十人十色!3語で即興競作スレ

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「お母ちゃん、雪だよ雪!」
たーちゃんの声で我に返った。私たちはバス停のベンチで待ち続けていた。たーちゃんは私の顔をしばし見つめてから、ベンチから歩道に飛び出し雪と戯れてみせる。なぜかその顔はこわばり不安で曇っている。ああ、何の事はない、それは私の顔でもあったのだ。
たーちゃんは暗澹がうきだした私の顔を、いつだったかの朗らかな笑顔に変えようと彼なりの努力をしている。わたしは努力して微笑みと優しい声をなげかけた。
「風邪引くわよ、お隣にきなさい」
多少なりとも不安が和らいだらしい、たーちゃん落ち葉で雪をすくうと大事そうに
持ち帰ってきた。雪が降る季節に街路樹から切り捨てられた落ち葉・・・。
それは夫に捨てられ打ちのめされた私と似ていた。
あなた、なんで私たちを置いて消えたの?
返しきれない借金があっても、生活が苦しくても一緒に暮らしていきたかった。
どんなに雪が積もっても葉を捨てずに冬を超え、ささやかな花をさかせ実をつける椿のように支え合いたかった。

ましてやこの子の為なら濡れ落ち葉のようになってでもついていく覚悟だった。
私の手に冷たさが走った。見るとたーちゃんが私の手を握っていた「お母ちゃんの手温かい、でもお母ちゃんは冷たそうごめんね」
「いいのよ、相手の事を思いやれるなんてやさしい子の証拠よ」
たーちゃんが笑った。そうしている間にバスが来た、けれどもあの人は来なかった。
乗り込もうとすると「ちょっと待って」たーちゃんが街路樹にかけより落ち葉を戻した。
バスの中でたーちゃんに尋ねると、落ち葉の裏にテントウムシが冬眠していたから布団を
とっちゃ寒そうなので返しにいったそうだ。
私にもできるだろうか。あの落ち葉のように冬を超えこの子が自分の春を歩み出すまで寒
さから守る事が、自信にも愛にも飢えさせない事ができるのだろうか。
家までずっとつないだ手の温かさをわたしは忘れない。