ジャンル厨房・アリの穴議論・晒しあげ

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 浜辺である。波の音が高く、蝉はみんみん鳴く。一本ぶなの木があって、背もたれにしている裕子を横にわたしがいる。ふたりは静かだ。すると、突然に
「ねえ、不思議だと思わない」
 と、裕子はわたしに唇をとんがらせて微笑んで言う。わたしは
「えっ、なにが?」
「だってさ、……ううんなんでもないの、わたし幸せ…」
 えくぼをつくっていた。
 わたくしは目をぱちくりと瞬きして、彼女の日焼けした肌を見る。
 上品に焼かれた肌である。海を見た。綺麗だな……ねえ、あそこに行ってみない? と岬を指して立ち上がり、彼女を見ると砂の上にかたくなに林檎があるだけだった。そうだった……裕子は二年前に肺炎で死んでいたのだ。