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「タクラマカン砂漠への道」
広大な砂漠……と一言で片付けてしまうには、あまりにも説明が足りな過ぎる程、巨大な砂漠だった。
その中をうら若い女性……と呼ぶよりは少女と呼ぶに相応しい黒い長い髪を一つにまとめた少女と、十前後の少年がゆっくりと、しかし着実に歩を進めていた。
砂漠の太陽は容赦なく絹のようにきめ細かく白かった少女の肌を焼き尽くす。
その熱気からは「チリチリ」という音すら聞こえてきそうだった。
「次はタクラマカン砂漠へ行きたい。チャルチャン川を渡ればそう遠くは無いでしょう?」
そう言いながら、笑っていたあの笑顔はどこに置き忘れてきてしまったんだろうか。
少女は無言のまま、前方だけをきりりとした漆黒の瞳で睨んでいた。
一粒の汗が、きちんと分けられていた前髪を伝わり、音もなく金色の砂の中に消えていく。
少女の脇を歩いている少年は、心配そうに少女の顔を覗き込んだ。
しかし、その口から出た言葉は表情とは裏腹に毒を含んだものだった。
「だから言ったでしょう、紫乃お嬢様。タクラマカン砂漠への道のりは厳しいって。お嬢様は何にも知らないんだから。大体そんな服装で砂漠を渡ろうなんて言う方が無茶なんですよ」
少女は自分の着物に袴といういでたちをちらと見てから、苦しそうに口を開いた。
「……いいでしょう。私は…この…服装が動きやすいん…だから。……大体、路望はいいわよね……。ロボットだから…熱いとか感じないんでしょう……」
袴を手でめくり上げながらも、砂に足を取られるたびによろける少女の姿は滑稽だった。
しかし、少年は笑っていない。
静かに少女の苦しそうな表情の裏に隠された思いを読み取ろうとしていた。
「……路望が何と言おうとオアシスがみたいの……。苦しい生活の人々に…少しでも潤いを与えるオアシスを……」
少女の境遇を知っている少年はその言葉を聞いても、今度は皮肉らない。
少年はそっと少女に寄り添って無言で歩いた。
前方に鮮やかなグリーンと澄んだブルーが映るその時まで。
☆次は「泣き叫ぶ大人」で。