この三語で書け! 即興文ものスレ 第十壱層

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「遠雷」「アサツキ」「鳥カゴ」

私がインコを初めて飼ったのは、5歳の時だった。
春芽のような羽のそれは鳥カゴの中で、じっとしていてはくれなかった。
えさをやるためにカゴの入り口を開けると、いつも私の小さな手をすり抜けて逃亡し、やっきになって追い回したものだ。
「サツキ」と言う名のインコは、名前を与えられた10日後庭のアサツキと共に朝露に濡れ、冷たくなっていた。
遠雷の鳴る不吉な雲が空を覆う朝に。カゴは入り口の錠は、前の晩掛け忘れていたのか、外れていた。
サツキが死んだ朝の事はあまり覚えていない。
きっと大泣きしたには違いないが、あいまいな記憶の糸を手繰り寄せることはできなかった。
その後の30年、私は鳥も含めて、動物は一切飼わなかった。
多分、普段は寝たきりの梅干のような顔をした曾祖母に、
「生き物は閉じ込めておいたらいけんよ。自然におるのが常じゃきに」
と面と向かって言われたのが怖かったのだろう。
一ヶ月前、上司に2匹目のインコを買って貰った。
鳥カゴの中のインコは、サツキのように必死に暴れまわったが、あのときのように逃げ出すこともなかったし、錠をかけ忘れることもなかった。
もう庭のアサツキの上で死なせたりしない。もう、放さない。

カゴに入る インコ眺むる 文月の庭 紫に咲く アサツキの花
      
☆復線はったはいいけど、落ちがわかりにくいかも(自分で読んでも)
 次は「蜜柑」「朝顔」「検算」でお願いします。