なっちがメルヘン世界に飛ばされたら

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255なっちの戯曲 ◇Qx/7DEzf5E
あいつらが追いかけて来る。
逃げても逃げても、どこまで逃げても追いかけて来る。
そう、私はあの時見てしまったのだ。
つんくさんが・・・つんくさんが・・・。

「おい、いつまで寝てる。いい加減起きろ」
聞き覚えのある声にあたしの意識は現実に引き戻された。
「・・・ううっ」
頭がひどく痛む。
おまけに意識が集中できず、靄がかかったかのようだ。
饐えたような匂いが鼻をつく。
全身にのしかかる気だるさと格闘しつつあたしは目を開いた。
狭く薄暗い部屋の一隅に人と思しき影が立っていた。
「ほんの一匙でこうとは、我ながら大した効き目だ」
そう影は男の声で満足げに呟いた。
未だ靄の晴れぬ私は苦心して焦点をその影に合わせた。

「―あなたは吉野家の」
あたしの眼の前にいたのは
行きずりの男の子と一緒に入ったあの吉野家の店長だった。
「何故あなたが?」
「残念だったねえ、上手く逃げおおせたつもりだったんだろうが」
男の答えに顔が青ざめていくのが自分でもわかる。
「あなたは一体?」
「もう大体想像はついてるんだろう?お前さんが思っている通りさ」
最悪の展開だった。
こんなところまであいつ等の手が回って来ていただなんて。
あたしは体の震えを必死に抑えて三度尋ねた。
「ここは一体?」
「ここか?ここは鬼の哭く街。―カサンドラだ」