283 :
いけない☆ルージュマジック:
よろしくない、と男がポスターを見上げた。化粧会社の口紅宣伝で、人気俳優を使ったものだ。男らしさを売りにした俳優が唇に紅を挿すと、女性に通ずる艶かしさがある。
「奥様にいかがですか?」
歯ブラシをナイロンの袋に詰め込みながら、赤い唇を光らせた店員が笑顔を貼り付ける。口裂け女とは恐らくこのような姿をしているのだろう、と男は店員に頷いた。
「見せてもらえるかね」
「あら、はいはいルージュですね。少々お待ちくださいませ」
棚にかがみこんだ店員が振り返ると、小さな紙箱が握られている。ろくに色も確かめず男は財布を取り出した。
家に帰って箱を出すと、妻は驚いたような顔で男を見た。
どうしましたの、と首を傾げる妻を食卓に座らせて、正面に腰を下ろす。
「……見られていると居心地悪いわ」
そういいながらも、ルージュを塗る妻は嬉しそうだった。身を乗り出すように見詰めていると、妻が笑い出した。
「あなたも塗ってみますか?」
「嫌だよ、そんなマジックみたいなもの」
手を振った男にかまわず、テーブルを回りこんだ妻がルージュを寄せる。
「……動かないでくださいね」
ぬるぬるとした感触が唇に当たるのを感じながら、男は妻の胸元を見ていた。ずいぶん温かそうなセーターじゃないか、と思ったところで妻が離れる。
「はい、どうぞ」
忍び笑いとともに渡された鏡に映っていたのは、奇妙な老婆だった。
「婆さんになっちまったぞ」
「意外に似合うかも」
ためしに、ポスターのように貌を斜めに向けてみる。
悪くないじゃないか、と言った男に、もういちど妻は吹き出した。
タイトルがアフォすぎました。
次は「もぐら」「めがね」「モテモテ」でお願いしまふ。