>>255 「鬼の哭く街・・・。―カサンドラ」
「そうだ―聴こえないか?この鬼達のすすり哭く声が」
そう言うと男は、自分の両の耳に手を当ててみせた。
つられるようにあたしも手を耳に当てる。
―風が鳴っている。
部屋の入り口は鉄格子になっていた。
そしてその格子の向こうの闇から届く風の音が、男の言葉通り
すすり哭きのように切々とあたしの耳に鳴り響く。
その哭き声はまるであたしを呼んでいるかのようで、
あたしは思わず両の肩をつかみ身をすくめた。
男はあたしの反応に満足するかのように話を続ける。
「ここは『不用者』どもの処理施設だ。
風の音さえも、ここじゃ絶望してあんな音を聞かせるのさ」
「不用者?」
「そう、『不用者』だ。見ちまったんだろ?アレを」
格子の向こうの暗闇を、重々しい足音が段々と近づいてくるのに
気がついたのはその時だった。
あたしのその様子を見て男が言う。
「獄長だ」