【芸術】縦読み職人養成所【芸術】

下駄屋の二階の只一間しかない六畳に、
商売根性むき出しにした松村武の風呂敷包み
舞台裏では怪盗紳士の見事な手際に
読者の注目集まりまして　取り出したるは経文の
僧の散文詩とも形容すべき南無阿弥陀仏
五十歩百歩と言えば言え　暗号解読お手並み拝見
奢る者は地獄に落ちる　これ江戸川乱歩の二銭銅貨と発します

嘘か真か密室状態。鍵は内から掛けられた。
声なくしては返事は出来ぬ。犯人は空気のように消え失せた。
独り部屋を見渡して衣装戸棚を探したならば
ああ謎は残されている。痕跡はさらに謎を深める。
雷鳴轟く運命の夜に　探偵はカードの試合を挑む
瞬く 星は人の心を狂わせる魔性の輝きダイアモンド
夜空に響く勝利の声は　同時に敗北の木霊を返す

僕の如きは不二屋で甘いケーキを買つて
襲ひ掛かり眠つた頭を刺激しなきや
いつも不感症以外の疾患に恵まれぬ
高価な錠剤で上ずつた気持ちになつてみても
偽の愛を僕はのこつた情熱で溶かし尽くしてしまふ
痴的で不埒な悪業に身を任せるのは詰まらない
幸福など儚い夢にすぎないのさ、と影法師は嘯いた