突如私のすぐ横で、爆音がとどろいた。いきなり吹き付けるガソリン臭い熱風に、私は足をよろめかせた。
乗用車が燃えていた。対向車線をはみ出し、向かいから来ていた軽トラックと正面衝突したようだった。
車は黒煙をもうもうと吐き出しながら弾き飛ばされ、後続を巻き込んだ。後続車両は次々に衝突を繰り返し、
ねじ曲がり、砕け、ひしゃげながらいびつに歪んだ列を産み出していった。
私は震える手で携帯電話を取りだした。こんな光景、めったに見られるものではない。最近の携帯電話は小型カメラが
ついている。こうまでもショッキングな写真は、ちょっとした話のタネになるのは間違いなかった。
私は興奮していた。携帯電話を取り出そうとするのに夢中で、危険というものを正しく理解出来なくなっていた。
ようやく携帯電話を取り出した私の視界が暗く翳った。団子状態になって衝突を繰り返すうち、中程にいた車のエンジンが押しつぶされ、
圧縮されたガソリンに引火し、交差点から歩道に吹き飛ばされたのだ。
それもちょうど、私が焦りも露わに立ち尽くすその場所に。
半ば焼けこげた鉄塊に押しつぶされる瞬間、携帯電話の液晶画面が映し出したのは、無惨に骨格を粉砕される私自身の姿だった。
次のお題は「マウス」「タイガー」「マーク」で。