なっちがメルヘン世界に飛ばされたら

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68なっちの戯曲
ようやく腹が満たされた僕はおもむろに辺りを見回した。
店内は僕らの他に客はおらず、何年か前のヒット曲だろうか
聴き覚えのあるメロディが静かに流れていた。
窓から店の外に目をやると多くの外食店が軒を連ねていたが、
それらはいずれも明るい電飾と、ひっきりなしに出入りする客の車のライトに
彩られ、僕らのいる店とは対照的な賑わいを見せていた。
どうやらこの店は幹線道路に面した恵まれた立地条件の割に
流行っていないようだった。
僕らの頭上でチカチカと点滅する切れかけた照明が、
店の印象を一層うらぶれたものにしていた。
それにしても静かだ。ふと視線を隣りにやると、
いつの間にかなっちはカウンターに突っ伏して寝入っていた。
何の気なしに撫でていたカウンターの縁につけられた
細かな傷に気がついたのは、その時だった。
よくよく見てみるとそれは文字のようだった。
「ココハ人丼屋」
僕は思わず立ち上がった。
が、次の瞬間、強い衝撃と共に目から火花が飛び出た、ような気がした。
そして僕の目の前は真っ暗になっていった・・・。