この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層

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「不良少年」「バッケンレコード」「メリーゴーランド」

俺があの時から、「不良少年」と呼ばれるまで、そう長くはかからなかった。
気は弱いくせに酒飲みで仕事をしないクソ親父は、玄関の戸に手をかけるお袋の背中を、ただ何も言わずにじっと凝視しているだけだった。
「出て行かないでっ」
お袋は去り、玄関には、俺の悲痛の叫び声だけが虚しく空に響いていた。
もう誰も信じられない、これがあの時から俺の根底にあるものだ。
出て行ったお袋も、何もしない親父も、冷たい風が吹いている世間も、そして何より無力な自分自身を信じられなかった。
淋しいのかな……俺。
そんな考えがふと頭の中をよぎり、自嘲の笑みを浮かべる。
あほらしい。俺は、バイクをフルスピードで飛ばして、このもやもやした気持ちを発散させようとしたが、頭の中にはセピア色の映像が現れ、俺の心を放そうとはしなかった。
あれは、確かまだ親父が現役バリバリのジャンプの選手で、バッケンレコードを更新したばかりの時のことだ。
あの頃は、まだ親父はしっかりしていたし、お袋も鈴のようなちりんちりんと鳴る声でよく笑っていたっけ。
あの日は、家族三人で遊園地に出かけ、俺はおおはしゃぎで色んな乗り物に乗りまくった。
特に、メリーゴーランドが一番のお気に入りで、世界がくるくると目まぐるしく廻るのが楽しくて仕方がなかった。
そして、時々手を振ってくれる寄り添いあった親父とお袋。
あの頃は決して淋しいなんて感じることはなかったのに……。
あの頃から、俺の周りはメリーゴーランドに乗ったときのように、くるくると目まぐるしく廻ってしまった。
……俺の思わぬ方向に。
しかし、メリーゴーランドとは違う。
もうあの頃が一回りしてもう一度やって来ることは、決してない。
ちくしょう。知らない間に目頭が熱くなっていて、俺は動揺した。
もう……、どうにでもなれ……。
静かな月のない暗い夜、バイクの騒音だけが町に虚しく響いていた。

次は「釜揚げうどん」「にきび」「ノミ取り」で。