ミニカーとストローは引き出しの中に入っていますよ。
母親の声が響いた。
そうして、世界は終演を迎える。
〜風の章〜
糸冬 了
次のお題「カフェテリア」「私は」「お察しください」
高校を卒業して一年半。
地元でバイトして、お金を貯めた。上京仲間を見つけて部屋もシェアした。
家賃折半って素敵。カフェって素敵。
念願かなってオープンカフェテリアに勤めることとなった私だ。
可愛い制服、可愛らしい仲間。可愛いお店。ファッショナブル!!スウィート!!
そんなカフェ仕事人となって早半年が経つが、そうすると常連さんというものがわかってくる。
開店前から待ってる人、毎回コーヒーと新聞を持って入店する人、窓際に必ず座る人……
あの人は、そんな常連の内の一人。
いつからかは憶えていないが、月末になると仕事帰りからここへ直帰し閉店間際までコーヒーを飲み、
仕事をしている。彼の姿を見つけた途端、カレンダーを探した。
あぁ、今月はまだ十日もあるじゃないか。
珍しいな……。
彼は、その後30日まで通い続けた。
「ちょっと……!!あの人、いつもスーツ同じじゃない?なんだか怖いんだけど」
こちらも常連、昼間から夕方までご近所さんやらクラブのおばちゃんがたといつもいらっしゃるお方。
彼のスーツは30日にはすでにちょっと……よれよれになっていた。
「二十日締めの月末払いなんだそうですよ。」
「はい?」
「お察しください。」
今日は一日。
彼の部屋の電気が久々に灯っているだろう。
次のお題「帰せない」「しなやか」「背中」
自分の手も見えない暗闇の中、腕を伸ばす。空間。そこにだけは壁が無い。
穴なのだ。そこにだけ、穴が開いている。狭い穴だが、通れないわけではない。
少女が手を穴の縁にかけ、身体を中へ潜り込ませようとした瞬間、後ろから腰を掴まれた。男。暗闇の中、見ることは出来ないが、そのごつごつした手はまぎれもない男の手。気付かれたのだ。少女は歯噛みした。
男は、手の内に感じる少女のしなやかさに、力を加えた。逃げられないように。穴に入られないように。
「もういい加減に帰してよ!」少女が高い声で喚く。「この穴、あたしなら通れるの! そしたら助けを呼んできてあげるから! 帰してよ!」
「帰せない」男は声音は陰鬱としている。「君が行ったら、僕は死ぬ」
男は腕に力を込めた。少女を完全に穴から引き剥がすと、回り込んで、自分の背中で穴を塞いだ。暗闇に、少女の嗚咽が響く。
「死んでよ……勝手に死んでよ……あたしを巻き添えにしないでよぉ……」
経つのもわからぬ時が経つ。とうに泣き止んでいた少女が、動き出した。男は寝ているはずだ。不確かだが、確かめようとは思わない。
穴。穴。そこから出られる。ここから出られる。こんな男は勝手に死ねばいい……。少女はそっと、穴に潜り込んだ。動きづらい。這うようにして進む。男は気づかない。一メートル進む。……前に進めない。「あれ?」壁がある。
おかしい。横を確認する。「おかしい」壁しかない。おかしい。あれ? おかしい。
「ああ……!!」いつの間に目覚めたのか、後ろで男の嘆く声がする。「せめて……君にはせめて、希望を持たせておこうと思ったのに……!」
少女は穴の中で、存在しない出口を探している。
次は「掃除機の音」「うるさい」「和」でお願いします。
寝ている私の鼻先で、蠅が飛び回っている。手で追ってもなかなか離れていかない。
夜中に虫の飛ぶ音というのはどうしてこんなにうるさいのだろうか。
腹が立った私は部屋の隅に手を伸ばし、卓上掃除機を掴んだ。
スイッチを強にして、蠅を吸い取ってやろうと掃除機を振り回す内に、蠅の羽音と
掃除機の音がシンクロしているような気がした。どちらかが大きくなればもう一方が小さくなる。
掃除機のモーター音と蠅の羽音の奇妙な和音。私は目を閉じて、一心にその電動式の楽器を振り続けた。
ふいにぱったりと蠅の羽音が止んだ。おいどうした蠅よ。私の演奏が気に入らなかったか?
いきなり強にしたのがよくなかったのかもなあ。私は掃除機を止め、いまや静かな床についた。
次は「剣」「草原」「途方もない」でお願いします。
絶滅危惧種の金魚草、原種の群生を確認
十五日ロイター発・共同通信配信
二〇四三年に絶滅危惧種に指定されていた金魚草の原種が、このたびチベットの高山地帯で発見された。
この金魚草原種はカンチュンジュンガ山南壁四合目付近に大量に群生しているのを、シェルパの若者が発見
したものである。
在来種と違い原種の葉は剣状をしており、肉厚である。また生命力も旺盛であり、現在サンプルを調査している
北京大学生物学部では自家受粉も可能ではないか、との見解を示している。すでに在来種との交配が行われて
おり、金魚草のレッドブック解除はほぼ確実と見られている。
昨今絶滅危惧種が闇マーケットで途方もない値で取引されている。特に金魚草は途方もない値がつけられている
が、今回の原種確認でこうした闇マーケットにも打撃を与えてくれるのではないか、と関係者は見ている。
次のお題は「あんぱん」「帆船」「黒」で。
515 :
「あんぱん」「帆船」「黒」 gr ◆iicafiaxus :03/04/13 21:33
海の夜風が春といってもまだ薄寒い臨港公園の野外音楽堂の空に大音声のパンクロックが
響いて、教育大附中三年の僕は今までに感じたことの無い気持ちの昂ぶりを抑えようとも
せずに声が嗄れるまで群衆とともに叫んだ。演目が全部終わって人々はぞろぞろと駅に
向かいスタッフはゴミを集めロープを外し機材をトラックの荷台に載せだしても、僕は
列車に乗って家に帰る気になどなれずに撤収の邪魔にならない緩い土手になった木陰の
暗い場所に坐り込んで出入りする船も無い夜の港に繋留されたフェリーや貨物船や大きな
帆船の影を見ていた。
不意に誰かが僕の脚に躓いて倒れた。謝りながら助け起こすとそれは僕と同じくらいの
齢の少女で、薄汚れたTシャツの白が夜の闇の黒に浮かぶ天使の羽衣のようだと思った。
へらへらと笑いながら隣に坐ったその子はあんぱんのビニール袋だけを大事に握っていて、
僕が空を指してあれが北斗星、あれが獅子の鎌とか言ってみても歯のすいた口はおざなりな
返事しか返さなかった。僕の肩に体重を預ける少女の体を腕を出して抱える勇気が今日は
僕にもあって、熟れ過ぎた果実のような匂いのする唇を恐る恐る奪うと、乱れた歯列を
舐め、吸って、幹を背に長坐したまま僕は小さな声で喘ぐ少女を自分の胸に凭れさせた。
シャツの裾で拭いた手をTシャツの中へ入れると少女は肌に何もつけていなくて、意外に
温かいその体に本で読んだ通りに指や舌を動かしながら、僕は度胸を決めて少女のGパンの
ホックに手をかけた。どこか頼りなくて壊れそうな少女の小さい体、薄汚いあんぱん中毒の
体を抱き止めながら、僕は乱暴な仕方に怯えと戸惑いを隠して、初めて一人の少女を知った。
次は「トマト」「仕返し」「新聞紙」で。
『お題:「トマト」「仕返し」「新聞紙」』
-----
ちょっとした旅先の、ひなびた無人駅。
電車が来るまでの時間つぶしのために始めたしりとりだったのだが。
「獅子」
「新聞紙」
「忍び足」
「島流し」
「精霊流し」
「新橋」
「志布志」
・・・
「獅子」が発端だった。つい「仕返し」になんとしても「し」で
終わる言葉を言ってやろうと二人はすっかりムキになっていた。
と言ってもそうは続かない。「鹿おどし」と言ったところで男が折れた。
「なあ、そんなにムキになるなよ、遊びなんだからさあ」
「ムキになってるのはそっちじゃない。いいわよ貴方がやめたいなら」
「そんなんじゃないって。今度は君が好きな言葉を言ってくれよ。最初の言葉を変えて仕切直しだ」
男の「仕切直し」に女の眉がつり上がった。
「ええ・・・いいわ。じゃあ『トマト』」
電車が来るまでには暫し時間がかかりそうだ。
------
こんなんですみません。
次も「トマト」「仕返し」「新聞紙」を継続してください。
友人のトマト君はいつも赤い。とってもシャイなプリティー・ボーイだ。
何を聞かれても赤くなって黙ったまんま。
そんなある日彼が口を開いたのさ。
よく晴れた日曜の午後だった。公園のベンチでお年寄りがのんきに新聞紙を広げているのどかな光景さ。
「仕返ししてやる」
うつむきながらそういった。ひときわ低い声ではじめはネタかとおもったよ。
僕たちを笑わせるためにいったのかと思ったよ。でもしつこいんだ。胸元から光るものをとりだして振り回しはじめた。
おいおいプリティー・ボーイよ何がそんなに悲しいんだい?おじいさんもびっくりして新聞紙をひっくり返しちまったよ。
ああ、こっちがトマトにされちまった。頭から血を流した真っ赤なトマトさ。
次のお題は「金閣寺」「フィアンセ」「チョコボール」で
お題:「トマト」「仕返し」「新聞紙」
今日は休日、なのに私は一人で部屋に居た。
憧れていた都会での一人暮し。
最初は束縛からの開放感に包まれていた。
私の故郷は、この街から遠く離れた、村中が知り合いのような、そんな所。
テレビから流れる人生を愉しんでいる都会の人達の姿。羨ましかった。
私は半ば家出のように故郷を離れた。
今思えば、それは自分の生きてきた人生への仕返しだったのだ。
ただ、都会で待っていたのは、華やかな生活では無かった。
仕事と家の往復。毎日がそれの繰り返し。
擦れ違っても声も掛け合えない、そんな人達。
故郷での暮しが懐かしく思い出された。何て我侭なんだろう、自分を嘲笑う。
キンコーン・・・
チャイムが鳴らされた。
宅急便が届けてくれたのは、実家からの小包だった。
何を送ってきたのだろう、そう思いながらダンボールを開ける。
土の匂いがする故郷の空気が優しく私を包んだ。
中に入っていたのは、新聞紙に包まれた実家で作った真っ赤なトマト。そして母からの手紙だった。
最近あった事、そして私がどうしてるかを心配している事、
手紙には、そんな文章が懐かしい文字で綴られていた。
自然と涙が溢れた。
わー・・・なんだかバカの一つ覚えな展開だ・・・鬱
次のお題は「コスモス」「夢」「喧騒」で
次のお題は「コスモス」「夢」「喧騒」で
お題は「コスモス」「夢」「喧騒」
都会の喧騒のなか僕と女は一線を越えた。
出会い系サイトで買った3万円の女子高生だ。
ホテルから出てきたときはまだ、夜の8時過ぎだった。彼女の門限までにはまだ時間がある。二人で夜の街を散歩した。
そろそろ冬に差し掛かるころで、年末にむけて慌ただしく街はうごいていた。気の早い商店街ではもう、クリスマス・イルミネーションの準備を始めている。
帰り道、二人で花屋の軒先きに売られている花を眺めていた。
赤いコスモスがバケツのなかいっぱいにいれられている。花言葉は乙女の愛情。
彼女が甘えた声で花言葉を尋ねてくる。
夢を無くしてしまった彼女に、僕は答えることができなかった。
次のお題は「金閣寺」「フィアンセ」「チョコレート」で
「バレンタインの本当の起源を知っているか?」
白井はあきらめきった視線を南郷に向けた。南郷のバカ話はいつどこで起こるか分からない、天災のようなものだ。
「聖ヴァレンティヌスが恋人だかフィアンセだかのために殉教したってのが通説だな」
「おう。他にも進駐軍のバレンタイン少佐がギブミーチョコレートな子供に菓子をばら撒いたとかいうのがあるが、ありゃ
全部間違いだ。真実は、まったく別のところにあった」
今日も南郷は、自分のたわごとを完全に信じ切っていた。こんな調子で、厳しい社会の荒波を渡っていけるのだろうか。
「時は大正時代。チョコレートがまだまだ珍しい時代だ。とある積極的な女が大枚はたいてウィスキーボンボンを輸入して
男に食わせ、酔わせたところで頂戴する。早い話が、バーでカルーアミルク飲ませる野郎と同じ戦略だったわけだ」
まただ。どこでそんな与太話を仕入れたのか。いいかげん諦めてはいたが、つい反論してしまうのが白井の若さだった。
「嘘つけ。そんな話聞いたこともないぞ」
「それはお前のアンテナが、まだまだ低感度だからだ」
南郷はふんぞり返った。自身満々だ。
「元ネタは三島だ。『美徳のよろめき』と『金閣寺』に書いてあるらしい。この間文学部のコンパで、日文のおねえちゃんが
言っていた。『金閣寺』はすごいぞ、それでおいしくいただかれた主人公が金閣寺に火をつけるのだ」
白井は頭を抱えた。
「お前絶対バカにされてるって」
次のお題は「ガスバーナー」「紐」「ワイパー」で。
522 :
名無し物書き@推敲中?:03/04/15 16:16
age
523 :
うはう ◆8eErA24CiY :03/04/16 22:28
「ガスバーナー」「紐」「ワイパー」
<バナーを押すとブラクラにいかされる場合があります>
・・と、せっかく本がいってるのに、敢えてそれに挑む男がいた。
「うーむ、やはりこれは、一度押してみなければ」
意を決してガスバーナーのスイッチを押す。
ぐぉぉぉ!
もらい物のパソコンが、一瞬にして灰となった。
さっそくサービスに電話する。
「もしもし、インターネットが不調なのだがね」
「えーと、ライン繋がってますか?」
パソコンを吊るしていた紐を引いてみる。大丈夫のようだ。
「わかった、自分で探す。もう君には頼まない」
本の題名の様な台詞を吐いて、男は嵐の中を車で出かける。
ワイパーをかけても前が見えない、雷雨の中を。
「ブラクラはどこなのだ!」
嵐の夜。彼はあてどもなくブラジャー・クラブを捜し求めるのだ。
※意外と本当にそう思ってる人も多いぞー
次のお題は:「忘却」「宇宙」「工作」でお願いします。
524 :
「忘却」「宇宙」「工作」:03/04/16 23:37
宇宙の大きさを考えていると、人の一生などほんの一瞬の出来事だと本当に思ってしまう。
だから、ちっぽけなことにとらわれずに大きく生きてみたい。友達が会社で昇進しようと
結婚しようと、フリーターは経済成長を制約すると言われようと気にしない。もっと大きな
社会貢献をしてやろうと、ぼくは思っている。歯車のような人生を歩むのは、
自ら歯車になることを望んでいるからなのだ。
この日本に生きていて、いつからこういう考えを持つようになったのかはわからない。不思議だ。
平等教育を施されているはずなのに、周りの人間と同じことはしたくない。
人間一人一人が、ただ一人の存在であるならば、自分にしかできないことがあるはずだ。
それが達成できたときには、満足のいく人生だったと思えるものに出会ってみたい。
子供のころの工作を思い出すと、なぜあんなに夢中になれたのかと不思議に思う。
「夢中になる」ということが、どういうことかは知っている。わざわざ忘れてしまうことはない。
宇宙の大きさを考えていると、自分自身を含めて、人間なんてほこりのような存在だと思えてしまう。
失敗したら、すべてのことは忘却してくれ。
次は「流れ」「歯車」「生き様」で
私が石神家の家事手伝いとして勤めだした時から、すでに歯車は狂ってい
たのでしょう。
身寄りのない私を親戚の人たちは、やっかい払いだと言わんばかりに高校
を卒業したら、住み込みの仕事を勝手に決めてしまいました。
私は生きるために働く事を決意しました。
石神家は代々巫女の家系の家柄で、大抵生まれる子供は不思議な能力を
宿して生まれるそうで、私がおつかえした綾子様も例外なく、不思議な力
をお持ちでした。年は50歳を越えているのに容貌は20代という姿をされ
ていました。
綾子様はとてもお優しい方で、彼女の能力は、人の心奥底を見透かせるも
のでした。よく世間では「人の心が分かればいいのに」とおっしゃいます
が、私は綾子様の苦しみを眼前で見ていましたから そうは思えません。
人の心の表裏全て視えてしまうと言うのは、想像を絶する事なのでしょう。
綾子様は極端の人嫌いで、よく一人でお部屋にお過ごしになる事が多く
ありました。でもなぜか私を気に入ってくださり、よく話相手になりまし
た。そんなひと時を私は、とても幸せに感じていました。
でも幸せとは長く続かぬものなのでしょうか?
ほどなくして綾子様はご病気になり、お亡くなりになりました。亡くなる
直前、綾子様は私を部屋に呼び、私の手を握りました。
「お前には すまないと思うけど、これも運命だと思って受け入れておく
れ。私の中には石神家の巫女たちの生き様の記憶の全てがある。それを
お前に引き継いでもらいたい。おろかだと思うけれど、必死に生きてきた
先代達の思いを無にはしたくないのです」
そう言うと目を瞑り、その後再び口を開く事はありませんでした。私と
いえば、綾子様の能力を全部受け継いだようで、44代目の石神家の巫女
の地位にとどまる事となりました。あれから数年時が流れ、私もようやく
この運命を受け入れようと思うようになりました。でも人の心を見通せ
る辛さ・悲しさは耐えようがありませんが、尊敬していた綾子様がいかに
孤独であったのか、一瞬ではありますが、綾子様の心と重なるようで
それが自分の心の慰めでもあるのです。
次は「夕闇」「とまどう」「心」で。
これ長すぎましたね。
525は無しで、524のお題目「流れ」「歯車」「生き様」で続きお願いします。
一つ、古い大きな時計がある。今は決して動くことのない時計。
この時計はとある男とまったく同じ日に生まれた。その男の親が誕生祝にと特別に作らせたものだった。
以来、同じ日に生まれた男と時計は同じ時をすごしていく。彼の傍らには、ひっそりと影のようにその時計があった。
男はどこまでも自由と正義を愛した。そんな彼が重税に苦しむ民衆のために立ち上がったのは、わずか22のときだった。その革命は最初は小さな火だったが、いつしか国全土を包み込む大きな炎となっていった。
彼が若き指導者として迎い入れられ、23となったとき。一発の銃弾が彼の左腕の自由を奪った。それに呼応するかのように時計も一つ歯車を失った。自慢の大きく響く音が鳴らなくなった。
それでも彼は戦い続けた。そして、五年後、遂にその革命は政府を打ち倒し、新たなる秩序を作り上げる。それ以来、その国に平穏な時間が流れていった。
革命がなったその後も、男には課題が山積みだった。自由を愛し、革命を起こした青年は、いまや国を指導していくべき立場にたっていた。
左腕の不自由な指導者のもと、新しい国作りが成されていく。その傍らに、もう大きな音を鳴らすことのない時計があった。
そして時は流れ、年老いた彼は指導者という立場から去っていった。一緒の時をすごした時計とともに彼は静かな余生を送る。結婚することのなかった彼は、時計に見取られひっそりとこの世を去った。半身を失った時計も、いつしか動かなくなっていった。
しかし、百年以上経った今も、その時計は立ち続けている。その男の誇り高い生き様を体現するかのように、時計はずっとそこにあり続ける。その姿が人々の心を打ち、今でもその国には平和な時が流れている。
次のお題は「苦難」「サバンナ」「自分自身」で
(^^)
自分自身はサバンナで苦難を乗り越えた。
次「人間」「理性」「秋刀魚」
530 :
gr ◆iicafiaxus :03/04/17 18:02
「人間」「理性」「秋刀魚」
人間の理性を網で焼く秋刀魚に譬えたのは、夏も終わりに近い日の高柳浩子であったか。
それは半袖に吹く川風が涼しい学校裏の土手に坐って、二人できそこないのいわし雲を
飽きることなく眺めていた昼下がりであったか。
だいぶ低くなった太陽のまぶしさに眉をひそめながら高柳は空に向かって、呟くように
いつもの庄内訛りの消えないアルトで言った。あたしの理性が秋刀魚なら、なんで秋口
だけしかもてはやさないんだろう、と。苦いはらわたを食べる人は滋養にいいからとか
言ってるけど、ほんとうはあの味が好きだから食べてるだけなんだよね、と。
一度だけ高柳と三本一皿の秋刀魚を買って焼いて食べたことがある。一本は僕が取って
一本は高柳が取った残りの一本は二つに分けて、頭を取れば尻尾が取れず、尻尾を取れ
ば頭を譲ることになるのだった。
その時ふと、秋刀魚が旨いというのもそれはたとえば高柳と七輪を囲む楽しさのために
ならいくらでも喜んでなげうてる、その程度の事だと思った。
次は「エスケープ」「シフト」「コントロール」で。
「いるんだろ? 貸したモンはいい加減返しやがれッ!」
鉄の扉一枚を隔て、私を殺した死神の声が怒鳴り散らされている。
光を遮られたアパートの一室。この部屋とその声の中で、私は
金と自分の愚かさの因果関係を呪いつつ、
今まさに、この世界から離脱(エスケープ)しようとしている。
どこまでが良かったのだろう、どこで失敗したのだろう、
どうして、こんな事になったのだろう。
どれほど頭を切り替え(シフト)ても答えは見つからない。
でも、そんな事を考えるのもここまで……。
もうすぐ、こっちの世界の私とはお別れするの。
何者かに取付かれ(コントロール)たかのように
キッチンに向かい、赤色のコックを静かに左に回す。
「……さようなら、次は違う私に生まれてきますように」
ヘタレすぎてゴメン、次は「死神」「天使」「動機」で
532 :
「死神」「天使」「動機」:03/04/18 02:02
※長いので2つに分けてます。
何が起こったか理解できないままルシウは床にはいつくばった。次の瞬間、腹部に食い込んだのが男のつま先であることは何となく想像できた。
息が詰まった。次いで口の中に胃液の味が広がる。右の頬が腫れているのがわかる。
見知らぬ男だった。だが、とんでもない男だということはわかる。暴力の専門家、そういう類の男だった。
やばいヤマに拘わってしまったらしい。幾つかの候補が頭の中を駆けめぐる。殺される・・・!それは夢でも何でもなく、今、ルシウに迫ってくる現実だった。
「さて、私は誰でしょう?」
身を起こしつつ血が混じった胃液を吐き出したルシウに向かって、男は陽気な声で言った。サングラスの奥の瞳が見えない。それが不気味だった。
「さぁ?サンタクロースには見えないな」
男を睨みながらルシウは返事をした。
男は「くっくっく・・・」と含み笑いをし「けっこう、けっこう」とサングラスを右手の中指で押し上げながら呟いた。
そのポーズを見てルシウはキザなヤツだと思った。「まったくキザな野郎だ。“気に障る”ことこの上ない」という言葉は胸の内にしまい込むことにしたのだが・・・。
「これから不景気な話をしないといけないからね、陽気なのは大いに結構」
男はそういうと続けて言った。
「で、質問の答えだが、ご指摘の通りサンタクロースじゃないんだな、これが。取り敢えず、天使って事にしておこうじゃないか」
「天使?堕ちてるんだろ?少なくとも質の良い天使とは思えないな」
ルシウは吐き出すように言った。
「面白いことをいうな、君は。じゃあ、気の良い悪魔だと言えば納得してくれるか?」
「そうだな・・・、でも、やることが一緒だと困るな。職務怠慢な死神ってのはどうだ?ついでに、たった今怠慢になってくれれば重畳この上ないけどな」
「それも良いかもしれないな」
男の答えは意外なものだった。「じゃあ今日は職務怠慢な死神でいこうじゃないか。ただし、君が言うことをちゃんと聞いてくれたらの話だけどね」
533 :
「死神」「天使」「動機」:03/04/18 02:04
「話?」
訝しげにルシウが聞き返した。
「そう」
男は鷹揚に頷いた。
「条件によるな。サインを済ますのは契約書を読んでからにしろと連邦通商局も言ってるしな」
「きっと君にとっても悪くない条件だと思うんだがな。ご承知の通り、私は君を殺しに来たわけだ。しかし、君はそうなることを望んでない。
ここで私と君はある一点において同意しているということを確認しておかなければならない。それはこういうことだ。君は私に殺されたくない。そして私は君のような面白い男を殺すのは忍びない。そこで・・・」
男はここで一端言葉を切った。手許にティーカップでもあれば一息つくタイミングなのだろう。だが、ここにティーカップはなかった。なかったので男は唇をペロリと舐めた。
ルシウは男の言葉を待った。この男は何を言うのだろう・・・?
「・・・そこで、君、自殺してくれたまえ」
あっさりとした口調で男は言った。卵はスクランブルで、と注文するような口ぶりだった。「そうすれば、私の希望も君の希望も同時に満たすことが出来る。君は私に殺されない。私は君を殺さない。
しかも、私は目的を達することが出来る。なに、動機なんて何でも良いさ。家族なり恋人なり、そういう人間関係のもつれって事にすればいいさ。よくあることだろう?ええとそうだな・・・」
男はなおも口を動かしている。
ルシウは黙っている。
唇を噛み締めている。
「何がいるかな。紙とペン。無論、遺書を書いてもらうためだ。自殺の方法も考えなきゃな。楽に死ねる方がいいよな?例えば・・・」
男は陽気にしゃべり続ける。
ルシウはそれでも黙っている。
固く、強く、唇を噛み締めている。
次は「カルシウム」「コンテスト」「シナモンスティック」で
「死神」「天使」「動機」
グラジオラスが枯れた。雑に「ばさっ」と捨てられた茶色い束の傍らで、ガラスの花瓶が寂しく見えた。
不愉快な朝に、僕は彼女の愚痴を聞かなければならなかった。
――花が枯れてたのよ。あんたが買ったんでしょ? 勿体ないな。
カサブランカでも何でも、大きな花びらのを買ってきてよ。生けとくからさ。
彼女は皓い花が好きらしい。白という色は純潔だとか、清潔だとか、そんなイメージ。
でも、彼女は白を連想させない。僕の脳裏には、彼女が手渡してくれた黄色い薔薇が浮かび、
初めましてと挨拶を交わす代わりに彼女が見せた微笑が、やはりイメージとして先行した。
死は甘美な響きを潜ませていた。僕は密かに彼女を愛した。彼女と、彼女の背後に立つ死神に憧れた。
いま死神は生活に溶け込んで、僕にはありふれた美の天使だった。
昨夜の雨のせいか、外の空気は蒼ざめていた。家々の窓には赤いカーテンがのぞいていた。
安いカフェの入り口に、ロートレック風のポスターが一枚、貼りついていた。
何か閑寂とした僻地に僕はいた。黄色い薔薇と夜会を懐かしく思った。習慣的なノスタルジーで。
午後になって、僕は造花を手にして家にいた。彼女は相変わらず無邪気で無感動だった。
――それ買ったの。手入れはあたしがするから、面倒がらなくていいのに。どうしたの?
アマリリスの造花を手にして、動機なんかないよと僕は言った。
お題は
>>533さんの。
「カルシウム」「コンテスト」「シナモンスティック」
「貧乏揺すり」眉間に皺を寄せて、呆れた様に妻が言う。
ここ数日の俺は苛立ち続けている。
『全日本がまん比べTVコンテスト』苛々の原因はこれだ。短気な俺に業を煮やした妻がこっそり応募したのだ。
「あなたも少しは『我慢』って言葉を覚えなさいよ」口元に微笑みを浮かべながら妻が言った瞬間、思わず食卓をひっくり返しそうになった。
「優勝賞金は一千万」妻の言葉に、動きかけた身体が止まった。車検を目前にして、車を買い換えようか悩んでいた矢先だ。
兎にも角にもチャレンジする事にした。これで俺もベンツオーナーになれるかも知れない。
一日に何回となくカルシムのタブレットを齧る。煙草の本数と酒の量がうなぎ上りに増える。
「何だか目付きが悪くなったわねえ」のんびり屋の妻は食後のコーヒーを炒れている。妻の動きは俺の心を落ち着かせるのには一テンポ遅い。
早く作ってくれよと思いながら、文句と貧乏揺すりをぐっと我慢する。たっぷりの生クーリムとシナモン。
「はい」妻はシナモンスティックをカップに添えてテーブルに置く。猫舌の俺はスティックを齧りながら湯気が消えるのを苛々しながらじっと待つ。
妻は、そんな俺の様子を微笑みながら見ている。
「人肌に冷ましておいたわよ」妻の言葉にコーヒーを啜った。
「がっ」余りの熱さに思わず吹き出した。立ち上がり、妻を睨む。
「お、お、おまえ……」怒りに拳を握り締めた。
「テストよテスト。ちょっと試したの。今の態度じゃ予選落ちね」妻は声をあげてころころと笑った。
頭の中で、走り去るベンツのテールランプがどんどん小さくなって行った。
次のお題は「熱帯」「初恋」「散歩道」でお願い致します。
536 :
名無し物書き@推敲中?:03/04/18 16:36
「あぢぃ…」
人気もまばらとなった夜の学校。生徒会室で夏休み明けに開催される球技大会の計画立案を行って
いた僕は、倒れこむようにして机に突っ伏した。仕事の期限は目前に迫っていたが、意欲は致命的に
低下している。全ては気温のせいだ。窓を全開にしてもなお僕を苦しめる熱気が任務の遂行を妨げて
いる。そう言えば天気予報では熱帯夜を予報していた気がする。ますます覇気が失せてしまった。
「誰か、今すぐ何とかしてくれ」
「文句言わないで。ほら、口を動かす元気があったら手を動かしなさい」
向かいの机から女の声が聞こえた。内容は随分と手厳しい。しかし彼女もこの熱さには少々滅入っ
ているものと見え、声に含まれた疲労の色は隠し切れていなかった。
「空気整調機の導入を要求する」
「すぐに取り付けられるものでもないでしょう」
「僕は夏場の悲惨な状況を危惧してだなあ」
「さっきと言ってる事が違うって」
などと、馬鹿話で気を紛らわしてみたりする。もっとも、その試みは完全に失敗したのだが。依然変
わらぬ熱地獄に対し、僕は次なる作戦を打ち立てる。
「なあ、外に出ないか? 少しは涼しいはずだ」
彼女を残して一人涼みに行くのも気が引けたから、一応誘いの言葉を掛けておいた。仕事熱心な彼
女の事だから、一人で行けば、くらいの言葉は覚悟している。
彼女は手を止め、シャープペンシルを置いて僕へ視線を向けた。
「少しだけならいいかも」
僕の予想はあっさりと裏切られてしまう。見た目以上に彼女もこの熱さに参っていたようだった。
二人は校舎を後にした。向かったのは川沿いに伸びている遊歩道だ。等間隔に桜が植えられてい
て、春には花見で賑わう事になるこの道は、その他の季節にも散歩道として親しまれている。
彼女が小走りに駆けて行った。いい気分転換になったようで、気持ちよさそうな様子に見える。少し
先まで走って、そこで立ち止まると、
「ほら、早くおいでよ」
と僕を振り返った。彼女の黒く長い髪の毛が遠心力に従って宙に舞う。こちらへ向けられた笑顔と相
まって、僕は素直に綺麗だな、と思う。
それが初恋の始まりであったとは、その時の僕は気配すら感じていなかった。
537 :
名無し物書き@推敲中?:03/04/18 16:36
次のお題は「洗濯物」「空」「木」でお願いします。
538 :
「洗濯物」「空」「木」:03/04/18 23:10
春の日差しが強く射すマンションの一室に、いつも決まった時間に洗濯物を干す
主婦がいました。このマンションの中でも一、二位を争う美人妻だそうで、ママさん
たちがよくうわさをしています。
たまたま井戸端会議に出くわしてしまったぼくは、公園の一角から木陰に隠れて、
その時間ぴったりに、美人妻が出るというベランダをのぞいてみました。
うわさは本当でした。
パンパンと洗濯物をはたき、小さいお子さんもいるのでしょう、園服などを干しています。
そして、ぼくは恋をしました。
天気のいい日はもちろん、雨の日も毎日公園に通い続けました。しかし、土・日と雨の日は、
ベランダに出てくることもあるけれど、いない日の方が多いのです。雨の日は寂しい。
そのうち、ぼくのことが公園でうわさされるようになりました。
怪しい人物がいる。
ちらちらと視線を感じるようになり、美人妻の彼女の耳にも入ったのでしょうか。
ついに、彼女と視線が合いました。三階のベランダから、見下ろすような冷たい視線で
ぼくを見ました。耐えられずに、すぐに視線をそらしました。
やはり怪しい人物だと思われているのでしょうか。彼女はぼくのことなど何も知らない。
いつの間にか、ぼくは彼女のすべてを知っているかのような気持ちになっていました。
勇気を出して、もう一度だけ彼女の姿を見て、その場を立ち去りました。
空を見上げてみました。動機が不純だと思われるかもしれませんが、恋をした心は本当なのです。
次は「不純」「ヴァルハラ」「伝説」で。
539 :
名無し物書き@推敲中?:03/04/18 23:15
540 :
「不純」「ヴァルハラ」「伝説」:03/04/19 05:14
昼過ぎから出始めた雲は、今や空全体を覆う分厚い雷雲になっていた。
時折、胃の奥の方まで揺らすような重低音の響きは、遠雷のものか、それとも友軍の防御砲火のものか。
何とも頼りない掩体壕で身を伏し、支給された自動小銃の照準越しに丘の下を覗いていた私には判らなかった。
隣の戦友――肩章は、私の部隊より前に居るはずの歩兵大隊のものだ――は、ろくに前方警戒もせずに、
仰向けに寝転がったまま30分を過ごしている。大した度胸だ、数キロ先には敵の部隊が接近しているというのに。
「……なあ、あんた」
私は独り、押し黙っているのに耐え切れずに口を開いた。緊張で喉が渇いていて、ひっくり返った声だった。
「なんだい戦友。前方警戒しなくていいのか」
「それはあんたの方だよ。 ……なあ、あんたは何で、軍隊なんかに? いまどき、徴兵でもないだろう?」
「まあね。 ――『伝説の英雄』になりたくて、じゃあダメかい?」
「ガキじゃあるまいに。ずいぶんな話だ」
「不純な理由じゃないだろう?『略奪・強姦・皆殺しが好きだから』よりマシだ」
私は思わず口の端を歪めた。彼が言ったのは、前大戦での功績が認められ、国では英雄扱いされていて、
今も後方で踏ん反り返っているであろう優しいクソッタレの准将殿に贈られた、敵国の『賛辞』だったのだから。
「はッ、そいつはいい! あんた面白いな、名前は?」
「俺は―― おっと、悪い。名乗ってる場合じゃなさそうだ」
私が理由を問うより早く飛び起きると、彼は枕代わりのフリッツを引っ被って穴倉に伏せた。
「いきなりどうし」
突然の轟音。横殴りの衝撃と、掘り返されたばかりの黒土が私の頬を打つ。敵の準備砲撃が始まったのだ。
「ほら来た、お客さんだ! これが終わって、あんたがヴァルハラに召されてかったら、俺の名前を教えてやるよ!」
酷い耳鳴りと、遅れて響いた軽機関砲の大合唱で、最後の方はよく聞こえなかったが、彼は確かにそう言った。
あれから20年経つが、彼の名前は、未だに膨大な戦没者名簿の中のひとつだ。
次は「ガムテープ」「時計」「かばん」で。
「あったぞぉ!」
捜査員の一人が大声をあげた。途端にトラロープの外側で遠巻きに眺めていた野次馬が、蜘蛛の子を散らすように
逃げ去った。
厳重に隔離された区画の中心、開け放たれた駅前コインロッカーの内側に、旅行用かばんが鎮座していた。
本庁に爆破予告の電話が入った。犯行声明やプロパガンダをがなりたてる訳でもなく、ただ爆破する事実のみを伝える、
なんとも不気味な爆破予告だった。本庁はただちに緊急体制に移行し、予告で指定された駅を封鎖、爆弾をしらみつぶしに探した。
そして今、捜査員の手によってそれは発見された。
「……だめだ」
俺は歯噛みした。構造は単純だ、時計の時針と分針を使った電気接触式爆弾。しかしかばんの内側にはミリ単位で格子
状に配線が張り巡らされていた。一本でもショートさせると作動する。解体はおろか、かばんを開けることすらできない。
「大至急自衛隊に連絡して、チョバムアーマーの耐爆シェルターを……」
言いかけて、俺は絶句した。
X線透過写真。映し出された時計。時針と分針。角度が三十度。作動まで……残り五分!
「これを使え!」
駅真横に直接車を横付けした男がドアを蹴り開けるなり俺に投げてよこしたのは、ひと巻きのガムテープだった。
「何だお前は……!?」
言いかけて、俺は気づいた。
「時間がないんだろう!急げ!」
叫ぶ男の胸には、警察庁の技官であることを示すバッヂがきらめいていた。
爆弾は爆発しなかった。
いや、正確にはした。
爆弾はロッカーの扉一枚吹き飛ばすこともなく、かばんとガムテープとロッカーの内側を少々焦がして、沈黙した。
「今の今開発されたばかりの、耐爆ガムテープだ。間に合ってよかった」
満足げに微笑む技官が、親指をびっ、と立ててみせた。
バカ長い、スマソ。
次は「プラズマ」「観音」「瓜」で。
観音って固有名詞じゃないの?
「あんたはアレよね」
年若い彼女が傲慢とも思える態度で決めつける。
男は何も言わずいつも通り次の言葉を愚鈍に待つ。
「幽霊とか出たらさぁ。まあお茶でもとか言って水出す奴よね。」
「その場合、やはり蒸留水でないとだめかな。しかし壊す腹もない人に高い水だすのも…ねぇ?」
彼女は埃をかぶった木彫りの観音象らしきものに手を延ばし品定めの目をむける。
「この埃だらけの神様にでも聞いてみたら?」
そう言ってずいと彼の面前に突き出す。薄暗い廃墟はどこもかしこも埃が積もって埃臭かったがそれは一段と白く臭かった。彼はしばし見つめた後かぶりを振って出口へ歩き始めた。
「余所の神様に聞くなら、幽霊でもプラズマでも飲む方に聞くさ。」
一人残された彼女は素早く値打ちのありそうなものを袋に詰め込んだ。最後に観音象に手をのばしたが、その手がなにかをつかむことはなかった。
手をのばしても、爪を研いでも彼の女神には届きはしない。彼も彼女も、それを知っていた。
次は「限りある」「惜しみない」「あなた」で。
「あんたはアレよね」
年若い彼女が傲慢とも思える態度で決めつける。
男は何も言わずいつも通り次の言葉を愚鈍に待つ。
「幽霊とか出たらさぁ。まあお茶でもとか言って水出す奴よね。」
「その場合、やはり蒸留水でないとだめかな。しかし壊す腹もない人に高い水だすのも…ねぇ?」
彼女は埃をかぶった木彫りの観音象らしきものに手を延ばし品定めの目をむける。
「この埃だらけの神様にでも聞いてみたら?」
そう言ってずいと彼の面前に突き出す。
薄暗い廃墟はどこもかしこも埃が積もって埃臭かったがそれは一段と白く臭かった。
彼はしばし見つめた後かぶりを振って出口へ歩き始めた。
「余所の神様に聞くなら、幽霊でもプラズマでも飲む方に聞くさ。」
一人残された彼女は素早く値打ちのありそうなものを袋に詰め込んだ。最後に観音象に手をのばしたが、その手がなにかをつかむことはなかった。
手をのばしても、爪を研いでも彼の女神には届きはしない。彼も彼女も、それを知っていた。
次は「限りある」「惜しみない」「あなた」で。
スマソ
二重投稿してもうた(。・/д`゚・)ゥワァン
「限りある資源を大切に使いましょう」
偉そうにテレビの中でコメンテーターがしゃべっている。
俺はそれを横目で見ながら、隣の雪子を抱き締めた。
「石油があと数十年でなくなるってホントかなぁ」
あまり本気で心配して無さそうな口調で言う雪子。
「どうでもいいだろ」
そう言って、黙って唇を合わせる。
数瞬の後俺が顔を離すと、雪子は黙って抱きついてきた。
「あなたがいればいい」
冷静に考えれば歯の浮くような台詞を平然と言う。だから俺も同じように返してやる。
「惜しみない愛を雪子に」
そう言って、そっと服を脱がせる。
雪子が帰った後に、アドレス帳を見ながらつぶやく。
「アイツもそろそろ飽きてきたな……」
そろそろ捨てようか、そう考えてから考え直す。……最近ちょっと切り捨てすぎて、人数が減ってきた。
このまま減らし過ぎると、欲しいときに誰もいないという事態が発生してしまう。
やっぱりもうしばらくはキープしておこう。
――限りある資源はタイセツニ。
変なの書いてしまったなぁ。
次、「さけ」「とうじ」「かす」で。
∧_∧
( ^^ )< ぬるぽ(^^)
「またしばらく会えなくなっちゃうんだね」
とある駅の構内。列車のガラス窓ごしに発車を伝えるベルの中に、
ぽつりと彼女残した言葉が耳に響き渡る。
上手く言葉が返せない。数年ぶりに再開した彼女との時間は、
俺の人生の中で最も短く感じたのだが、この瞬間は
それとは逆に、俺の人生の中で最も長く感じただろう。
表面上は泣きそうな彼女だったが、かすほどの涙も見せない。
当然、それは俺も例外では無い……何故なら、
二人とも分かっていたから。
今は少しのお別れで、今度会える日がまたあると分かっていたから。
「いや、また会えるでしょ」
考えていた事を、やっと言葉にするように
「一回別れて、それでまた再開できたんだから」と、続ける。
彼女が、うんと軽くうなづいたのを確認したと
同時に、列車が動き始める。俺は、手も振らず
胸に手を当てただ走り去る列車を見送る彼女が
視界から消えるまでただ見つ続けていた。
――また戻ってくるから。
あの時、お互いに手を振らなかった理由が分かったのは、3年後に
再開した時であった。
次の人。「眼差し」「スイカ」「流線形」
川辺に、花が咲いていた。赤い赤い、赤い彼岸花。
毎年この時期になると、赤い花が咲いていた。何かを包み込むような花は、綺麗だったけれどどこか禍々しかった。
けれど、今年は違っていた。青系の、様々な花の描かれたノースリーブタートルから綺麗な流線型のなだらかな肩のライン。
背には脱色でもしたのか、色素の薄いサラサラとした髪が流れていた。
白いロングスカートの裾が汚れるのも構わずに、しゃがみこんでいる彼女の眼差しを一身に受けて赤い花は咲き誇っていた。
一体、彼女は誰なのか。どこから来たのだろう?なにをしているんだろう?
今日も彼女は川辺にいた。今日も白い軟らかそうな二の腕を惜しみなく出している。
寒くないんだろうか、とは思わなかった。ただ、綺麗だと思った。桜色の爪がタバコを持った指先を飾っている。
薄ピンクの唇が動いていた。初めて僕は、彼女がヒトだと気づく。
そして、彼女は僕に気づいた。
「あのさ、そこの道行く少年。ちょっと聞いていいかな?」
「あ、はい。」
きっと、今の自分は随分と無表情だろう。
まったく顔の筋肉が動かない。
「このあたりにコンビニかスーパーある?」
「は……?」
日本人どころか、ヒトということすらやっと認識した僕に、そういうこと聞きますか?
「スイカバーってまだ売ってるかなぁ……売ってるとこ、しらない?」
赤い赤い、美しい花。美しく咲く花をこよなく愛する彼女に、道案内をした僕は
花が散った後、一緒にタバコなんて吸っている。
「ね、バナナゼリー食べたくない?」
付け足すならば、パシリにされているとも言う……。
次。「1セット」「give」「黒」
なんでこんなに意味不明なお題ばっかりなんだよ・・・・・・。
552 :
名無し物書き@修行中:03/04/20 17:32
「1セット」「give」「黒」
つけっ放しのTVでは往年のスターとアシスタントが無駄にさわやかな笑顔を振りまいていた。
「今ならもう1セットついてこのお値段!」
大写しになった工具セットはどう考えても一家にひとつあれば事足りるようなものだった。
その映像を見て私は、笑いをこらえることが出来なかった。あぁ、なるほど。世の中どこに
転機があるのかわからない。私は妻の亡骸に目を落とした。ちょっとしたはずみだった。私は
ヒステリックに叫ぶ彼女のほほを張っただけだった。だが、彼女は死んでしまった。体制を崩
し、後頭部をテーブルに打ち付けて。きっと世間は私が殺したと思うに違いないのだ。だが、
まだgive upするには早すぎる。いずれ見つかるだろうがこれをバラバラにして撒いてしまえば
多少なりとも時間は稼げるはずだ。なんとなく彼女に悪い気もしたが殺してしまった以上の罪悪
感を感じることもないだろう。私は早速彼女をバラバラにすべくノコギリを探し始めた。
何処に仕舞ったのか、部屋中を引っ掻き回した挙句、途方に暮れているとドアが不意に叩か
れた。時計の針は午前3時を指している。多分となりの学生だ。彼は以前にも何度かうるさい
と怒鳴り込んできた事があった。私は思い切り愛想良く接する事に決めた。ドアを開けるとそ
こには仏頂面の彼が立っていた。あからさまに怒っている。私は精一杯の笑顔を作って彼に侘
びを述べようとした瞬間、彼が振りかぶったものに気がついた。黒光りする鉄鎚。彼はそれを
無言のまま私へと振り下ろした。突然視界が真っ赤になり、意識が遠のく。まあ、これで、追
われる事は無いわけだ。まったく、転機はどこにあるのかわからない。
17行。次は「葉桜」「雨」「日曜日」でお願いします。
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いつからだろう、4月始めの雨が嫌いになったのは。
昔はこんなに憂鬱にはならなかったのに。
日曜日の雨の街はいつもよりも静かで、それが更に憂鬱を倍増させている。
一人になってからはそれが嫌で大きな音で音楽を聴いている。でも、それも耳障りで。
昔はうざったくて、いつも衝突していた。何かがあるといつも小言、こっちも言い返して口げんかになって、
そして、いつの間にか忘れて、笑って、また衝突して、それの繰り返しを幸せだと気が付いたのは、
いなくなってから。
ココに居たんだと思って嘆くのも悲しむのもやめたのに、こういう隙間の時間に思い出してしまう。
ひょっとしたらひょっこりと帰ってくるのかも知れない。あのころみたいな日々がまた戻ってくるとは
思えないけど、期待していることも嫌になってくる。
桜が葉桜になって始めての日曜日には外に出よう。無理やりにでも外に出よう。空元気を振り絞れば
一人でも何とかなるかもしれない。
今年も恒例になってしまった事を考えた。
まだ寂しさはあるけど、思い出の引き出しにしまっておけないけど、いつかは閉まってあげる。
だから、もう少しこの寂しさを感じていてもいいよね。
次は「寂しさ」「空元気」「SEX」
あいつは全くSEXだけしか能のない女だ。
別に頭が悪いと言う訳ではない。その証拠にそれなりの大学を出ている。
しかし人間、社会で生きて行く上で肝要なのは才能と言う奴だ。
知識や学歴など何の価値もない。
女は自分でもそれを劣等感にしていて、
休日などに馬鹿な女子高生のようにはしゃいで見せるのも全ては演技、
空元気にしか過ぎない。
本当は静かな図書館で独り本を読む方がずっと好きな癖に。
だが俺もまた何の才能も持たずに社会に放り出された頭でっかちのモラトリアムだけに、
あいつの焦りや苦しみや寂しさはよく分かる。
そしてやっぱり俺もSEXだけにしか能がないのだ。
次は「空想」「ジュース」「ラジオ」でお願いします。
ごめん、「社会に放り出された頭でっかちのモラトリアム」って何か矛盾してました。
刑務所で出会った男は、変な奴だった。ジュースというのは空想上の飲み物だと思っているらしい。
んなもんムショの中でも買えるぜ、と教えてやったが半信半疑。
しょうがないので奢ってやると、愕然としていた。酒以外に甘い飲み物があったのか、って。
アホか。そうも思ったが、目の前でオレンジジュースのちっちゃいパックを持って、幼稚園児のように
はしゃいでいる奴を見て、俺は不覚にも目頭が熱くなった。ただし、泣くのだけは断固として堪えた。
娑婆に出たらジュース屋になろう。奴がそう言い出して、いつの間にか俺も巻き込まれていた。
暴行恐喝で捕まった男が、まるで少年のように夢を語っていた。
出所は俺のが半年だけ早い。最後に奴と、ジュースの差し入れの約束をして、娑婆に帰ってきた。
早速走り回って、ジュース屋、と呼べるかどうかはわからないが、ジュース工場のアルバイト面接を受けた。
いつの間にか熱くジュースへの情熱を語っている俺がいて、内心苦笑した。結果は合格だった。
奴が出てきたら、この仕事を紹介してやろう。大量のジュースがベルトコンベアの上を流れるこの光景を見たら、
奴は失神するかもしれない。その姿がリアルに想像できて、ついつい顔がにやけてしまう。
工場で作ったジュースを、安く買って、荷物にして。最初の休みに奴に会いに行こうと考えた。
出かける予定の日の前夜。ラジオから流れるニュースを聞いた。奴のニュースだった。
刑務所で、喧嘩して、死んだらしい。喧嘩の原因は、飲み物を奪われたから。
何年も経って、正式に社員になって、ジュース屋も板について。色んなジュースも味見した。
それでも未だに、奴と飲んだ小さなパックのオレンジジュースの味だけが、どうしても忘れられないのだ。
次は「泣い」「笑っ」「幸福」でお願いします。
「泣い」「笑っ」「幸福」
夜の町は死んでいて、酒場も屋台もからっぽだった。私はひとりで薄汚い椅子から窓を眺めてた。
携帯電話に着信があった。番号には見覚えがある、ストーカーまがいの男に違いなかった。
グラスを空けて、客の来ない店内をじろじろ見回すと、やっぱり表のポスターが気になった。
ドア脇にある、ロートレック風のポスター。私は個人的には気に入っている。知人が描いたものだ。
今夜、客はほとんどなかったけれど、いつもの客は、あのポスターが不愉快らしい。
女がひとり正面を向いている。
顔の半分は泣いたばかりの表情で、あとの半分は笑っている、風変わりな画。
鏡を覗いた。顔が疲れていて、思わず眼を背けた。いま何のために私は生きてるんだろう、とか、
そんな抽象的な憂いに沈んでみた。馬鹿みたいに物静かな夜だった。
無口な道路に光が差して、警官の自転車は過ぎ去った。窓ガラスに反射を残した。
電車は、まだあったっけ、と、何となく考えた。この時刻、終電より少し早い頃、でも動く気力がなかった。
着信があった。またあの男だった。死んじゃえ、と呟いて履歴を削除する。オレンジの蛆。
果物ナイフでリンゴの皮を剥いた。別に食欲はなかった。手持ち無沙汰だったから。
深夜に壁は溶け込んで、影が隅を占拠した。ラジオをつけてみた。
『――そう思うと、生きてるだけで幸福ですよねー』 ……幸福なんて死語だよ。錯覚ですよ。
次は「謙虚」「殺意」「街角」で。
559 :
うはう ◆8eErA24CiY :
「泣い」「笑っ」「幸福」
病名不明で面会謝絶。同病のため、同室入院で観察されてる。
誰も知らない自分の死期を、私と彼女だけは知っていた。
その理由は誰にも言わないでおこう。
号泣、いつわりの慰め・・・旅出の気を重くするだけだ。
16才で彼女と二人、幸福にも同じ日・・・今夜死を迎えるのだ。
痛みがない事を祈ろう。笑って逝こう。
「いよいよ今日だなあ。隣に座っていい?」
と聞かれると、彼女は笑ってベッドを半分あけてくれた。
「ごめんな、僕のせいで」「まあまあ、お互い様よ」
死の床に並んで二人。薄れゆく意識の中で、7年前の記憶が蘇る。
あれは忘れもしない、小学校の放課後の新緑の日々だった・・・
「ゆくぞー!」「ひゃぁぁ、痛いー」
痛みに耐えながら人差し指を組み、体勢を立て直す彼女。
「ひどいっ、仕返しよ!」「ぎょえぇぇぇ!」
直腸・肛門を突き破った二人の手には、夥しい血が滲んでいた。
「秘技・七年殺し」・・・まさか本当だったとは。
※ あれはひどい漫画だったなあ。30台限定ネタでスマソ(^^;L
次のお題は:「平面」「立体」「時間」でお願いします。