あなたの文章真面目に批評します(7)

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938ちょびっツぱろでぃ
あらすじ:
人型パソコン(アンドロイド)の
普及によって、世の中は、多くの人々が
パソコンを理想のパートナーとするようになった。
そんな中で、パソコンの買えない貧乏学生
本須和秀樹(もとすわひでき)は、人型パソコン
をごみ捨て場で拾い、そのパソコンに
「ちぃ」と名づけた。
ちぃは見た目は13歳くらいの美少女だ。
ちぃのことをただの道具だと、思うとした
秀樹だったが、ちぃの愛らしさに心を引かれて行く。
そんなある日の夜、秀樹は秀樹の住むアパートの管理人
日比谷千歳(ひびやちとせ)に連れられ、アパートの
地下室に行き、そこでちぃの秘密を聞かされた。
千歳は人型パソコンの開発者、故 三原一郎の
妻であり、ちぃには「エルダ」という名前があり、
ちぃと同型の「フレイヤ」というパソコンがあり、
千歳と一郎はエルダとフレイヤを我が子として育てたこと。
そして、フレイヤが一郎を好きになってしまい
一浪が気持ちを受け入れられなかったことで、
ショックを受けたフレイヤにシステムエラーが起こり
壊れて消えそうになったフレイヤのデータをエルダに
移したが、そのときエルダのデータは消えてしまったこと。
そして一郎と千歳はエルダにフレイヤと同じ結果に
ならないようにエルダを人手に渡すことにしたこと。
そして持ち主が転々として、最後に秀樹のもとにきた
ということを聞いた。
939ちょびっツぱろでぃ:03/05/22 13:29
話し終わったころに上から大きな音が聞こえた。
ちぃの身を案じた秀樹が、急いで自室に戻ると
ちぃの体がまばゆく輝き、様子がおかしい。
そしてちぃは秀樹にちかづくと
「ちぃ、見つけた『アタシだけのヒト』」といった。
そう、フレイヤが一郎を選んだように、今度はちぃが
秀樹を選んだのだ。
そしてちぃは秀樹の気持ちを聞いた。
秀樹はちぃが好きだと答えた。
すると再びちぃの様子がおかしくなった。
秀樹はちぃの表情を見て、人格がフレイヤに
入れ替わっていることに気がついた。
フレイヤは自分が入れ替わったのは秀樹に
言うことがあるからだというが・・・・・・。
(ここまではあらすじです。ここからが小説です。)
940ちょびっツぱろでぃ:03/05/22 13:30
フレイヤは悲し気な表情を浮かべ、重たそうに口を開いた。
「ちぃが好きだっていったわね」そして、静かに続けて
「その好きは『ぜんぶほしい』の好き?」と言いった。
さらに秀樹の目を見つめて「ちぃのココロもカラダも
ぜんぶ ほしい?」と続けた。
秀樹は未だに抜けきれない人と機械との壁という意識が
頭を過ぎり、顔を伏せ目を閉じ眉をしかめて、
「そう思ってないなら、こんなに悩まねえよ」と言った。
同時に、秀樹の胸に切なさが込み上げて来た。
秀樹は続けて言った「ちぃを犬とか猫みたいに
可愛いんだったら考えることは無い」
やりきれない思いが秀樹の胸中を駆け巡った。
「ちぃはパソコンだし家電だ。
それが分かっていても、俺は・・・・・・」
その言葉をフレイヤが続けた。
「ちぃがほしいのね。」
フレイヤは秀樹の頬に手を当て、秀樹をまっすぐ見て
意味ありげに言った。
「ちぃがどんな姿になっても?」
秀樹にはその言葉の意味が分からなかった。
フレイヤは探るように秀樹の顔を見ながら言葉を続けた。
「ちぃは真実の愛を証明するための存在なのよ。」
やはり秀樹には意味が分からなかった。
941ちょびっツぱろでぃ:03/05/22 13:31
フレイヤはなおも秀樹の顔を探るように見ながら言った。
「ちぃはもう、あなたを『アタシだけのヒト』に選んだ。
ちぃはね、『アタシだけのヒト』を見つけると
プログラムが発動して、外装がはがれ落ちるのよ。
分かる?骨組みがむき出しになるのよ。
顔だって金属製の頭蓋骨のようになるのよ。
ヒトの姿じゃなくなって、機械そのものの姿になるのよ。」
ようやく何を言っているのか分かった秀樹は血の気が引くのを
感じながら「で、でも治せるんだろう?」ときいた。
フレイヤは静かに首を横にふった。
「ちぃのカラダは他のパソコンとは違うのよ。
外装が一度はがれ落ちると、二度と修復できないように
加工されているの。分解すれば完全に壊れるし、データを
移すこともできないようになっているのよ。」
そこまで言うとフレイヤは、明らかに動揺している
秀樹を見て、悲しそうな顔をした。
そしてフレイヤは秀樹に問い掛けた。
「それでもあなたは、ちぃを好きでいられるの?」
目の前のちぃの、足首から下はすでに外装がはがれ、
そしてその部分は金属でできた人の足首の骨のようなものや
その骨のようなものにくっついている部品やコードなどが
むき出しになっていた。
942ちょびっツぱろでぃ:03/05/22 13:32
秀樹は泣き出しそうになりながら言った。
「開発者は・・・三原一郎は、なんでこんなことを!」
「言ったでしょ『ちぃは真実の愛を証明するための存在』って。」
フレイヤは怒りのこもった口調で続けた。
「多くのヒトは「愛」をオモチャと勘違いしている。
自分の寂しさを紛らわすために、自分の性欲を
満たすために、自分が生きている実感を感じるために、
「愛」をいたずらに口ずさむくせに、
その実、その「愛する人」が本当に苦しんでいるときに、
助けが必要な時に、いっしょに苦しみを背負うことも
できないヒトがいっぱいいる。
ギャンブル依存症、アルコール依存症、買い物依存症、
精神病、リストラ、身体障害、みにくい傷や火傷、
そういうアクシデントに恋人が、夫が、妻が、あったとき、
さんざん「愛している」と言っておきながら、
それまでたくさんの喜びを与えてもらっていながら、
あっさりと見捨てて、また別の誰かと
「愛し合おう」とするヒトがいっぱいいる。
自分が可愛いだけで、愛他的な自己犠牲も
何も無いヒトがいっぱいいる。
パソコンに対しても同じ、パソコンは人間よりももっと
純粋で主人のために一所懸命につくすのに、
主人の理想を実現してあげるのに、すぐに飽きて
捨てられているパソコンがたくさんある。」
フレイヤはそこまで一気に言うと、
いよいよ悲しそうな顔をして、ふたたび秀樹に問い掛けた。
「あなたはちぃを選ぶの?」
943ちょびっツぱろでぃ:03/05/22 13:32
ちぃの体はすでに、ふともものあたりまで外装がはがれ落ちて、
金属製の人間の足の骨のようなものと、それにくっついている
部品やコードが、むき出しになっている。
秀樹は一瞬目の前が真っ暗になった。
ちぃは俺の心を癒してくれた。ちぃが居てくれたおかげで
充実した日々を送ってきた。
でも、これからちぃは、あの美しい姿では無くなる。
外見がただの機械になる。俺はちぃを抱擁できるだろうか。
金属製の頭蓋骨ような顔に口付けをできるだろうか。
秀樹の胸の中には迷いや葛藤で張り裂けんばかりだった。
そして、しばらくの沈黙の後で、秀樹がポツリと言った。
「できないよ」
その言葉を聞いたフレイヤは身を硬直させた。
秀樹が続けて言った。
「だめだ・・・俺、そんな姿のちぃは愛せない・・・」
次の刹那、フレイヤの体から全身の外装が、
着ている服を引き裂きながら、一気にはがれ落ち、
骨組みと部品がむき出しになったかと思うと、
激しく発光してショートし、バラバラになって
崩れ落ち、外装のはがれ落ちた頭部が秀樹の足もとに転がった。
秀樹の足もとに転がった金属製の頭蓋骨のようなものは
カタカタと動き「ひ・・・で・・・き・・・」と
一言いうと、それっきりぴくりとも動かず
一言もしゃべらなかった。
944ちょびっツぱろでぃ:03/05/22 13:50
            *
ちぃが壊れたその時、街では、すべてのパソコンが
ほぼ同時に、いっせいに激しくショートして動かなくなった。
発電所を管理するパソコンも壊れたため、町中の明かりが消え、
信号機も機能せず、交通事故が多発していた。
日比谷千歳は、周囲の状況を見て、愕然とした。
「すべてのパソコンが壊れた・・・・・・。
本須和さんは、ちぃちゃんを選ばなかったのね・・・。」
千歳の胸に悲しみが込み上げ、涙が溢れ出した。
「一郎さんは、ちぃちゃんが愛されることに懸けた。
うわべだけじゃない真実の愛によって愛されることに懸けた。
そしてちぃちゃんが愛されることに、人間の愛の可能性と
パソコンの未来への希望を見出そうとした・・・。
そしてもし、それが叶わないときは、パソコンたちが
苦しむ前に、すべてのパソコンを壊してしまおうと・・・
ちぃちゃんからすべてのパソコンを壊すプログラムを
送信するようにした・・・・・・」
千歳はポケットからハンカチを取り出し、顔に当てて泣いた。
「あなた、ごめんなさい・・・わたしたちの娘が・・・
死んでしまいました・・・こめんなさい・・・
こんなことになるなら・・・・・・
ずっと・・・ずっと私の側に置いておけばよかった・・・」
千歳は長い間その場でハンカチを濡らしつづけた・・・。

― 完 ―