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Vu ◆sAO62Cbyi. :
雪の降り積もる日、妻が私を散歩に誘った。珍しいことだ。普段、彼女は雪の日は外に出ようとしない。
私が行くところについて行くから、と妻が言った時、私は既に何か感じていたのかもしれない。
散歩道は、妻と初めて出会った、街路樹の並ぶ歩道を選んだ。傍らの道路は、当時から数えるほどしか車の姿を見ていない。
雪があらゆる音を吸い取ってしまったかのような静寂の中、私たちは腕をからませて歩いた。
「秋の暮れだったな、お前と会ったのは」
散り、舞い、積もる落ち葉の中、音もなく歩いてきた妻に一目で惚れたのは――いつのことだったろう。
「あなた――」
妻が、不意に足を止めた。言うな、と私は言いたかったに違いない。けれど、言葉にはできず、私はただ前を見ていた。
私は知っていたのだから。この日が来ることを。
「――ありがとう」
呟くように妻が言った時、私は絡めた腕に力を込めた。のがさぬように。離れぬように。
けれど、空を漂う真綿を掴めなかったように、彼女の気配は、ふ、と消えた。
ある確信を――彼女と出会った時から抱いていた確信を持って私は振り向いた。
雪積もる歩道には私の足跡だけがくっきりと残っていた。
落葉に音もなく現れた女は、今また、音もなく積雪に消えたのだった。
「雪」「道路」「落ち葉」5/10