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チャンネル・コップ・定規:
通販で買ったという座椅子にふんぞり返った先輩は、気持ち良さそうに焼酎を空けていた。
「座ってればなんでも揃う。動くのが馬鹿らしくなってくるのよね」
無駄を嫌うと豪語している先輩は、日常においても無駄な動きがない。動く前に計算しつくすのよ、が口癖だった。
「家電はリモコン、買い物は通販、情報はネット──」
「そのうち太りますよ」
見回す部屋に置いてあるものは、どれも一昔前のものだ。古い機材を、先輩の先輩から譲り受けたらしい。節約好きの先輩は、伝統を大事にしているのだと言う。
「クイズは見飽きた。なんか面白い番組ない?」
「犬番組が……リモコンなんか、ないじゃないですか」
先輩が得意げに取り出したのは、定規だった。何をするのかと見守っていると、テレビに腕を伸ばす。番組が変わった。
「──近代的っすね」
「人類は道具を得たのよ。ゆくゆくは座りながらにして晩酌の用意が整うわけよ」
「ただの駄目人間じゃないですか」
「うっさい。お酒!」
先輩がコップを突き出す。溜息をついて焼酎を注いだ俺に、舌を出した。
「裕太君は、未来を先取りしているのよ」
リモコンか晩酌マシン扱いだ。
こんな小憎らしい仕草も可愛いと思ってしまうのが情けなかった。
ラノベ風味。次は「奇跡」「自転車」「鮭」でお願いします(゚Д゚)ゴルァ!