1 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :
2 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :03/02/10 22:37
☆ たとえばこんな序章 ☆
「あーあ……大失敗だべ」
弘二は空を見上げた。
紺碧とはこういう色をいうのか、という、どこまでも汚れのない青が
四方の水平線までとぎれなく続いている。島影一つない海を鏡のように
写し込んでいるのかもしれないし、そうでないかもしれない。
ただひとつ言えることは、今このあたりの海には、小型漁船に乗った
弘二と、友人の敦雄だけしかいないということだった。
「失敗失敗言うなよ」
その敦雄は、デッキに手をかけてやる気なく手をブラブラさせている。
「失敗じゃねえべか! 敦雄が『東京で無人島生活体験記さひっさげて
お笑いデビューしたら、女の子キャーのテレビ出演ドバドバので、あっという間に
一億円の豪邸が建つべ』とか言わなんだったら、俺ぁ今こんただとこさいねだよ」
「……俺は別に方言で喋ってないじゃん」
敦雄は口をとがらせた。起きあがった弘二が、そんな敦雄をにらむ。
日に焼けて真っ赤で、敦雄の顔はみっともない。
「おんなじだべえ。小学校中学校と一緒にストーブに当たった田舎もんで
ねえべか。東京さ行ったとか自慢したところで、たった1年2年程度だべ。
東京で牛買うべとか言ってたやつさ、安易に信じちゃなんねかっただよ」
3 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :03/02/10 22:38
「それにホイホイ乗ったおまえもただの馬鹿だぜ。無人島体験記なんて
今時、プロデューサーがヤラセ上等で企画しなきゃ成功しないって。
おまえがどうしても女の子にもてたいって言うからさあ、俺は……」
「女の子にもてたいのは敦雄のほうでねえべか! あんなたくさん人のいる東京さ
行って彼女の一人さできなかったのは誰だべ。俺ぁ一応、その間一人つきあった子さ
ちゃあんといるだ」
「……」
敦雄は黙り込んだ。図星である。
弘二は薄笑いを浮かべて舌を出し、――それから舟影一つ見えない海を見つめて
大きなため息をついた。
もう三日、彼らは海を漂流し続けている。放置された漁船の多い船着き場から
一隻盗み出し、網元の息子の弘二が舵を取って南に出航したのが、今から一週間前の
ことだった。
船上の生活に慣れない初日に携帯電話を海に落とし、海図を潮風にさらわれ、
しかも頼りの無線機器が今日、壊れた。何度電源をオンにしてもぴくりとも
反応しない。弘二は舵は握れても、無線機器の修理まではできなかった。
4 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :03/02/10 22:38
「……こういうのを漂流というべなあ。かっこいいべ……」
せめてもの慰みにそうつぶやいても、むなしさだけが残る。
とりあえず彼らは南へ向かうのをあきらめ、今きた方向に戻り出しているのだが、
果たしてそれが本当に北という方角かどうかはわからない。だいたい現在地を知る
海図がない。
見飽きた青い海をもう一度見ていた時だった。
弘二の横で、敦雄が聞いてきた。
「なあ……弘ちゃん……、海の色が一つ変わってるとこって、どうなってるん
だっけ?」
「浅瀬になって岩があるとか、魚の群があるとか、……鯨みたいな大きな生き物が
泳いでる時だべ」
「じゃあ、あれ、なんだ?」
敦雄が指し示した先を見て、弘二は、なんだべ、と思わず独り言を言った。
海の青の中で、一カ所だけ、確かに黒々とした場所があった。さっき目を向けた
ときには見あたらなかったその黒いものは、見る間に大きくなって白い小波まで
立て始めた。
5 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :03/02/10 22:39
「鯨? ホエールウォッチングか! 東京の女の子に自慢できるぞ!」
ひゃっほう、と敦雄が叫ぶ中で、弘二の顔は急にかたまった。
「……鯨じゃねえべ。……確かに鯨はでかいべ。この船と同じくらいのも
たぶんいるべ。けどあれはなんか、形が違うべ」
「形?」
弘二は大きくうなずいた。海の中の黒い影は、鯨や鮫のような流線型ではなく、
円形に近い紡錘系の形をしていた。しかも、大きさが全長十五メートルの
この漁船どころではなかった。その倍、いや、それどころか四、五倍くらいは
あるだろうか。
「……だったらあれはなんなんだよ」
デッキに手をかけた弘二からは次の言葉がでてこない。敦雄がいらただしげに
もう一度口を開きかけたとき、黒い影は突然、海面を大きく盛り上げて彼らの前に
姿を現した。
漁船は大きく揺れた。敦雄は甲板を奥まで転がり、弘二はデッキにしこたま頭をぶつけ、
波をかぶる。ごほ、ごほとせき込んだ弘二が顔をあげたとき、彼は信じられないものを
目にした。
6 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :03/02/10 22:39
まずそれは黒く巨大な握り拳のように見えた。握り拳、というのは、少しだけ
切り口があって、あとは丸くまとまっているからだった。しばらく見ているうちに、
それがようやく、何かの動物の頭部であることが確認できた。
ただ、それはそれまで弘二の生きてきた十七年間で見たどの動物とも異なっていた。
岩肌のようにごつごつした顔には、くす玉のように大きな目玉がついている。口は裂け、
ほんのわずか開いた唇からは青紫色の舌がちらりと見えた。鼻は今いる漁船の位置からは
確認できないが、とがっている訳ではなく、むしろ低く丸い。
生き物の頭部には毛はない。貝や珊瑚のようなものが厚くついていて、ちょっと見には
鎧のように見えた。
頭部から視線を横にずらすと、少し離れた場所に、やはり黒くなだらかな背中が
小島のように隆起していた。……無人島だべ、と、弘二の口から無意味な言葉が漏れる。
巨大な生き物は、漁船の脇に沿ってしばらく悠々と泳いでいたが、やがて大きな息を
ついて潜り始めた。小さなビルほどの黒い頭が、海面から沈んでいく。小島ほどの背中も
小波を立て、海の下に消えていった。
7 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :03/02/10 22:40
わずか、五、六分ほどの出来事だった。
黒い影はそのまま海中の深みに消え去り、完璧な青い海が戻ってきても、
しばらく二人の若者は黙り込んでいた。――が、ついに敦雄が言った。
「……ああいうのをUMEっていうのか……この話にのってくるような女の子って
相当いかれたブスしかいないなあ……大損だ」
☆ 第一章 美希、走る。 ☆
青葉茂れる公園の桜から、蝉の声が聞こえてくる。
宮内美希は、通学鞄をブラブラさせて、さっきから同級生の田島英奈のおしゃべりを
うんざりしながら聞いていた。
うんざりしながら読んでいた。
9 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :03/02/10 22:41
「……で・ね、アルフレイン伯爵の言葉が超超カッコイイの! 『姫を助けるまでは
私はこの身が滅んでも引かぬ!』な・ん・て。 アル様超カッコイイ!
でえーもー、本当はアル様の乳兄弟のウィンディルドが渋くて控えめで、超ツボ
なんだけどお」
「はいはいはい、で単行本が来月出るのね」
「そー! 前回から担当変わってイチゴリンクさんの絵になったから、きっと表紙は
アル様のアップよね。イチゴさんもアル様のファンだし」
延々と少女小説の話を繰り返す友人を横目で流し、美希は英奈に気づかれないように
小さくため息をついた。
英奈は優しくて可愛い、と美希は思っている。身長は150センチそこそこのチビな
自分とは違って、すんなり160センチを越えている。スタイルも抜群でまだ中2なのに
Dカップ、ウエストは同級生の女の子として自分が情けなくなるくらい一番くびれている。
顔だちも整っていて、目が大きく、鼻筋も通って、色白だ。
見てくれだけみれば、これで噂になる男の子もいないほうがおかしい。
ただし、ひとたび口を開けばこんな頭のトリップ具合に、たいていの子は十万光年先まで
引きまくってしまう。クラス一の美少女がクラス一の夢見少女だというこの現実。結局
気がつけば美希以外、英奈の話相手を続けている子はいない。
10 :
Kew ◆6oWnJ4LYx2 :03/02/10 22:42
ブラウンのブレザーが、夏の日差しにうっとおしい。英奈の訳の分からない話も
どうでもいい。そんなことより、と美希は思った。
今日の夕飯の献立はどうしようか。
(つづく
〜完〜
12 :
名無し物書き@推敲中?:03/02/10 23:05
終了乙。感動だった。
次からは簡素を↓
14 :
名無し物書き@推敲中?:03/02/11 09:37
>紺碧とはこういう色をいうのか、という、どこまでも汚れのない青が
四方の水平線までとぎれなく続いている。
もうちょっと省けるんじゃないかな。「という」は要らない。
「紺碧とはこういう色をいうのか」はちょっと素人臭い表現です。
黒い影が現れて船が揺れるまでのところで、主人公の微妙な心理描写を付け足すのも一興(かな?)。
15 :
名無し物書き@推敲中?:03/02/11 09:40
難しい言葉より読者が現実未を感じる表現などを模索した方がいいね!
ってことでどっちもボツ! 推敲し直しな!
16 :
名無し物書き@推敲中?:03/02/11 15:47
>>14-15 おまえら「貴方の文章〜」の荒れ具合をここまで引っ張ってこないでくれ。
あ、14は違うね・・・ごめん、マジで逝きます。
18 :
◆RIAL02259. :
age