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「雪」「道路」「落ち葉」2/10:
道路に舞い散る落ち葉のうえに、朝の雪が淡く積もる。
彼は憂鬱そうにうつむきながら情けない足どりで歩いていた。
入学試験当日なのに腹は痛いし滑って転ぶし、気分はなぜか冴えないのだ。
手に取るように答えが知りたいと彼は望んだ。
すると電信柱から薄い紙を振る手が伸びているのに彼は気づいた。
不審がりながらも彼は受け取ると、なんと問いに対する答えがそこに印字されてあったのだ。
そして実際入学試験を受けてみると、その試験の解答だということを彼は理解した。
彼の人生は安泰とはいえなかったが、なにかの節目ごとにその手はどこからか伸びてきて、なんらかの回答を示した手紙を提示してくれた。
彼はそのたび安堵の息を漏らし、苦渋に満ちたうねりをなんとか乗り越えてこれた。
人生の後半にさしかかったある夜彼がベッドで眠りかけたころ、そばで人影が立ちつくしていることに彼は気づいた。
幻影はしだいに輪郭を満たし、やがて彼とだいたい似たような男の姿が現れた。
そしてその男の手は彼の人生を救った見覚えのある手だった。
「おい、俺のことを知っているだろうな」
「もちろんです。なんとお礼をいったらいいか」
「そうだろ、けっこう危険な目にもあってきたんだぜ」
「でもなんで今まで私のことを助けてきてくれたのですか?」
「それは俺も同じ目に遭ってきたからさ。人生はプラスばかりで終わらない。そうだろ?」
「はあ」彼は曖昧に答えた。
「世界を平衡に保つためにはどこかで埋めあわせをしなければいけない。俺は充分補った。今度はおまえの番だ」
男がようやく責任や負担から逃れられたというような解放感に満ちた表情を浮かべて成仏したと同時に、彼は息を引き取った。