103 :
「富士」「微小」「七」:
東京の高層マンションの一室で私は彼を殺した。
窓から無制限に広がる青い空は薄く富士山を映す。
口論のすえもみあいになって突き飛ばしたら、熱帯魚の水槽に彼の頭をぶつけたのだ。
熱帯所の水槽は割れ、床に微小のガラス片が散った。
程なく七匹の熱帯魚は死んでしまった。
私は呆然と七匹の熱帯魚と一人の男の死体をしばらく見つづけていた。
それでも私は気を取り直し、立ち上がっては掃除機とゴミ袋を用意し、弱い魚と水槽の痕を処理した。
それらをごみステーションに置いてきてから、彼をベランダへと引っ張りそこから突き落とした。
すぐに彼は微小の塵となり、吸い込まれるようにアスファルトへと消えてしまった。
そのとき私は自分の正当性を反芻するばかりで、死者に祈る気持ちは消えていた。
今でも私は普通に会社勤めをし、ストレスを煙草で紛らす日々がつづいている。
それでももう黒い服は着ないようにしている。
なにかの歌ではないけれど、私には着る資格がないのだ。
宇多田ヒカルの新曲を聴きながら書いてみました。
つぎは「コンタクト・レンズ」「恋人」「闘牛士」でどうぞ。