549 :
うはう ◆8eErA24CiY :
「煙」「望郷」「霞」
インフルエンザが治らない。熱で意識も朦朧と霞がかかっている。
博士は言った「この薬はどうかな。革命的な新薬だ、命は保証しないよ」
そして新薬は効いた。くしゃみも、鼻水にも、一生無縁の身体になったのだ。
3年が経過して、また冬がきた。
今、彼はパンツ一丁で、ぼうっと箪笥の上の壷を眺めている。
「ふぁぁぁあ」と欠伸をした。もう数時間はこうしているのだ。
どこからか、煙の様に一人の少女が現れて言った。
「今日もだめみたい?」
「うん」と少年はうなだれる。
少年と少女は二人、部屋の隅で箪笥の壷を眺めていた。いつまでも。
少年は一向に風邪をひかない。
風邪でくしゃみをしていたあの頃に、彼は望郷の念すら感じた。
彼は寂しかった。くしゃみをしたかった。
そして少年は大人になり、くしゃみに無縁のままその一生を終えた。
大魔王は最後まで壷の中で、彼の「ハクション!」だけを待っていた。
※ワクチンの方が…
次のお題は:「もう走れません」「自動車」「サイボーグ」でお願いしまふ。