この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層

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282 ◆ra0S/YG2ds
  
  渋谷駅の東横線改札を出たとき、ニ年ぶりに母を見た。
  
  石焼イモの声がやけに響く団地の一角に住んでいた頃、
私は母と弟との三人暮らしを送っていた。弟は一日でも早
く家を出たがっており、母は父親の代わりになれぬことを
悩むでもなく、日々の家事をこなしていた。私は就職でき
ずに四年もアルバイトを続けていて、正直いつ辞めようか
とばかり考えていた。そして五年目の春、母は姿を消した。
    
  JRの乗換口へと階段をのぼる。さて挨拶したものか
弟に電話したものか考えつつも、山の手線ホームへと降り
る。片思いしている女の子に相談を持ちかけて、親友の関
係から抜け出したりして、なんて思いながら、母の背を横
目で見る。背筋が真っ直ぐのびている。老けてはいるが、
元気そうだ。
  このまま住家まであとをつける間、ニ年分の呪縛を
楽しもうと思う。何度も何度も再開のシーンを考え直したりして……。


「背筋がのびている。〜元気そうだ」だけではキツイけれど、
どうして母が消えたのかは書きません。ありがちな理由が想像できるしね。
次は「いけない」「ルージュ」「マジック」で、ベイベー。