かくれんぼをしていると、ふいに自分が何処にいるのか分からなくなって、
隠れ続けているのが自分だけのような気持ちになってこない?
あれはね、本当に、何処か別の所にいるから、そうなるの。
風に落ち葉が舞い上がり、はらはらと落ちる。煙る落ち葉の向こうには、赤い上着の女の子が立っていた。
ねえ、ほら、早く隠れなくちゃ、見つかっちゃうよ。
と、女の子は、枯れ木ばかりの林の中に身を深くいれ、褪せた木の皮と無数の落ち葉を囲い込んだ。赤い服が驚くばかりに同化する。
僕も、急いで同じ場所に身を投じた。鬼役の子が道路を駆けて来る音を聞いたからだ。
二人とも、同じところに隠れちゃ、駄目だよ。
声を潜めてそう言ったが、女の子は別段厭そうでもなく、結局二人一緒に隠れ続けた。
鬼が、目の前の道を、山のほうへ走って行くのが見えた。そのまま少しの間息を潜めていると
不意に、女の子が口を開いた。
ねえ、場所を変えよう。
え? 駄目だよ。ルール違反だよ。
いいじゃない、同じところばかりいると、すぐに見つかっちゃうわ。
でも、あなたが行かないなら、それでもいいけど。
と言うと、周りを見渡し、女の子は道へ出た。振り返り、僕のほうを一度だけ見ると、そのまま山のほうへ登って行った。
秋も終わりの、雪の降り出しそうな、冷たい空の下だった。
あの時、女の子は、可愛らしいピンクの手袋をつけていた。
それ以来、僕は、女の子の姿を見ていない。