で予算の三倍になるなんてすごいね」
「熱くならなければ損はしないわ」

 部屋に戻り、服を脱いでブラとショーツだけでベッドに横たわった。
息苦しいのでブラも外してしまった。ヨンテが唖然としている。
「ビーナスだ」
 大袈裟な表現が少し可笑しかった。ヨンテも裸になり私の脇に来た。
愛撫はゆっくりと時間をかけて行なわれた。途中で何度もエクスタシー
を感じた。最後にヨンテは私のお腹の上で射精した。彼はタオルですぐ
に拭ってくれ、またぴたりと体を合わせた。
「良い香りだね」
「ニナリッチのコロンよ」
27ぺくすこんだる:03/08/31 09:48
 私達は昼頃まで眠り、チェックアウトした。私の授業はなかったが、
ヨンテは夕方のバイトの準備があるからと、昼食は新村市場で簡単に
済ませた。そしてかれは私を寮まで送ってくれた後、真館に戻って行
った。
 ベッドに寝転んでヨンテのことを考えた。ひょうきんでフワフワし
ている様だけど、原則を守る気骨のようなものが感じられた。服のセ
ンスは零点だ。野暮な服装がS大生の象徴だというから仕方ないか。
今度、デート用の服を選びに行ってやろうかな。

その夜突然、腹痛がした。きっと昼間、市場で食べた冷麺が原因だろう。
我慢していたが、その内冷や汗が出て来た。
「苦しそうだけど大丈夫?救急車を呼ぼうか?」
 同室のウンスクがいった。
「嫌、真館のヨンテ氏を呼んでくれる?」
 ヨンテはなかなか来なかった。一時間程して、彼がロビーで待っている
という知らせがきた。
28ぺくすこんだる:03/08/31 09:52
「僕は何ともないけど、市場で食べた冷麺に当たったんだろう。
L大病院よりもセプランス病院の方が近いからそっちに行こう」
 ウンスクとヨンテに支えられ、助手席のシートをフラットにして
横たわった。
「吐き気は?」
「少し」
「我慢しないで。どうせオンボロ車だ。苦しければ吐いた方がいい」
 セプランス病院は、道路を挟んでL大の西側にある。ヨンテに支え
られて救急窓口に入った。診察室でお腹のあちこちを触診された。医
者がいった。
「大丈夫。点滴をすれば楽になる」
 注射を打たれてから、別室に移り点滴が始まった。私は少し安心し
た。ヨンテは外で待っていてくれるのだろうか。看護婦にヨンテを呼
んでくれるようにいった。ヨンテが心配そうな顔付きで入って来た。
「どう?」
「大分楽になったわ」
 彼が私の手をそっと握った。
「僕はここにいるから、少し眠るといい」
 私はかすかに頷いて目を閉じた。

29ぺくすこんだる:03/08/31 09:56

 どれくらいの時間が過ぎたのだろう。外は明るくなっていた。
「今、何時?」
「七時半だよ。気分は?」
「悪くないわ。寮に戻りたい」
「先生の診察を受けてからね」
 九時に診察があった。帰ってもいいとのことだった。IDカードを確認した
から支払いは後日ということで私は寮に戻った。
 ウンスクは授業に出たのだろうか。遊び過ぎた罰かも知れない。今日はど
こにも行かないで静かにしていよう。午後には本が読みたくなった。読みか
けの小説を手に取った。朴景利の『土地』は、夢中になるくらい面白いのに
慶尚道の方言が難しい。気が付くと夕食の時間になっていた。食堂に行った
ものの、半分も食べられなかった。部屋に戻ってまた小説を読んでいると、
ヨンテから電話があった。
「具合はどう?」
「大分良くなったわ」
「今度食事する時は、食堂を選ばなければいけないね。市場の食堂に誘った
責任を感じているんだ」
「今度はイタリアンに連れてって」
「調べて置くよ」
 寮の電話は共用なので、長電話は出来ない。
「今度、いつ会える?」
「週末ね。こちらから電話するから。じゃあ、また」
「アンニョン」

30ぺくすこんだる:03/08/31 11:15
 週末はすぐにやってきた。
「安くて旨いイタリアンレストラン、調べてきたよ。ロッテホテルの向かいに
あるそうだ」
 ワインを飲むからふたりで地下鉄に乗った。店は古びたビルの地下にあっ
た。ヨンテはメニューを見て迷っているようだ。私が先に注文した。彼の懐
具合を考えて、ワインはマテウスで肴はチーズの盛り合わせ、メインディッ
シュはボンゴレに決めた。
「ここは目立たないから、外務部の連中がよく使っているそうだ」
 マテウスの白が運ばれてきた。安ワインでも形通りに、ソムリエがヨンテ
のグラスにほんの少しワインを注ぐ。ヨンテは何もせずぼんやりしている。
「口を付けて、私に勧めるのよ」
 小声でいうと彼はひとくち口に含んで、おうようにソムリエを促した。
「回復おめでとう」
「乾杯」
「このワイン、おいしいね」
「赤は駄目だけど白とロゼは結構いけるわ」
31ぺくすこんだる:03/08/31 11:17
「ところで君は素敵な服をいっぱい持っているんだね。会う度に服が違うも
の。ここでも君が一番綺麗だ」
「やだ、他の女の人のことも見てるのね」
「怒った顔も素敵だよ」
「とにかく、私とデートする時の服、買わない?」
「うん、ジャケットをひとつ買いたいと思っていたんだ。君に選んでもらお
うか」
「今日はもう遅いから来週ね」
 ボンゴレが出てくる前にワインを一本飲んでしまった。
「もう一本頼もうか?」
「今度はロゼにして」
 ワインと共に料理も出て来た。パスタの上に乗った大きなアサリが新鮮そ
うだ。
「いいところを教えてもらったわ。大学の友達を誘ってみようかしら」
 ワインを二本、空にした。自分でも酔ったのが分かる。少し酔いを醒まさ
ないと寮には戻れない。けれど、門限が近い。
32ぺくすこんだる:03/08/31 11:20
「どうしよう。門限は十時よ、遅れちゃう」
「十時までに正門に入ればいいんだろう。多少遅れたって守衛さんは入れて
くれるよ。僕は守衛さんと友達になったんだ」
 少し安心して、ロッテホテルでコーヒーを飲み、タクシーに乗った。
「かわいこちゃんとデートですか」
 守衛のおじさんに冷やかされながら、通用口を通って寮に向かった。夜の
構内は真っ暗だ。私はヨンテの腕にしっかりしがみついて歩いた。
 寮の入り口で、舎監がきつい目付きをこちらに向けた。
「真館の小田倉です。キョンジャさんを引き止めて申し訳ありませんでした」
 舎監は無愛想に私を引き入れた。
「始末書、書いておいてね」
 そういいおくと彼女は自室に戻って行った。

 同室のウンスクが思わせぶりに聞いた。
「今まで何してきたの?」
「ええ、ちょっと」
 私は言葉を濁し、顔を洗ってベッドに入った。
33ぺくすこんだる:03/08/31 11:23
 今日は日曜日だ。ヨンテに連絡すると、ゼミの発表の準備があるとのこと。夕方、
例の喫茶店で会うことにした。私は昼食後コロンビアに行き、小説を読んだ
りレコードのリクエストをしたりした。ヨンテが好きだといったジャズをか
けてもらった。ビルエヴァンスのワルツフォーデビーが店内に流れた。上品
なピアノ曲だ。
 夕方、意外に早くヨンテが現れた。
「思ったより早く準備が終わったから、急いで来たんだ」
「今日はあなたの服を買わなくっちゃ」
 私達はY大前の新村の方に歩いていった。新村ロータリーに面したデパー
トに入った。紳士服売り場でホームスパンのジャケットを見付けた。
「お金が余ったら、ズボンも買ったら?」
「そうしようかな」
 ズボンも私が選んであげた。

34ぺくすこんだる:03/08/31 11:26
 ショッピングバッグを提げたヨンテと腕を組み、ゆっくりとY大の
方に向かった。ひと通りが多い。
「ねえ、どっかで休まない?」
「新村駅前に行こう。ヤヌスというジャズバーがある。もしかすると
今日あたり生演奏が聴けるかも知れない」
 入り口に七時からライブがあると表示されていた。
「ここは食事も出来るんだ」
 店内はかなり混んでいた。テーブルにつくと、彼は生ビールを注文
した。
「今日は服を選んでくれて有難う。まずは乾杯だ」
「乾杯」
 メニューを見る限り、ここのつまみや料理にはたいしたものはない。
ジャズが好きな人がライブ目当てで来るのだと思う。結局、ハムサラ
ダとハンバーグを頼んだ。
 
35ぺくすこんだる:03/08/31 11:28
 今日の演奏者達が出て来て、それぞれの楽器のチューニングを始め
た。目玉はピアノのシングァヌンらしい。演奏はクールだ。私は音楽
とビールに心地良く酔った。その内、知っているような曲が流れた。
宮城道雄の『春の海』だ。お琴とは雰囲気が全く違うが、新鮮な気持
ちになった。
「今日は外泊届けを出して来たの。どこか静かな所へ行きたいわ」
「ホテル代は持っていないよ」
「近くのビジネスホテルが安くてきれいだって友達がいってたわ」
「ああ、ホテルミラボーか」
「行ったことあるの?」
「傍を通った時、アル中で乱暴、いやアルチュールランボーを思い出
しただけさ」
 彼が電話でホテル代を聞くと、ふたりの所持金でなんとかなりそう
だった。ライブも終わり私達は店を出て、新村駅とは反対の方角に歩
き始めた。

36ぺくすこんだる:03/08/31 11:30
 ホテルの部屋はちょっと窮屈だったが、清潔感がある。私はヨンテ
の前で服を脱ぎ出した。透けて見えるブラとパンティーだ。彼が目を
丸くした。ヨンテは服を脱ぐのももどかし気に、シャワーもしないで
キスをしてきた。そしてナイロンのブラとパンティーの感触を楽しむ
ように胸とヒップをまさぐった。私の性感帯も心得ているようだ。耳
の後ろ、首筋、背中と脇腹にキスの雨を降らせる。私を全裸にして胸
とクリトリスを刺激した。バックからアヌスに口付けをされた時には、
全身がひくついて、下半身がびしょびしょになった。
「仰向けになって脚を閉じて」
 彼は私の股間にペニスを入れ、腰を前後に動かした。
「入れて」
「それは出来ない」
「コンドームがないから?」
「そんなんじゃない。君の悦ぶ顔を見ていれば十分だよ」
 またクリトリスを刺激され何度か行った後、私は彼のペニスをくわ
えてザーメンを飲み込んだ。
37ぺくすこんだる:03/09/02 06:57
 翌朝は早めにホテルを出て、喫茶店でコーヒーを飲んだ。朝帰りは嫌だった
ので、景福宮へ散歩に行った。
「あるじなき景福宮の悲しみは、もぬけのからのがらんどう。景福宮には水が
ない。泣いて涙も枯れ果てて、慶会楼の溜まり水、濡れた瞳は乾かない。景福
宮の悲しみは、もぬけのからのがらんどう」
「それ、あなたの詩?」
「そう、今、思い付いたんだ。皇居が生きているのは、住んでいる人がいるか
らさ。慶会楼にオシドリでも飼ったらどうだろう」
「良い考えね」
38ぺくすこんだる:03/09/02 07:02
 私達は骨董街の仁寺洞をぶらついて、画廊や古書店にも入ってみた。
「昼にはちょっと早いけど、旨いスントゥブ(豆腐鍋)屋があるんだ。鍾路区
役所の前だけど行ってみる?」
「ええ、いいわ」
 そのスントゥブ屋はかなり有名な店だということだが、昼前なので閑散とし
ていた。
「ビール一本とスントゥブふたつ」
 外は寒かったので、熱くて辛いスントゥブが旨かった。
「あなたはB級グルメね」
「みんな大学の友達に教わった店だよ」
 私は小さなあくびをした。
「僕も眠くなって来ちゃった。そろそろ寮に戻ろうか?」
「ええ」
 ここから地下鉄の駅までは少し遠い。タクシーの料金は日本の三分の一くら
いだから、車で帰ることにした。タクシーを捕まえる前にヨンテはタバコをワ
ンカートン買った。守衛のおじさんにあげるのだそうだ。正門から歩いて寮に
行く間も眠かった。ウンスクは出掛けているようだった。私はベッドで熟睡し
た。
39ぺくすこんだる:03/09/02 07:09
 近代文学史の授業は単調でつまらない。私はサボって新村ロータリーにある
レコード店に行った。ジャズピアノのレコードを買うつもりだ。ビルエヴァン
スのものがあった。早速、持ち帰って部屋で聴いてみる。繊細な指先が想像出
来る。コーヒーを入れ、ゆったりとした気分になった。
 突然、ヨンテから電話があった。真館に来ないかという。真館は女性の出入
りも自由だ。
「君に紹介したい人がいるんだ。来てくれるかい?」
「どんな人?」
「ランディーというカンサスから来た留学生さ」
「分かった。すぐ行くわ」
 私は簡単にお化粧して、普段着のまま寮を出た。
 日が翳ってきたのか、外はとても寒かった。コートを着てくればよかったの
に。でも、真館までは歩いて五分くらいだから我慢することにした。ヨンテが
玄関で待っていた。
40ぺくすこんだる:03/09/02 07:13
「まず僕の部屋に行こう」
 彼の部屋は二階にあった。
「そっちが許赫先生、こっちが李貴胤先生の部屋だ。そしてここが僕の部屋」
 室内には本以外何もなかった。
「今、ランディーを呼んでくる」
 彼は間もなくアメリカ人と韓国の女性を連れて来た。
「ランディーと申東蘭氏だ」
「よろしく」
 ランディーが右手を差し出した。申東蘭さんはMBC放送でアナウンサーをし
ているという知的で美しい人だ。ヨンテと私は来週の日曜、真館のホールで行
なわれる結婚披露宴に招待された。まず考えたのは何を着ようかということだ
った。
41ぺくすこんだる:03/09/02 07:15
 披露宴には五十人程集まった。ほとんどがそれぞれの友人らしい。歌手の楊
姫銀も来ていた。彼女は皆に乞われて『朝の露』をアカペラで歌った。彼女の
歌を直接聴くのは初めてだった。
 食事はホテルからケータリングしたビュッフェスタイルだ。メインのロース
トビーフの前に人が並んでいる。私はワインを飲み、ヨンテはハイボールを飲
んだ。
「済州島へ新婚旅行だって、いいなあ。私も海が見たいわ」
 私は遠くを眺めるように呟いた。
「浦項製鉄所に知り合いがいるから、ゲストハウスに泊まれるよ」
 とヨンテがいった。大学は冬休みだ。
「行く、行く。連れてって」
「うん、友達に連絡してみるよ」
42ぺくすこんだる:03/09/03 15:42

 浦項まで車で行くことになった。ヨンテがいう。
「エンジンは快調だけど安全第一で行くからね」
 秋風嶺で一休みした後、車は一路浦項に向かった。四、五時間かかっただろ
うか。着いたのは夕方だった。シングルの部屋がふたつ並んでとってあった。
窓から海が見える簡素な部屋だった。食堂もあったが、私達は市内に出て夕食
を摂ることにした。海辺の街らしく海鮮料理の店が多かった。
「ここにしよう」
 私達は間口が広く店内が明るい店に入った。
「おっ、クジラの刺身がある。調査捕鯨で捕まえた奴だな。君は何を頼む?」
「アンコウ鍋。不細工な魚ほどおいしいっていうのよ」
 クジラの刺身とビールと焼酎が出て来た。ヨンテはビールと焼酎のカクテル
を作った。
「こうして飲むとさっぱりした味になる」
「そうかなあ。私はビールだけにするわ」
 肴の方は、ちょっと抵抗があったが刺身を食べてみた。クジラの刺身は生ま
れて初めてだが、意外においしい。

43ぺくすこんだる:03/09/03 15:44
「ヒレ焼酎も飲んでごらん」
 ヨンテが注文した。アンコウ鍋と一緒に急須のような酒器が出て来た。ヒレ
酒よりもさっぱりした味だ。
「韓国の日本酒は旨くないから、ヒレ焼酎の方が無難なんだ」
 ヨンテが酔った証拠だ。男は酔うといわなくてもいいことをいい始める。鍋
は量が多すぎて、食べきれない程だ。本来は残ったスープにご飯を入れて焼き
飯を作ってもらうのだけれど、アンコウだけで十分だった。
 
 部屋には十時頃戻った。横になったが、なかなか眠れない。するとヨンテの
部屋からコツコツ壁を叩く音がした。私も壁を叩いて、ドアのロックを外して
おいた。ヨンテが少し恥ずかしそうな顔をして部屋に入って来た。

44ぺくすこんだる:03/09/03 15:46
「眠れなくてね」
「荒れた波の音がして恐いの」
「僕が一緒にいてやるよ」
 キスをし、ベッドの上で抱き合った。
「私、メンスになっちゃった」
「構わないさ。朝までずっと傍にいるよ」
 彼は私の髪をやさしく撫でてくれた。
45ぺくすこんだる:03/09/03 15:48
 翌朝、ふたりで海岸に出た。よく晴れていたが、波の荒さは昨夜と変わらな
い。
「そういえば栃木も長野も海なし県だね。海に対する憧れのようなものな
い?」
「静かな海ならね」
 私にとって目の前の光景は荒々しすぎる。風が出て来た。
「そろそろ帰ろうか」
 私はこくりと頷いた。部屋に戻りチェックアウトしてからヨンテがいった。
「本当は海岸沿いを北上して江陵まで行きたいんだけど、雪が積もっていて峠
を越えられないと思う。来た道を帰ろうか。他に行きたいところ、ある?」
「別に」
「じゃあ、ソウルに戻ろう」
 彼は道に慣れたのかスムーズに運転し、来た時より三十分も早く寮に着い
た。
「僕の愛車、ペケペケも捨てたもんじゃないだろう」
「楽しかったわ、有難う」
「明日も会えるかなあ?」
「そんな先のこと、分からないわ」
 一度いってみたかった映画のセリフだ。ふたりで大笑いした。
46ぺくすこんだる:03/09/03 15:50
 大学は休みでも、ヨンテは日本語を教えるのに忙しそうだった。夜、冬休み
の特講をしているらしい。一緒に昼食を食べ、新村駅前のコロンビアという喫
茶店でコーヒーを飲むのが日課になった。ヨンテのお陰で、午前中は集中的に
勉強が出来るようになった。ウンスクを含め寮の女の子も大半が帰省したの
で、とても静かだ。図書館に行って、論文の参考資料をコピーした。
 ヨンテは文学のことに余り関心がなさそうだった。強いていえば、太宰と魯
迅の作品が好きだという。

「映画でも見ないか?」
 日曜はヨンテのバイトも休みで、一日中一緒にいられる。広告を見ると『追
憶』をやっていた。
 映画館の前は、多くの人達でごったがえしていた。チケットはどの時間帯も
全て売り切れていた。
「仕方がない。ヤミで買うか」
 ヨンテは中年のおばさんと値段の交渉をしている。
「三倍だというから二倍に値切ったよ」

47ぺくすこんだる:03/09/03 15:52
 映画はロバートレッドフォードが素敵だった。音楽もよかった。サン
トラ盤を買おうと思う。
 団成社という映画館から仁寺洞の方に歩いていった。彼も私も仁寺洞
が好きだ。路地に入れば、伝統的な韓国式の家屋が見られる。ところど
ころに民家を改造した食堂がある。
「遅い昼食になっちゃったけど、ここに入ろう」
 中では従業員が食事をしていた。
「食事できる?」
「はい、いらっしゃい」
 店の人の食事は終わりかけていたらしい。すぐに片付けて注文を聞い
てきた。
「韓定食二人前とマッコルリ(濁酒)」
 ヨンテがいった。
「ここの酒は旨いんだ。多分、自家製だと思う」
 テーブルの上一杯に料理が並ぶ。
「夕食も兼ねてぺクスク(蒸し鶏)もたのもうか?」
「そんなに食べられる?」
「大丈夫。ぺクスクは雛鳥だから、そんなに大きくはないよ。ここは全
羅道の店なんだ。ビビンバだって全州が本場だろ。機会があれば、光州
や木浦にも行ってみたいと思う」
「私はソウル以外、ほとんど知らないわ」
「いつか、木浦へ行って名物のセーバルナックチ(生きた蛸)を食べよ
う」
「このマッコルリ、本当においしいわ。飲み過ぎちゃいそう」
「酔ったらタクシーで帰ればいいんだから、どんどん飲もう」
 店には夕方までいた。このまま帰るのが惜しい気分だ。
「ねえ、汝矣島へ行かない?水族館が見たいわ」
「酔いを醒ますのには、美術館よりいいかもね」
48ぺくすこんだる:03/09/04 04:05
 汝矣島は漢江の中洲だ。タクシーで行けばいくらもかからない。館内は子供
達が多かった。大きな水槽の中でエイやヒラメが泳いでいる。ヨンテは魚を指
差して
「これもこれもさっき食べたやつだ」
 といった。
「やだー」
 水族館の魚は、食欲と結びつかない。私はラッコやアザラシが可愛いと思っ
た。

 外に出るとすっかり夜になっていた。
「寒い」
 といったら彼が肩を抱いてくれた。タクシーはすぐにつかまった。正門で下
り、守衛のおじさんに挨拶して坂道を上った。寮の前、あたりに人影はなかっ
た。私達は熱いキスをして別れた。その夜、母親から電話がかかってきた。冬
休みくらい帰って来いとのことだった。一度帰ったらそのまま結婚させられる
ことになる。私はせめて大学を卒業したかった。母親の心配する気持ちも分か
るが、こちらの状況をうまく説明出来ない自分がもどかしかった。
49ぺくすこんだる:03/09/04 04:07
 コロンビアでは馴染みになって、レコードのリクエストにさりげなく
応じてくれる。ヨンテに随分ジャズについて教えてもらった。セロニア
スモンク、ケニードリューも良いが、やっぱりビルエヴァンスが最高
だ。
 今日は少し気分を変えてガーシュインのラプソディーインブルーをか
けてもらった。間もなく、ヨンテが入って来た。
「お昼は何にする?」
「あまり食欲がないの。母親が電話してきて、早く戻って来いなんてい
うんだもの」
「僕は何もいえない。それは君自身の問題だ」
「意外に冷たいのね」
「自制しているといってほしいな」
「私は卒業したいと思っているの」
「そのために手助けになるようなことなら、なんでもするよ」
「有難う。ヨンテが傍にいてくれるだけで心強いわ」
「ところで注文は?」
「まだしてないわ。あなたが来るまで待っていたの」
「じゃあ、元気が出るように、アイリッシュコーヒーをふたつ。ガーシ
ュインの後は『酒と薔薇の日々』をリクエストしよう」
50ぺくすこんだる:03/09/04 04:09
 話してばかりいて、ヨンテは私が午前中、思い切って髪型を変えたのに気付
いてもくれない。
「私、ポニーテールにしたの」
「そういえば凛として綺麗になったね」
 ヨンテは気付いていながら、わざといわなかったようないたずらっぽい目付
きをした。
「あなたも床屋さんへいったら?」
「日本語学院の院長にもいわれている。カットだけでもしようかな」
「カットだけなら美容院がいいわ」
「美容院は抵抗があるなあ」
「そんなことないわよ。最近は男のお客さんも多いのよ。私が連れてってあげ
る」

 L大の前には美容院が何軒もある。私は馴染みの店にヨンテを案内した。
「思い切り短くしちゃって」
 私は髪型まで指定した。三十分程で、カットが出来た。
「さっぱりしたでしょ」
「風邪を引きそうだよ」
「ネクタイをしてスーツを着れば、もっと良い男になるのに」
「ネクタイは息苦しくて嫌だよ。そろそろバイトに行かなくっちゃ。今日はカ
ットに付き合ってくれて有難う」
「学院はどこにあるの?」
「江南駅の近くだよ。あの辺は渋滞するから、地下鉄で行くんだ。じゃあ、こ
れで」
「駅まで一緒に行ってもいい?」
「もちろん」
51ぺくすこんだる:03/09/04 04:11
 駅で彼と別れた後、L大前のブティックを見てまわった。ショーウィンドー
のマネキンが春物を着ている。ヨンテは私の服装に余り関心がなさそうで、張
り合いがない。白いミニでも買おうかな。私は一番大きなブティックに入っ
た。
 欲しいだけ両親が仕送りをしてくれる私は幸せかも知れない。無駄遣いはし
ないようにしているが、やはり流行の服は欲しい。服だけでなく靴やバッグに
もお金がかかる。今日もスカートに合わせ、水色のバッグを買ってしまった。
靴かサンダルも買いたかったが、良く考えてから買うことにした。
 寮に戻り、スカートを穿いて姿見で眺めてみた。鏡に映った自分に語りかけ
てみる。
「どう、イケテル?」
「イケテル、イケテル」

52ぺくすこんだる:03/09/04 04:13
 鏡の中の私が問いに答えた。ストッキングも肌色にしなくっちゃ。私は少し
満足した。ウンスクがいれば、もっと的確にアドバイスしてくれただろう。私
達は仲良しで服の貸し借りもする。元のジーンズに着替えて、ロビーのソファ
ーで女性誌を見る。「アンアン」や「ノンノ」も置いてある。市場に雑誌の写
真を持って行くと、本物とそっくりなものを作ってくれる。ヨンテかウンスク
がいれば、東大門の夜市場に行きたいところだ。次の日曜日、ヨンテに付き合
ってもらおうか。今、私にとって気になるのはヨンテとファッションと論文の
ことだ。ヨンテはバイト先でどんな講義をしているのだろうか。才気があるか
ら、きっと面白いに違いない。彼によれば、日本語学院の高級班で新聞や雑誌
の講読をしているとのことだ。いつもよれよれのコートを着ているから、渾名
はコロンボだそう
だ。

53d:03/09/05 01:17
d
54ぺくすこんだる:03/09/07 15:47
 その夜、『土地』を全て読み終えた。素晴らしい小説だが、作者は日本に対
しちょっとエキセントリックなところが見受けられた。大著を読み終えたとい
う理由を付け、内緒でしまって置いたウィスキーを飲んだ。学生は校内飲酒禁
止だが、真館の先生や留学生は前庭で堂々と飲んでいる。何かの折には寮内で
も飲みたくなる時もある。音量を絞ってレコードをかけた。バーバラストライ
サンドが美しい声で歌っている。映画のさまざまな場面がコラージュのように
思い浮かぶ。ヨンテと別れ、いつか再会するような幻想に捕らわれた。
 勉強と思索とデート。大きな変化はないが、私の生活はそれなりに充実して
いた。問題は度々かかってくる両親からの電話だが、卒業するまで断固ソウルにいると書いた手紙を出してから電話の回数が減った。
55ぺくすこんだる:03/09/07 17:10

 日曜には約束通りヨンテが夜市場に連れて行ってくれることになった。試着
もしやすいようにラフな格好にした。ジーンズにTシャツ、それにピンクのハ
ーフコートだ。
「それが一番似合ってる。ざっくばらんな格好が好きなんだ。今日は、僕もジ
ャンパーをひとつ買おうと思う」
「夕食はどうするの?」
「どうしようか。部隊鍋やソーセージが旨い店を知ってるんだけど、行ってみ
る?梨泰院(南山の南、米軍基地界隈)の外れだよ」
 まだ宵の口なので梨泰院の入り口でタクシーを下り、彼の案内でぶらぶらす
ることにした。ヨンテのお陰でソウルの夜の顔が見られる。
「ビクトリーハウスは物が安いんだ」
「でも、センスが良くないわ」
「ジャンパーなんて、軽くて着やすければいいのさ」
 私達は店内に入って、一番マシなジャンパーを買った。

 通りにはバッグのコピー商品を売る店が多かったが、全く興味がなかった。
気温は低いが、早足で歩いて行くうちに汗ばんできた。ハミルトンホテルのコ
ーヒーショップで生ビールを飲み、良い心持でさらに東に向かった。道路沿い
にいくつもの屋台(ポジャンマチャ)が並ぶ。酔客が焼酎を飲みながら大声で
話している。ひとりで入ってみる勇気はないが、私はこの光景が好きだ。目当
ての店は、東外れの路地裏にあった。コンビーフやソーセージを煮込んだ鍋専
門の店で、小さな看板には『パダ(海)』とだけ書かれていた。

56ぺくすこんだる:03/09/08 01:20
 店内は満員で、私達は他の客と相席になった。
「部隊鍋二人前とソーセージ、それに焼酎」
 慣れた感じでヨンテが注文した。まず焼酎とソーセージが運ばれてきた。ソ
ーセージは四、五十センチありそうだ。自家製ということだけあってとても美
味しい。焼酎も冷やしてある。でも、飲みすぎたら東大門に行けなくなる。私
は飲むのを出来るだけ控えた。部隊鍋もチーズが隠し味になっていて普通の部
隊鍋とひと味違う。ヨンテがのみすぎないようにするのが大変だった。
「ここの主人は昔、米軍基地のシェフをやっていてジョンソン大統領が来た
時、この特製の部隊鍋を作ってとても喜ばれたそうだ。だからこれはジョンソ
ンタン(湯)ともいうんだって」
 鍋の量が多すぎるので、私は匙と箸をテーブルに置いた。
「僕もお腹一杯だ。残ったソーセージは酒の肴に持って帰ろう」
 体面上、私には出来ないことだ。

57ぺくすこんだる:03/09/09 00:12
 酔ったせいか、全く寒さを感じない。タクシーをひろって薬水洞ロータリー
を経て、東大門に着いた。当時は林立するファッションビルはなく、南大門市
場と同じように間口の狭い店に商品が山積みされていた。
「南大門よりセンスがいいわ」
 私はお針子さんが直接やっている店を探した。服はお針子さんの作品だか
ら、ひとつひとつ綺麗に陳列されている店を見付ければ良い。今日は一着あ
つらえようと思っている。日本から送ってもらった「アンアン」の最新号に
可愛いワンピースがあった。感じのよい店の主人に雑誌の写真集を見せ、私
のサイズを計ってもらった。三日で出来るといったが、週末の夕方取りに来
ることにした。同じような店が沢山あるので、店の名刺を受け取った。値段
は日本では考えられないくらい安い。ヨンテは人が多すぎて目眩がするよう
だというので、今度はひとりで来ようと思った。ウンスクが帰って来たら、
彼女と一緒に来ても良い。

58名無し物書き@推敲中?:03/09/09 04:28
age
59ぺくすこんだる:03/09/10 07:32
 日曜の夜遊びが癖になった。ヨンテが少し飲みたいというので、ロッテホテ
ルのパブに行った。ビジネスマンや観光客が少ないのか、思いのほか閑散とし
ていた。サラダとピザを肴に生ビールを飲んだ。ヨンテが耳もとでささやい
た。
「朝まで君と一緒に居たい」
「やだわ。ミラボーに行くつもりね」
 私もそのつもりで外泊届けは出しておいた。
「もし良かったらの話しだよ」
「可哀想だから行ってあげる」
「部屋があるかどうか、電話してくるよ」
 公衆電話は一階にある。地下のボビーロンドンからは、少し遠い。ひとりで
飲んでいると、男が声をかけてきた。幸い、連れがいるというと率直に引き下
がった。
「予約してきたよ」
 タクシーがなかなか捕まらない。仕方がないのでホテル直営の車を使った。
新村まで一万ウォンは高い。
 ホテルミラボーでは、ヨンテの厚い胸に抱かれて幸せな気分になった。彼は
私の全身を愛撫しながらいう。
「なにも付けないキョンジャが一番綺麗だ」
 私は毛布で体を隠した。
 
60ぺくすこんだる:03/09/10 07:56
 
 翌日は雪だった。ソウルでは珍しいほど、沢山積もった。ホテルから新村駅
の脇を抜け、Y大側の後門から寮に戻った。スニーカーがつるつる滑る。ヨン
テがしっかり支えてくれた。雉や栗鼠達はどうしているのだろう。栗鼠は冬眠
するのかな。思わずあくびが出た。
「私、明日まで冬眠するわ」
「僕は講義の準備がある」
 私達は寮の玄関前で別れた。

 日本からヨンテの友達が来るらしい。日本語の講義は昼間に移せるが、休む
ことは出来ないという。
「良かったら友達を民俗村にでも案内してくれないか?」
「良いわよ。何人くらい?」
「五、六にんかな。宿はウォーカーヒルだから、今度の金曜日の午前中、僕と
一緒にホテルに行ってくれればいい」
「分かったわ」
 私はベージュのワンピースに毛皮のコートを着て行くことにした。ヨンテの
友達とは高校の同級生だということだ。カジノで遊びたいので、シェラトンホ
テルにしたそうだ。



61●のテストカキコ中:03/09/10 08:16
http://ula2ch.muvc.net/ (このカキコは削除しても良いです)
作品発表スレを立てるなと言いたいわけだが。

一人を見逃すとみんなやっていいことになる。
例外規定に適うか、何らかの事情が無い限り例外は許されない。
当然、何らかの事由とは「俺だけは特別だからいいだろ!」は却下される。
貴方以外の他の人でも有り得そうな出来事、客観的な事由のみだ。

例えば、貴方が契約しているプロバイダーからは、何故か
スレ立てとこのスレにのみ書き込みが可能であって
貴方は他スレに書き込もうとしても一切書き込めないと証明されるなら
このスレは存在を認められるだろう。

簡単に言いますと、削除依頼出して来い。

なんていっても貴方は聞かないだろうがね。
せめて、メール欄に「sage」と入れて欲しい。
そうすれば、荒らしの類はいなくなるだろうし、万が一にも
これを楽しみにしている奴がいるならばその人のためになるはずだから。
63????????:03/09/10 22:43
「sage」を入れると他スレに書き込もうとしても一切書き込めないということ
ですか?なんだかハングル工房の水野健さんみたいなものいいですね。
64水野健:03/09/10 22:50
ぺくすこんだる改め筆名、水野健にします。
65水野健:03/09/12 10:05
 当日の昼近く、一行がロビーラウンジにやってきた。ヨンテが私を紹介す
る。
「こちらはパクキョンジャさん。今日の午後はキョンジャさんに民俗村を案内
してもらうことにした」
 彼と同期のひとりが小声でいっていたが、私にも聞こえた。
「素敵な彼女じゃないか」
「うん、まあ」
「ほれてるな」
「かも知れない」
 ヨンテの顔が赤くなった。

 レストランで軽く昼食を摂り、タクシーに分乗してソウル駅に行った。民俗
村行きのバスはここから出る。ヨンテと別れて総勢七人。私が在日韓国人で言
葉に問題がないことが分かって、皆、リラックスした様子だった。ヨンテの友
達はいろんなことを聞いてくる。
「小田倉と知り合ったのはいつ頃ですか?」
「去年の秋です」
「専攻はなんですか?」
「国文学です。もちろん韓国の」
「好きな日本の作家は?」
「夏目漱石とか・・・・・」
…たのむからsageろ
メール欄にsage = スレッドを上にさせない
6766:03/09/12 11:24
とりあえず>>63=>>1確定と。
>>62は「くだらねぇスレ立ててんじゃねえ」
って言ってるんだろう
それくらい判断汁
68ぺくすこんだる:03/09/12 23:16
>66,67
だから、その理由を順序立てて納得行くように説明しなさい。
69ぺくすこんだる:03/09/13 21:43
 バスは一時間程で民俗村に着いた。農具のことなど良くわからないので、ガ
イドをひとり付けてもらった。彼等は、トンドン酒(濁酒の上澄み)を売って
いるところで、パジョン(韓国風お好み焼き)を肴に酒を飲み始めた。
「キョンジャさんもどうぞ」
「じゃあ、一杯だけ」
 場内を一周したことだし、少しだけ付き合うことにした。酒はヨンテに大分
鍛えられている。
 帰りのバスでは皆、目を閉じているようだった。カジノでの徹夜に備えてい
るのかも知れない。

 シェラトンホテルのロビーで、ヨンテが年上の女性とふたりで待っていた。
私は無性に腹が立って、このまま帰るといい出した。ほかの女の人を連れて来
るなんて失礼もいいところだ。ヨンテが、彼女は彼の韓国語の先生で、お礼の
ためにリドショーを見せてやりたかっただけで他意はないと必死になって私を
宥めた。要するにヨンテは鈍感なのだ。悪意はないので可哀想だからショーを
見てやることにした。

70ぺくすこんだる:03/09/16 12:21
 ボックスシートでは、李アナウンサーとかいう人と出来るだけ離れて座っ
た。隣は、一行のリーダー格の大林さんだった。幼稚園を経営しているそう
だ。
「龍太は全く気が利かないところがある。悪意はないので、大目に見てやって
下さい」
 大林さんはヨンテよりもずっと大人だと思った。

 食事が出てショーが始まった。華麗な舞台も今日はつまらなく感じられた。
それが終わってからカジノに誘われたが、寮に戻ることにした。しかし、考え
てみれば嫉妬する自分も子供じみている。ヨンテのミスは許してやろうか。
李アナウンサーは先に帰ったことだし、ヨンテと一緒にタクシーでL大に向か
った。
「今日は一日中ガイドしてくれたのに、気を悪くさせて済まなかったね」
 私はそれに答えず、
「ヨンテは良い友達を持ってるわ」
 と呟いた。車は市内に入り、ビルの黒い影が後方に流れる。窓を少し開ける
と、吹き込んでくる冷たい風が心地良かった。
71ぺくすこんだる:03/09/16 19:41

 二日後、ヨンテが箱を持って寮にやって来た。
「これ、みんながお世話になったから渡してくれといわれたんだ」
「何かしら」
「雛人形さ。うちの田舎は際物屋が多いんだ。鯉幟も作っている」
「有難うといっていたと伝えてね」
「うん、ところで仲直りしてくれるかい?」
「どうしようかな、もう少しいじめておこうかな」
 急に自分のものの言い方がおかしくなってクスッと笑ってしまった。ヨンテ
が安心したような顔をした。
「僕の部屋に行かないか。連中にもらった酒がある。それからみんながいって
いたんだけれど、君と僕は似たところがあるからうまく行くだろうって」
「ヨンテの血液型は?」
「B型だよ」
「あら、あたしも」

72ぺくすこんだる:03/09/19 14:47

 私達は真館まで、ゆっくり歩いて行った。石造りの建物に絡まった蔦の葉が
枯れて、逆光の中で揺れていた。しばらく掃除もしていなかったようで、彼の
部屋は本や資料が乱雑に置かれている。
「汚くて済まない」
 小さなテーブルの上を片付けながら、ヨンテがいった。
「ストレートでいいだろう。チェイサーにはビールがある」
 彼はグラスにシーバスリーガルを注いで、窓辺から缶ビールを持って来た。
「寒い時は窓際にビールを置いておくと、丁度良い具合に冷える」
 ストレートのウィスキーは苦かった。すかさずビールを飲む。つまみはカマ
ンベールのチーズだ。私はすぐに酔った。
「この酒の飲み方は、ランディーに教わったんだ。彼は軍人だった。早く酔い
さえすればいいというのは、一種の軍事文化だと思う。ビールをウィスキーで
割る爆弾酒も同じことさ。酒を強要するのもそうだし、韓国のマッチョにはち
ょっとついて行けないところがある」
「韓国の男性とお酒を飲む時は、ほとんどセクハラよ」
「本当の両班が少なくなったということだね」
「古い世代は別よ」
「そういう人に会ってみたいね」
 その時、ヨンテの鼻から血が流れた。
「最近、無理をしたせいか、良く鼻血が出るんだ。欲求不満かな」
「私を不満の捌け口にしないでね」
「当然さ。君は僕の宝だもの。ということでそろそろお開きにしますか」
「いつかまた海を見せて」
「来週、仁川に行ってみる?」
「ええ」
 外に出ると、満天の星空だった。


73ぺくすこんだる:03/09/29 20:13
 約束通り、ヨンテは仁川に連れて行ってくれた。埠頭に立って見る海は、黒
々として荒れていた。
「恐いわ」
「浦項でもそういったね」
 


74ぺくすこんだる
 ヨンテがそっと肩を抱いてくれた。日は陰り沖の月尾島が霞んでい
る。風が出て来たので早々に帰ることにした。帰りには雪がちらつい
た。運転しながら、ヨンテがいった。
「四月から大使館の専門調査員になれそうなんだ」
「大学は?」
「続けるよ。僕は博士論文を書けば良いだけだからね。結構待遇も良さ
そうだから、バイトをしなくてもよくなる」
「どんな仕事をするの?」
「先方は各種調査と弘報とかいっていたけれど、安国洞の文化院でなん
でもやらされそうだよ」
「外交官になるの?」
「いや、パスポートが公用旅券に変わるだけさ。何だか分からないけど
アパートに移るようにいわれたよ。真館ほど良い所はないんだけど、城
北洞の外国人アパートを紹介された」
「寂しいわ。いつ引っ越しするの?」
「三月中にね。でも本以外、大した荷物はないから半日で済んじゃう
よ」
「私、手伝うわ」
「本は重いぞ。でも、有難いな。僕は掃除とか整理が出来ない人間だか
ら。今度、下見に行ってみようか」
「ええ」

 ヨンテの引っ越し先は、景福宮の脇を北に向かい、三清トンネルを抜
けて、しばらく東にいったところにあった。焼肉で有名な大苑閣の近く
で、バスの終点に面している。
三階建ての趣のある建物だ。部屋は小ぢんまりした2LDKで落ち着い
た雰囲気だ。家具付きなので、引っ越しは本当に半日もあれば済みそう
だ。
「いうなれば、高級下宿だな。二食付きで掃除と洗濯もしてくれるっ
て。せっかくここまで来たんだから大苑閣で食事しよう」