ひたすら描写するスレ。

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※この文章には一部気分を著しく不快にさせる表現が含まれておりますかも。

呪われた道具は、その真価を遺憾無く発揮していた。
人に対して有害無益とされる、"ヤツら"を生け捕るためだけに開発されたそれは、台所の隅、炊飯ジャーの下に設置されていた。
その真ん中に仕掛けられているのは、まさに地獄への片道切符だ。
そして今日も、その為に造られた異臭に耐えられる筈も無く煉獄に落ちる虫が一匹。
蟲惑的なその香りに魅せられて、充満しているはずの死の匂いに気付く様子もない。
踏み込む。一歩。同胞の気配がする。さらに一歩。
彼がその部屋に五本目の脚を踏み込んだ時、死の匂いが彼の全身を包み込んだのに気が付ける者はいなかった。
薄暗い中で蠢く同胞が何を意味するのか、彼に予測できるだけの神経球があったなれば。
否、そんな知恵がないのなら、これから始まる責め苦に絶望を感じる事もないのか。

――二週間後、彼はまだ生きていた。先にこの檻で死を噛み締めていた牢名主は、前のように動き、もがく事を止めていた。
無理もない。後から来た彼もまた餓えに苦しんだのだ。例えそれが眷属だと判っていても、口元に当たるものであれば貪るほかない。
首の届く範囲に居たのが不幸か、先に居た御器被りはその腹に大穴を穿たれて絶命していた。
二週間のうちにどれだけ逃げ出そうと暴れたろうか……。
昆虫界一の韋駄天の脚は、その創造主にすら分解できない粘着液に絡め取られ、既に半分が胴から離れている。もはや彼らが生き延びる事など、誰に想像がつくだろうか。
その蟲は、かつて自分がしたように後続に残った脚を齧られながら、ようやく自らに死が訪れている事を悟った。


次は「学校に遅刻しそうな学生」で。