マターリうる星やつらの小説でも書こうや

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603暇つぶし。
「ただいま〜。」
日課のガールハントを終えたあたるが部屋に戻ると、ラムがいた。
ラムは窓辺に腰掛けて雑誌を読んでいた。
「ダーリン!またガールハントけ!?」
ラムの声を無視して、あたるはごろりと横になった。
ラムはまだ何か言いたそうだったが、あきらめて雑誌に目を落とした。
窓からはさわやかな秋の風が舞いこんで来る。寝転がるあたるの鼻を、かすかな花の香りがくすぐった。
鬼星のシャンプーなのか、香水でもつけているのか、ラムからはいつも花の香りがした。
あたるはその香りが苦手だった。苦手と言うよりも、弱かった。
そのまま、ラムにのめり込んでしまいそうだから。もちろん、あたるはラムの事が嫌いなわけではない。
ラムはいつもあたるのそばにいる。でも、抱きしめると、ラムはすぅっと消えてしまいそうな、そんな感じがしたから。
今までも、ラムは何度かあたるの前から姿を消した。でもそれは、パスポートの更新のためであったり、
あたるの気持ちをためすためであったりと、他愛のないものだった。
だが、あたるの心には、いつもなにか漠然とした不安のようなものがあった。
だから、あたるはラムを拒むのだ。ラムをそばに置いておく為に。
604暇つぶし。:03/10/04 21:50
あたるはいつのまにか眠ってしまっていたようだった。
窓の外はすでに夕焼けに赤く染め上げられていた。
見回すと、部屋には誰もいない。
あたるの心の中の、漠然とした不安が騒ぎ出した。
「散歩でも行くか…。」
自分にそう言い聞かせると、あたるは家を出た。
商店街、学校、公園…。それとなく、ラムのいそうなところを回ってみたが、
ラムはいなかった。
あたるは、ふと何かを思いつくと、ある場所へと向かった。
学校帰りにいつも通る、友引町を一望できる高台。すぐ近くには、
春に花見をした公園もあった。あたりを一周してみるが、ラムはいない。
「帰るか。ラムのやつ、どうせUFOにでも行ってるんだろう。」
またも自分に言い聞かせると、あたるは家に向かって歩き出した。
ふと、花の香りがした気がして、あたるは振り向いた。
公園の街灯の上に、ラムがいた。
ラムは静かに、夕日を見つめていた。
「ラム…。」
あたるは思わず声をあげた。
「ダーリン?どうしたっちゃ?こんな所で…」
605暇つぶし。:03/10/04 22:01
「おまえこそ…こんな所で何しとるんだ?」
あたるが聞き返す。
「うち?うちは…、ここで夕日を見てるっちゃ。」
ラムはまた夕日を見つめた。
「まだ地球に来たばかりのとき、ここで初めて夕日を見たっちゃ。地球の夕日は
鬼星のよりもずっときれいだっちゃ…。だからうち、よくここに来るっちゃ。」
「そうか。」
あたるは考えた。ラムはそんなにセンチな人間だったろうか。きっとなにか理由があるのだろう。
その理由は一瞬でわかった。そうか、おれだな。
あたるがラムを遠ざける理由を、ラムはおそらく理解していないだろう。
あたるも、それをわざわざラムに言うつもりは無かった。
(おれも罪作りだな…。)
冗談交じりに自嘲すると、あたるはいつもの口調でラムに言った。
「おい、帰るぞ。メシの時間におくれたらジャリテンがうるさいからな。」
「もう…、ダーリンにはロマンがないっちゃ!」
ぶつくさ言いながらも、ラムはあたるの後をついて来た。
今は、あたるには花の香りが心地よかった。

おわり