「約束」「安易」「肝っ玉」
「あれは、雪女、じゃないかな」
僕は日本酒を舐めるように呑んで、そう言った。長年のつき合いである友人たちも、その時ばかりは『おい、大丈夫かコイツ』
という顔で僕を見ていた。
「だって、あいつらは吹雪の中コテージで会ったんだろう? お約束じゃないか」
「あのな、そりゃそうだろうが、雪女っていうのは、もっとこう――」
彼らの言いたいことはよくわかった。
僕らの話していることは、共通の友人と、その妻となった女のことだ。
つい数時間前、僕らは友人の結婚式に出向いた。馴れ初めは聴いていた――ただし、笑い話としてだったのだが。
僕は祝福半分、好奇心半分で式に参列した。
予想以上にキた。
曰く「男」の肝っ玉母さん。曰く神の失敗作。曰く顔面核弾頭。そのどれもが言葉足らずであることを知った。
そう。友人の妻は、唖然とするほど不細工だったのだ。
美的感覚も普通だった友人が、どうしてそんな女を安易にめとったのか。しかも、プロポーズは彼からだったという。三次会の
話題はそれで持ちきりだった。
「やっぱりあれだ、あいつも式の最中はずっと呆然としてたから、できちゃった婚とか」
「いやいや保証書を盾に」
「そんなことよりも――」
侃々諤々喧々囂々。酒も入って騒がしく言い合う彼らを眺めつつ、僕はまた舐めるように日本酒を味わった。
そしてそっと呟いた。
「好きも嫌いも美意識も――心が凍れば関係ないものさ」
次、「イヤホン」「古本」「針千本」