この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層

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「いいかAD!TVという物はだなー、視聴者に夢を与えないといけないだぞー」
ディレクターは程よく酔って上機嫌だ。居酒屋とはいえ、最近少なくなった
ただ酒である。おごってもらえるのなら名前で呼ばれない事ぐらい許せる。
俺も酒が回ってきて、メニュー表片手にたわいの無い事をいいだす。
「まだがさんま旬だとか書いてありますよ。もう11月も終わりなのに」
「ははは、脂がのって旨いのは10ぐらいまでだよな」
「そうそう9月の料理ショーのさんまはめちゃくちゃ美味しかったですよ」
これに嘘はない。ゲスト達も前置きと匂いにさんざん焦らされ、スタジオに
私を食べてと言いながら最高級天然さんまがスタジオに現れた時は歓声が挙がった。
そして絶賛したのだ。私も放送後一口分けてもらったが言葉に現せないほど旨かった。
「やっぱ天然物はちがいますねー、養殖が食べれなくなりますよ」
「しかし矛盾していると思わないか?普段”天然物”の謳い文句は実が引締まってる、だろ?
なのにトロやサンマは脂が乗ってるほうが喜ばれる、その点は養殖が上だ
世間は暗示にかかっているだけではないのだろうか。」
「いやいや、天然物には養殖似ないものが在りますよ。だから、問題になってる
天然と称して養殖を売る奴は詐欺師だ。死んじゃえですよ、ははは」
するとどうだろう、ディレクターの顔から笑みが消ていく。しばし不吉な沈黙が
流れた後ディレクターが口を開いた。
「実はあの時のさんま手配のミスで養殖物を使ったんだ。まあ高級なやつだが」
「いっいや…演出が本物以上のものにさせたんですっ。視聴者に夢を…」
すくなくとも、いま吹き始めた木枯らしのような視線は天然物に違いない。

次のお題は「徒花」「筒」「哀れみ」 製作時間35分