502 :
The プー:
「あーもう!!ちきしょう!」
橋の上から水面に広がる波紋を鼻息荒く睨みつめて、一人で半分泣く様に男がさけんでいた。
男は騙されやすい人間だった。
名前は義晴。普段から愉快で少しそそっかしくお人良しだった。少しそそっかしくお人よしなので、そんな所が人から良く好かれた。
そしてその分人からよく騙されるのだった。
その日も義晴は、宝石商に水晶のネックレスだと騙され、ガラス玉の偽者を掴まされていた。
今はそのガラス玉でできた「水晶」を橋から川へ投げ捨たところだった。
「何が"私は東南はアジアにあります、ナモエマオ王国の王室御用達の宝石商でして..."だ!!
第一世界地図で探してもナモエマオ王国なんてないじゃないか!!」
普段なら多少騙され損をしても、笑って「まぁいいか・・・」で済ましていたが、今回はそうはいかなかった。
義晴には時間が無かった。彼には付き合っている女性がいて、名前は緑といった。
ショートカットでたんぽぽみたいに明るく、その笑顔を見ているだけで、義晴はもう洗車の日の雨も、
気の抜けたビールも、全てが許せてしまえた。そんな緑が冬になってから体調を崩し、ずっと入院していた。
そして昨日も、いつものように週一回の見舞いに来た義晴に、いつものようにニコニコと笑っている彼女が、
ニコニコした顔のままで「私、もう半年も生きていられないんだってさ。」と明るく言った。
見舞いに来た義晴はつられてニコニコした顔のままで、もう何も言葉が出ず、その場に立ち尽くしていた。
もう冬を通り越し、季節は春を迎えていた。
503 :
The プー:03/01/16 14:29
家に帰ってから義晴は真っ白になってしまった頭の中で、必死に考えた。もう残りの半年間は、自分の生活の全てを彼女に捧げよう。
あんなにニコニコしていたって、一番辛いのは彼女だ。自分が彼女を支えてあげなければ。一日でも無駄にする事は出来ない。
まずは彼女が前々から欲しがっていた水晶のネックレスでもプレゼントして、「何も心配要らないよ。」と男の優しさを見せ付けてやるんだ。
橋の上で絶望していた義晴は、自分の今の有り金を考えた。あらかた"王室御用達"の宝石商にもっていかれてしまい、気の効くプレゼントの一つも買えそうになかった。
あぁ・・・とにかく今日は彼女に会おう。彼女とはこれから毎日会おう。一日でも無駄にはできないのだ。と腹をくくり、彼女の入院先に向かった。
とはいうものの、やはり手ぶらでは格好がつかないな、と考えながら、ふと道の隅を見ると一輪の花が咲いていた。
その決して派手で鮮やかではないが、ひっそりと綺麗に咲くその花にが気になり、義晴はそれを摘み取り、本屋に寄って何の花か調べた。
「あ、今日も来てくれたんだ。」
緑は嬉しそうに笑った。義晴は黙って彼女の側まで行き、行く途中で摘んだその花を彼女に渡した。
「ありがとう。綺麗ね。気が利くじゃない。何ていう花?」
彼女はホックリと微笑みながら言った。
「雛菊だってさ。菊なんて縁起が悪いなんていうかも知れないけど・・・・・。その花、延命菊とも言うらしいんだ。これから毎日持ってくるよ。」
緑はそこで口を開いて思い出したように何かを言おうとしたが、義晴がそこでまた話はじめたので黙って聞いた。
「この部屋がさ、この花でいっぱいに埋まるまで持ってくるよ。そりゃぁもう溢れ返るぐらい。君が一日でも長く生きていられるように。僕が君と一日でも長く過ごせるように。それしかできないんだ。でも、たとえそれだけでも、僕にさせてくれないかな。」
身振り手振りで大袈裟に話て行くうちに、義晴はいつのまにか泣いていた。泣きながら、格好悪いな。と思った。緑はこんなにニコニコ笑っているのに。辛いのは彼女なのに。何で僕だけこんなに泣いているんだ。と思った。
504 :
The プー:03/01/16 14:29
そこで緑は、ニコニコと優しい目をしたままゆっくり口を開いてこう言った。
「今日、何月何日かわかる?」
義晴は彼女の言ってる意味がわからず、少し何もいえなかった。そして病室の壁にかかっているカレンダーを見た。四月二日だった。
「ごめんなさい。あなた昨日私があんな事言っても笑ったまんまなんだもの。すっかり私の言ってる事信じてないんだと思ってた。
ほら、入院生活って退屈じゃない?だから、少しいたずらしてみたくなって・・・。」
緑は笑いながらも少しちょっとバツが悪そうにしていた。義晴はまだ彼女が何を言ってるのかわからないでいるようで、カレンダーと彼女の顔を何度も見ていた。
「だーかーら。今日は四月二日でしょう?昨日は何の日だ?」
緑はニコニコしながらそう尋ねた。
男は騙されやすい人間だった。
長すぎた上に被ったスマソ。
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