あ、これはついで投稿ですので、続けお題は
>>7のものをご利用下さい。
「パチンコ」「皿」「桜」
太一が粘土を弄りだして、一年が経過しようとしていた。
最初に牧村に逢ったのは新宿の片隅だった。ホームレスに囲まれて生きるのも
悪い事じゃないか、と、パチンコ屋のバイトを首になった時に思い込み、
新宿駅南口に座り込んだ瞬間だったことを記憶している。
尻の下で紙のくぐもった音に紛れ、ぱりん、と、乾いた音がした。
暫く、「……あれ」としか、声が出なかった。隣には既に男が座っていて、
太一の尻の下の紙袋と、太一の顔を交互に睨みつけていた。
男はごく普通の紺のスーツと地味なネクタイといういでたちで、頭髪も
乱れがなかった。しかし、問題は顔だった。
ぎょろりと飛び出しかけた目。巾が広く、唇の異様に薄い口。平べたくつぶれた、
大きな鼻。爬虫類の顔、そのものだった。
一刻も早く逃げ出したくなって、すみません、と腰を浮かせた太一に、
男はおもむろに紙袋を取り上げ、無残な中身を取り出した。
見事に三つに割れた陶器の大皿が恨めしそうに太一を見つめる。メジロとウグイスが
満開の桜の花の下で戯れる、のどかな風景を描いたものだった。
しかし、それは量産されるものではないのが、男の目つきからわかる。
――牧村と名乗ったその男は、業界でも有名な奇人のろくろ回しだった。自分の作品を
尻で割った若い男を面白がり弟子にした話は、半年ばかり陶芸家の間で面白がられたのだった。