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「雪」「道路」「落ち葉」8/10:
椰子とバナナに、うららかな陽の光。そこは常夏の島だった。
陽炎に揺らぐ道路の向こうから、巡回ショーのトラックがやってくる。
「いよいよこの島にも<ウインター・ショー>がやって参りました。
お代はオウム一羽でOK。これを逃すと、一生冬は拝めませんよー!」
常夏の島。この島で生まれ、この島で死ぬ人生。ショーは連日満員だった。
ショーといっても、それは情けないものだった。
落ち葉を敷いただけの「冬ワールド」。
冷蔵庫に保存しておいた雪に顔をうずめる「冬エクスペリメント」。
そんなショボいものでも、皆は感涙にむせび、何度もやってくる。
「今日ね、僕ね、雪を!なめちゃったんだよ。テレビじゃないよ、本物だよ。」
「本当に葉っぱが赤いなんて!黄色や赤が混ざって…」
翌日。珍しくショーの団長と団員達は、浜辺で疲れた体を休めていた。
ここの島でも好評だった。金は順調にたまってる。
がんばろう。
息も凍る地獄。シベリアに置き去りの妻子を、ここに呼び寄せるその日まで。